第5号 【2025年4月等施行】雇用保険制度等に関する近時の改正等~高年齢者雇用関係、雇用保険適用拡大・育児休業等給付(2024年雇用保険制度改正)を中心に(全企業向け)~
文献番号 2025WLJLG001
Westlaw Japan コンテンツ編集部
Ⅰ 雇用保険制度の改正とは?
1.雇用保険制度とは?
雇用保険制度は、政府が管掌する強制保険制度であり、労働者を雇用する事業には、原則として強制的に適用されます。この制度は、もともと、現在は廃止された失業保険法の流れを汲むものであり、労働者の失業等に際して給付を行うことがこの制度の中核といえるでしょう。しかし、現在では、失業等給付にとどまらず、育児休業等に必要な給付や、求職者支援事業、雇用安定事業や能力開発事業も実施しており、雇用に関する総合的機能を有する制度になっています。
2.雇用保険制度に関連する最近の改正
2024年には、雇用保険制度に関連して、「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第26号)(※)及び「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第47号)(※)の2つの改正法が公布されました。この改正の目的は、多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネットの構築、「人への投資」の強化、共働き・共育ての推進等を行うことです。このような目的の下、下図のような改正が行われました。
また、2022年になされた雇用保険法改正による高年齢雇用継続給付の給付率の引き下げ(詳細は後述)等についても、2025年4月に施行されます。
本ガイドでは、このように、複数ある改正内容の中でも、今後、施行日を迎え、多くの企業で対応が必要になると思われる①65歳までの雇用確保の完全義務化と高年齢雇用継続給付の縮小、②雇用保険の適用拡大、③育児休業等給付(新しい育児休業等関係の給付の創設)の3点に重点を置いて説明していきます。(今回は、①に重点を置いて説明していきます。)
Ⅱ 65歳までの雇用確保の完全義務化と高年齢雇用継続給付の縮小
いわゆる65歳定年義務化及び高年齢雇用継続給付の縮小は、2024年雇用保険制度改正による改正ではないものの、近く施行日等を迎え、一部の企業では対応が求められるため、以下で説明していきます。
1.65歳までの雇用確保の完全義務化(2025年3月31日経過措置終了)
高年齢者雇用安定法(正式名称「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(※))は、定年を65歳未満とする企業に対して、65歳までの労働者の雇用を確保することを義務付けています(同法9条)。この規定については、一部、継続雇用制度の対象者を限定できる経過措置が設けられていましたが、2025年3月31日をもって、この経過措置が終了し、企業は、希望者全員につき、雇用を確保することが必要となります。雇用の確保に当たっては、定年年齢を65歳に引き上げる以外の選択肢も用意されており、以下の3つのいずれかの措置を講じることが求められます。なお、当分の間60歳に達する労働者がおらず、雇用する見込みもない企業であっても、いずれかの措置を講じる必要があります。
- ①定年年齢の65歳までの引き上げ
- ②65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)
- ③定年の廃止
65歳までの雇用確保をまだ実施できていない場合には、就業規則等を変更の上、原則として、労働基準監督署へ提出することが求められます。この就業規則の変更等に当たっては、賃金や労働条件の見直しが必要な場合もあるでしょう。(就業規則の変更や労働基準監督署への提出法等の詳細については、「「高年齢者雇用安定法」のポイント」(厚生労働省ホームページ)等も参考になります。)
今般の高年齢者雇用確保措置は、個別の労働者の65歳までの雇用義務を課すものではありません。例えば、継続雇用制度を導入していない60歳定年制の企業において、定年を理由として60歳で退職させたとしても、それが直ちに無効となるものではないと考えられますが、適切な継続雇用制度の導入等がなされていない事実を把握した場合には、高年齢者雇用安定法違反となりますので、公共職業安定所を通じて実態を調査し、必要に応じて、助言、指導、勧告、企業名の公表が行われることとなります(高年齢者雇用安定法10条)。
また、2021年には、70歳までの就業機会の確保が努力義務となりました(雇用保険法等の一部を改正する法律(令和2年法律第14号)(※))。将来的には、「70歳までの雇用確保」も義務化されることも十分あり得るため、すでに、65歳までの雇用確保を実施している企業においても、先を見据えた対応が望まれるでしょう。70歳までの雇用確保については、「高年齢者雇用安定法改正の概要」(厚生労働省ホームページ)、「高年齢者の雇用」(厚生労働省ホームページ)等も参考になります。
2.高年齢雇用継続給付の引き下げ
高年齢雇用継続給付は、60歳到達等時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける65歳未満の一定の雇用保険一般被保険者に給付金を支給する制度です。(なお、高年齢雇用継続給付の支給申請等にあたっては、企業の協力も不可欠です。給付の詳しい内容や支給申請の手続については、「高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続について」(厚生労働省ホームページ)が参考になります。)
この制度は、高年齢者の雇用を安定・促進するなどの目的で設けられた制度ですが、高年齢者雇用安定法により、高年齢者の雇用確保措置が進展したこと等を踏まえて、2025年4月1日から、高年齢雇用継続給付の給付率が、現行の15%から10%に引き下げられます。この改正により、同日以降に60歳に達した人等に対する高年齢雇用継続給付金の給付率が下がります。(改正後の支給額の具体的な計算方法等については、「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」(厚生労働省ホームページ)も参考になります。)
この給付率の引き下げに伴い、現行の賃金体系だと、収入が減少し、生活が困難となる労働者も出てくると見込まれます。また、今回の改正においては、給付率の引き下げにとどまりましたが、高年齢雇用継続給付制度自体を廃止することも含め、検討がなされています(「高年齢雇用継続給付について」(厚生労働省ホームページ)等)。
労働人口減少の中で健全な労働力を確保するためにも、企業は、高年齢労働者の賃金や労働条件等を検討することが求められるでしょう。なお、高年齢労働者に適用される賃金規程の増額改定に取り組む企業は、「高年齢労働者処遇改善促進助成金」という助成金を受けられる場合があります。詳しくは、「高年齢労働者処遇改善促進助成金」(厚生労働省ホームページ)等をご参照ください。
3.企業が対応すべきこと
まず、「65歳までの雇用確保」につき、継続雇用制度の経過措置を適用してきた企業は、2025年4月1日までに、雇用確保の対象者が「希望者全員」となるよう、制度の改定が必要です。就業規則等が漏れなく対応できているか、見直しましょう。また、高年齢雇用継続給付については、直近では、2025年4月に給付率が引き下げられるほか、今後は廃止も含め検討される見込みです。労働人口不足が加速する中でも、働く意欲のある高年齢者を確保するためには、高年齢雇用継続給付頼みでない賃金や処遇の改善を検討することが求められるでしょう。
Ⅲ 高年齢者雇用関係チェックリスト(2025年3月31日経過措置終了)
1.定年が65歳未満と決められており、継続雇用制度の経過措置を利用しましたか?
「2.就業規則等の見直し」に進んでください。
2.就業規則等の見直し
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具体的には、以下の①~③のいずれかに当たれば、対応していると認められます。
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就業規則等が、上記の①~③のいずれにも合致しない場合、いずれかに合致させた上で、雇用確保の対象者を「希望者全員」とするよう、制度を改定し、就業規則を変更する。 -
就業規則を変更した場合には、以下の①~③を労働基準監督署に提出する。
3.最新情報に着目
高年齢者雇用安定法のように、企業が対応しなければならない法改正等は、数多くなされており、対応するためには、まず、最新情報に触れることが重要です。最新ニュースや法令の情報等を把握し、折よく対応していくためには、Westlaw Japanがおすすめです。
*このチェックリストは、文中のリンクの他、末尾のリンクを参考に、一部、編集・加工等して作成しています。簡易化のため、適宜省略・加筆等していますので、詳細は下記リンク等をご参照ください。
(掲載日:2025年2月28日)
*この記事は作成・更新時点での情報を基に作成されています。