法令ガイド

 

第4号 障害者の法定雇用率の引き上げと合理的配慮

文献番号 2024WLJLG004
弁護士 得重 貴史

Ⅰ 概要①(障害者法定雇用率における除外率が10%引き下がり(2025年4月)、さらに法定雇用率が引き上がります(2026年7月))

障害者の雇用の促進等に関する法律(※)(以下「障害者雇用促進法」とします。)43条2項に基づき、障害者雇用率は、労働者(失業者を含む)に対する障害者である労働者(失業者を含む)の割合を基準とし、少なくとも5年毎に、その割合の推移を勘案して設定することとされています。これを踏まえ、2025年度からの雇用率等が段階的に引き上げられています(2024年4月から2.5%、2026年7月から2.7%)。
 さらに、特定の業種では、一定割合を法定雇用率の計算から除外できる「除外率」が定められていますが、2025年4月より、一律10%引き下がります(元々10%以下であったものは除く)。
 法定雇用率にしたがった障害者雇用を行わなかった企業は、納付金を支払う必要があるほか、行政指導や企業名の公表の可能性もあります。
 以下で、そもそもの法定雇用率の計算方法の概略を説明します。

1.法定雇用率の計算方法

(1)基本的な計算方法

 雇用促進法に基づいて雇用しなければならない障害者数は、基本的には、2026年6月までは、以下のとおり算定されます。

(常時雇用する全労働者数)×2.5%=雇用しなければならない障害者数
  • *雇用しなければならない障害者数は、小数点以下は切り捨てとなります。
  • *除外率は考慮に入れていません。除外率は後述します。
  • *失業者数も総数及び障害者数両方にカウントして計算するのが正確ですが、今回ではわかりやすさのために割愛しています。

 つまり、2024年4月から2026年6月までの間は、常時雇用従業員数が40人であれば、障害者を1人、雇用する必要があります。また、例えば150人ですと、小数点以下が切り捨てとなりますので、障害者を3人、雇用する必要があります。

(2)「常時雇用する労働者」とは

 1週間の所定労働時間が20時間以上で、1年を超えて雇用される見込みがある、または1年を超えて雇用されている労働者をいいます。このうち、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の方は、短時間労働者となり、0.5人でカウントすることとなります。パートやアルバイトでも、上記にあてはまれば、カウント数に入れる必要があります。

(3)「障害者数」とは

a 「障害者」とは

 身体障害者は、身体障害者手帳1~6級に該当する方、知的障害者は、児童相談所などで知的障害者と判定された方、精神障害者は、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方を指します。

b カウント方法

 障害者数のカウント方法は、以下のとおりです。

障害者雇用率制度における障害者数のカウント方法を示した表
「障害者雇用率制度について」(厚生労働省ホームページ)より抜粋

(4)除外率について

 障害者雇用を進めることが難しいと認められる業種については、障害者雇用率に対して、一定の除外率に相当する割合を控除することが可能とされています。
 例えば、2025年4月から、建設業における除外率は10%となります(それまでは20%)。
 除外率の具体的な用い方は、以下のとおりです。

 例えば、従業員数(常時雇用者数)が200人の建設業(除外率10%)のA社があったとします。除外率が10%なので、法定雇用率算定における、A社の常時雇用者数は、以下のとおりです。

200-(200×10%)=180(人)

 そうすると雇用すべき障害者数は、以下のとおりです。

180×2.5%=4.5≒4(人)

 除外率を適用しないと、200人雇用であれば5人の雇用が必要となりますが、除外率を適用することで4人の雇用となります(小数点以下切り捨て)。

 2025年から、除外率が以下のとおり、従前から10%引き下がります(既に10%以下であった業種については、除外率制度が適用されないことになるのでご留意ください)。さらに、この除外率は、将来的にはなくなる方向となっていますので、この点もご留意ください。

(5)特例子会社

 障害者の雇用の促進及び安定を図るため、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たす場合には、特例としてその子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして、実雇用率を算定できることとしています。また、特例子会社を持つ親会社については、関係する子会社も含め、企業グループによる実雇用率算定を可能としています。ここでは概要のみ、記載します。

a 親会社の要件

 親会社が、当該子会社の意思決定機関(株主総会等)を支配していること。
 (具体的には、子会社の議決権の過半数を有すること等)

b 子会社の要件

  • ①親会社との人的関係が緊密であること。
    (具体的には、親会社からの役員派遣等)
  • ②雇用される障害者が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上であること。また、雇用される障害者に占める重度身体障害者、知的障害者及び精神障害者の割合が30%以上であること。
  • ③障害者の雇用管理を適正に行うに足りる能力を有していること。
    (具体的には、障害者のための施設の改善、専任の指導員の配置等)
  • ④その他、障害者の雇用の促進及び安定が確実に達成されると認められること。

2.障害者雇用納付金と調整金

 障害者の雇用に伴う経済的負担を調整するとともに、障害者を雇用する事業主に対する助成・援助を行うため、事業主の共同拠出による納付金制度を整備しています。

3.行政指導・公表など

 厚生労働省のホームページでは、雇用義務を履行しない事業主に対しては、ハローワークから行政指導や公表が行われることが記載されていますのでご留意ください(「事業主の方へ」(厚生労働省ホームページ))。

4.支援策や助成金など

 上記3.と同じ厚生労働省のホームページには、障害者雇用の支援策や助成金等も掲載されていますので、ご参照ください。
 また、新たな改正等ありましたら、Westlaw Japanでも随時情報発信をしていく予定です。

5.障害者雇用におけるプライバシー保護

 障害者数のカウントに関連して、障害者雇用の際のプライバシー保護は重要な課題です。

(1)採用段階

 採用決定前から障害者であることを把握している者を採用した場合は、採用決定後に、その労働者に対して障害者雇用状況の報告等のために用いるという利用目的等の事項を明示した上で、本人の同意を得て、その利用目的のために必要な情報を取得することが重要です。障害者雇用状況の報告等以外の目的で、労働者から障害に関する個人情報を取得する際に、あわせて障害者雇用状況の報告等にもその情報を用いることについて同意を得るようなことはせず、別途の手順を踏んで同意を得ることとしましょう。
 また、採用決定後の確認手続は、情報を取り扱う者を必要最小限とするため、企業において障害者雇用状況の報告等を担当する人事担当者から直接本人に対して行うことが望まれます。

(2)採用後

 採用後に把握・確認を行う場合には、雇用する労働者全員に対して、画一的な手段で申告を呼びかけることを原則とすることが重要です。なお、障害者である労働者本人が職場において障害者の雇用を支援するための公的制度や社内制度の活用を求めて、企業に対し自発的に提供した情報を根拠とする場合は、個人を特定して障害者手帳等の所持を照会することができると思われます。

 以上についての詳細や、具体的な手段については、「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドラインの概要-事業主の皆様へ-」(厚生労働省ホームページ)等の下記リンクが参考になりますので、ぜひご活用ください。

6.いわゆる合理的配慮について

 障害者の方から申出があった場合に、雇用主は、いわゆる「合理的配慮」を提供する義務があります。こちらについては、2024年(令和6年)4月から完全義務化になったいわゆる障害者差別解消法とあわせて、別途述べることとします。

Ⅱ 概要②(障害者雇用における差別禁止・合理的配慮と2024年施行により顧客等になる障害者への合理的配慮義務化について) New!

 雇用の分野においては、障害者雇用促進法34条・35条により採用及び雇用における差別の禁止、同法36条の2・同法36条の3により、合理的配慮の提供が義務付けられています。
 また、2024年4月より、改正された障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(※)(以下、「障害者差別解消法」とします。)8条2項により、事業者がその事業を行うに当たり、顧客等となる障害者に対して合理的配慮を提供することが義務化されました。
 合理的配慮の提供は、全事業者に義務付けられます。また、手帳の有無にかかわらず、障害のある方全員が対象となります。
 合理的配慮の提供が義務化された背景としては、近時の日本の障害者権利条約の批准やこれに伴う障害者基本法の改正によって、障害への考え方が、旧来の医療や社会福祉で「障害」を改善していくという「医療モデル」から、社会が障害のある方にとって障壁となるものを取り除いていこうという「社会モデル」へとシフトチェンジしたことによります。
 雇用の場面及びそれ以外の場面に分けて、以下で概要を述べます。

1.雇用の場面における障害者差別の禁止と合理的配慮提供義務

(1)差別の禁止(障害者雇用促進法34条・35条)

 障害者雇用促進法34条で、「事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならない。」、同法35条で、「事業主は、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはならない。」と規定されています。
 つまり、募集・採用、賃金、配置、昇進、教育訓練などの雇用に関するあらゆる局面で、以下は障害者であることを理由とする差別に該当し、禁止されます(詳細は「雇用分野における障害者差別は禁止、合理的配慮の提供は義務です。」(厚生労働省ホームページ)、及び「障害者差別禁止指針」(厚生労働省ホームページ)をご覧ください)。  

  • ・障害者であることを理由に障害者を排除すること。
  • ・障害者に対してのみ不利な条件を設けること。
  • ・障害のない人を優先すること。

(2)「合理的配慮提供義務」

a 採用時

 障害者雇用促進法36条の2は、「事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。」と規定しています。

 募集・採用段階では、その方が障害者かどうか、判別することが難しい場合があります。そのため、採用段階での合理的配慮の提供は、障害者からの申出を要することとしています。
 そして、過重な負担を及ぼすことにならない限りは、当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない、とされています。過重な負担は、6つの要素(①事業活動への影響の程度、②実現困難度、③費用負担の程度、④企業の規模、⑤企業の財務状況、⑥公的支援の有無)を総合的に判断して決定されます。
 厚生労働省のホームページ(「雇用分野における障害者差別は禁止、合理的配慮の提供は義務です。」)で挙げられている合理的配慮の例としては以下が挙げられています(ただし、この限りではありません。)

  • ◆視覚障害がある方に対し、点字や音声などで採用試験を行うこと。
  • ◆聴覚・言語障害がある方に対し、筆談などで面接を行うこと。

b 雇用時

 障害者雇用促進法36条の3は、「事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となつている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。」と、採用時と少し異なった規定をしています。
 まず、労働者本人からの申出の有無に関わらず、事業主から障害者に対して、職場で支障となっている事情の有無を確認する必要があります。全従業員への一斉メール送信、書類の配付、社内報等の画一的な手段により、合理的配慮の提供の申出を呼びかけることが基本となります。
 一方で、障害のある方の意向を十分に尊重しなければなりません(同法36条の4)。そのため、提供する合理的配慮の内容について、対象となる障害者の意向を確認する必要があります。また、提供する合理的配慮を決め、障害者本人に伝える際に、障害者が希望する措置が過重な負担であり、より提供しやすい措置を講じることとした場合は、その理由を障害者本人に説明する必要があります。
 どのような配慮が必要か話し合うに当たっては、障害特性や状況等を踏まえ、例えば次のような観点から進めることができます。

<参考例>

  • ・就業時間・休暇等の労働条件面での配慮が必要か。
  • ・障害の種類や程度に応じた職場環境の改善や安全管理がなされているか。
  • ・職務内容の配慮・工夫が必要か。
  • ・職場における指導方法やコミュニケーション方法の工夫ができないか。
  • ・相談員や専門家の配置または外部機関との連携方法はどうか。
  • ・業務遂行のために必要な教育訓練は実施されているかなど。

 厚生労働省のホームページ(「事業主のみなさまへ」)では、採用後の合理的配慮の例として、以下を挙げています。

<採用後の合理的配慮の例>

  • ◆肢体に不自由がある方に対し、机の高さを調節することなど作業を可能にする工夫を行う。
  • ◆知的障害がある方に対し、図などを活用した業務マニュアルを作成したり、業務指示は内容を明確にしてひとつずつ行ったりするなど作業手順を分かりやすく示す。
  • ◆精神障害がある方などに対し、出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮する。

 合理的配慮の提供等に悩んだ場合は、厚生労働省のホームページでさらに近時の好例が挙げられていますので、ぜひ参考にしてください(「雇用の分野における障害者への差別禁止・合理的配慮の提供義務」(厚生労働省ホームページ))。

(3)相談体制の整備・苦情処理、紛争解決の援助(同法74条の4等)

a 相談体制の整備

 事業主は、障害者からの相談に適切に対応するために、相談窓口の設置などの相談体制の整備が義務付けられています。

<相談体制の整備その他の雇用管理上必要な措置>

  • ◆相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。
  • ◆相談者のプライバシーを保護するために必要な措置をとること。
  • ◆相談したことを理由とする不利益な取扱いを禁止し、労働者にその周知・啓発をすること。
    (例:就業規則、社内報、パンフレット、社内ホームページなどで規定する。)

b 苦情の処理

 事業主は、障害者に対する差別禁止や合理的配慮の提供に関する事項について、障害者からの苦情を自主的に解決することが努力義務とされています。

c 紛争解決の援助

 障害のある労働者と事業主の話合いによる自主的な解決が難しい場合における紛争解決を援助する仕組みが整備されています。お困りの際は、都道府県労働局職業安定部にご相談ください。

  • ①都道府県労働局長による助言、指導または勧告(簡易な手続)
  • ②第三者(障害者雇用調停会議)による調停制度

(4)裁判例

 視覚障害を有する教授に対する授業を割り当てない業務命令が権利濫用とされた事例があります(平成29年3月28日 岡山地裁 平28(ワ)274号(※))。何らの合理的配慮の提供の機会も検討されなかったことも判決文中で指摘されています。

2.雇用以外の場面における合理的配慮等

(1)差別の禁止(障害者差別解消法8条1項)

 障害者差別解消法は、事業者に対して、「不当な差別的取扱い」として、例えば、障害を理由として、正当な理由なく、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為を禁止しています。

(2)合理的配慮の提供義務(障害者差別解消法8条2項)

 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければなりません。2024年4月から義務化されました。
 基本的な考え方は、障害者雇用促進法の採用時と同様です。合理的配慮が実施できないとしても、対象障害者と建設的な対話をする必要があることも含め、ご留意ください。
 各事業分野の考え方等については、主務大臣が定める「対応指針(ガイドライン)」に規定されていますので、そちらもぜひご参照ください(「関係府省庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」(内閣府ホームページ))。
 さらに、合理的配慮を行った例のデータベースが内閣府において公表されております。こちらをぜひご活用ください。

Ⅲ 障害者雇用促進法・障害者差別解消法チェックリスト New!

1.障害者雇用率関係

(1)障害者雇用率を満たしていますか?

 計算に当たっては、以下の3つのポイントに注意しましょう。

(2)雇用率を満たしていない場合

(3)雇用率を満たす数の障害者を雇用しない場合

2.障害者雇用促進法に基づく合理的配慮関係

(1)採用段階

(2)雇用後

a 会社全体

b 雇用している方に障害がある場合

3.障害者差別解消法に基づく合理的配慮関係

4.最新情報に着目

 障害者雇用促進法や障害者差別解消法のように、企業が対応しなければならない法改正等は、数多くなされており、対応するためには、まず、最新情報に触れることが重要です。最新ニュースや法令の情報等を把握し、折よく対応していくためには、Westlaw Japanがおすすめです。

*このチェックリストは、文中のリンクの他、末尾のリンクを参考に、一部、編集・加工等して作成しています。簡易化のため、適宜省略・加筆等していますので、詳細は下記リンク等をご参照ください。

(掲載日:2024年11月29日 更新日:2024年12月23日)
*この記事は作成・更新時点での情報を基に作成されています。

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