弁護士・高岡法科大学教授
中島 史雄
平成12年の商法改正により会社分割制度が導入され、企業買収、企業再編および企業再生等の手段として有効に活用されている反面、平成17年の会社法改正後、濫用的に悪用される事例もみられ、債権者保護の立法課題が明確になってきた。
濫用的会社分割とは、債務超過状態にある会社が優良事業、優良資産または一部の債務を新設会社(吸収会社のこともある)に移転することによって、結果的に債権者が害される会社分割をいう。
平成20年代に入って裁判例があらわれはじめ、新設会社が分割会社の商号を続用する場合については名板貸責任の類推適用を認めたり(最判平成20.6.10判時2014号150頁)、続用しない場合については法人格否認の法理を適用したりした事例(福岡地判平成22.11.14金法1910号88頁、同平成23.2.17金法1923号95頁)もあったが、大阪高判平成21.12.22(金法1916号108頁)が詐害行為取消権に基づき不動産の現物返還を認め、つづく東京地判平成22.5.27(判時2083号148頁)およびその控訴審である東京高判平成22.10.27(金法1910号77頁)は現物返還が著しく困難である場合には価格賠償責任を認めるに至り(名古屋地判平成23.7.22金判1375号48頁も同旨)、多くの論文や判例評釈で細部について問題点が検討されてきた。それらの論稿は大筋において容認するにいたっていたところ、最判平成24年10月12日(金判1402号16頁)は会社分割が詐害行為取消権の対象となることを認め、「新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず、新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は、詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる」と判示した。また、会社分割による財産移転行為が破産法上の否認権行使の対象となることを肯定する事例も出ている(福岡地判平成21.11.27金法1911号84頁、同平成22年9月30日判タ1341号200頁)。
このような判例動向を踏まえて、法制審議会民法(債権関係)部会では、平成25年2月を目途に中間試案を策定することを予定とし、詐害行為取消権も改正の対象にしており、会社法学者より濫用的会社分割の増大化傾向からして、充分これに対処しうる改正となるよう意見が述べられている。
他方、法制審議会会社法部会では、平成24年8月1日に『会社法制の見直しに関する要綱案』を決定し、同年9月7日に開催された法制審議会第167回会議において、要綱案どおりの内容で「要綱」が法務大臣に答申された。それによれば、分割会社が吸収分割承継会社または新設分割設立会社に承継されない債権者(「残存債権者」という)を害することを知って会社分割した場合には、残存債権者は、吸収分割承継会社または新設分割設立会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができるものとしている。
今後、商標権や特許権についても同様の訴訟が予測される折から、会社分割の特殊性を考慮した債権者保護制度の構築を図るべく、民法・会社法・破産法の立体的整備が喫緊の課題である。
(掲載日 2013年2月18日)