法律事務所アルシエン※1
共同代表パートナー 弁護士
木村 俊将
ここ最近、不動産オーナーや管理会社から賃料滞納についての相談を受けることが増えている。驚くことに滞納期間が6か月程度経過していることが珍しくない。滞納期間が数年に及ぶケースもある。
一般的に建物明渡請求訴訟を提起しても訴訟終了まで相当程度期間を要する。賃料滞納が発生してから明渡しが完了するまで平均で8.5か月要する、とする調査結果もある※2。 通常、訴訟係属中も滞納状態が続くので、訴訟終了時には滞納期間が長期に及ぶことが多い。仮に賃借人から保証金として月額賃料の12か月分を預っていたとしても、原状回復費用や弁護士費用等を考慮すると、保証金の担保余力を優に超えてしまう。
契約解除の決断や対応の遅れが損失を拡大させることから、賃貸人としては迅速かつ毅然とした対応をとることが肝要である。そうした対応をとることによって、賃借人に対して賃貸人が「本気」であることが示され、賃借人に資力があれば危機感をもって支払を促すことになるし、資力がなければ退去の協議や裁判を早期にスタートできるので、最終的な損害を軽減できるのである。普段からクライアントに対して、賃料滞納が発生したときには以下のような対応をとるように助言をしている。
(1)まずは事情を聞く
滞納が発生したら速やかに電話か書面で賃借人に滞納の理由や事情を聞く。賃借人の減収等、深刻な状態にあれば、同情を示しつつも移転を勧め、滞納賃料の支払免除等を条件に早期に退去してもらうのがベストである。管理会社と連携して賃借人の移転先探索に協力する等、親身な対応が効果的である。
「もうすぐ払う」等と言ってズルズルと引き延ばされることが多いので、必ず期限をきって賃借人に義務を課し、約束を守れる人かを確認する(例えば2週間以内に移転先を探してもらう等)。
(2)話し合いが難しければ法的措置を
賃借人が非協力的で約束を守らず、建設的な話し合いが困難な場合には躊躇なく法的措置を採る。対応が遅れると最終的な損害が拡大する。内容証明郵便にて解除を通知し、続いて建物明渡請求訴訟を提起するのが一般的な対応である。賃借人が数か月分程度の賃料滞納では未だ賃貸人との間の信頼関係が破壊されていない、と争ってくることもあるが、訴訟係属中も滞納が続き、最終的には請求が認容されることが多い。
(3)仮処分手続や即決和解手続の利用
契約解除後、占有移転禁止の仮処分命令を申立てることも効果的である。ご存知のとおり、当該手続は不動産の占有状態を特定・固定することが本来的効用であるが、保全執行により突然執行官が物件内に立ち入るので、賃借人にとってのインパクトが強く、それを機に協議を開始することができるケースも少なくない。「このままだと裁判、強制執行という流れとなる。いまなら引越代くらいは面倒みる。」などと提案し、話に乗ってくればすかさず「2ヶ月以内に貸室から退去する」等の条件を定めた即決和解手続に応じさせるのである。和解が成立すれば訴訟を省くことができるので、迅速かつ低コストで明渡しを実現できる。
空室率の増加でお悩みの不動産オーナーも多い。物件のリノベーション等でリーシングを強化することも重要だが、賃料を滞納している賃借人は収益性がない点で「空室」と同様であり、将来的に紛争となりリーシングも遅れる可能性があるので空室よりも厄介である。迅速かつ毅然とした対応をとって賃借人の退去を実現し、次のリーシングに注力することも空室リスクを回避することになるのである。