金沢大学人間社会研究域法学系教授
大友 信秀
知的財産法は毎年のように改正されるため、大学の授業では、その年に施行される改正条文について解説を行うことになる。また、改正が議論されている問題についても紹介する機会が多い。
本年は、産業財産法に関する授業が終わり、これから著作権法に入るというタイミングで、違法ダウンロードの刑罰化に関する著作権法改正のニュースが飛び込んできた。
違法にアップロードされた有償の音楽・映像の著作物等を違法と知りながらダウンロードする行為に対し、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金又はその併科を規定しており、本年10月1日から施行される。
同規定は、政府提案の改正案とは全く関係なく、修正動議で提案されたものである。もともとの改正案は、著名なキャラクターなど他人の著作物が偶然写り込んだ写真をブログに載せる行為を権利侵害の対象から除外するのが主たる目的だった。
修正動議は、提案からわずか5日で可決に至ったもので、内容自体の適否の問題に加えて、手続きに関する深刻な問題を指摘されるものとなった(本改正については、白紙撤回のための再改正を要望する、日弁連会長による声明が出されている。「違法ダウンロード刑罰化」に関する著作権法改正についての会長声明)。
授業では、条文を解釈する手法として、権利者と利用者のバランスを意識することに言及している。解釈の手助けとなる立法経緯の検討においても、このようなバランスがどのように検討され、具体的な条文になったのか解説する。審議会では、利用者側の意見が反映されにくいので、学識経験者として選ばれた委員が、代わりに、声を伝えられない側の意見を考慮するという非常に重要な責任を担わされるということも説明する(中山信弘『著作権法』(有斐閣、2007年)は、はしがきにおいて、「従来の著作権法改正は権利者の声が中心であり、権利の強化へのモメントしか働かなかったが、これからは声なき声であったユーザーや産業界の声も重要なファクターになろう。」と今後のあり方に言及している。)。
6月26日には、消費増税関連法案が衆議院本会議で民主党、自民党、公明党などの賛成多数で可決され、衆議院を通過した。参議院での審議を経て、8月上旬にも成立するといわれている。
改正が多いことにより、解釈論のみではなく、立法論も意識できる知的財産法の授業をしている者にとっては、なぜそのようなルールが必要なのか、そのニーズや具体的条文がもたらす効果がどのようなものであるかについて十分な議論を国会が担うという本来の姿を国会議員が示してくれることが望ましい。
十分な審議を行わなくとも成立する法律。国民に提案をしていたのとは逆の法律を成立させようとする政権与党。これらを肯定できる法学教育を行わなければ、「教室の内と外とが違います」と批判されてしまう国にはなってほしくない。
(掲載日 2012年7月2日)