判例コラム

 

第193回 行使条件に違反する新株予約権行使による新株発行が無効とされた判例について

~最高裁平成24年4月24日判決の意義~

西村あさひ法律事務所
弁護士 細野 敦

最判平成24年4月24日金商1392号16頁〔全国保証株式会社事件〕(以下「本件判決」という。)は、「かねて、・・・株式譲渡制限会社において行われるものを含めて、新株発行を無効とすることに慎重であると見られてきた※1」最高裁が、非公開会社における株主割当て以外の方法による募集株式の発行が株主総会の特別決議を欠く状況で行われると株式発行無効原因となる旨判示した初めての判例である。

全国保証株式会社事件の概要は次のとおりである(詳細は、本件判決や第一審(原々審)の東京地判平成21年3月19日判時2052号108頁を参照されたい。)。株式会社Yは、発行する株式の全部について、譲渡により取得するためには取締役会の承認を受けなければならない旨の定款の定めを設けている。Yは、経営陣の意欲や士気の高揚を目的として、ストックオプションを付与することとし、平成15年6月24日の株主総会で、新株予約権を発行する旨の特別決議がされた(新株予約権の行使条件については、新株予約権の行使時に上告人の取締役であること、取締役会の決議により、Yと割当てを受ける取締役との間で締結する新株予約権の割当てに係る契約で定めるところによるとされた。)。Yの取締役会において、平成15年8月11日、取締役である補助参加人Zらに対し、新株予約権を割り当てる旨の決議がされた上、同月、Yと補助参加人Zらは、新株予約権の行使条件として、Yの株式が店頭売買有価証券として日本証券業協会に登録された後等まで新株予約権を行使することができないとの条件(上場条件)を定めるなどして、新株予約権の割当てに係る各契約を締結し、Yは、新株予約権を発行した。その後、Yは株式を公開することが困難な状況になったことから、Yの取締役会において、平成18年6月19日、上場条件を撤廃するなどの変更決議がされた。補助参加人Zらは、平成18年6月から同年8月までの間に、新株予約権を行使し、Yはこれに応じて、補助参加人Zらに対し、普通株式を発行した。しかし、Yの株式が上場されていないにもかかわらず、Yが補助参加人Zらの新株予約権の行使に基づく新株を発行したことから、Yの監査役であるXは新株発行無効の訴え(主位的請求※2)を提起した。

第一審(原々審)の前掲東京地裁判決は、新株予約権の行使については、公告又は通知に関する規定が設けられておらず、新株予約権の行使が行使条件に違反する場合であっても、株主等がこれを察知して新株発行を差し止めることは事実上不可能に等しいところ、にもかかわらず、行使条件に違反する新株予約権の行使により、株式の財産的価値の低下という損害を被ることになるが、このような結果を容認することは第三者有利発行に係る新株予約権の行使条件の決定について株主総会特別決議を要求した法の趣旨を没却することなどを理由として、第三者有利発行に係る新株予約権の行使条件に違反する新株予約権の行使は、当該行使条件が、新株予約権の目的に照らして細目的な行使条件であるといえない限り、新株発行の無効原因となると解すべきである旨判示した(上場条件は、新株予約権の目的に照らして、細目的な行使条件であるとはいえないとして、上場条件に違反した新株予約権の行使は、新株発行の無効原因となると結論づけた。)。
原審判決(東京高判平成22年1月20日金商1392号24頁)もYの控訴を棄却したことから、Zら補助参加人が上告受理の申立てをしたのが本件事案である。

本件判決は、取締役会による変更決議のうち上場条件を撤廃する部分は無効というべきであるとした上で、非公開会社においては、その性質上、会社の支配権に関わる持株比率の維持に係る既存株主の利益の保護を重視し、その意思に反する株式の発行は株式発行無効の訴えにより救済するのが会社法の趣旨であり、株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合、その発行手続には重大な法令違反があり、この瑕疵は株式発行の無効原因になると解するのが相当で、非公開会社が株主割当て以外の方法により発行した新株予約権に株主総会によって行使条件が付された場合に、この行使条件が新株予約権を発行した趣旨に照らして新株予約権の重要な内容を構成しているときは、行使条件に反した新株予約権の行使による株式の発行は、これにより既存株主の持株比率がその意思に反して影響を受けることになる点において、株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合と異なるところはないから、上記の新株予約権の行使による株式の発行には、無効原因があると解するのが相当であると判示し、上場条件に反する新株予約権の行使による新株発行には無効原因があるとして、上告を棄却した。

株式会社を代表する権限のある取締役によって行われた新株発行は、それが著しく不公正な方法によってされた場合でも、新株の発行が会社と取引関係に立つ第三者を含めて広い範囲の法律関係に影響を及ぼす可能性があることから、その効力を画一的に判断する必要があり、発行された新株がその会社の取締役の地位にある者によって引き受けられ、その者が現に保有していること、あるいは新株を発行した会社が小規模で閉鎖的な会社であることなどのような事情の有無によってこれを個々の事案ごとに判断することは相当でないとして、有効と解されてきた(最判昭和36年3月31日民集15巻3号645頁、最判平成6年7月14日集民172号771頁)※3

会社法施行後、本件判決以前にも、下級審レベルではあるが、本件原々審のほか、横浜地判平成21年10月16日判時2092号148頁が、非公開会社の新株発行は、会社法の下では募集事項の決定を開示するための公告・通知を要しないとされていることなどから、株主総会の特別決議を欠くことは新株発行無効事由であると解していた。しかし、寺田判事補足意見(大谷剛彦判事同調)が正当に指摘するとおり、かつての最高裁判例は、旧商法の下で長く新株発行が取締役会の業務執行と位置づけられてきたことに依拠する解釈である。本件判決(法廷意見)は、会社の支配権に関わる持株比率の維持に係る既存株主の利益の保護を重視し、その意思に反する株式の発行は株式発行無効の訴えにより救済するのが会社法の趣旨であるとより直截的な理由を述べている(弥永真生「行使条件に反する新株予約権行使による株式の発行」ジュリスト1442号2頁)※4

また、寺田判事補足意見は、補助参加人Zらによる、「お手盛り的で、株主総会の意向に背く処理は、・・・会社法制の進んできた方向に対する真っ向からの挑戦にほかならない」と断罪し、理論的な整理として、端的に、会社法施行前に株主総会が取締役会に委任した結果付された行使条件を会社法施行後は株主総会が付した条件と同視するほかなく、しかも、条件変更は単なる手続違背ではなく、およそ受け入れる余地がない性格のものであるから、変更後の条件に従った新株予約権の行使による株式の発行については、株主総会決議を欠く募集株式の発行と同様、無効とせざるを得ないとしているが、これは、同判事の目論見どおり、法理論として、論理的かつ説得的というべきであろう※5

  • 最判平成24年4月24日金商1392号16頁(本件判決)中、寺田逸郎判事補足意見参照。
  • 予備的請求については、注※4を参照されたい。
  • 本件判決で触れられているとおり、かつての最高裁判例は、本件とは「事案を異にする」ので、判例変更には該当しないとする解釈と考えられる(裁判所法10条3号参照)。
  • 江頭憲治郎『株式会社法』〔第4版〕713頁も、原則として有限会社の資本増加の手続が適用されることになった会社法の下における全株式譲渡制限会社の募集株式の発行等の無効事由は、従前の株式会社ほど制限的に解する必要はない旨指摘するが、江頭教授は、新株予約権の行使が違法になされた場合、何時株式が発行されたかを株主等が認識することが困難なものにつき出訴期間の制限(会社法828条1項)を課すわけにはいかず、当該株式の発行は、無効の訴えを待たず当然無効または不存在と解するほかないとするので(江頭憲治郎『株式会社法』〔第4版〕656頁、740頁)、本件のような事案については、新株予約権発行無効の訴え自体が不要ということになるであろう。本件で原告となった監査役が予備的請求として、株式発行が当然に無効と構成しているのは、このような考え方に基づくものであろう。
  • 寺田判事補足意見は、株主総会による委任に基づき一旦決められた行使条件を変更できるかという点についても、旧商法施行当時を基準として、法廷意見のとおり解することが「当事者の主張に対応する判断として相当である」としながら、会社法施行後の新株予約権のありようを計るには、全て会社法の規定に照らしてみることが本来の在り方ともいえる旨別途の視点からの考察を試みている点でも極めて示唆に富む。

(掲載日 2012年6月11日)


次回のコラムは6月25日(月)に掲載いたします。

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