クイン・エマニュエル外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
連邦議会は、合衆国法典(U.S.C.)28巻1782条の制定によって、外国手続における当事者がアメリカの企業や住民から証拠を得る手続を構築した。最近の1782条適用に関する主張によって、一連の法的問題が提起された。外国の仲裁手続に利用することができるか、目的の文書が当該裁判管轄にあることが必要か、ディスカバリーの実施が裁判地国の法と矛盾するときでもなお同条が適用されるかなどの問題である。
1782条とは何か
1782条(a)は、「外国・国際紛争の法廷及び当事者に対する支援」という標題で、次のように定める。
ある個人が居住し又は発見された地区における地方裁判所は、その者に対し、外国・国際法廷で使うために(正式訴追前の刑事的調査を含む。)、証言もしくは陳述を行い、又は文書等を提出するよう命令することができる。この命令は、外国・国際法廷の嘱託書もしくは要請、又は利害関係人の申請に基づいて発することができ、また、裁判所が任命した者に対して、証言・陳述をなし、又は文書等を提出するよう求めることができる。
1782条適用のための要件は以下の3点である。
(1)ディスカバリーの対象となっている者が、ディスカバリーの申立てのあった地方裁判所の管轄内に居住し又は発見されたこと。
(2)外国法廷での手続のために利用されること
(3)申立てが外国・国際法廷又は何らかの利害関係人によってなされたこと
In re Application of Esses, 101 F.3d 873,875 (2d Cir. 1996) (per curiam)参照
2004年に、インテルタイアドバンスド・マイクロ・デバイシーズの訴訟※1において出された判決で、連邦最高裁は、1782条ディスカバリーの範囲を明らかにした。
これにより、国際紛争当事者に、この手続を日常的に使える機会が与えられた。この事件では、1782条ディスカバリーを命令する連邦裁判所の権限の範囲を限定すべきとする主張がなされたが、連邦最高裁はこれを否定し、代わりに、地方裁判所の裁量の行使を規律するための、以下のような考慮要素を定めた(Intel事件 264-65)。
(1)外国裁判所が当事者に対し要求された証拠を提出するよう命ずる権限があるか。
(2)当該外国法廷の性格からみて、その政府がアメリカのディスカバリーを許容していないといえるかどうか。
(3)当事者が当該外国におけるディスカバリーの制約を潜脱しようとしているかどうか。
(4)法の執行が不当に行き過ぎ又は過度の負担とならないか。
これら命令発令に当たっての指針を示そうという連邦最高裁の努力にもかかわらず、1782条ディスカバリーの範囲及び適用可能性に関する論争はなお多く存在する。そのうち興味深いものをいくつか検討する。
1782条は外国仲裁に利用できるか。
Intel事件の前は、1782条の「外国法廷」(foreign tribunal)という文言が、他国の裁判手続に限られるかどうかが不明確であった。外国仲裁は「外国法廷」に含まれずしたがって1782条の適用はないとした連邦巡回裁判所もあったが、Intel事件で連邦最高裁は、この見解に疑問を呈した。Intel事件は、EC(欧州委員会)の独占禁止法上の執行権限に関するものではあったが、1782条の立法事実について述べた箇所で、「法廷」の文言は「司法手続」を言い換えたものであると判示されている。
これを受けて、仲裁手続は1782条の射程内であると判示する裁判例も出てきた※2
しかし、私的仲裁がIntel事件の射程に入るかどうかについては、議論が続いている。
裁判区外の書面を入手できるか。
1782条によって、裁判区外にある書面の提出を命じることが可能かということも重要な論点のひとつである。
裁判例は分かれており、これを肯定するものは、1782条に服する個人・主体が当該裁判区内に居住している限り、要求されている書面がどこにあるかは無関係であるとする※3
1782条に基づくディスカバリーは裁判地法のディスカバリー規制と矛盾するか。
1782条の適用を巡って争う当事者間では、しばしば1782条に基づくディスカバリーが外国法廷において許容されるか否かが争点となる。連邦最高裁は、申し立てられたディスカバリーが外国手続の役に立つならば1782条の申立ては認容されると判示しているため(Intel事件542 U.S. at 265)、この争点は重要となる。一般論として、当事者が求める情報が当該外国紛争に関連するものであれば、外国法廷はその証拠を許容する可能性が高い。※4裁判所は、ハーグ証拠条約の調印国であれば、その国の裁判所は1782条ディスカバリーを許容するとみなしてきた。※51782条の適用を争う場合、外国手続におけるディスカバリーと証拠の制限の潜脱になるという主張が、常になされる。この主張に対して裁判所は、裁判地たる国が厳格な証拠収集規制(「証拠の許容性に関する本質的な制限」と定義される。)を有している場合のみディスカバリーを制限する傾向にある。※6連邦第二巡回裁判所は、外国法廷が1782条に基づいて得られた証拠を排除していることが明確に立証された場合に限り、1782条の適用を否定することができると判示した。(前掲Esses事件 101 F.3d at 876) そのような外国法廷における証拠の排除は、裁判地における司法、行政、立法いずれかによる布告によって定められている必要があり、かつ、外国手続において収集された証拠の提出について具体的に言及されていなければならないものとされる。(Euromepa S.A. v. R. Esmerian, Inc., 51 F.3d 1095, 1100 (2d Cir. 1995))
外国法廷のディスカバリー法制がより制約の強いものであったとしても、申立人の濫用が認められない限り、1782条の適用は否定されない。Haraeus Kulzer GmbH v.
Biomet, Inc., 633 F.2d 591, 594 (7th Cir. 2011) むしろ、その法制の違いは、1782条の申立てを認める根拠にすらなりうる。※7同様に、外国法廷において証拠の許容性が制約されている場合でも、そのことは1782条の適用を否定する理由にはならない。なぜなら、1782条に基づくディスカバリーを認めても、その後外国法廷が当該証拠を採用するか否かを決定する裁量をもっているのであれば、特に弊害はないからである。※8外国法廷において特定のディスカバリーが許容されるかどうかが争点となっているときは、裁判所は、ディスカバリーを認める傾向にある。※9
最後に
Intel事件の連邦最高裁判決以降も、下級審は、引き続き1782条を巡る様々な法的問題に取り組んでいる。外国紛争のための1782条に基づくディスカバリーの申立てが増えていることからすれば、今後、それらの問題点についてより充実した議論が期待できるであろう。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン外国法事務弁護士事務所
(掲載日 2012年4月23日)
次回のコラムは5月7日(月)に掲載いたします。