判例コラム

 

第182回 京都の梅と模擬仲裁日本大会

同志社大学教授
高杉 直

私の研究室のある同志社大学・今出川キャンパスから、通りを挟んで京都御所が広がっている。京都御所には、桃林・梅林・桜林などもあり、観光客の目を楽しませるとともに地元の人の憩いの場となっている。これから梅の見頃の時季である。

「梅」といえば、同志社大学にも「寒梅館」という名の建物がある。室町時代の「花の御所」の跡地に建つ、レンガ作りの外観の建物で、ロー・スクールとビジネス・スクールが入っている。同志社の建物の多くは、キリスト教の聖書と関連する名前がつけられている。たとえば、私の研究室がある「光塩館」は、新約聖書の「山上の垂訓」に出てくる「地の塩、世の光」から命名されたものである。これに対して「寒梅館」は、聖書とは無関係の数少ない例外である。「庭上一寒梅 笑侵風雪開 不争又不力 自占百花魁」という、新島襄の漢詩(五言絶句)「寒梅」から命名されたとのことである。この漢詩は、冬の厳しい風雪にも堪え、自然体で、あらゆる花のさきがけとなって咲いている梅を詠ったものである。

さて、この「寒梅館」において、2月26日(日)・27日(月)の2日間にわたり、「第5回模擬仲裁日本大会(Vis Japan 2012)」が実施された(詳しくは「模擬仲裁日本大会」を参照)。日本中から100名近くの大学生が集まり、模擬仲裁の世界大会である「Willem C. Vis International Commercial Arbitration Moot」(略して「Vis Moot」と呼ばれる。詳しくは「http://www.cisg.law.pace.edu/vis.html」を参照)の約60頁の英文資料を基礎として、世界大会のルールに準じ、仲裁人の面前で弁論が行われた(英語の部では弁論も質疑応答もすべて英語)。私も仲裁人として、参加させていただいたが、今回も、学生たちの堂々とした弁論をはじめとする素晴らしいパフォーマンスに驚かされた。ここにいると、日本の将来も明るいと感じる。

経済の先行きが不明な中で、学生たちにとって、就職活動などでも「冬の時代」と言われているが、ここに集う学生たちは、自然体で華やかに咲く「寒梅」のようである。できるかぎり多数の学生たちが、模擬仲裁大会に参加し、それぞれの個性に応じた花を咲かせ、百花繚乱の明るい社会となればと願っている。

 

(掲載日 2012年3月12日)

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