判例コラム

 

第171回 米国改正特許法について

クイン・エマニュエル外国法事務弁護士事務所※1
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン

2011年9月16日、オバマ大統領は、米国改正特許法案に署名、同法が成立した。140年以上続いた「先発明主義」を改め、国際的に主流である「先願主義」への移行など約60年ぶりの抜本的な改革となった。施行は1年半後になるが、新規性の定義や、今後の付与手続、訴訟など、あらゆる側面に作用する。改正法を理解することは、日本の企業にとっても非常に重要である。

本稿では、大まかな改正点について、できる限りわかりやすく解説する。

もっとも重要な改正点は、次の通り。

  • 「先発明主義」から「先願主義」への移行
  • 新規性・進歩性の定義の実質的変更
  • 103条(b)バイオテクノロジ上の方法に関する特例の削除 
  • 104条 外国で行われた発明の扱いの削除
  • インターフェアレンス手続の削除と冒認訴訟と冒認手続の導入
  • 譲受人が特許出願をすることを認めた点
  • 侵害訴訟における先使用による抗弁の導入
  • 特許付与後レビュー制度(特許付与後異議申立制度)の導入
  • 当事者系レビュー制度を変更し、レビューの新たな期限と要点を創設し、当事者系レビュー制度を導入した点
  • 第三者による情報提供制度の導入
  • 補充審査制度の導入
  • 納税戦略の特許対象からの除外
  • ベスト・モード開示要件違反による無効の抗弁の廃止
  • バーチャル特許表示の導入
  • 虚偽表示訴訟の徹底的制限
  • 弁護士の助言を受けていなかったという事実を、故意侵害を証明するために使用することの削除
  • 一定のビジネス手法の特許に関するレビューにおける過渡的プログラムの構築
  • 州裁判所の特許、植物品種権、著作権をまたいだ管轄の否定
  • 無関係な侵害訴訟の併合の排除
  • 人体組織を対象とした、又は一部に含むクレームの禁止

改正点の説明

  • 「先発明主義」から「先願主義」への移行
    「有効出願日」の定義が付け加えられた特許法101条の改正及び、この新しい定義に基づいてなされた102条、103条の修正により、改正法は先発明主義から、先願主義へと制度を変容させたと言える。「有効出願日」は以下のように定義されている。

    特許の実際の出願日、又は発明に対するクレームを含む特許出願の出願日、もしくは、119条、365条(a)、若しくは365条(b)による優先権の利益を受ける適格のある特許又は特許出願、120条、121条、若しくは365条(c)による最先の出願日の利益を受ける適格のある最先の出願の出願日。

    再出願や再発行の場合における「有効出願日」は、当該発明に対するクレームを再発行が要求されている特許権に含まれていたとみなすことで決定される。

    この改正は、2013年3月16日以降に出願された特許に適用される。
  • 新規性・進歩性の定義の実質的変更
    改正法は、102条及び103条を、発明した日よりも、有効出願日という考えに基づいて改正している。

    102条は以下の場合、特許として認めないとしている。

    出願された発明の有効出願日の前に、既に特許権が付与されていたり、刊行物に記載されていたり、公用されていたり、(販売されていたり)、何らかの形で公にされている場合

    但し、以下の場合を除く

    有効出願日より1年前以内に開示されており、その開示が発明者、共同発明者、若しくは直接・間接的に発明者若しくは共同発明者から発明対象についての開示を受けたものによる場合、又は発明対象が開示の前に発明者や共同発明者若しくは直接対象の開示を受けた者により公になっている場合、特許権を無効にしない。

    新102条は、以下の場合にも特許性を排除するとしている。

    対象となっている発明が、151条に基づき付与されている特許や、特許出願による公表、122条(b)による公表されたとみなされたものにより開示されている場合、若しくは、事情に応じて、その特許又は出願において、他の発明者が摘示されており、対象となっている発明の有効出願日より前に事実上出願されている場合。

    但し、以下の場合を除く。

    発明の対象の公表が、発明者や共同発明者により、直接又は間接的になされている場合

    発明の対象の公表が、これが事実上出願される前に、発明者や、共同発明者又は直接又は間接的に発明者や共同発明者から開示された者により、公知となっている場合

    公表されている発明の主題と、有効出願日より前の発明における対象とが、同一人物により所有され、又は譲渡義務により、同一人物に属している場合

    そして、以下の点に注意すべきである。(2)現行の102条(a)と違って、新102条は先行技術における公知・公用による無効が、「米国における公知・公用のみ」であるという地理的な制約を課していない。そして、(2)新102条において規定されている「開示」が何によって構成されているかの定義付けをせず、米国特許庁や裁判所の後の解釈に委ねているのである。

    この条項は、特許と出願の有効出願日が2013年3月16日以降である場合に適用される。
  • インターフェアレンス手続(どちらの発明者が先に発明したか)の削除と、冒認訴訟・冒認手続の導入
    「先発明主義」から「先願主義」への改正により、インターフェアレンス手続の概念は破棄された。改正法は、その代わりに何が冒認を構成するかを明確にせずに、他人の業務から他人の特許を冒認した特許の所有者を除去する制度として、冒認訴訟と冒認手続を導入した。評論家が「先開示主義」と呼ぶ、新102条が創設した「先発明主義」と「先願主義」の混合物において、先行技術の定義の例外が兼ね備えられている、冒認手続の創設も指摘しておかなければならない

    この条項は、特許と出願の有効出願日が2013年3月16日以降である場合に適用される。
  • 侵害訴訟における先使用による抗弁の導入
    先願主義への移行に関連して、改正法は、有効出願日か、発明の開示の1年前の商業的使用における属人的な先使用の抗弁を導入した。これにより、特許を無効にするが、債務を免れることができる。改正法は、使用用途を記述することも含めて、当該抗弁の、明確で納得できる証拠基準を設けている。そして、そこには当該抗弁が認められない例外的な場合についての記述も含まれている。この例外は発明がなされた当時において、その特許が高等教育制度や、技術移転機構により所有され、先使用の抗弁が放棄された場合を含んでいる。

    この条項は、即座に施行される。
  • 特許付与後レビュー制度(特許付与後異議申立制度)の導入
    改正法は、特許権者でない者に、1つないし複数の特許クレームにおいて、特許性が認められないとして、特許付与後レビューが創設された特許庁に対して提訴することで、無効にすることを請求できるようにしている。このレビューは、特許が付与された日から9ヶ月以内に請求されなければならないが、いかなる無効事由に基づくものでもよい。特許付与後レビュー制度の請求は、当該請求者が以前に、当該特許を有効にしようと法的措置に出ていた場合には認められず、後の出願は、自動的に停止する。

    この条項は2012年9月16日に施行される。
  • 当事者系レビュー制度を変更し、レビューの新たな期限と要点を創設し、当事者系レビュー制度を導入した点
    当事者系再審査は、名目上、当事者系レビュー制度に変更された。手続上は、当事者系再審査に似ているが、当事者系レビュー制度は、特許付与の9ヶ月後以降でなければ利用できず、又は、特許付与後レビューが全て完了していないと利用することができない。当事者系レビュー制度を利用するためには、申立人は、1つないし複数のクレームが、他の特許や刊行物により、102条又は103条により無効になることを証明できる見込みがあることを示さなければならない。これは当事者系再審査制度における以前の基準よりも高いものであるが、当事者系レビュー制度が利用される基準は変わっていない。加えて、レビュー制度を利用することに興味がある利害関係人は以下のことも確認しなければならない。

    利害関係人は、特許に関して特許無効確認訴訟を提訴した後や、侵害訴訟において不服申立を行った1年後以内は当事者系レビュー制度を利用することができない。

    もし利害関係人が特許無効確認訴訟を、当事者系レビューを出願した後に行っていた場合、当該訴訟は、特許権者が裁判所に審理を続行するよう請求するまで(注:改正法は、申立てを要求せず、自動的に中断がなされる)、もしくは、特許権者が民事訴訟や侵害訴訟に対する反訴を提起した後に、自動的に中断する。

    当事者系レビュー制度は、本案に入る前に合意により集結させることができる。決着済みのレビューに対しては禁反言の制約はかからない。

    この条項は2012年9月16日に施行される。(即座に施行される当事者系レビューの新しい参加基準を除いて)。

    無関係な複数の侵害者に対する訴訟の併合の排除

    複数の侵害者に対する訴訟の併合は、以下の場合にのみ許される。(1)発明のクレームが同一の業務や、同一の出来事、又は一連の業務や出来事から生じている場合。(2)訴訟において、全ての侵害者に共通した事実問題が生じそうな場合。複数の侵害者は、1つの訴訟に、被告として又は反訴被告として参加させられず、また、特許を侵害したと単独で申し立てられた訴訟を、他の侵害者の訴訟に併合させられることもない。

    ニュアンスや改正点が数多く存在する日本企業に与えるであろう影響については、次回以降に解説していきたい。

(掲載日 2011年12月5日)