成城大学法学資料室
隈本 守
前回8月1日の本コラムで、合衆国連邦最高裁が、カリフォルニアの刑務所における収容者数が定員の1.85倍になっていることは「混み過ぎ」であり、そのため被収容者の身体的、精神的健康を害している状況は修正8条の権利の侵害にあたるとし、この改善のため2年以内に定員の137.5パーセントまで(約4万6千人の釈放に相当する)収容者数を減らすよう命じた連邦地裁の判決を支持する判決を下したことと、この判決の基となった「刑務所訴訟改革法1995」の囚人釈放命令の紹介をした。今回はカリフォルニア州が2年以内に、どのような手法でこの命令を実行しようとしているのか、またその問題点について見てみたい。
まず刑務所収容者数削減の手法は、カリフォルニア矯正社会復帰局の資料※1によると以下のようなものとなっている。
また、司法財政負担の軽減策として特定の軽微な薬物犯罪について、陪審をともなう軽犯罪から、陪審を要しない違反として処理すること※3をはじめ、軽微な犯罪の扱いについて司法負担を軽くする方法などが模索されている。
ここでは各対策、手法を個々に見ることは出来ないが、その背景にある刑務所の運用状況を見てみたい。現状で14万8千人を収容しているということであるが、この人数はカリフォルニアの人口3720万人の0.398%程度となる。これを日本の人口1億2千7百51万人に対する刑務所収容者数7万450人(法務年鑑平成21年)、その比率0.055%と比較してみると異様に高いように思えるが、法体系、処遇制度、政策も全く異なる為、この比率のみで刑務所に服役するものが多いとは言いにくい。むしろアメリカの全体像、2009年末で人口3億700万人に対する収容者数161万3千740人は実に0.526%にもなる※4ことから見ると、カリフォルニアのみが特異ではないともいえる。
次に、収容者数の基となっている入出所状況について見てみると、「州の刑務所システムは、比較的軽い犯罪者や、釈放後数ヶ月で(中略)仮釈放条件違反となって戻ってくる犯罪者の『回転ドア』(人が絶えず入れ替わる状況)となってきた。※5」といわれる状況がある。これは収容者数14万8千人のところ、年間の入所者数が13万1千785人もあり、同時に出所者数が13万4千564人となっていること※6を指している。この数字自体俄には信じ難いものであるが、その手続きのみでも財政上の大きな負担となっており対応策が模索されているところである。軽犯罪の対応策が今回の刑務所収容数過剰問題の改善、再発防止の主要な部分とされているのは、この事情があるためともいえるのではなかろうか。
しかし、刑務所等に収容されていたはずの人が釈放され、あるいは刑務所に収容される犯罪とされていた行為が、単なる違反等として処理され、刑務所に収容されず街中にいることになると、社会にはどのような影響が顕れるのであろうか。また逆に影響がないとすれば収容者数削減とは別の意味で、これまでの刑罰、矯正処遇がその目的と効果、意味の面で見直しを求められることにもなりかねない。しかもそれがカリフォルニアだけの問題ではなく、アメリカ全体にあてはまることであり、日本でも比較的軽度の犯罪にどのように対応すべきかの検討はますます重要になってくると考えると、今回の判決は法の適用、是非の問題にとどまらず、刑事司法行政のあり方についても再検討を求めるものとして、さらに今後の推移を見守りたいと思えた次第である。
(掲載日 2011年8月8日)