判例コラム

 

第158回 4万6千人の釈放命令-刑務所訴訟改革法のRelease Order-

成城大学法学資料室
隈本 守

5月23日、合衆国連邦最高裁は、カリフォルニアの刑務所が収容定員約8万人のところに14万8千人を収容していることは「混み過ぎ」であり、その結果として被収容者の身体的、精神的健康を害している状況は修正8条(残虐異常な刑罰の禁止)の権利の侵害にあたるとし、この改善のため2年以内に定員の137.5パーセントまで(約4万6千人の釈放に相当する)収容人数を減らすよう命じた連邦地裁の命令※1を支持する判決を下した※2。スカリア判事が反対意見の中で述べたところによると「裁判所により出された、我が国の歴史上おそらく最も過激な命令」とされるものである。連邦裁判所が州の刑務所行政について、どうしてこのように過激な命令を下せたのであろうか。またこの命令はどのように実行されるのであろうか。さらに背景にはどのような問題があり、対策が考えられるのであろうか。今回は判決と命令から見てみたい。

判決はPrison Litigation Reform Act of 1995 (PLRA)※3「刑務所訴訟改革法1995」の、囚人釈放命令(PRISONER RELEASE ORDER : SEC.802(a)(3)/USC Title18 §3626(a)(3)ほか)適用の是非を検討したものであった。この法律は連邦の裁判所が囚人の環境改善のために州の刑務所行政へ介入することを制限し、囚人が刑務所内の処遇改善について瑣末な訴訟を多発することを抑制することを目的としたものである。中でも囚人釈放命令は「裁判官が、危険な犯罪者を解き放ち市民の中に戻させること、(中略)をより困難にするため、裁判所の釈放命令への着手を非常に限定的な状況以外では禁止するもの」※4として付加されたものである。つまり、今回のような事態を防ぐことを目的として制定された法律・命令ともいえる。刑務所訴訟改革法については国内でもいくつか紹介されているが、囚人釈放命令の部分については紹介されているものが少ないように見える※5。ここでも判決において検討された命令の条文をつぶさに紹介する紙幅はないが、条件、制限・限定の概略は次のようなものであった。

§3626(a)(3)
・三人の裁判官による裁判所のみにこの命令を制限し、
§3626(a)(3)(A)
・命令の前提条件として、より侵害性が少ない救済策を試みたことを求め、
・かつ、被告にその対策のため相当の時間を与えたことを必要とする。
§3626(a)(3)(E)
・明白かつ十分に説得力がある証拠により、混雑がこの違反の主要な原因であること、と
・他のいかなる救済策でもこの違反を改善できないこと、が確認されていること。
§3626(a)(1)(A)
・裁判所が、その救済策が充分に狭く策定されたものであり、必要以上に拡張されたものではない、と確認したこと、
・その違反を正すために必要とされる最も侵害性が少ない方法であることを確認したこと、
・その救済策により引き起こされる、公共の安全ないし刑事司法制度の運用に対する逆効果に対して十分な配慮、がされていること。

これらは立法時に「このような命令が安易に出されないように」設けられた制限とされるが、今回は、釈放命令の単なる基準として機能してしまった、といえるのではなかろうか。判決でも、スカリア判事などが「公共の安全ないし刑事司法制度の運用に十分な配慮がされたものとは言えない」、「そもそもこの法の趣旨に反している」、さらには「裁判所に与えられた権限を越えている」、などとして反対したが、5対4で「この命令の基準を満たしている」などとしたケネディ判事他の意見が本判決となったものである。

判決の結果、カリフォルニア州では2年以内に刑務所等の実質的収容者数を先の命令の時点より4万6千人ほど削減する作業がすでに始まっている。この方法、その後の問題についても関心を寄せるところであり、さらに囚人数増加の背景にある軽微な犯罪にかかる多数の囚人が入出所を繰り返す現在の刑事司法システムの状況についても見てみたいと考えている。

  • Coleman v. Schwarzenegger, Not Reported in F.Supp.2d, 2010 WL 99000 (Jan. 12, 2010)
    但し命令は137.5%までの削減であり、釈放そのものを命じたものではない。
  • Brown v. Plata, 131 S.Ct. 1910 (May 23, 2011)
  • Prison Litigation Reform Act of 1995, Pub. L. No.104-134 ,(18 U.S.C. §3626他)
  • 141 Cong. Rec. S14312-03, 1995 WL 566447 (Cong.Rec.)
  • 溜箭将之「アメリカの裁判における裁判官の手続的裁量の価値-刑務所訴訟改革法を例に-」立教法学第70号325頁、同『アメリカにおける事実審裁判所の研究』(東大出版会)(2006.3)、鮎田実「1996年刑務所訴訟改革法」比較法雑誌第38巻1号169頁

(掲載日 2011年8月1日)

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