判例コラム

 

第155回 地域でのコンサルタントとしての挑戦

金沢大学人間社会研究域法学系教授
大友 信秀

本コラムの第137回(2011年1月31日掲載)で紹介したように、金沢に赴任してから気がつけば、地元で経営コンサルタントをするに至っていた。現在では、石川県の「企業ドック」制度の指定コンサルタント、経済産業省事業「中小企業支援ネットワーク強化事業」の登録専門家、北陸農政局の6次産業化委員等としての仕事の依頼もいただき、地元ではなぜ法学部の先生が経営コンサルタントをしているんですか?と聞かれることが多くなった。

こうなってしまったのは、地域に本当の地域のニーズに対応したコンサルタントがほとんどいなかったというのが一番の理由であると考えている。地方経済では、農業をはじめとする一次産業従事者、NPO、中小企業といったプレイヤーが多くを占めるのに、これに対応する経営のアドバイザーが少なく、プレイヤーがアドバイスを受ける機会が圧倒的に少なかった。

アドバイスに関しても、大企業向けのノウハウでは通用せず、独自のノウハウが必要であるのに、SWOT分析を学ばせ、作業をさせることで、アドバイスをした気になり、アドバイスを受けた側も何かをした気になって終わりという状況が多かった。

もともと農家の地域団体商標取得の依頼から農家のブランディングに手を染め、その後、NPO、合同会社等で培ったノウハウは、他のコンサルタントとは視点が違っていたようだ。

実際にコンサルタントをしていて思うのは、大企業に対するコンサルタントのほうが選択肢が多く、相対的にはやりやすいということだ。地域でのコンサルタントでは、資金や市場での位置付けの問題から、とりうる選択肢が限られてくるため、現場を正確に把握し、最良の選択肢を見抜く力が必要とされる。

たった一度のミスが取り返しのつかないことになるため、気が抜けない日々が続くが、自分の存在価値を確認できる機会としては、大学内で教員をしていたり、学界で研究者とうそぶくよりもはるかに意味がある気がする。

地域の法曹も同じような立場にあるはずだが、果たして、地域のニーズに十分対応できているのだろうか。専門家が少ない分野は経営の分野だけであってほしいと思う。

(掲載日 2011年7月4日)

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