判例コラム

 

第139回 行政委員報酬に関する各県の検討状況

弁護士・高岡法科大学教授
中島史雄

各県の非常勤行政委員会委員の報酬は月額制が慣例化していたが、これを見直す動きが活発化している。

行政委員会(委員会制でない行政委員を含めて総称する)とは、地方自治法138条の4および180条の5に基づき地方公共団体に設置が義務づけられている執行機関たる委員会または委員をいう。いずれも首長から独立して、地方団体の事務を自らの判断と責任において、誠実に管理しおよび執行する義務を負う(同法138条の2)。都道府県では、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会、公安委員会、労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会、および内水面漁場管理委員会の8つの合議制の委員会および独任制である監査委員の9機関が設けられている。

地方自治法203条の2第2項は「委員報酬はその勤務日数に応じてこれを支給する。ただし、条例で特別の定めをした場合は、この限りない。」と定めている。平成19年以降、行政委員の月額報酬の差止めと日額制に改正すべきことを求める住民監査請求が各都道府県で相次ぎ、各県の監査委員はいずれもこれを却下または請求棄却したが、16都道府県においてこの監査結果を不服とする住民訴訟が提起された。

平成21年1月22日の大津地裁判決は、原則に立って勤務日数に応じて支給すべきであると判断したが、その控訴審である大阪高裁の22年4月27日判決は、出席日数の多い選挙管理委員長についてのみ月額制を認容し、それ以外は違法であると判断した(滋賀県が上告中)。その後、大阪高裁と同日に出された神戸地裁判決、同年7月15日の名古屋地裁判決、同年9月30日の東京地裁判決および同年12月16日の宇都宮地裁判決は、いずれも県議会の裁量権の範囲内で月額制を採用したからといって違法であると直ちに認定できないと判示し、住民側が控訴している。その他、宮城、山形、福島、新潟、長野、岐阜、京都、奈良、徳島、高知、および鹿児島の11府県において係争中である。

司法の判断が、非常勤職員は常勤職員と勤務状態が異なる以上、203条の2第2項本文にしたがい勤務日数に応じて報酬を支給すべきであると解するか、それとも、ただし書きにしたがい議会の裁量の範囲内で月額制を採用してかまわないと解するか、判断が分かれたため各県の見直し状況に影響があらわれている。
昨年の12月までに、全委員会を日額制にしたのは静岡県のみである。大阪高裁判決後は一部日額制を導入した県が増加した。勤務日数が多く、かつ職責が重い公安委員会や監査委員を月額制とし、それ以外を日額制に変更した神奈川県および愛媛県の外、17都府県(東京、京都、大分、鳥取など)は個別に検討し、委員会の開催数が少ないものを日額制に改めている。むしろ、最近では、青森、秋田、熊本のように、月額を従来の半額程度とし日額制と併用する県もあらわれている。残る半数余の県は、他県の動向と最高裁の判決を待ちながら、検討中という状況にある。

委員報酬は業務執行の対価であるから、委員の職責、勤務日数や活動状況などを踏まえ、多くの住民が納得できる報酬基準と支給方法でなければならない。

(掲載日 2011年2月14日)

» 判例コラムアーカイブ一覧