判例コラム

 

第137回 「株式会社きんぷる」のその後

金沢大学人間社会研究域法学系教授
大友 信秀

本コラムの第59回(2009年5月18日掲載)で、学生ベンチャー会社「きんぷる」の紹介をした。その際は、学生の果敢な挑戦が始まるとの紹介のみで、具体的な活動については触れることができなかった。そろそろ前回コラムで紹介してから2年になろうとしているため、最近のきんぷるの紹介をしておこうと思う。

前回紹介したように、きんぷるは、学生が自ら地域資源の発掘・活用・事業化のために立ち上げた株式会社である。初年度は、能登半島で採れるごぼうを利用したスイーツの販売や、学生が見つけてきた伝統野菜の活用先を求め、レストランや食品会社への売り込みを行うなど積極的に活動を進めた。学生は、その過程で、仕入れをし、加工をし、最終的に販売コストをかけて利益を上げるのがいかに難しいのかを学んだ。

事業にかかる手間や時間ははじめてそれを経験する学生にとっては莫大なもので、これに加え会社の経営全体を見渡すということは、大学の授業を受け単位を取得することで卒業ができるという学生の日常生活に加えるには過度な負担であった。複数の取締役の中でも、結局は代表取締役の学生が一人で経営の負担を抱えており、他の取締役は事業の執行自体に悪戦苦闘で、経営や会社の将来というものを見据えた活動には時間がさけない状態だった。

幸運なことに、地元企業の取締役経験を有する方が定年を機に、報酬は成功してからで良いという条件で学生ベンチャーから始まった小さな会社の経営を引き継いでくれることになった。このため、2010年3月からは、代表取締役を外部から迎え、経営自体は学生から切り離した。学生には会社の事業に参加してもらうことで、より積極的に活動してもらえるようにした。

知的財産法ゼミからは、代表取締役の下で経営を学ぶスタッフ2名が名乗りをあげ、経営会議に参加するようになった。また、そこから始まる各事業には引き続き知的財産法ゼミのその他の学生が関わるとともに、広く知的財産法ゼミや法学部の学生以外の学生にも機会を与えるため、「地域ブランディング研究会」というサークルを立ち上げるように促した。知的財産法ゼミの学生が中心となり新しいサークルが立ち上がり、きんぷるの事業を支える体制ができあがった。

学生は、きんぷるが行ってきた地域資源活用事業に協力し、2010年度には、金沢大学生協での能登赤鶏ハンバーガーや野菜シフォンケーキの販売を実現した。その後も、石川県が主催する「いしかわ食のてんこもりフェスタ」にヘイケカブラを使ったジェラートとチーズケーキで参加し完売するなど、積極的に活動している。

きんぷる自体は、石川県が創設した県内企業の様々な経営課題に対応するために、専門家を派遣してアドバイスをするという「企業ドック制度」の派遣コンサルタントにも選ばれ、地域で埋もれた資源・人材の活用・応援に引き続き携わっている。

あまりにも儲かっていないため、「NPOとどこが違うの?」と質問されることもたびたびだが、「僕らのやっているのは慈善事業じゃない。いつかはでっかく儲けるつもりでいるのに、今儲かってないだけ。」と強がっている。「きんぷるのために、私は絶対に成功する!」という言葉をコンサルタント先からいただくと、プロとしてしっかりやっていこう、プロとしてやってきて良かった、という気持ちになる。

「本当に変わった会社だよね」と地域、学生、様々な人と関わる機会のあるきんぷるに携われている喜びを代表取締役と分かち合うのが最近の私を支える力になっている。