金沢大学人間社会研究域法学系教授
大友 信秀
地方で知的財産法を専門にしていると、様々な相談が舞い込む。その中にはおよそ法律問題とはいえないものもあれば、高度に専門的な知的財産問題もある。多くの場合は、すでに一定期間が経過し、独自の対応がなされた末、困り果てて持ち込まれる。これに対して、地方自治体の担当者のように、問題の初期から相談に来てくれる方もいる(具体的な問題を持ち込むというよりも、問題が生じる前に自分で勉強してわからなかった法の解釈について質問をするという例のほうが多いかもしれない。)。何事もそうであるが、問題が大きくなる前、あるいはこじれる前に対処するほうが、そうでない場合よりも解決が容易になる。
知的財産の問題で、比較的多くみられる例では、特許権、実用新案権等の権利を取得した権利者が、その権利を侵害していると考えた相手に対して、警告を行うというものがある。当然、権利者は、自らの権利が有効であり、相手方の行為がその権利範囲に入るということを確信してそのような行動に出ているわけである。警告を受けた側は、自らの行為が権利範囲に入るとは考えない場合が多いが、特許番号が付されている場合、警告した側の権利の瑕疵については疑わないことが多い。そのため、権利侵害を回避するためには、いかに自分の行為が侵害行為とは異なるものであるのかを詳細に調査し相手方に返答する場合もある。
警告する側は、ときとして、専門家に相談することもあるようであるが、その対象は多くの場合は、当該権利の出願を依頼した弁理士であり、訴訟に発展した場合の戦略にまで対応した助言を受けるのには限界があろう。このような状況から生み出される紛争は両当事者に過度の負担を与え、本来業務の支障となる結果を引き起こす。
管轄の問題にしても、特許権等の専属管轄が金沢地方裁判所にないことを知らずに、あるいは、あまり意識せずに侵害の警告を行う場合もあり、その結果、いざ訴訟にまで発展した場合に、それに対応する経済的負担にあえぐことにもなる。それでもまだ、民間企業は自らの体力や経営方針との関係で費用対効果を考えた対応が一定程度可能であるが、地方自治体等の場合は、地方自治体等の場合は、費用対効果を超えた、法的に間違いのない対応をする必要もあり、相当程度の対応業務が発生する。
いずれにしても、このような問題の一定部分は、知的財産法もしくは知的財産権の総合的理解によって防ぐことができよう。そのような理解を助けるよう協力し、地方の特許権者が地方産業の発展を阻害しないように、トロール化しないように努力する必要性を痛感している。
(掲載日 2010年9月13日)