判例コラム

 

第100回 親権に関する規定の見直し

法務省 民事局 民事法制管理官
萩本 修

民法の親権に関する規定を見直すための審議が、法制審議会(法務大臣の諮問機関)で始まった。法務大臣の諮問は「児童虐待の防止等を図り、児童の権利利益を擁護する観点から民法の親権に関する規定について見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい。」というものである。したがって、今回の審議は、親権制度の課題全般を対象とするのではなく、基本的には児童虐待防止等の観点に絞って行うものとされている。同審議会に新たに設置された部会の名称も、それゆえ「児童虐待防止関連親権制度部会」とされた。

これと並行して、社会保障審議会(こちらは厚生労働大臣の諮問機関)でも、児童部会に「児童虐待防止のための親権の在り方に関する専門委員会」が設置され、児童福祉法及び児童虐待防止法における同様の観点からの親権の制限等に関する議論が始まっている。

このような限られた観点から民法の親権に関する規定の見直しを検討することについては、異論を唱える向きがあるかもしれない。しかし、平成19年に成立した児童虐待防止法及び児童福祉法の一部改正法の附則において、平成23年3月までにこの点を検討することが政府に課された宿題となっている。しかも、この点については、法務省と厚生労働省とが連携を図って検討を進め、民法の規律と児童福祉法及び児童虐待防止法の規律とが整合性を保ちつつ全体として効果的な仕組みとなるように成案を得なければならない。そのためには、検討の焦点を絞ることが必要かつ適切であると考えられる。

親権を制限する手段として、民法には親権喪失制度がある。しかし、これについては、①期限を設けずに親権の全部を喪失させるものであることから、効果が大きすぎて申立てや宣告が躊躇される、②親権の濫用又は著しい不行跡が要件とされていることから、申立てや審理の内容が親権者を非難するような形になり、親子の再統合に支障を来す、などの指摘がされている。このため、具体的には、親権者による児童虐待の場面などで必要に応じて適切に親権を制限することができるように、一時的な親権制限の制度を創設することなどが検討される見込みである。

検討の焦点を絞ったとは言っても、検討の時間は限られており、成案を得るのは必ずしも容易でない。検討の過程では意見公募手続も予定されているので、有益なご意見が寄せられることを期待したい。

(掲載日 2010年4月5日)

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