判例コラム

 

第91回 パブリックフィギュアとは?-タイガーウッズ選手の早期復帰を願う。

苗村法律事務所※1
弁護士、ニューヨーク州弁護士 苗村 博子

前回に引き続き、ゴルフ関連の話で恐縮である。このコラムでは、時々の時事問題の法律的側面を扱わせて頂くようにしている。石川遼選手のラウンド観戦記は、時事問題と言うより、その後日本オープンで、同選手の優勝を逃す一因ともなったギャラリーのマナーについて、先んじて書かせて頂くこととなった。今回、世の中あまり、まだ始動していないようで楽しい話題が見あたらず、年始に飛び込んできたのは、タイガーウッズ選手のAT&Tとのスポンサー契約が終了したとの悲しい報道である。一ゴルフファンとして、タイガーウッズ選手の早期の復帰を願って、彼の交通事故に端を発した様々な不倫疑惑の報道に問題がないのか、検証してみたいと思う。

全世界でどのような報道がなされているのか、私が知るのは、日本の新聞各紙が伝える程度のもので、米国での報道そのものに接したわけではないが、現実にそのような報道には虚実様々なものがあるのであろう。タイガーウッズ選手は、ゴルフのプロ選手であるが、交通事故の報道はともかく、不倫騒動や妻との離婚問題を事細かに報道されることを堪え忍ばなければならないのだろうか。

米国では、このような報道に関する名誉毀損やプライバシー侵害の問題は、合衆国憲法修正第1条(表現の自由)の問題として扱われる。被侵害者がパブリックオフィシャル(いわば公務員)かパブリックフィギュアである場合には、名誉毀損の要件のみならず、報道が「虚偽」で、かつ真実でないことを知っているか、重過失で知らないことを立証しなければ、裁判所という公権力は、被侵害者に賠償請求権があると認めることはできない。これらの人々は、損害回復のハードルが大変に高いわけである。次に私人であっても、問題が公的関心事であれば、報道する側に少なくとも過失が必要とされるし、懲罰的賠償は請求できないとされている。

日本でいう公人とは違ったパブリックフィギュアとは、どのような人物を指すのだろうか。米国では、名声、悪評を得た人物か、ある一定の問題に自ら参加した人物がその問題に関しては、パブリックフィギュアであるとされる。職業的な評判だけでは、パブリックフィギュアだとは考えられていない。この基準によれば、タイガーウッズ選手は、ゴルフの選手としては、絶大な名声を有しているが、それだけでは、パブリックフィギュアとはいえないことになる。同選手は、特に不倫をどう考えるかなどという問題に対して発言したという訳でもない。オバマ大統領の就任について、演説をしたり、コマーシャルに出ただけで、パブリックフィギュアであるとされることはないように思われる。

また、公的関心事というのは、出版物の内容、形式、文脈でケースバイケースに判断される。しかし、不倫問題というのが、公的関心事となるかといえば、そうとは思えない。となれば、タイガーウッズ選手は、今回の報道に関し、内容が真実であっても訴えれば、勝訴する可能性があるし、場合によっては懲罰的賠償の請求も可能であるかもしれない。

しかし、私たちファンとしては、そんなことで収入を得るより、試合に出て、堂々と優勝して賞金をどんどん稼いでほしい。本当に強い姿がみられたら、先にタイガーの不在の味気ない試合を見たファンは、再度タイガーウッズ選手を暖かく迎えるのではないだろうか。

(掲載日 2010年1月18日)

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