弁護士・高岡法科大学教授
中島 史雄
昨年の暮れから正月にかけて行われた全国大学ラグビー選手権戦と箱根駅伝は真冬の風物詩として定着し、多くの人々に感動を与えた。選手の中でとりわけ目立ったのは、駅伝で箱根の山登りを激走した柏原選手以外では、駅伝ではアフリカの留学生達であり、ラグビーではニュージーランドの留学生達が突出した身体的能力を発揮していた。
日本ラグビー協会の規定によれば、1チームの外国籍留学生の出場は同時に2人までとの規制があるという。ところが、各大学で外国留学生が増加しており、「1チーム1留学生」とすることを検討するとともに、ただ4年間ラグビーだけして卒業もしないで帰国する助っ人留学生がいないかどうか実態調査をする動きもあるという(松瀬学「スポーツ時評」1月5日付中日新聞)。
しかしながら、これは、日本の大学のスポーツ選手にも共通の問題であろう。地方の中小私立大学の経営環境は厳しさを増すばかりで定員割れとなり、一般入試のほか留学生入試、一般推薦入試、スポーツ推薦入試等によりほとんど全入状況にある。
昨年の前期期末試験において、ある体育部の学生の白紙答案に部活でがんばりますから単位を下さいと書いてあった。40年にわたる大学教師生活ではじめてのことであった。その体育部の学生達は、集団で一番後ろの席を占め、教科書も六法も持たず居眠りする者が多かった。他の科目で、携帯電話でメールを打っていた2人の学生を叩き出して受講資格を取り消すと同時に、顧問の教師に、クラブの学生全員を集めて教育していただきたいと伝えたこともあった。
私は、最近は第1回目の講義の折に、①毎回出席を取る、②無断で3回連続欠席する者は受講資格を取り消す(就職活動等で欠席する場合は、事前または事後に報告する)、③遅刻しないように努める、④入室したら、勝手に外へ出ない、⑤携帯電話は電源を切る、⑥私語を慎む、⑦眠くなったら顔をあらってくる、⑧テキスト・六法・ノートを持参する、等を約束し、リーガル・マインドを修得して自主独立(インデペンデント・セルフコントロール)の人間を育てることを目的とすることを話すことにしている。そして、昨年から担当することになった『法学入門』において、「スポーツと法」について1コマ分を当てている。
近代スポーツの定義は、マンデルが「一定の規則の下で、特殊な象徴的様式の実現を目指す、特定の身体行動による競争である」というように、競技スポーツを念頭に置いたものであったが、現代では、競技のみならず、心身や健康のための広範な「するスポーツ」から「見るスポーツ」までも包含した、「スポーツ権」とでもいうべき「生存権」や「幸福追求権」に依拠した国民の憲法上の権利であると解されるようになっている。
そこで、大学のスポーツ選手は、競技力のレベルアップを不断に図ることに努めるべきことはいうまでもない。そして、できる限り一般学生と同様の学生生活、学習習慣を身につけるように努めるべきである(上述した、講義の際のアドバイス)。とりわけ欠席するときは、 練習試合や公式戦の事前報告を怠らないことである。またクラブのジャージー姿で後部座席に群れるようなことは止めたいものである。
指導者は、選手の競技力の向上を求めるだけでなく、単位不足者に対する上級生等による補講システムを講じるなど、スポーツ選手が大学生としての矜持を保てるよう人間教育にも十分に努めなければならない。
(掲載日 2010年1月12日)