青山学院大学法務研究科(法科大学院)特任教授
弁護士法人 早稲田大学リーガル・クリニック
弁護士 浜辺 陽一郎
民主党政権が誕生し、内向きな姿勢が強まっていると感じるのは気のせいだろうか。いうまでもなく、日本経済が内向きに陥っても、何も展望は開けない。グローバルな経済社会においては、世界の現実をふまえて日本としての対応を考えていく必要がある。
こうした中で、民法改正が動き出している。法務省は2006年から債権法を中心とした抜本的改正を検討し、「民法(債権法)改正検討委員会」は、約2年半にもわたる作業を経て、2009年4月に民法抜本改正の基礎となる「債権法改正の基本方針」(以下、「基本方針」という。)を公表した。そして、千葉景子法相は、2009年10月、民法の債権に関連する部分(債権法)の改正を法制審議会に諮問した。
基本方針は「ビジネス志向」と評価されることもあるように、一部においてかなり先進的なものを取り込んでいる。特に、企業法務に影響をあたえる項目が目立つ。商法の一部取り込み(民商法の統合)はいうに及ばず、広く事業者が行う取引に対する規制や制度を整備しようとしている。債権譲渡に関する部分とか、一人計算などの決済法制など、金融取引にも多大な影響を与えるようなテーマが数多く取り上げられる。また、約款や消費者関連の規律から、誠実交渉義務などのように国際取引実務に至るまで、企業法務で日常的に問題となるような局面が幅広く検討対象となっている。
結局、その内容を検討していくと、民法の風景はほとんど商事法の世界であるといっていい。すでに現代の民法は企業法であり、事業者を規律する法である。そのルールを市民にわかりやすく明らかにすることによって新しく生まれ変わる民法は、「商法に限りなく近い」というより、商事法そのものの中核をなす法典になるものといえるだろう。
ただ、少し懸念されるのが、内向きな姿勢によって支えられた民法改正に対する抵抗勢力だろう。企業間の取引も含めた、これからの取引のあり方を規律する基本的なルールとして、アジア諸国においても模範となるような民法を作ってほしい。そのためには、わかりやすく、内容としても公正なものでなければならない。わかりやすくなれば、それだけ使いやすくもなり、日本の法化社会にとっても、さらなる刺激となるだろう。
もっとも、今までの国内の取引を混乱させるようなことがないように配慮することは必要である。慎重論が一部に強く唱えられていることも承知している。しかし、そうした指摘を過大評価して、あるべき改革の足を引っ張られることがないようにも注意すべきだろう。法務大臣から法制審議会への諮問にあるとおり、「社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かりやすいものとする」という観点からすれば、何年もダラダラと時間をかけることは得策とは言えない。既にまとめられた基本方針や、加藤雅信先生らが中心となってまとめた研究会の案などを有効に活用しながら、効果的かつ効率的な中身のある議論を進めるべき時期に来ていると考えるべきだ。
その意味で、これから盛り上がるであろう民法改正の具体的な中身に関する論争がどう展開するのか、企業法務関係者も、2010年の一大注目テーマとして見守っていく必要がある。
(掲載日 2009年12月21日)