判例コラム

 

第83回 JALの再建策と「整理」

法務省 民事局 民事法制管理官
萩本 修

日本航空(JAL)の再建策がマスコミをにぎわせている。報道等によれば、企業再生支援機構を活用して再建を目指すという。事業再生ADRの利用も報じられている。その当否を論じようというのではない(政府に対策本部が設置されて検討がされているから、その当否を論ずべき立場にもない)が、この間の報道に接していて、改めて考えさせられるのが「倒産」や「整理」という言葉である。

日常用語として「倒産」と言えば、大多数の人にとって破産と同義であり、企業などが経済的に破綻して潰れる社会現象を指すであろう。「倒」れるという文字そのままである。「整理」は多義的であるが、例えば、会社の整理と言えば、会社をたたむことであって、倒産のように立ち行かなくなるという印象はないとしても、会社は存続しないという意味で受け止めるのではないか。「法的整理」と言う場合も、「私的整理」と比べると、同じ「整理」という言葉でありながら、なぜか清算の印象が強いように思われる。いずれにしても「再生」とはだいぶ違う。

これが、ちょっと法律をかじった者の間では意味が変わってしまう。民事法の講学上「倒産法」とか「倒産処理手続」「法的整理」などと言えば、破産などの清算型の手続だけでなく、民事再生や会社更生などの再建型の手続を包含する意味になる。かつて倒産法の世界がいわゆる倒産5法と呼ばれていた時代に「会社整理」と言えば、商法が定めていた株式会社のための再建型の手続を意味していた。法務省民事局でも、破産法や民事再生法、会社更生法などをまとめて「倒産法を所管している」という言い方をすることがある。

しかし、「倒産」とか「整理」といった言葉を使いながら、清算型の手続だけでなく再建型の手続もありますとか、清算のことではなく再建のことですと言われても、なかなか釈然としない。だったら、最初からそう言え、そのような言葉遣いに改めろ、と言われそうである。JALについて法的整理を使う使わないと言うときの「法的整理」にも、再生とか再建といった前向きの意味合いがあり、むしろその再建手段としての優位性こそが強調されるべきなのだが、清算という後ろ向きのイメージだけが付きまといがちである。「倒産法」についても清算型と再建型の両方を包含する新たな通称を考えたいものだが、古くて新しい難問である。

ちなみに、法令用語の世界では、「整理」の原義は比較的単純に形式を整える意味である。これと対比して使用される用語が「整備」であり、「整備」は、整理にとどまらず、更に内容や形式を充実し、整ったものにするという積極的な意味を含意すると言われている。

法律が改正されたり新法が制定されたりすると、それに伴って関係する法令を手直しする必要が生ずることも多い。そのために「法の施行に伴う関係政令のに関する政令」といった政令を制定することもある。この「」には「整理」や「整備」があてはめられるが、ときに「整理等」や「整備等」とされることもある。この「等」に込められる意味もまた様々である。

日本語は難しいが、法律用語は更に難しい。法律家は、日ごろから、この日常用語と法律用語とのギャップを埋めるように工夫しなければならないとの思いを新たにしている。

(掲載日 2009年11月16日)

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