弁護士・高岡法科大学教授
中島 史雄
2001年6月に、司法制度改革審査会最終報告が内閣に提出され、この国のかたちを明治維新以来続いて来た行政による事前調整型社会から司法による事後救済型社会へと大転換を図るため、司法制度の基盤の整備(裁判の迅速化、裁判へのアクセスの容易化等)、国民的基盤の確立(裁判員制度の導入)とともに、法曹人口の増加による人的整備を提言し、法科大学院の設置を求めた。そして、2010年ころには新司法試験の合格者が3000人、合格率が修了者の7,8割程度となるよう充実した教育をするよう要請した。
2004年4月に68校が、さらに翌年4校が開校され現在に至っている。法科大学院の第一期生には、法学部出身者にとらわれず多彩な人材を育成することと、合格率7,8割を信じて、退職して入学した社会人も少なからずいた。
新司法試験は2006年に既習コ-ス修了者について行われたが、合格者は1009人で、受験者に対する合格率は48.3%であった。2007年は、全体の受験者4607人のうち合格者が1851人であった。そのうち既習コース修了者は1216人で、未修コース修了者は635人であり、それぞれ合格率は、46.0%、32.3%であった。全体の合格率は、48.3%から40.2%に減少した。2008年は、受験者6261人のうち合格者は2065人であり、そのうち既習コース修了者は1331人、未修コース修了者は734人で、それぞれ合格率は、44.34%、22.52%であった。全体の合格率は32.98%と大幅に低下した。そして、2009年は、受験者7392人のうち合格者は2043人であり、そのうち既習コース修了者1266人、未修コース修了者777人で、それぞれ合格率は、38.7%、18.9%であった。全体の合格率は27.6%とさらに低下した。
注目された非法学部出身者の合格者数は、既習コースが19年度120人、20年度149人、21年度140人で、未修コースが19年度292人、20年度298人、21年度286人であった(以上、「法務省大臣官房人事課各年度新司法試験の結果」参照)。ちなみに、新司法試験合格者の1年間の司法修習卒業試験の不合格者は、新旧司法試験合格者合わせて19年度が59人で、20年度101人であった。
このような状況の下で、昨年の日本弁護士連合会会長選挙を契機として、埼玉弁護士会、中国弁護士連合会、中部弁護士連合会等から過当競争の危険性を指摘し増員計画の見直しを求める総会決議がなされ、単位弁護士会へ拡がりをみせている。日本弁護士連合会は、法曹の質の確保が進んでいないことを理由に、数年間は現状の合格者数(2100人~2200人)程度にとどめるよう提言している。
そもそも1学年の総定員が5800人に及ぶ74の法科大学院が乱立し、質の確保不安は当初から予測されていたところである。定員割れや合格率の低迷、評価機関から法科大学院4分の1が定期試験や演習等につき不適合と判定されるなど、法科大学院の抜本的改革が迫られたことも致し方ないであろう。本年4月に中央教育審議会の特別委員会が、①入学者の質の確保、②修了者の質の保証、③教育体制の充実、④評価システムの再構築の視点から改善策を提示したことも、得心のいくところである。このような流れの中で、法科大学院の9割以上が定員削減に踏み切り、質の競争に入ったことに注目すべきである。法科大学院設置のバブルがはじけた中で、非法学部出身者が健闘しているにつけ、各地の弁護士会も市場原理主義を性急に主張せず、司法試験は資格試験であることを認識して、法科大学院の理念の実現に協力を惜しむべきではない。
(掲載日 2009年11月2日)