判例コラム

 

第73回 実践ブランディング

金沢大学人間社会研究域法学系教授
大友 信秀

金沢大学法学部で本年度より実践ブランディングという授業が始まった。春学期にはⅠを、秋学期にはⅡを集中講義形式でそれぞれ15回ずつ開講する。学生は、ブランディングの基礎を学んだ後、4人から5人で一つのチームを組み、同授業への協力を快諾してくださった、地元の伝統工芸である九谷焼の窯元、日本三名園の一つである兼六園に隣接するホテル、能登半島にある国定公園である九十九湾に面した旅館、酒所石川の蔵元といった地元企業を訪問・調査し、ビジネスプランを作成する。作成したビジネスプランは、中間発表とそこでの講師陣からのアドバイスを受け、さらなる検討を経て最終発表の場で評価される。

同授業は、これまで法学部知的財産法ゼミで行ってきた地域野菜のブランディングプロジェクト(ごぼうの先生ヘイケカブラのアイスクリーム)ならびにこれまで私が地域企業と行ってきた産学連携活動を活かして、これを学生の教育に活用することを目的として始めたものである。

すでに、知的財産法ゼミでは、学生のベンチャー企業を立ち上げ、地域資源の製品化のための地元企業との連携等を進めているが(株式会社きんぷる)、これを法学部全体、また、他学部を含めた学生全体に広げるのが、本授業の狙いでもある。

国立大学の学生(というよりも四年制大学全体の学生にも当てはまるかもしれないが)は就職先としていわゆる大企業を希望することが多いが、地域には魅力あふれる中小企業も数多く存在する。

本授業の受講生は、地域企業を訪問し、同企業の長所・短所を調べるため、現場を直接体験させてもらう。事業プランを作成するためには、一歩踏み込んだ理解が必要となるため、中小企業の経営のあり方、一つ一つの製品を売るために事業者がどのような行動を積み重ねているのかを検討することになり、結果として、今まで自分が全く関心を持っていなかった分野の事業が、関心を持つに値する魅力にあふれていることを知ることになる。

現場で学生を受け入れてくださる経営者は同時に本授業の講師でもあり、学生を通して大学と相互交流をすることで本授業の実用度・実践レベルを上げることを目指している。また、中間評価、最終評価には、受入先とは異なる経営者を中心とする審査員も揃えている。

実践ブランディングⅠの最終発表は9月に行うが、学生が地域を知り、現実を知り、その上で、自分の学習している専門がどのように実社会と関係するのか(もしくはしないのか)を知り、また、地域の経営者が地元大学の学生の真の能力を知ることで、教員が何十年も実現できなかった地元の活性化と真の産学連携が実現できるだろうと今から期待している。

(掲載日 2009年8月31日)

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