判例コラム

 

第63回 企業舎弟から身を守る方法

弁護士・高岡法科大学教授
中島 史雄

企業舎弟とは、暴力団の構成員や暴力団周辺者が資金稼ぎのために経営する企業やその役員・従業員をいう。

大学を定年となり、弁護士との2足のわらじ生活に入って3カ月足らずのころ、知人の紹介である相談に乗った。畳用品の卸売商である相談者は従業員とともに、納品した畳用品30点ほどを倒産した畳店から主人に声を掛けた上で品名をメモ用紙に記載して搬出したところ、後日代理人から係る物品を返却しなければ詐欺破産罪(破産法265条1項1号ないし4号)等で刑事告訴等の法的措置をとる旨の警告書が来たというのである。直ちに代理人に対し取りあえず物品を保管している旨の電話連絡をして、同時に債権調査表を至急送るよう指示した。

ところが、その5日後に、畳店から持ち帰った品物は自分の会社のものなので、返せといってA社の社長が2人の従業員を連れて会社へ押し掛けて来た。社長は名刺を出しただけでもっぱらKと名乗った者が大声で品物を返せと言って騒いでいるという。すぐに退去しなければ住居侵入罪で告訴すると言ったところ、路上でわめいているというのである。警察署の刑事課へ連絡を取り2人の刑事に急行してもらった。2時間ほどの大騒ぎも、翌日当職から5時までに連絡するということで、その日はお引き取り願ったが、翌朝9時にKが刑事課へ出向き権利者であると縷々しゃべっていったというので、依頼者に事情を説明に行かせ、また押し掛けてくるようだったら立ち会ってくれるよう当職から刑事にお願いした。そして、A社の社長宛てに次のようなFAXを送った。すなわち、①この度の紛議については、以後すべてを当職と交渉すること、②刑事には、紛議の概要を説明したこと、③Kが同刑事に対しても身分を明らかにしていないそうであるが、貴社とどのような関係にあるか明らかにすること、の3点である。

それから数日間、すべて当職と交渉するように指示しているにもかかわらず、依頼者へ直接電話攻勢したり、事務所や自宅へ電話で会社へ来いだの、無言電話などの、いやがらせを受けた。いよいよ畳屋の前で品物を破産管財人へ引き渡す段になって、Kらが写真を撮ったり、黒服姿の4,5人が無言で圧力をかけて来たので、警察官2名の立ち会いを求めた。引き渡しを終えて発車するときにも車に足を差し出すなど、いろいろと妨害をうけたが、物品を返還すると、企業舎弟の男からは音沙汰がなくなったのである。

開業して3年たった今春、不倫した部下が法外な慰謝料を請求されているので、助けてやってほしいと知人から依頼があった。体調がすぐれないときに、食事をつくったりやさしくしてくれた職場の臨時職員の年上の女性と関係ができたという。3,4回目の逢瀬の後、夫から喫茶店へ呼び出され、探偵社の2人が帯同して、アパートへ出入りする写真を見せられ、20日以内に400万円支払う旨の和解同意書に拇印を押してしまったのである。

そこで、当職は、①本件紛争に関する一切の件を受任したこと、②「和解合意書」には法的に疑問があり、無効原因があるので支払いを保留すること、③一度面談したきこと、④以後本人および家族に一切連絡しないこと、などを夫に対して申し入れた。その後の探偵社の2人による電話等による執拗な督促、夜7時すぎの自宅および午前9時前の職場での面会強要(パトカーの出動要請)、事務所へ押し掛けて30分以上にわたる当職に対する代理権限なき交渉(警察への通報と退去要請)など、強引な手法は前述の紛議と同様企業舎弟の仕業と判断できるものであった。

その後、執拗を極めた探偵社からのアプローチは、「和解同意書」の支払い期限の経過とともにまったくなくなった。弁護士に一切を任せて、電話もメールも面接も拒絶するのが企業舎弟から身を守る最善の方法であるといえよう。

(掲載日 2009年6月15日)

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