判例コラム

 

第56回 政党・政治家らに欠けるコンプライアンスの取り組み

青山学院大学法務研究科特任教授
弁護士法人早稲田大学リーガルクリニック 弁護士 浜辺 陽一郎

政治と金をめぐる問題が、またクローズアップされている。政治家にも、ごく一部において「コンプライアンスに取り組みます」という動きがあるようだ。しかし、どうも一昔前の「法令遵守」という枠内でしかコンプライアンスという言葉を捉えていない政治家があまりにも多いようで、大した広がりは見られない。

もとより、一からくどくど解説するまでもないと思うが、コンプライアンスとは「法令」だけを「遵守」して、終わりというものではない。「法令遵守」というだけのお題目で、具体的な組織的取り組みが貧弱では、「コンプライアンス」というにはほど遠い。

恐らく、政治家がコンプライアンスに取り組むのであれば、政党が組織を挙げて不祥事防止のための具体的なプログラムを構築し、これを社会に宣言・明示し、内部通報の仕組みまで含めたリスク管理体制を整えることが、最低限のことだろう。個別の政治家が自発的に取り組みます、等というレベルでは、まったくお話にならない。

企業が行っているコンプライアンスにおいては、その手段となる内部統制に関して、基本的な事項が会社法や金融商品取引法によって開示することが法令で求められている。これを作ったはずの政治家も、コンプライアンスに取り組むというのであれば、同じような取り組みをしてしかるべきだろう。

問題なのは、その取り組みの中身だ。「法令」のレベルに留まっているかぎり、実質的な「法令遵守」さえままならないというのは、諸外国でもわが国でも経験済みである。「法令」だけの「遵守」では、「法令違反にならなければよい」から、「法令違反がバレなければ良い」になってしまい、部下が上司の本音を実現すべく、さまざまな不適切な行為に手を染める。その挙句の果てに、浅はかな法律解釈から、法令違反を犯してしまう。

「政治と金」の問題は、法律問題や倫理の問題だけではない。企業と政治の関係をどのように律していくのか、といった政治の問題や企業社会をどのようにリードしていくかという経済の問題とも関係する。そうである以上、この問題に対する明確なメッセージを組織として政党が打ち出し、実践し、説明責任を果たしていくことが、政党に期待された社会的責任であるのではないだろうか。

ところが、例えば公益通報者保護法でも政治資金規正法や公職選挙法等の政治家がらみの法令違反が公益通報対象事実から外されるなど、自分たちで作ったお手盛りの「法令」の枠内で、単なる「法令遵守」をコンプライアンスだと思っているため、なかなか改善が進まない。

政治家は、いろいろな不祥事が起こる度に、「いちいちチェックすることは不可能だ」などといった弁解もする。しかし、企業に対しては、それをちゃんとチェックする等のコンプライアンス態勢を求める法制度を作っているのだ。そろそろ政治の世界でも、本格的なコンプライアンスの導入を検討すべきだ。望むらくは、「上場企業並み」などといったレベルに止まらず、日本社会をリードするような模範的な内容を期待したいところである。

(掲載日 2009年4月20日)

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