判例コラム

 

第51回 内部通報制度-社外窓口弁護士の行うべき説明?

苗村法律事務所※1
弁護士、NY州弁護士 苗村 博子

昨日、自動車販売会社の内部通報制度の外部窓口担当弁護士に対し、通報者からの実名を会社に報告した事が、弁護士法23条(秘密保持義務)に違反するとして、所属弁護士会が戒告処分に付したとの報道に接した(2009年3月11日読売オンライン)。弁護士は、通報者から承諾を得て、会社に実名を報告したが、実名開示による不利益を告げていないので、通報者から真の承諾を得たとは言えないとの判断が下されたようだ。私には、不利益を告げよと言うこの判断の意味するところがよく分からない。以下に、この私の理解だけを前提としたものであることをお断りした上で、私の困惑を述べていこう。

私自身、ある会社の内部通報窓口の外部窓口を、もう6年近く担当してきている(この会社は、公益通報者保護法制定以前からこの制度を運用している)。時には、通報者からのご指摘に対し、担当者と調査を重ね、会社全体の問題として改善を図ることができた問題もあり、また時には、通報者の思いを伺うに留まり、私から会社への通報ができなかった事案もあるが、同社の自浄作用を図る制度としては、一定の機能を果たしていると思っている。

通報者からの通報が重要だと思えば、通報者に会社への報告をさせてほしいと説得することは、「内部通報窓口の現場から」と題してNBL872号26頁の記事にも書いたとおりである。通報を受けた際に、匿名希望かどうかは勿論尋ねるが、この際、実名だったら不利益になると説明するかと言えば、それは違うというのが、これまでの私の経験を含めての感想なのである。むしろ、会社に名前を告げても、公益通報者保護法は、会社の不利益処分を禁じていること、会社は、通報制度を設けていて、通報対象者に知れないよう、十分な配慮を行う事を説明するのではないだろうか。通報窓口の部署が、通報者を知っている方が、通報者の保護という点からも、調査が進めやすく、またそれだけ十分な調査が出来ることにもなるという側面もある。

冒頭の事件の処分理由が、私の理解通りの判断によるものとすれば、会社は信用ならないと、その会社の従業員に伝えるべきと言われているようで、どうも合点がいかず、また、今後どうすればよいか、頭の中には?マークが渦巻いている。

(掲載日 2009年3月16日)

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