苗村法律事務所※1
弁護士、ニューヨーク州弁護士 苗村 博子
不動産の物権変動は登記をしなければ、第三者に対抗できない。誰もが知る民法177条の大原則であり、この第三者から背信的悪意者が排除されるというのも、この条文を読む際の確立した判例理論である。同様に著作権法77条は、著作権の譲渡等に関し、登録が対抗要件になると定めている。そして、判例は、著作権77条に関しても、民法177条と同様に、背信的悪意者排除説を採用しており、知財高裁平成20年3月27日判決は、背信的悪意者には該当しないとした一審判決を覆して、第2の譲受人が背信的悪意者であることを認定し、登録の抹消請求を認めた。
民法177条、著作権法77条、共に、単純悪意者排除説が台頭してきているという。20数年前に民法双書を基本書(?)として物権変動を学んだ私は、お恥ずかしながら、内田現法務省参事官がこの説を採られ、田村北大教授も著作権に関し同様の見解をとられているとはこの判例に触れるまで知らなかった。それだけ、少なくとも民法177条の解釈に関し判例は確立しており、これが覆る可能性を全く考えなかったからであるというのは言い訳にすぎないが。
ただ、民法と著作権法まったくパラレルに考えなければならないかというと少し違うようにも思う。不動産の場合には、登記制度は、実務にしっかり定着し、登記に公信力はないというものの、それに近いとらえ方が実際上はなされている。登記がなされていない第1譲渡は、やはり何か訳ありで、それを保護しなければならない場合は、第2の譲受人が背信的悪意者にかぎられてもよいように思う(内田参事官は、第2の譲受人が登記すると横領の共犯だとされているが、果たしてそうだろうか?)。それに引き換え、著作権の登録制度がほとんど利用されていないことも、また実務界では周知の事実である。登録されていないからという理由で、対価も支払われたような第1譲渡について悪意の第2の譲受人の著作権登録を許せば、実務の混乱は必至となるからである。
ただ、上述のとおり、実務は両条とも背信的悪意者排除説で動いている。11月大阪では話題騒然となった某氏の著作権二重譲渡事件、詐欺罪で起訴されたと報道されているが、第2の譲受人が、その時点で登録されていたら、実質的被害はなかったことになるのでは?もちろん他の犯罪の成立は別であるが・・・。