成城大学法学部資料室
隈本 守
ニュースを見ているとアメリカ大統領選挙が大きく報じられている。投票直前予想では「アフリカ系アメリカ人の90パーセントと白人の40パーセントがバラク・オバマ氏に投票の見込み」と報じられた(NBC news 日本時間11月4日夜)。しかしアメリカ大統領選の選挙人に占めるアフリカ系アメリカ人、白人の割合が判らない。さっそく「ネット検索:インターネットのサーチエンジンによる検索」でこの比率を調べてみると、数万件もの関連ページがヒットし、その中にUS census bureau(アメリカ合衆国国勢調査局)のサイトで2008 Electionsというページが見つかり、2006年統計から、それぞれ11.68パーセント、69.5パーセントと判った。このように判らないことをインターネットで調べる機会が増えている。インターネット上の海外のニュースも含めて、便利な世の中になったものと思う。
法情報の検索でもインターネットを利用する機会が増えている。この秋参加した法律図書館連絡会総会の研究会でも「官報情報検索サービス」(国立印刷局)が取り上げられていた。このサービスでは、昭和22年5月3日から当日発行分までの官報を検索することができ、内容はPDF化されており、各頁について官報をコピーしたように閲覧することができる。官報は法律などの一次資料として法律図書館において不可欠のものであるが、その量の多さなどからマイクロ版で所蔵され、掲載年月日が判る場合でも利用に手間がかかるため、このサービスは大変歓迎されるものであった。
どこに何があるか判らないままネット検索をして、アフリカ系アメリカ人の比率を探し出すことと、「官報情報検索サービス」を利用して特定の法律をPDFで確認することは、いずれもインターネットを利用した情報検索であるが、この二つの検索には大きな違いがある。「官報情報検索サービス」のようなPDFデータベースは、資料を探し、その部分を確認、コピーするこれまでの法情報収集と基本的には変わりがない。一方、ネット検索は、どの資料を探したらいいか判らない時や、そもそも探す事件や概念自体が曖昧な場合に、他の冊子体資料や法情報データベースを探すより役に立つことも多い。反面、検索結果として、より目につきやすいが不確かと思われる情報や、引用して使いにくい情報なども、混在し同列に現れるため、こちらを利用してしまう危険性もある。またネット検索でヒットしないと、図書資料などの基本的資料を調べることなく、資料はない、と判断する者までいる。これも広い意味ではネット検索を法情報検索に利用する際の危険性・注意点かもしれない。
とはいえ、実際には社会の様々なところで法情報が求められており、法情報自体も図書資料からネット、データベースに広がっている。一方この法情報の紹介や利用方法は、個人、大学の法学部・資料室等のサイトなどで「法情報の探し方」、「関連リンク集」などが個々に運営されている状況であり、これらをまとめて利用できる法情報サイトはまだないように思う。図書資料、法情報データベース、法情報リンク集等の情報を維持、管理し、さらに一歩進んで法情報検索の方法まで含むサイトの作成・運用は、法律図書館、書店、データベース各社の協力、これらの利用者たる法律の専門家との協力によってこそ可能になるのではなかろうか。そして、このような法情報サイトが普及することが、法情報の利用を求める社会一般のニーズにも応えることになると考えるところである。
(掲載日 2008年11月10日)