判例コラム

 

第30回 台湾の「知的財産裁判所」

徐宏昇律師事務所
弁護士 徐宏昇

台湾の「知的財産裁判所」は2008年7月1日に発足した。
知的財産裁判所は以下の案件を管轄する。

  1. 知的財産権に関する民事訴訟の第一審及び控訴審。例えば、特許権、商標権、著作権、営業秘密に関する案件など。
  2. 知的財産権に関する刑事訴訟の控訴審。例えば、商標権、著作権侵害案件など。
  3. 知的財産権に関する行政訴訟の第一審。例えば、特許の申請、無効審判の申立て、商標登録、評定などの行政訴訟案件。

知的財産裁判所は全国で一箇所、台北市からほど近い板橋市に設けられており、台湾全土を管轄する。知的財産裁判所の設置目的のひとつは、知的財産権の有効性と侵害の成立を同一の裁判所で判断することである。かつて、台湾においては、一般裁判所が権利侵害の成立を、行政裁判所が知的財産権の有効性を判断していたが、「智慧財産案件審理法(知的財産案件審理法)」の規定によると、「知的財産権を取り消し、または無効にしなければならない原因を当事者が主張または抗弁した場合、裁判所は自ら当該主張または抗弁に理由があるかどうかを判断しなければならない」となっており、この規定は一般裁判所で審理されるものも含めて、すべての知的財産権案件に適用される。

ところが、知的財産裁判所が最近公表した「新制問答彙編(新制度に対するFAQ)」では、知的財産裁判所がある特許権または商標権が取り消されるべきであると判断しても、判決理由の中で説明するのみで、主文で判断しないことが強調されている。いいかえれば、制度上、侵害案件の当事者が裁判所に対して特許権または商標権の無効宣告を求めることができなくなり、当事者は「知的財産局」に対して無効審判を申立てなければ、それを取り消すことができなくなる。

しかし、知的財産裁判所のこのような制度が知的財産案件審理法及び現行民法、刑事訴訟法の規定に適合しているのかどうかは疑問である。なぜならば、知的財産裁判所は知的財産権に関連する行政訴訟案件に対して管轄権があるからである。

もうひとつの特徴は知的財産裁判所に設置される「技術審査官」制度である。技術審査官は主に知的財産局で経験を積んできた特許、商標審査官が就任し、案件の事実調査を行い、裁判官に対して報告書を提出する。しかし、彼らが裁判官に対して提出した報告書は記録として残されず、当事者が閲覧を申請することができないばかりか、技術審査官に対して反対尋問を行うこともできない。

問題は、これらの技術審査官が過去に作成した特許審定書、商標審定書が現在も知的財産裁判所の審査の対象となっている場合があるにもかかわらず、同一人物が今度は技術審査官として裁判官に対して意見を述べる立場につくことである。更に、弁護士が彼らの審査意見に対して質疑をすることができない。今後、技術審査官と裁判官の関係がどうなるのか、その公開性と平等性が正当な訴訟手続を経由した上でのものであるのか、裁判官の判決にどのように影響を与えるのかなど、いずれも予断を許さない問題である。

とはいえ、知的財産裁判所は間違いなく台湾にとっての新しい試みである。その運営はまだ始まったばかりであるが、裁判官たちの努力と情熱は、見るものに期待を持たせるものがある。

(掲載日 2008年10月6日)

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