苗村法律事務所※1
弁護士、ニューヨーク州弁護士 苗村博子
大変な時にコラム執筆の順番が回ってきてしまった。先週は日本法人も含めリーマンブラザーズの破綻、AIG生命に対する850億ドルの公的融資の実施、モルガンスタンレーの合併、英国ロイズによるHSOBの救済合併など、アメリカ初の金融危機は、とても1990年代後半の日本ではすまない、世界的な問題となっている。経済の専門家でない私に何が分析できるわけでもないが、これに触れないわけにはいかない。
リーマンショックが無くても、関東でも関西でも不動産業、建築業を中心に大型の倒産手続きが急増している。先週の金融破綻により今後、日本の金融機関の抱える不良資産が次第に明らかになれば、ますます企業への貸し渋り、急な回収が増え、実態に合わない倒産が製造業にも広がる可能性が出てきて、我々はその対応に追われることになる。
2001年9月11日のテロ後、契約書作成において、金融機関の業務停止により送金できない場合は、期限の不履行に当たらないという条項を再度、実効性があるか検討したように、今後は、相手が大手企業であり、デフォルトに陥るはずはないことを前提にしていた契約書作成業務を見直さなければならない。
リーマンが抱える問題の中核は、サブプライムローンと言うよりは、これが不動産証券化のスキームの中で、リーマンの倒産リスクを考えていない点にあるように思う。昨年、土地を貸す側の代理人としてファンドの担当者と証券化スキームを使ったオフィスビル建築、賃貸の契約書作成に関わったが、相手方は、当方の倒産を考えていても、自分たちの倒産リスクには、目もくれず、大激論となった。ねばり強く対応したおかげで、大きな問題は残さずに契約締結できていると信じている。
契約書作成において、将来起こりうることをすべてを見通すことは、ほぼ不可能に近い。どれだけ想像力を働かすか、どれだけ社会の動きを察知できるかが契約書ドラフターに求められる知恵となる。