大東文化大学・東海大学・國學院大學 非常勤講師
税理士 佐々木 雄一
メキシコでは、2008年1月1日より従来の資産税が廃止され、代わりに企業単一税(IETU: Impuesto Empresarial a Tasa Unica、英訳するとFlat Rate Business Tax)が施行された。2007年までは、メキシコの居住者である法人および事業活動を営む自然人ならびに外国の居住者でメキシコ国内に恒久的施設を有する者の所得に対する課税について、所得税(2007年の税率は28%。)およびこれを補完する資産税(2007年の税率は1.25%)が存在した。資産税は、一定の資産および負債の金額をインフレ調整して、その差額である純資産に税率をかけて税額を計算する。所得税の金額と資産税の金額を比べて、所得税の金額の方が大きければ、所得税額が納税額となり資産税は納税しない。資産税の金額の方が大きい場合には、所得税と資産税の差額を資産税として、さらに所得税を納税することになる。所得税の課税を免れる納税者が多いために、税収確保のために資産税が導入されていた。
企業単一税の創設はメキシコの2008年税制改正の主要項目である。メキシコでは毎年膨大かつ複雑な税制改正が実施されるが、資産税を1989年に導入して以来19年ぶりに所得税に関連する重要な新税が導入された。租税回避やタックス・プランニングの濫用に対抗して納税者数を増加させるための施策とされる。
税率は、2008年に16.5%、2009年に17%、2010年以降は17.5%が適用される。企業単一税は、資産税と同様に所得税を補完して、所得税の金額と比べて金額の大きい方の税金を納税するというミニマム・タックス的な性格と、単一の税率が適用されるという特徴をもつ。課税標準は、商品販売・役務提供・リース等を収入項目とし、固定資産、商品の購入や役務、リースの支払を控除項目として、その現実のキャッシュフローの差額とされた。金融機関以外は利息、配当金、株式売買代金等が計算対象から除かれる。また、企業単一税は従業員給与と社会保険料の税率相当分について税額控除を認める。企業単一税は、資産税と同様に、毎月予定納税する必要があり、インフレ調整も行われる。年度末に所得税と比較して確定納税額が決まり、年度中の予定納税額が清算される。企業単一税は、日本との租税条約において所得税として位置付けられ、日本において外国税額控除の対象となる。
このユニークな新税の導入を通じて、OECDに加盟後14年を経過したメキシコの脱税、インフレ、外資への配慮など経済上の課題を感じ取ることができる。
(掲載日 2008年6月16日)