判例コラム

 

第9回 「弁護士像」の再構築

早稲田大学大学院法務研究科(法科大学院)
教授・弁護士 浜辺 陽一郎

いま、日本の法曹人口増員の方向性が見えにくい。法務大臣の妙な発言もあり、弁護士会の中では、法曹人口増員の見直し論議が勢いづいている。しかし、司法改革の理念はどこへ行ったのかという厳しい弁護士会外部の声もあり、かなり厳しい意見の対立が見られる。

さて、ややもすると内向きに陥りがちな「法曹人口問題」であるが、基本的には、世界の大きな流れは、法曹人口の増加であり、そこには法分野における世界的な競争が関係している。

もちろん、「法曹」と一口にいっても、各国の法曹の姿は一様ではない。ただ、「法律家」の最大公約数とすれば、法律専門職として、トータルな法的素養を備えた人材ということになるだろう。それは本来ロー・スクールが育てようとしている人材である。その法曹の質・量ともに、どれだけ充実させうるかが共通の課題であり、グローバリゼーションが進展した現代では、その競争の帰趨が各種分野の競争と密接に関係しているのである。

ところが、そのネックとなるのが、新たに増員した法曹の処遇である。現在、増加してきた弁護士をどのように処遇するかについて、日本の社会は必ずしも明確な方向性を打ち出せてはいない。また、既に弁護士になっている人たちも、これから弁護士になろうという人たちも、必ずしも大きなうねりとして「新しい弁護士像」を描ききれてはいないようである。

恐らく、弁護士を受け入れる社会の側では、民間企業から、各種の市民団体から公共団体等に至るまで、弁護士をそれぞれの組織の中に取り込んで、活用する意義やメリットをもっと考えていくことが期待されよう。他方、弁護士側も、これまでのように自分の事務所を開くとか、どこかのパートナーになるといった形だけではなく、様々な組織や色々な世界で、法律家としての能力を発揮し、応用していくことを考えるべきだろう。

弁護士は単に「難しい試験に受かった偉い人」というのではなく、社会的に幅広く有意義な職責を担い、高い倫理観を備えているがゆえに、それなりの処遇を受ける人材になるように、新たな「弁護士像」を再構築する必要がある。そうした弁護士の受け入れ側、弁護士側の双方が、その考え方と実像を変えていくことによって、法曹の需要には、まだかなり大きな可能性が秘められているはずである。

建設的な議論を前向きにしていくためにも、法曹人口問題を既存の弁護士像の枠組みの中だけで議論するのではなく、社会も弁護士も新しい弁護士像を模索する中で、法務面での日本の国際的競争力を強めていく必要がある。

(掲載日 2008年5月12日)

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