苗村法律事務所※1
弁護士、ニューヨーク州弁護士 苗村 博子
「企業法務は社会悪???」だと私が思っているわけでは決してない。これは、私の「日本の企業内弁護士の役割」との題のプレゼンテーションに対する学生から発せられた質問で、日頃、企業法務部の人たちと共に悪戦苦闘している身としては、驚きの内容であった。学生達は、企業法務を利益追及のツールととらえ、その為に社会に害悪をもたらすと考えているらしい。そう言えば、経済新聞の記者と話したときに、証券部と違い、社会部から見れば搾取者として映っているといわれ、愕然としたことを思い出した。ライブドア事件や、村上ファンド事件をみれば、法律をそういう風に使った人も確かにいるが・・・。
大阪大学、韓国の建国大学、中国の復旦大学が中心となるFEAL(Forum on East Asian Linkage)という会の、社会が法律家に求めるものを総合テーマにした年次総会が大阪で開かれ、第1部は立法過程における法律家の役割、第2部がADRと法律家、第3部が企業内弁護士と法律家というタイトルでシンポジウムが開かれた。表題の質問は、その際のやりとりである。質問に対して、私は、企業は従業員に給与という形でその利益の一部を還元しその生活を支え、また、様々な物、サービスを提供することで円滑な国民生活を可能にする、まさに社会のインフラであること、企業法務は、企業活動が利益追求だけを求めて、公正な競争確保、消費者や投資家保護のそれぞれのルールからはみ出さないように、また新たな法的枠組みのなかで法的な可能性を求めていく有意義なものだということを答えるため、熱弁を振るうはめになった。
後で大学の先生になぜ学生が19世紀的企業観から抜け出せないのかと話してみた。大学の教育者の中にはまだ実際に、企業を搾取者として見る人がおり、その考えが学生にインプットされているのだろうとの答えであり、腑に落ちた次第である。そういえば、20年前私たちが弁護士になった頃には、企業法務を中心に扱う弁護士はブル(ジョア)弁(護士)と言って、揶揄する向きもあったのも確かである。
しかし、法化社会の進行する中、企業は益々法務によるルールの確認を必要とし、増えるロースクール卒業生は、企業内弁護士に活路を見出す人が増えるはずである。学生達に、肝心の企業の社会的役割が何であるか、企業法務が何であるかを学んでもらわないと、企業の求める人材を作り出せない。我々実務家の課題を一つ見つけた気がした。