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文献番号 2024WLJCC024
桃尾・松尾・難波法律事務所 パートナー弁護士※2
松尾 剛行
Ⅰ はじめに
本判決は、漫画村と呼ばれるサイト(以下「本件サイト」という。)において、被告が、出版社である原告らの販売する漫画(以下「本件作品」という。)を無償公開したことを理由に、合計約17億円もの賠償を認めたものである。
以下では、本判決の概要を紹介した上で、ファスト映画判決、漫画村広告判決、同人誌判決及びネットカフェ判決(それぞれ下記Ⅲにて定義する。)という令和に下された3判決を含む、類似の裁判例と比較し、無償公開の場合の損害論について簡単にコメントしたい。
Ⅱ 事案の概要と判決要旨
1.事案の概要
本件は、本件サイトにおいて被告が本件作品を無償公開したとして、原告である出版社3社が損害賠償を求めた事案である。
福岡地裁は、令和3年6月2日、被告に対する著作権法違反、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件※3につき、懲役3年及び罰金1000万円に処し、6257万1336円を追徴する旨の判決を宣告し、その後、同判決は確定した。その「罪となるべき事実」のうち、著作権法違反罪に係る事実の概要は、被告が、共犯者3名と共謀の上、法定の除外事由がなく、かつ著作権者の許諾を受けないで、平成29年5月11日頃に漫画Kの516話の画像データを、また、同月29日頃に漫画Oの866話の画像データを、それぞれ、インターネットに接続された氏名不詳者が管理する場所不詳に設置されたサーバコンピュータの記録装置に記録保存して、その頃から、前者については同月17日までの間、後者については同月31日までの間、インターネットを利用する不特定多数の者に自動的に公衆送信し得る状態にし、各作品の著作権者の著作権等を侵害した、というものである。
その上で、原告らは、出版権及び独占利用権侵害の不法行為(損害額については著作権法114条3項等参照)を理由として、被告に対し、合計19億2960万2532円と遅延損害金の支払を求めた。
2.判決要旨
本判決は、請求額の約90%である合計17億3664万2277円と遅延損害金の支払を被告に命じ、その余の原告らの請求を棄却した。
その際は、被告が本件サイトにおいて、本件作品の画像データを公衆送信(送信可能化)したと認定し、この点につき、被告に故意があるとした。
その上で、出版権については著作権法114条3項※4(独占利用権については同項の類推適用)に基づき損害を算定した。すなわち、「原告らが有する本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害行為を行った被告に対し、出版権の侵害については著作権法114条3項に基づき、また、独占的利用権の侵害については同項の類推適用により、本件作品の出版権又は独占的利用権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その損害賠償を請求することができる」とした上で、被告が無償公開をしていたことから、「侵害による売上高」は観念できないものの、原告らは自社又はそのグループの運営する電子版漫画販売サイトで本件作品をそれぞれ特定の価格(以下「販売価額(税込)」という。)で販売して、本件作品に係る出版権又は独占的利用権に基づき、これらの販売による利益を受けていたものと認められるとした。
また、本件サイトでは、ファイルをユーザーの端末にダウンロードすることなく、いわゆるストリーミング形式により無償で閲覧することが想定されていた。もっとも、閲覧に当り、ユーザーは、広告の視聴等の制約を受けることなく閲覧することが可能であり、また、画像ファイルをユーザーの端末の記録媒体に保存することも可能であった。そこで、本件サイトにアクセスしさえすれば何らの制限なく本件作品を無償で閲覧可能な状態に置かれるといえるとし、これは、実質的には、ユーザーが本件サイトにアクセスする都度、電子配信された本件作品を購入したのと異ならない状態が実現されているものと評価することができるとした。
これらの事情その他本件に表れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件において、被告による侵害行為に対し、原告らが本件作品に係る出版権又は独占的利用権の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する金額」(著作権法114条3項)の算定に当っては、販売価額(税込)から10%を控除した金額に、各作品の閲覧数を乗じた額とすることが相当であるとした。その上で、Similarweb等という閲覧数推定サイトを利用した調査結果を踏まえ、本件サイトへのアクセス総数は5億3781万超と推計され、本件サイトの平均滞在時間は約20分程度でされるところ、この平均滞在時間は、漫画作品1巻を閲覧するのに一応十分な時間といえるとした。これらを踏まえ、本件サイトにアクセスしたユーザーが1アクセス当たり漫画1巻を閲覧したとすると、上記期間中、本件サイトにおいては、合計5億3781万巻の閲覧があったと推計されるところ、当時掲載されていた漫画の数は7万2577巻とされるから、本件サイトにおける本件作品1巻当たりの平均閲覧数は、7410回を下回らないとして各作品の閲覧数を計算し、損害額を計算した。
この点、被告はライセンス料、具体的には漫画定額読み放題サービスサイトと原告らとの間で締結されるべきライセンス利用契約のライセンス料を基礎に損害額を算定すべきである旨主張した。しかし、本件作品は、原告らが、自ら(のグループ)が管理・運営する電子配信サイトを通じて有償でのみ電子配信していたのであって、これらの作品が漫画定額読み放題サービスの対象とされていることを認めるに足りる証拠はなく、原告らにとっては、本件作品を同サービスの対象とする動機はなく、仮に本件作品を同サービスの対象として利用許諾契約を締結するとすれば、本件作品の販売価格と同額ないしこれに近い額を利用料として設定すると考えることには合理性があるとした。
そして、著作権法114条1項も予備的に主張されたものの、「原告らの主張を前提としても上記認定に係る損害額を上回ることはないから、この点に関して判断する必要はない。」とした。(この点は、従来の同条1項と3項の関係に関する理解を揺り動かし得るポイントであって、Ⅲ7(2)において検討したい。)
なお、消滅時効は完成していないとした。
Ⅲ 評釈―無償公開の場合の損害額―
1.はじめに
他にも興味深い論点はあるものの、本コラムでは、ファスト映画判決、漫画村広告判決、同人誌判決及びネットカフェ判決という、著作物無償公開と損害額に関するWestlaw Japan掲載の他の裁判例との比較を行っていきたい※5。
3.ファスト映画判決※13
東京地判令和4年11月17日(以下「ファスト映画判決」という。)は、ファスト映画、即ち、約2時間の映画作品全体の内容を把握し得るように10~15分程度の動画に編集したものをYouTube上で無償公開した事案について約5億円の賠償を認めたものである※14。
東京地裁は、3項の「著作権・・・の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」について、YouTube上で視聴する場合の本件各映画作品それぞれのレンタル価格等を考慮して定める金額に、本件各動画のYouTube上での再生数を乗じて算定するのが相当とした。
その上で、各レンタル価格が400円を下らず、30%がYouTubeに対するプラットフォーム手数料に充当されることに加え、ファスト映画が約2時間の本件各映画作品を10~15分程度に編集したものであるものの、本件各映画作品全体の内容を把握し得るように編集されたものであることから、被告の広告収益が700万円程度であることを考慮しても、再生数1回当たり200円とするのが相当であるとした。
4.漫画村広告判決※15
知財高判令和4年6月29日(以下「漫画村広告判決」という。)は、本判決と同じく漫画村に関する事案である。但し、当事者が異なっている。すなわち、漫画村広告判決においては、漫画家が、幇助(民法719条2項)を理由として、漫画村(本件ウェブサイト)に広告を出稿していた広告代理店を提訴したものである。
原判決※16では著作権法114条を適用せず、「本件ウェブサイトによる原告漫画が無断掲載されたことにより、原告漫画の正規品の売上が減少することが容易に推察され、原告漫画においても、発売日翌日に本件ウェブサイト上にその新作が掲載されていたことによれば、新作が無料で閲覧できることにより、読者の原告漫画の購買意欲は大きく減退するというべきである一方、被告らの行為は、本件ウェブサイトによる原告漫画の違法な無断掲載を、広告の出稿や広告料支払という行為によって幇助したものにとどまること、原告漫画2の上記累計発行部数は令和2年1月頃までのものであって、本件ウェブサイトが閉鎖された平成30年4月より後の期間における原告漫画2の売上げに関して被告らの行為との間の関連性を認めることができないことその他本件に顕れた一切の事情に照らして検討すれば、被告らの本件における行為が原告漫画の売上減少に寄与した割合は、約1パーセントと認めるのが相当である。」として、原告漫画累計売上額の1%に対し、(後述の)印税率10%を乗じた額を損害としていた。
控訴審においては、改正前著作権法114条1項に基づく損害額が主張されたところ、上記2(3)のとおり「受信複製物の数量」が重要な争点の1つとなった。
知財高裁は、本件ウェブサイトでは、Webページを切り替えることなく閲覧が可能だったとして、例えば200頁の本の場合に、200アクセスで1冊を閲覧したとカウントする必要はないとした。しかし、「訪問者において、特定の漫画の閲覧を開始するまでに、何度かウェブページを切り替える必要があったこともうかがわれる」として、アクセス数(ページビュー数、PV数)をそのまま閲覧冊数とはできないとした。
その上で、訪問者1人当たりのPV数が10.69(即ち、1回本件サイトを訪問をした場合、平均して約10回ウェブページを切り替えて閲覧する)であったと認められることを踏まえた上で、本件ウェブサイトの「訪問者が、基本的に、無料で漫画を閲覧できるという本件ウェブサイトの誘引力により本件ウェブサイトを訪れたものと考えられることからして、本件ウェブサイトを訪問した場合、特に原告漫画のような連載ものの漫画の場合は一度の訪問で複数巻を閲覧することが十分に考えられる一方で、途中まで試し読みをして閲覧をやめるようなことも考えられること、その他、個々の訪問者における本件ウェブサイトの利用の仕方の詳細については明らかではなく、事案の性質上これを明らかにすることも不可能というべきこと、【注:改正前】著作権法114条1項に基づく損害に係る当事者双方の主張等を総合的に考慮」するとした。
そのような検討の結果を踏まえ、知財高裁は、「少なく見積もったとしても、平均して、漫画1冊当たりの「受信複製物」の数量は、本件ウェブサイトの訪問者数の5割を下回らない」として、受信複製物の数量をPV数の約5%、2度の訪問当たり1冊にとどめることとするのが相当であるとした。
なお、著作権者の利益額については、原告が漫画家であることを踏まえ、10%の印税率が適用され、一番安い電子版でも価格が462円以上であるとして、1冊当り46.2円とし、上記の「受信複製物」の数量にこれを乗じ、合計約3000万円の損害が認められるとした※17。
5.同人誌判決※18
知財高判令和2年10月6日(以下「同人誌判決」という。)は、いわゆるBL同人誌(以下「本件各漫画」という。)を無断でアップロードし、無料公開した事案に関するものである。この事案では、権利者は、同人誌という物理的書籍形態の冊子を販売しているに過ぎないところ、原判決※19は改正前著作権法114条1項ただし書に基づき、本件各漫画のPV数に本件各同人誌の利益額を乗じた額から9割を控除し、約200万円の賠償を認めた。そして、以下のとおり、知財高裁はかかる認定を是認した。
すなわち、同人誌判決によれば、著作権侵害行為を組成する公衆送信がインターネット経由でなされた事案の場合、「受信複製物の数量」とは、公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された複製物の数量を意味するのであるから(改正前1項本文)、単に公衆送信された電磁データを受信者が閲覧した数量ではなく、ダウンロードして作成された複製物の数量を意味するものと解されるとした。ところが、本件においては、公衆が閲覧した数量であるPV数しか認定することができないのであるから、1項本文にいう「受信複製物の数量」は、上記PV数よりも一定程度少ないと考えなければならないとした。
また、漫画を無料で閲覧させるか、有料で購入させるかという点において決定的な違いがあるともした。
そして、「無料であれば閲覧するが、書籍を購入してまで本件各漫画を閲覧しようとは考えないという需要者が多数存在するであろうことは容易に推認し得るところである」とした上で、「同人誌の販売総数は、本件各ウェブサイトにおけるPV数の約9分の1程度にとどまっているが、これも、本件各漫画の顧客がウェブサイトに奪われていることを示すというよりは、無料であれば閲覧するが、有料であれば閲覧しないという需要者が非常に多いことを裏付けていると評価すべきである」として、「本件各漫画をダウンロードして作成された複製物の数(法114条1項【注:改正前著作権法114条1項のこと。以下同じ。】の計算の前提となる数量)は、PV数よりも相当程度少ないものと予想される上に、ダウンロードして作成された複製物の数の中にも、一審原告が販売することができなかったと認められる数量(法114条1項ただし書に相当する数量)が相当程度含まれることになるのであるから、これらの事情を総合考慮した上、法114条1項の適用対象となる複製物の数量は、PV数の1割にとどまるとした原判決の判断は相当である」とした。
6.ネットカフェ判決※20
東京地判平成19年9月13日(以下「ネットカフェ判決」という。)は、ウェブサイト上で漫画を無料公開※21した事案について、漫画家が公開等を行った者に賠償を求め、著作権法114条3項に基づき、約2億円の損害が発生したと認められた※22。
ネットカフェ判決は、使用料相当額を算定するに当たって、1つの合理的な算定方法としては、当該事件の具体的な事情を考慮して、原告らの著作に係る各漫画単行本を本件侵害行為のような形で電子書籍化した場合の想定販売価格に対して相当な使用料率を乗じたものに、さらに本件侵害行為が行われた期間中のウェブサイトの利用者による閲覧総数を乗じて得た金額を原告らそれぞれについて集計することが考えられ、原告らも、基本的に同様の考え方に立って、使用料相当額を算定しているということができるとした。
その上で、原告の1人が締結したある契約において利用許諾料は電子書籍の販売価格の24%でこれに合わせてアドバンス(前払金)が支払われること、別の契約で利用許諾料は電子書籍の販売価格の35%であること、第三者による著作物の違法な複製等の著作権侵害行為に対して相対的に脆弱であること等から35%を使用料率とした。
そして、あるタイミングにおいてウェブサイトにアクセスした者が、「作者名」、「タイトル」及び「巻数」を指定して漫画本を特定した数をベースに、その後のアクセス増加分を加味した。
被告は、実際に漫画が配信されることを確認しただけでアクセスを止めたり、漫画が面白くなくて最初から10ページ程度でアクセスを止めたり、都合により後日読むこととしてアクセスを止めたりした場合もすべて1件としてカウントされていると主張したところ、東京地裁は仮に途中でアクセスを止めたとしても、アクセス者が漫画本の一部だけでも閲覧した以上は、これを閲覧件数に加えるのが相当であるとした。しかし、このような主張※23も踏まえ、10%を減らしている。
本稿については骨董通り法律事務所弁護士小山紘一先生(ファスト映画事件原告代理人)に貴重なコメントを頂いた。ここに感謝の意を表する。当然のことながら本稿の誤りは全て著者の責任である。
(掲載日 2024年10月8日)