判例コラム

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第330号 漫画村事件  

―著作物無償公開時の損害論にフォーカスして―
~東京地裁令和6年4月18日判決※1

文献番号 2024WLJCC024
桃尾・松尾・難波法律事務所 パートナー弁護士※2
松尾 剛行

Ⅰ はじめに
 本判決は、漫画村と呼ばれるサイト(以下「本件サイト」という。)において、被告が、出版社である原告らの販売する漫画(以下「本件作品」という。)を無償公開したことを理由に、合計約17億円もの賠償を認めたものである。
 以下では、本判決の概要を紹介した上で、ファスト映画判決、漫画村広告判決、同人誌判決及びネットカフェ判決(それぞれ下記Ⅲにて定義する。)という令和に下された3判決を含む、類似の裁判例と比較し、無償公開の場合の損害論について簡単にコメントしたい。

Ⅱ 事案の概要と判決要旨
1.事案の概要

 本件は、本件サイトにおいて被告が本件作品を無償公開したとして、原告である出版社3社が損害賠償を求めた事案である。
 福岡地裁は、令和3年6月2日、被告に対する著作権法違反、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件※3につき、懲役3年及び罰金1000万円に処し、6257万1336円を追徴する旨の判決を宣告し、その後、同判決は確定した。その「罪となるべき事実」のうち、著作権法違反罪に係る事実の概要は、被告が、共犯者3名と共謀の上、法定の除外事由がなく、かつ著作権者の許諾を受けないで、平成29年5月11日頃に漫画Kの516話の画像データを、また、同月29日頃に漫画Oの866話の画像データを、それぞれ、インターネットに接続された氏名不詳者が管理する場所不詳に設置されたサーバコンピュータの記録装置に記録保存して、その頃から、前者については同月17日までの間、後者については同月31日までの間、インターネットを利用する不特定多数の者に自動的に公衆送信し得る状態にし、各作品の著作権者の著作権等を侵害した、というものである。
 その上で、原告らは、出版権及び独占利用権侵害の不法行為(損害額については著作権法114条3項等参照)を理由として、被告に対し、合計19億2960万2532円と遅延損害金の支払を求めた。

2.判決要旨
 本判決は、請求額の約90%である合計17億3664万2277円と遅延損害金の支払を被告に命じ、その余の原告らの請求を棄却した。
 その際は、被告が本件サイトにおいて、本件作品の画像データを公衆送信(送信可能化)したと認定し、この点につき、被告に故意があるとした。
 その上で、出版権については著作権法114条3項※4(独占利用権については同項の類推適用)に基づき損害を算定した。すなわち、「原告らが有する本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害行為を行った被告に対し、出版権の侵害については著作権法114条3項に基づき、また、独占的利用権の侵害については同項の類推適用により、本件作品の出版権又は独占的利用権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その損害賠償を請求することができる」とした上で、被告が無償公開をしていたことから、「侵害による売上高」は観念できないものの、原告らは自社又はそのグループの運営する電子版漫画販売サイトで本件作品をそれぞれ特定の価格(以下「販売価額(税込)」という。)で販売して、本件作品に係る出版権又は独占的利用権に基づき、これらの販売による利益を受けていたものと認められるとした。
 また、本件サイトでは、ファイルをユーザーの端末にダウンロードすることなく、いわゆるストリーミング形式により無償で閲覧することが想定されていた。もっとも、閲覧に当り、ユーザーは、広告の視聴等の制約を受けることなく閲覧することが可能であり、また、画像ファイルをユーザーの端末の記録媒体に保存することも可能であった。そこで、本件サイトにアクセスしさえすれば何らの制限なく本件作品を無償で閲覧可能な状態に置かれるといえるとし、これは、実質的には、ユーザーが本件サイトにアクセスする都度、電子配信された本件作品を購入したのと異ならない状態が実現されているものと評価することができるとした。
 これらの事情その他本件に表れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件において、被告による侵害行為に対し、原告らが本件作品に係る出版権又は独占的利用権の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する金額」(著作権法114条3項)の算定に当っては、販売価額(税込)から10%を控除した金額に、各作品の閲覧数を乗じた額とすることが相当であるとした。その上で、Similarweb等という閲覧数推定サイトを利用した調査結果を踏まえ、本件サイトへのアクセス総数は5億3781万超と推計され、本件サイトの平均滞在時間は約20分程度でされるところ、この平均滞在時間は、漫画作品1巻を閲覧するのに一応十分な時間といえるとした。これらを踏まえ、本件サイトにアクセスしたユーザーが1アクセス当たり漫画1巻を閲覧したとすると、上記期間中、本件サイトにおいては、合計5億3781万巻の閲覧があったと推計されるところ、当時掲載されていた漫画の数は7万2577巻とされるから、本件サイトにおける本件作品1巻当たりの平均閲覧数は、7410回を下回らないとして各作品の閲覧数を計算し、損害額を計算した。
 この点、被告はライセンス料、具体的には漫画定額読み放題サービスサイトと原告らとの間で締結されるべきライセンス利用契約のライセンス料を基礎に損害額を算定すべきである旨主張した。しかし、本件作品は、原告らが、自ら(のグループ)が管理・運営する電子配信サイトを通じて有償でのみ電子配信していたのであって、これらの作品が漫画定額読み放題サービスの対象とされていることを認めるに足りる証拠はなく、原告らにとっては、本件作品を同サービスの対象とする動機はなく、仮に本件作品を同サービスの対象として利用許諾契約を締結するとすれば、本件作品の販売価格と同額ないしこれに近い額を利用料として設定すると考えることには合理性があるとした。
 そして、著作権法114条1項も予備的に主張されたものの、「原告らの主張を前提としても上記認定に係る損害額を上回ることはないから、この点に関して判断する必要はない。」とした。(この点は、従来の同条1項と3項の関係に関する理解を揺り動かし得るポイントであって、Ⅲ7(2)において検討したい。)
 なお、消滅時効は完成していないとした。

Ⅲ 評釈―無償公開の場合の損害額―
1.はじめに

 他にも興味深い論点はあるものの、本コラムでは、ファスト映画判決、漫画村広告判決、同人誌判決及びネットカフェ判決という、著作物無償公開と損害額に関するWestlaw Japan掲載の他の裁判例との比較を行っていきたい※5

    2.著作権法114条
     前提として、著作権法114条について簡単に説明したい。(以下、著作権法114条を省略し、「1項」とか「3項」ということがある。)。
  1. (1)条文
  2.  (令和5年改正後の)現行著作権法114条は以下のとおり規定する(なお、本コラムでは主に1項及び3項を検討することから、それ以外の項を省略している。)。

  1.  (損害の額の推定等)
  2. 第114条 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(以下この項において「侵害者」という。)に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、侵害者がその侵害の行為によつて作成された物(第一号において「侵害作成物」という。)を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。同号において「侵害組成公衆送信」という。)を行つたときは、次の各号に掲げる額の合計額を、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。
  3. 一 譲渡等数量(侵害者が譲渡した侵害作成物及び侵害者が行つた侵害組成公衆送信を公衆が受信して作成した著作物又は実演等の複製物(以下この号において「侵害受信複製物」という。)の数量をいう。次号において同じ。)のうち販売等相応数量(当該著作権者等が当該侵害作成物又は当該侵害受信複製物を販売するとした場合にその販売のために必要な行為を行う能力に応じた数量をいう。同号において同じ。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額
  4. 二 譲渡等数量のうち販売等相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(著作権者等が、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額
    (略)
  5. 3 著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
    (略)

  1.   なお、1項は令和5年改正(2024年1月1日施行)によって改正されており、改正前条文※6は以下のとおりである※7

  1.   著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為によつて作成された物を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行つたときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

  1. (2)3項について
  2.   本判決、ファスト映画判決及びネットカフェ判決において問題となったのが「その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」の賠償を請求できるとする3項であるところ、同項の趣旨は、侵害者は、本来であればライセンス料を支払って利用すべきであるので、その額については、権利者が現実に利用していたか否かに拘らず、支払うのは当然であり、仮に同項がなくとも、民法の一般原則(不法行為あるいは不当利得)によっても同額の請求が可能と考えられるとされる※8。3項の損害の算定は、簡単にいえば、以下の数式で表現することができる※9

  1. 侵害者の譲渡等数量×使用料相当額

  1.   まず、侵害者の譲渡等数量については、無償公開の場合、その数量の計算が問題となる。かつ、それだけの数量が譲渡等されたのは無償だったからではないか、この点を考慮しなくていいのか、という問題意識も存在する。
     また、使用料相当額については、例えば、有体物であるDVDや書籍等を作成する第三者に対してライセンスを行うという典型的な場合を想定すると、使用料相当額は「価格×1個当たりの使用料率」によって求められる※10。しかし、本判決で問題となるような無償公開の場合においては、必ずしも「価格」が明らかではない。また、(ライセンスをする場合とは異なり、)権利者が(電子版を)自ら販売しているという場合には、「行使につき受けるべき金銭」を必ずしも使用料率を乗じた後の価格とすることが必須とまではいえず、例えば出版社が自ら電子版を販売することを通じて権利を行使し、1冊100円の支払を受けているのであれば、100円が「行使につき受けるべき金銭」なのではないか、という問題意識も存在する。

  1. (3)1項について
  2.   漫画村広告事件及び同人誌事件で問題となったのは(改正前)1項である。
     著作権者等が民法709条に基づいて損害賠償を請求した場合には、著作権者等は侵害行為と因果関係のある損害額を立証しなければならず、著作権者等が自ら複製物を販売している場合には、基本的には「侵害行為によって生じた著作権者等の販売数量の減少」×「1個当たりの著作権者等の利益」となる。しかし、侵害行為によって著作権者等の販売数量が減少したといっても、侵害行為と著作権者等の販売数量の減少との因果関係を基礎付ける事実を立証することは困難である。
     1項の損害の算定は、簡単にいえば、以下の数式で表現することができる※11

  1. 侵害者の譲渡等数量×著作権者等の利益額

  1.   つまり、侵害行為による著作権者等の販売数量減少による損害額を上記の数式で表現されるものであると推定した上で、減額の余地を認めている。
     インターネット上で配信をすることで侵害が生じる場合の「受信複製物の数量」(なお、インターネット配信には、ダウンロード型とストリーミング型があるところ、この類型の相違による、「受信複製物の数量」の解釈への影響については、特に5で後述する同人誌判決の判示が参考になる。)とは、公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された著作物もしくは実演等の複製物等の数量、つまり、具体的には、違法に送信ないしはアップロードされた音楽著作物、映像著作物、実演、放送番組等を、公衆が録音・録画ないしはダウンロードして作成された複製物の数量であって、その際に公衆によって作成された複製物等の数量が受信複製物数量となる※12。しかし、実務上、その立証は必ずしも容易ではない。
     また、とりわけ、かかるインターネット配信が無償で行われる場合においては、3項と同様に、それだけの数量が譲渡等されたのは無償だったからではないか、この点を考慮しなくていいのか、という問題意識も存在する。

3.ファスト映画判決※13
 東京地判令和4年11月17日(以下「ファスト映画判決」という。)は、ファスト映画、即ち、約2時間の映画作品全体の内容を把握し得るように10~15分程度の動画に編集したものをYouTube上で無償公開した事案について約5億円の賠償を認めたものである※14
 東京地裁は、3項の「著作権・・・の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」について、YouTube上で視聴する場合の本件各映画作品それぞれのレンタル価格等を考慮して定める金額に、本件各動画のYouTube上での再生数を乗じて算定するのが相当とした。
 その上で、各レンタル価格が400円を下らず、30%がYouTubeに対するプラットフォーム手数料に充当されることに加え、ファスト映画が約2時間の本件各映画作品を10~15分程度に編集したものであるものの、本件各映画作品全体の内容を把握し得るように編集されたものであることから、被告の広告収益が700万円程度であることを考慮しても、再生数1回当たり200円とするのが相当であるとした。

4.漫画村広告判決※15
 知財高判令和4年6月29日(以下「漫画村広告判決」という。)は、本判決と同じく漫画村に関する事案である。但し、当事者が異なっている。すなわち、漫画村広告判決においては、漫画家が、幇助(民法719条2項)を理由として、漫画村(本件ウェブサイト)に広告を出稿していた広告代理店を提訴したものである。
 原判決※16では著作権法114条を適用せず、「本件ウェブサイトによる原告漫画が無断掲載されたことにより、原告漫画の正規品の売上が減少することが容易に推察され、原告漫画においても、発売日翌日に本件ウェブサイト上にその新作が掲載されていたことによれば、新作が無料で閲覧できることにより、読者の原告漫画の購買意欲は大きく減退するというべきである一方、被告らの行為は、本件ウェブサイトによる原告漫画の違法な無断掲載を、広告の出稿や広告料支払という行為によって幇助したものにとどまること、原告漫画2の上記累計発行部数は令和2年1月頃までのものであって、本件ウェブサイトが閉鎖された平成30年4月より後の期間における原告漫画2の売上げに関して被告らの行為との間の関連性を認めることができないことその他本件に顕れた一切の事情に照らして検討すれば、被告らの本件における行為が原告漫画の売上減少に寄与した割合は、約1パーセントと認めるのが相当である。」として、原告漫画累計売上額の1%に対し、(後述の)印税率10%を乗じた額を損害としていた。
 控訴審においては、改正前著作権法114条1項に基づく損害額が主張されたところ、上記2(3)のとおり「受信複製物の数量」が重要な争点の1つとなった。
 知財高裁は、本件ウェブサイトでは、Webページを切り替えることなく閲覧が可能だったとして、例えば200頁の本の場合に、200アクセスで1冊を閲覧したとカウントする必要はないとした。しかし、「訪問者において、特定の漫画の閲覧を開始するまでに、何度かウェブページを切り替える必要があったこともうかがわれる」として、アクセス数(ページビュー数、PV数)をそのまま閲覧冊数とはできないとした。
 その上で、訪問者1人当たりのPV数が10.69(即ち、1回本件サイトを訪問をした場合、平均して約10回ウェブページを切り替えて閲覧する)であったと認められることを踏まえた上で、本件ウェブサイトの「訪問者が、基本的に、無料で漫画を閲覧できるという本件ウェブサイトの誘引力により本件ウェブサイトを訪れたものと考えられることからして、本件ウェブサイトを訪問した場合、特に原告漫画のような連載ものの漫画の場合は一度の訪問で複数巻を閲覧することが十分に考えられる一方で、途中まで試し読みをして閲覧をやめるようなことも考えられること、その他、個々の訪問者における本件ウェブサイトの利用の仕方の詳細については明らかではなく、事案の性質上これを明らかにすることも不可能というべきこと、【注:改正前】著作権法114条1項に基づく損害に係る当事者双方の主張等を総合的に考慮」するとした。
 そのような検討の結果を踏まえ、知財高裁は、「少なく見積もったとしても、平均して、漫画1冊当たりの「受信複製物」の数量は、本件ウェブサイトの訪問者数の5割を下回らない」として、受信複製物の数量をPV数の約5%、2度の訪問当たり1冊にとどめることとするのが相当であるとした。
 なお、著作権者の利益額については、原告が漫画家であることを踏まえ、10%の印税率が適用され、一番安い電子版でも価格が462円以上であるとして、1冊当り46.2円とし、上記の「受信複製物」の数量にこれを乗じ、合計約3000万円の損害が認められるとした※17

5.同人誌判決※18
 知財高判令和2年10月6日(以下「同人誌判決」という。)は、いわゆるBL同人誌(以下「本件各漫画」という。)を無断でアップロードし、無料公開した事案に関するものである。この事案では、権利者は、同人誌という物理的書籍形態の冊子を販売しているに過ぎないところ、原判決※19は改正前著作権法114条1項ただし書に基づき、本件各漫画のPV数に本件各同人誌の利益額を乗じた額から9割を控除し、約200万円の賠償を認めた。そして、以下のとおり、知財高裁はかかる認定を是認した。
 すなわち、同人誌判決によれば、著作権侵害行為を組成する公衆送信がインターネット経由でなされた事案の場合、「受信複製物の数量」とは、公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された複製物の数量を意味するのであるから(改正前1項本文)、単に公衆送信された電磁データを受信者が閲覧した数量ではなく、ダウンロードして作成された複製物の数量を意味するものと解されるとした。ところが、本件においては、公衆が閲覧した数量であるPV数しか認定することができないのであるから、1項本文にいう「受信複製物の数量」は、上記PV数よりも一定程度少ないと考えなければならないとした。
 また、漫画を無料で閲覧させるか、有料で購入させるかという点において決定的な違いがあるともした。
 そして、「無料であれば閲覧するが、書籍を購入してまで本件各漫画を閲覧しようとは考えないという需要者が多数存在するであろうことは容易に推認し得るところである」とした上で、「同人誌の販売総数は、本件各ウェブサイトにおけるPV数の約9分の1程度にとどまっているが、これも、本件各漫画の顧客がウェブサイトに奪われていることを示すというよりは、無料であれば閲覧するが、有料であれば閲覧しないという需要者が非常に多いことを裏付けていると評価すべきである」として、「本件各漫画をダウンロードして作成された複製物の数(法114条1項【注:改正前著作権法114条1項のこと。以下同じ。】の計算の前提となる数量)は、PV数よりも相当程度少ないものと予想される上に、ダウンロードして作成された複製物の数の中にも、一審原告が販売することができなかったと認められる数量(法114条1項ただし書に相当する数量)が相当程度含まれることになるのであるから、これらの事情を総合考慮した上、法114条1項の適用対象となる複製物の数量は、PV数の1割にとどまるとした原判決の判断は相当である」とした。

6.ネットカフェ判決※20
 東京地判平成19年9月13日(以下「ネットカフェ判決」という。)は、ウェブサイト上で漫画を無料公開※21した事案について、漫画家が公開等を行った者に賠償を求め、著作権法114条3項に基づき、約2億円の損害が発生したと認められた※22
 ネットカフェ判決は、使用料相当額を算定するに当たって、1つの合理的な算定方法としては、当該事件の具体的な事情を考慮して、原告らの著作に係る各漫画単行本を本件侵害行為のような形で電子書籍化した場合の想定販売価格に対して相当な使用料率を乗じたものに、さらに本件侵害行為が行われた期間中のウェブサイトの利用者による閲覧総数を乗じて得た金額を原告らそれぞれについて集計することが考えられ、原告らも、基本的に同様の考え方に立って、使用料相当額を算定しているということができるとした。
 その上で、原告の1人が締結したある契約において利用許諾料は電子書籍の販売価格の24%でこれに合わせてアドバンス(前払金)が支払われること、別の契約で利用許諾料は電子書籍の販売価格の35%であること、第三者による著作物の違法な複製等の著作権侵害行為に対して相対的に脆弱であること等から35%を使用料率とした。
 そして、あるタイミングにおいてウェブサイトにアクセスした者が、「作者名」、「タイトル」及び「巻数」を指定して漫画本を特定した数をベースに、その後のアクセス増加分を加味した。
 被告は、実際に漫画が配信されることを確認しただけでアクセスを止めたり、漫画が面白くなくて最初から10ページ程度でアクセスを止めたり、都合により後日読むこととしてアクセスを止めたりした場合もすべて1件としてカウントされていると主張したところ、東京地裁は仮に途中でアクセスを止めたとしても、アクセス者が漫画本の一部だけでも閲覧した以上は、これを閲覧件数に加えるのが相当であるとした。しかし、このような主張※23も踏まえ、10%を減らしている。

    7.検討
  1. (1)無償公開の勘案の有無及び方法
  2. ア 1項に関する判決
  3.   1項に関する2判決は侵害形態が無償公開であることを踏まえた判断を行っている。
     漫画村広告判決は、(改正前)1項の「受信複製物の数量」の認定において、「途中まで試し読みをして閲覧をやめるようなことも考えられる」等を考慮して「受信複製物の数量」は本件ウェブサイトの訪問者数の5割に留まるとした。
  4.   同人誌判決は、「漫画を無料で閲覧させるか、有料で購入させるかという点において決定的な違いがある」とした上で「同人誌の販売総数は、本件各ウェブサイトにおけるPV数の約9分の1程度にとどまっているが、これも、本件各漫画の顧客がウェブサイトに奪われていることを示すというよりは、無料であれば閲覧するが、有料であれば閲覧しないという需要者が非常に多いことを裏付けていると評価すべきである」とした上で、(改正前)1項の適用対象となる複製物の数量は、PV数の1割にとどまるとした。

  5. イ 3項に関する判決
  6.   しかし、ファスト映画判決は、3項の計算をライセンス料ではなく、レンタル価格等を考慮して定める金額に再生数を乗じて算定することとした上で、400円に70%を乗じた280円ではなく、200円を基礎としているところ、80円の差は2時間の完全版の映画ではないことを主に考慮した結果であると思われる。
  7.   また、本判決もユーザーが本件サイトにアクセスする都度、電子配信された本件作品を購入したのと異ならない状態が実現されているものと評価することができるとした上で、原告らの自社(グループ)における電子書籍の販売価格を基礎にその90%分としている。
  8.   いずれも、1項に関する2判決に見られるような、無償公開であることによる議論は少なくとも明示的に行われていない。
  9.   これに対し、ネットカフェ判決は、実際に漫画が配信されることを確認しただけでアクセスを止めたり、漫画が面白くなくて最初から10ページ程度でアクセスを止めたり、都合により後日読むこととしてアクセスを止めたりした場合もすべて1件としてカウントされている等という主張を踏まえ、最終的に減額を行ってはいるものの、減額幅は10%に留まっている。

  10. ウ 検討
  11. (ア)本判決と漫画村広告判決との比較
  12.   まず、漫画村広告判決と本判決の間では、単にPV数と訪問者数しか算定できなかった(漫画村広告判決)か、それとも、推計ではあるものの訪問者数に加え、平均滞在時間をも算定することができたか(本判決)という違いが挙げられる。実際には、本判決も、一部の訪問者が「途中まで試し読みをして閲覧をやめるようなことも考えられる」点を考慮していたと思われるが、それでも、「本件サイトの平均滞在時間は約20分程度でされるところ(略)、この平均滞在時間は、漫画作品1巻を閲覧するのに一応十分な時間といえる。」という認定から、このような推計を行なったと思われる。

  13. (イ)本判決と同人誌判決との比較
  14.   次に、同人誌判決は「漫画を無料で閲覧させるか、有料で購入させるかという点において決定的な違いがある」とか「無料であれば閲覧するが、有料であれば閲覧しないという需要者が非常に多い」とした上で、PV数の1割を「受信複製物の数量」としているところ、本判決は類似の判断を行っていない。
  15.   むしろ、本判決はライセンス料を基準とすべきという被告の主張を否定し、仮に本件作品を同サービスの対象として利用許諾契約を締結するとすれば、本件作品の販売価格と同額ないしこれに近い額を利用料として設定すると考えることには合理性があるとした※24
  16.   この点は、本判決の対象となる作品が有償でも買いたいという人気漫画が多く、同人誌判決の対象となる作品とは異なる、という見方もあり得る。ただ、同人誌判決の事案でも、そもそもそのような作品を閲覧したいという人は限られているものの、そのような閲覧したい人ならば有償でも買いたいはずだ、という見方もあり得ると思われるところ、もしそうであれば、その相違は正当化されないことになる※25

  17. (ウ)本判決とファスト映画判決との比較
  18.   ファスト映画判決はレンタル価格である400円の半額としているところ、本判決が10%を減らしているに留まることから、この差がなぜ発生しているかが問題となる。上記のとおり、ファスト映画判決は主に30%のプラットフォーム手数料と、完全版ではなく上映時間が短いこと(映画の全部が無償公開されてはいない点)が考慮されているように思われる。これに対し、本件の10%は、印税(漫画村広告判決参照)が考慮されたと思われる。いずれにせよ、ファスト映画判決と本判決はいずれも、明示的に無償であることを考慮しないだけではなく、その減額要素を勘案しても実質的にも無償であることを重要な考慮要素としていないといえる。

  19. (エ)本判決とネットカフェ判決との比較
  20.   ネットカフェ判決で行われた、実際に漫画が配信されることを確認しただけでアクセスを止めたり、漫画が面白くなくて最初から10ページ程度でアクセスを止めたり、都合により後日読むこととしてアクセスを止めたりした場合もすべて1件としてカウントされている等という主張を踏まえた減少は、漫画村広告判決の「途中まで試し読みをして閲覧をやめるようなことも考えられる」という議論と類似しており、上記(ア)の漫画村広告判決と同様に考えることができるだろう。

  21. (オ)なぜ本判決が無償であることを(少なくとも)重要な考慮要素としていないことが正当化されるか
  22.   このような判断について異論はあり得るが、1つの重要な理由として、被告の行為が広告収入を狙っての営利目的の行為であったことが挙げられる。確かに、訪問者は無償で閲覧できるものの、多くの広告が表示されたり、広告がクリックされることで、多額の広告料収入が期待できた。もちろん、実際にはファスト映画事件判決で認められた賠償額が約5億円であることに対し、得られた広告料が「約700万円」と認定されているように、広告料収入が「受けるべき金銭の額」を大幅に下回ること自体はあり得る。しかし、そうであっても、本判決が仮に本件作品を同サービスの対象として利用許諾契約を締結するとすれば、本件作品の販売価格と同額ないしこれに近い額を利用料として設定すると考えることには合理性があると認定しているように、営利目的の読み放題サービスに対して仮に利用料を設定するのであれば、1冊閲覧される度に販売価格と同額ないしこれに近い額を利用料とするだろう、という想定の下、本判決が無償であることを(少なくとも)重要な考慮要素としていないことが正当化されるという考えは1つのあり得る考えではなかろうか※26

  23. (2)1項よりも3項が有利?
  24.   元々、3項は「最低限の損害額としての意味がある」※27とされていた。しかし、本判決で約17億円、ファスト映画判決で約5億円、ネットカフェ判決で約2億円と、3項を利用した判決において相当額の賠償が認められる反面、漫画村広告判決では約3000万円、同人誌判決では約200万円と1項を利用した判決では賠償額が限定されている。とりわけ、本判決は「原告らの主張を前提としても上記認定に係る損害額を上回ることはないから、この点に関して判断する必要はない。」として、最低限のはずの3項による損害が1項と同じか、それを上回るとしている。なぜこのような現象が発生したのだろうか。
  25.   とりわけ、1項の計算においては限界利益が利用されるところ※28、自社サイトで電子版を販売する場合、1冊追加で販売することができても、それに伴う印刷費や配送費は生じないので、減じるべき額は著者に支払う印税程度になると思われる。その意味で、本判決のように、印税相当額である10%を減じるのであれば、3項の損害である「受けるべき金銭の額」は1項の限界利益とあまり変わらないはずである※29
  26.   ここで、1項では、「受信複製物の数量」の算定が必要であり、特に同人誌判決のように、ダウンロードして作成された複製物の数量を意味するものと解すると、単に閲覧しただけではなく、ダウンロードして複製物が作成するに至ったのがどの程度かまで立証が必要となる※30。そこで、この点の厳格な計算が必要であり、また、その上でそこから「販売等相応数量」(令和5年改正後1項1号)や「譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情」(改正前1項ただし書)等、様々な減額の余地が認められている。
  27.   これに対し、3項では「受信複製物の数量」は少なくとも明示的には計算の対象とはされていない。むしろ、「受けるべき金銭の額に相当する額」を合理的に算定すれば良い。この点で3項に柔軟性があり、上記の各判決は、キャラクター関連事件や無償公開以外の3項の判決の一部で見られた、「5~8%」等という使用料率※31を大きく上回る額を「受けるべき金銭の額に相当する額」としたことが、相当多額の賠償につながったと評することは可能だろう。

  28. (3)小括
  29.   以上本判決の損害論を理解するため、無償公開類型の各判決を1項か3項かを軸に検討してきたが、本稿はあくまでも試論的検討に過ぎない。しかし、本判決が「3項は最低限(≒1項が3項より有利)」という従来の理解を揺り動かしているようにも読めることは非常に興味深く、本稿を叩き台としてさらに議論が進展することを期待したい。


 本稿については骨董通り法律事務所弁護士小山紘一先生(ファスト映画事件原告代理人)に貴重なコメントを頂いた。ここに感謝の意を表する。当然のことながら本稿の誤りは全て著者の責任である。


(掲載日 2024年10月8日)

  • WestlawJapan文献番号2024WLJPCA04189001
  • 桃尾・松尾・難波法律事務所(https://www.mmn-law.gr.jp/lawyers/600050.html)。
  • 福岡地判令和3年6月2日WestlawJapan文献番号2021WLJPCA06029001
  • 著作権法114条3項
  • なお、鉄道会社がイントラネットで新聞記事を無断掲載した件に関する知財高判令和5年6月8日WestlawJapan文献番号2023WLJPCA06089002も興味深いものの、あくまでも対外公開の事例に限って検討することとし、同判決はここでは詳論しないこととする。
  • 著作権法114条1項(令5法33改正前)
  • 同改正は「新法第114条第1項第1号において、法第114条第1項の算定方法により算出した損害額(販売数量減少による逸失利益)を規定し、新法第114条第1項第2号において、侵害者の譲渡等数量のうち権利者の販売等能力を超える数量又は販売することができない数量に応じたライセンス料相当額(ライセンス機会喪失による逸失利益)を規定し、これらの合計額を新法第114条第1項により算定される損害額とした。」と説明されている(文化庁著作権課「著作権法の一部を改正する法律(令和5年改正)について」<https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r05_hokaisei/pdf/93999801_01.pdf>14頁)。
  • 中山信弘『著作権法〔第3版〕』(有斐閣、2020年)802頁。
  • 半田正夫=松田政行編『著作権法コンメンタール3〔第2版〕89条~124条、附則、著作権等管理事業法』(勁草書房、2015年)514-515頁。
  • 前掲注9・539頁。
  • 前掲注9・514頁。
  • 前掲注9・522頁。
  • 東京地判令和4年11月17日WestlawJapan文献番号2022WLJPCA11179001
  • 但し、原告は損害額を約20億円と算定しつつ一部請求として5億円を請求した事案であり、請求どおり5億円の賠償が認容されたものである。この点につき、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)「ファスト映画:所在不明のアップローダーに対し5億円の損害賠償を命じる判決」2023年8月24日(https://coda-cj.jp/news/1645/)を参照。
  • 知財高判令和4年6月29日WestlawJapan文献番号2022WLJPCA06299002
  • 東京地判令和3年12月21日判時2522号136頁、WestlawJapan文献番号2021WLJPCA12216001
  • 但し、原告が1100万円しか請求していないため、その全額を認容した原判決の判断を是認するにとどまった。
  • 知財高判令和2年10月6日WestlawJapan文献番号2020WLJPCA10069001
  • 東京地判令和2年2月14日WestlawJapan文献番号2020WLJPCA02146001
  • 東京地判平成19年9月13日判タ1276号311頁、WestlawJapan文献番号2007WLJPCA09139002
  • 本件においては、あるタイミング以降は無料公開から有料会員制へと変更されたものの、「侵害行為が行われていた期間のうちほとんどの期間については、本件著作物を閲覧したいと考える者は誰でも本件ウェブサイトにアクセスして漫画の配信を受けることができる状態にあった」と認定されていることに留意されたい。
  • 但し、漫画家1人当たり最高で200万円しか請求していないため、その額を上限として認容されている。
  • 他に、実際に漫画を読むことができなかったケースがあるといった主張も併せて検討されている。
  • なお、一般的な法律書読み放題サービス等においては、ユーザーの支払う会費額の何割かを「出版社の取り分」としてプールし、アクセス数等の何らかの基準でこれを割り振ることが多い。しかし、そのような法律書読み放題サービスにおいては、既に一定期間以上販売が行われた後の書籍が閲覧対象とされることが多い。この判示は、あくまでも「仮に、売れ筋の、読者が定価で買うような漫画を読み放題サービスにおいて閲覧できるようにしたら」とった仮定を行った文脈における議論であることに留意すべきである。
  • その場合、同人誌判決の方において、より多くの賠償を認めるべきという方向になるのではないかと思われるものの、同人誌判決においては本判決と異なり「平均滞在時間」が認定されていないことから、漫画村広告判決と同様の減額考慮が働くべきと考えると、結果的には、同人誌判決の実際の判断とそう変わらない額になるのかもしれない。
  • なお、令和5年改正の趣旨の1つが「いわゆる「侵害し得」を防ぐ」というものであるところ(「第22期文化審議会著作権分科会法制度小委員会 報告書」<https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/93828801_01.pdf>23-24頁)、本判決は(令和5年改正「前」の著作権法を適用したものではあるものの、)このような改正の趣旨も踏まえている可能性がある。
  • 前掲注8・802頁。
  • 前掲注8・796頁。
  • なお、ネットカフェ判決はインターネット上で公開した場合と3項の損害額について「一般の書籍であれば、原材料(紙、各種カラーのインク)の購入、デジタル製版(印刷用の高解像度のスキャニング)、印刷、製本、流通、保管、返本等の様々な過程で多大な費用がかかるのに対して、インターネットによる場合にはそのような費用がかからないのであるから、一般の書籍と比較して高いパーセンテージになることには合理性がある。」としている。しかし、インターネットの場合において経費が少なくなる結果として、利益が大きくなるならば、3項を利用した場合だけではなく、1項を利用した場合においても大きな額の賠償が認められるはずである。
  • 令和5年改正後の1項1号においても、譲渡等数量は「侵害者が譲渡した侵害作成物及び侵害者が行つた侵害組成公衆送信を公衆が受信して作成した著作物又は実演等の複製物(以下この号において「侵害受信複製物」という。)の数量をいう。」と定義されているので、令和5年改正後においても、「公衆が受信して作成した」「複製物」の数量がなお問題となる。
  • 前掲注9・540頁。


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