判例コラム

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第321号 「クソ野郎」等という投稿が意見ないし論評の域を逸脱しておらず、
社会通念上許される限度を超える侮辱でもないとされた事案  

~東京高裁令和6年3月13日判決※1

文献番号 2024WLJCC015
桃尾・松尾・難波法律事務所 パートナー弁護士※2
松尾 剛行

  1. Ⅰ はじめに
  2.   本件は、著名なジャーナリスト(対象者。以下、「X」という。第一審判決では「原告」、控訴審判決では「一審原告」と呼ばれることもある。)に対し、野党議員(表現者。以下、「Y」という。第一審判決では「被告」、控訴審判決では「一審被告」と呼ばれることもある。)がツイッター※3上で行った2つの投稿(以下、「ツイート」という。)について、第一審判決※4が、ツイートの1つについては不法行為が成立しないものの、もう1つについては名誉毀損及び名誉感情侵害による不法行為が成立すると判断したところ、控訴審判決が、2つ目のツイートもまた不法行為が成立しないとしたものである。
     以下では、第一審判決及び控訴審判決の概要を紹介した上で、名誉毀損及び名誉感情侵害について簡単にコメントしたい。

  1. Ⅱ 事案の概要と判決要旨
  2.  1 事案の概要
     Yは、Xについて、ツイッター上で「元aテレビ記者でB総理の御用、X氏。Aさんに対して計画的な強姦をおこなった。そのX氏側の敗訴不服の記者会見に、Aさんが出席している。強くて真っすぐな人だ。たくさんの絶望を支援者と乗り越えてきたんだろうな。」というツイート(以下、「本件ツイート1」という。)と、「X。1億円超のスラップ訴訟をAさんに仕掛けた、とことんまで人を暴力で屈服させようという思い上がったクソ野郎。そんな奴が、B政権を支えている。絶対許せない。怒りはこんな言葉では言い表せない。」というツイート(以下、「本件ツイート2」という。また、本件ツイート1と合わせて「本件各ツイート」という。)を行った。Xは、Yに対し、名誉毀損及び名誉感情侵害を理由に本件各ツイートの削除、損害賠償及び謝罪広告を求めて訴えた。
     なお、本事案を理解する上では、XがAに対して性的暴行を行った等としてAがXに対し損害賠償を請求する訴訟を提起し、その旨を記者会見等で表明したところ、XがAの記者会見等を名誉毀損として1億3000万円の賠償を求めて反訴するという訴訟案件※5(以下、「前件訴訟」という。)が存在することが重要である。そして、本件各ツイートの前日に、Xに対しAへの330万円の支払を命じ、Aは損害賠償義務を負わないとする第一審判決(以下、「前件訴訟第一審判決」という。)が下された。本件ツイート1における「X氏側の敗訴不服の記者会見」は、かかる前件訴訟第一審判決に不服としてXが行った記者会見のことを指しており、本件ツイート2における「1億円超のスラップ訴訟」はXがAが実施した記者会見等の内容が名誉毀損だとして行った(前件訴訟における)反訴に関するYの評価(Ⅱ・2(1)ア及び(2)ア参照)を示すものである。ここで、前件訴訟の控訴審判決※6(以下、「前件訴訟控訴審判決」という。)ではAが、Xがデートレイプドラッグを利用したと述べた点について名誉毀損等として、Xの反訴請求が一部認容されている。

  3.  2 判決要旨
  4.  (1)第一審判決
  5.  ア 本件ツイート1について
     第一審判決は、以下述べるとおり、本件ツイート1によりXの社会的評価は低下するものの、公正な論評の法理の抗弁が成立し、不法行為にはならないとした。
     本件ツイート1は前件訴訟第一審判決を受けて、YがXの行為を批判するものである。一般読者は、(特に「Aさんに対して計画的な強姦をおこなった」という部分について、)かかる批判の根拠として、XがAに対して計画的な強姦を行ったことを掲げているものと理解するといえ、これはXの社会的評価を低下させるとして社会的評価低下を認めた。しかし、以下のとおり、違法性が阻却されるとした(但し、Ⅲ・1を参照)。
     まず、テレビ局の重役の地位にあったXがAに対して、合意なく性行為を行ったか否かという事実は社会的な関心事であったところ、本件ツイート1の内容からすると、これは公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的で行われたものと認められるとした。
     その上で、「計画的な強姦をおこなった」との表現については、強姦という用語は法的評価であり、また、計画的という用語は多義的であって、具体的事実を基礎とする評価として用いられるものであるため、いずれも証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものとはいえず、当該表現は、意見ないし論評の表明に属するとした。
     そして、意見・論評に適用される公正な論評の法理を適用し、当該表現の前提となるXがAに行ったとされている事実は、前件訴訟第一審判決で認定されており、また、前件訴訟控訴審判決においても同様の認定がなされて判決が確定したことから、少なくとも相当性が認められ、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものとはいえないとした。

  6.  イ 本件ツイート2について
     第一審判決は、以下述べるとおり、本件ツイート2によりXの社会的評価が低下し、公正な論評の法理の抗弁が成立しないことから、不法行為となり、かつ、社会通念上許される限度を超える侮辱として名誉感情侵害の不法行為も成立するとした。
     一般読者は、本件ツイート2について、XがAに対して合意なく性行為を行っておきながら、1億円を超える損害賠償を求める訴訟(反訴)を提起するといったXの行為等が、強い非難に値するものであるとの意見を表明したものと理解するといえ、Xが、Aに対し、批判等を封じ込めるために威圧的又は嫌がらせ目的で訴訟(反訴)を提起したとの印象を与えるから、Xの社会的評価を低下させるものというべきであるとした。
     その上で、確かに、公共性及び公益性は認められ、また前提事実たる前件訴訟における反訴の提起等は真実であるとした。しかし、本件ツイート2においては、内容として「クソ野郎」という表現が用いられているところ、かかる表現は、その直前の「とことんまで人を暴力で屈服させようという思い上がった」という表現とあいまって、Xに対する攻撃的かつ激しい侮辱であって、相当なものであったとはいい難いとした。そして、XのAに対する態度が強い非難に値するといった趣旨で投稿されたものではあるものの、Yがツイッター上でXを非難する場合において、「クソ野郎」といった攻撃的な表現を用いなければ同ツイートの趣旨が一般の利用者に伝わりにくいものであったとはいえないとした。以上のことからすると、本件ツイート2は全体として、Xに対する人身攻撃に及んでいるものであるということができるから、意見ないし論評の域を逸脱したものといえるとした。そこで、違法性等は阻却されないことから、名誉毀損の不法行為が成立するとした。
     また、社会通念上許される限度を超える侮辱として名誉感情侵害の不法行為が成立するとした。

  7.  (2)控訴審判決
  8.  ア 本件ツイート1について
  9.    控訴審判決も、以下述べるとおり、本件ツイート1によりXの社会的評価は低下するものの、公正な論評の法理の抗弁が成立し、不法行為にはならないとした。
     「Aさんに対して計画的な強姦をおこなった。」との本件ツイート1は、Xの行為がAに対して計画的な強姦を行ったと評価されるべきものであるという、Yの意見ないし論評を表明したものとみるのが相当とした上で、Xの社会的評価を低下させるものとした。
     もっとも、AとX間の紛争が社会的注目を集めていた事に加え、性的加害行為及びテレビ局の重役という地位に乗じた加害行為を批判する目的があるとして公共性・公益性を肯定した。
     その上で、XはAに対してその意に反する性行為を行ったものであり、しかも、Xは突発的にかかる行為に及んだものではなく、酩酊したAと共にタクシーに乗車した上、タクシー内でAが帰る意思を示していたにもかかわらず、その意に反してタクシーでホテルまで行き、ホテルの居室内に連れて行ったのであって、これらの各行為を踏まえた上で最終的に意識のないAに対して性行為に及んだことにつき、これを「計画的」な「強姦」と評価することが不合理であるとはいえないとして、意見ないし論評の前提としている事実につき、その重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があったものというべきであるとした。その上で、少なくとも相当性の抗弁が成立し(Ⅲ・1(3)イ参照)、故意・過失が否定され、不法行為とならないとした。

  10.  イ 本件ツイート2について
     控訴審判決は、以下述べるとおり、本件ツイート2によりXの社会的評価は低下するものの、公正な論評の法理の抗弁が成立し、不法行為にはならず、社会通念上許される限度を超える侮辱でもないのでこの点でも不法行為は成立しないとした。
     本件ツイート2のうち「1億円超のスラップ訴訟をAさんに仕掛けた、とことんまで人を暴力で屈服させようという思い上がったクソ野郎。」との記載部分については、前件訴訟におけるXの反訴がいわゆるスラップ訴訟(批判的な言論等を抑圧する目的や脅迫・恫喝目的で高額な賠償額を求めて訴えを提起すること)に該当し、そのような訴訟を提起したXはとことんまで人を暴力で屈服させようという思い上がった人物であって、クソ野郎と評価されるべきであるとの意見ないし論評を表明したものとみるのが相当とした。そしてかかる内容は、Xの社会的評価を低下させるものとした。
     その上で、AとXの紛争は社会的注目を集めており、性被害を訴えたAに対し1億3000万円もの請求額の反訴を提起したことは、司法制度の利用の在り方という観点からも、公共的な議論の対象となり得るものであるとして公共性を認めた。また、Yは、テレビ局の重役であったXが、Aに性的加害行為をした上、スラップ訴訟を提起し、もって司法制度の濫用に当たる行為をしたことを批判する目的に出たものとして、公益性も肯定した。
     そして、前提事実は真実であるところ、前件訴訟におけるXの反訴の提起はAの言論等を抑圧する目的で高額な賠償を求めるものであり、いわゆる「スラップ訴訟」に当たると評価することにつき、合理性がないとはいえないとした。そこで、意見ないし論評の前提としている事実につき、重要な部分について真実であることの証明があったものというべきとした。そして、前件訴訟控訴審判決ではXの反訴請求が一部認容されている(Ⅱ・1参照)というXの反論につき、「スラップ訴訟」という表現については、否定的・非難的な意味合いが含まれていると解されるものの、Xによる前件訴訟における反訴の提起が「スラップ訴訟」に当たると評価すること自体については合理性がないとはいえないし、この「スラップ訴訟」という表現そのものが人身攻撃に及ぶなど、意見ないし論評としての域を逸脱したものとはいえないとした。
     また、「とことんまで人を暴力で屈服させようという思い上がった」との表現についても、前件訴訟一審判決は、Xが意識のないAに対してAの同意がないまま性行為をしたものと認定している上、AがXから性被害を受けた旨を公表し、また前件訴訟における本訴を提起すると、Xは、今度は請求額が1億円を超える前件訴訟における反訴を提起したものであって、このようなXに対し、性的暴力に加え、更にスラップ訴訟という暴力を加えていることを非難する趣旨で「とことんまで人を暴力で屈服させようという思い上がった」人物であると評価して表現すること自体、意見ないし論評の域を逸脱しているとまではいえないとした。
     そして、「クソ野郎」につき、確かに「クソ野郎」という表現は、いささか品性に欠けるきらいがあるものの、これが果たして「他人に対する最大限の侮蔑表現」であるのかについては、疑問を差し挟まざるを得ないとした。この点につき、Xは、「クソ」というのは糞、すなわち人糞を意味する言葉であり、これが「野郎」という他人を侮蔑する言葉と合体すると、最大限の侮蔑表現となるとも主張していた。しかし、一般に、「クソ」という言葉が直ちに人糞を意味するとは解されず、むしろ、他の語に付けて使用される場合には、「クソじじい」、「クソまじめ」、「クソ忙しい」などとして、ののしりや強調の意味で用いられているのであって、Xの上記主張はその前提を欠き、「クソ野郎」という表現は、他人に対する否定的・批判的意味合いを含む用語とはいえるものの、他人に対する最大限の侮蔑表現であるとまではいえないし、少なくとも、この表現を用いたからといって、直ちにその表現行為が主題から離れた人身攻撃となり、意見ないし論評の域を逸脱したことになるものと断ずることはできないとした。その上で、上記で認定されたXの行動に対し、「とことんまで人を暴力で屈服させようという思い上がった」という「クソ野郎」との意見ないし論評を表現することは、政治家(当時は政治家を目指して政治活動をしていた者)であるYの表現行為としてふさわしいか否かは措くとしても、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものであるとまではいえないとした。Xは、Yのツイートにおいて、「クソ野郎」という侮蔑表現を使わなければ批判することができないわけではなかったとも主張していた。しかし、本来、意見ないし論評をするに当たってどのような表現を用いるのかは表現者の自由であり、ただそれが意見ないし論評の域を逸脱する場合にのみ許されないのであって、他の表現も可能であるというだけで意見ないし論評の域を逸脱するということにはならないとした。以上より真実性の抗弁が成立する(Ⅲ・1(3)イ参照)から、Yがこれを投稿したことによる名誉毀損行為については違法性を欠くとした。なお、「クソ野郎」を含む表現については公共性及び公益目的が認められ、その前提となる事実について真実であることの証明があり、かつ、意見ないし論評としての域を逸脱したとはいえないことにも照らすと、「クソ野郎」との表現が社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たるとまではいえず、名誉感情侵害にも該当しないとした。

    Ⅲ 評釈
  1. 1 名誉毀損について
  2. (1)はじめに
  3.    名誉毀損による不法行為については、社会的評価が低下した場合にはじめて問題となるものの、仮に社会的評価が低下したとしても抗弁が成立すれば不法行為とならない。事実摘示による名誉毀損については真実性の抗弁(公共性・公益性・真実性)及び相当性の抗弁(公共性・公益性・相当性)が、意見・論評による名誉毀損については公正な論評の法理(前提事実の公共性・公益性・真実性又は相当性及び論評の域を逸脱していないこと)が抗弁となる。
     基本的には、「論評の域」は広い。そこで、特定の意見・論評による社会的評価低下行為について、公共性・公益性及び前提事実の真実性・相当性が認められれば、論評の域を逸脱すると判断される上ではかなりハードルが高い。その意味で本件ツイート2の「クソ野郎」が他の表現とあいまって論評の域を逸脱するかは興味深い問題である。

  4. (2)控訴審判決の判断が(第一審判決と異なり)妥当であるといえる点について
  5.    第一審判決は、「クソ野郎」という表現について、「クソ野郎」といった攻撃的な表現を用いなければ同ツイートの趣旨が一般の利用者に伝わりにくいものであったとはいえないとして、いわば別の(より侮辱的ではない)代替的表現で同じ目的が達成できるのであれば論評の域を超えるとも読める判示をしていた。これに対し、控訴審判決は、「本来、意見ないし論評をするに当たってどのような表現を用いるのかは表現者の自由であり、ただそれが意見ないし論評の域を逸脱する場合にのみ許されないのであって、他の表現も可能であるというだけで意見ないし論評の域を逸脱するということにはならない」としている。確かに、意見や論評の中には、首を傾げざるを得ないようなものや合理性が欠けるものもあるが、表現の自由の保護の観点からは、的外れな論評もその前提事実とは別にそれ自体として不法行為を構成することはないものと解されている※7。そこで、表現の選択においていわばLRAの基準のように、より侮辱的ではない他の表現が可能であれば論評の域を逸脱したという第一審判決のような判断を否定した控訴審判決の判断は妥当であると考えられる。
     なお、本件ツイート1につき第一審判決が相当性を違法性の問題とした点を控訴審判決は訂正して故意・過失の問題としているところ、控訴審判決が妥当であろう※8

  6. (3)控訴審判決について検討を要する点について
  7.   ア 合理性について
  8.    控訴審判決は、本件ツイート1につき「計画的」な「強姦」と評価することが不合理であるとはいえないとして、意見ないし論評の前提としている事実につき、その重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があったものというべきであるとしている。また、本件ツイート2につき、前件訴訟におけるXの反訴の提起はAの言論等を抑圧する目的で高額な賠償を求めるものであり、いわゆる「スラップ訴訟」に当たると評価することにつき、合理性がないとはいえないとした。
     このような議論は、控訴審判決が、意見・論評が公正な論評の法理によって保護される上で、前提事実から当該意見・論評に至ることが合理的であることを求めているように思われる。しかし、上記(2)のとおり、合理性が欠ける意見・論評であっても(論評の域を超えない限り)公正な論評の法理により保護されるのである。その意味では、疑問がないとはいえない。
     但し、Xが問題視する文言が、そもそも人身攻撃等の過激なものでなければ、それだけで、「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したもの」でないと判断されるものの、その文言が過激である場合であっても、個別の文言だけを取り出して判断するのではなく、論旨との関係において判断されるべきであり、そのような論旨に照らした判断の結果、なお「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したもの」でないと判断されることもある※9。そして、控訴審判決は、本件各ツイートの文言、とりわけ「クソ野郎」という本件ツイート2の文言に一定の過激性はあるものの、まさに論旨との関係で公正な論評の法理により保護されるとしたところ、その趣旨が控訴審判決の用いた「合理性」という文言に含まれていると理解することは全く不可能とはいえないだろう※10

  9.   イ その他
  10.    なお、控訴審判決の本件ツイート1につき相当性の抗弁が成立する、本件ツイート2につき真実性の抗弁が成立するという記載は公正な論評の誤記と思われる。

  11. 2 名誉感情侵害について
  12. (1)はじめに
  13.    名誉感情を侵害する行為は不法行為になり得るが、単に名誉感情が侵害されるというだけで違法なのではなく、社会通念上許される限度を超える場合、典型的には社会通念上許される限度を超える侮辱行為の場合に名誉感情侵害が不法行為となる。
     そして、名誉毀損の要件と名誉感情侵害の要件は異なる以上、同じ行為が一方のみに該当する場合、双方に該当する場合、そしていずれにも該当しない場合があり得る。

  14. (2)これまで「クソ」が社会通念上許される限度を超える名誉感情侵害とされたことが多いこと
     これまで「クソ」を含む投稿が社会通念上許される限度を超える名誉感情侵害であるとされたことは多い。
     東京地判平成28年6月7日※11は、「糞男」等について対象者を侮辱するものであり、対象者の名誉感情を害するものというべきであるとした。
     東京地判平成29年1月16日※12は、インターネット上の掲示板において、他の表現者により「くそ」等の侮辱的投稿が既になされていたところ、ある表現者がほぼ同内容の「クソ」などとする投稿を行ったことから、投稿されるに至るまでの経緯に照らして社会生活上許される限度を超えた侮辱行為が行われたと認めた。
     大阪高判平成30年6月28日※13は、ブログ記事等における「本当に狂ってるなこのクソアマ」を含む表現が社会通念上許される限度を超えた侮辱に該当するとした。

  15. (3)控訴審判決について
  16.    控訴審判決は、本件ツイート2には「クソ野郎」との記載があるものの、本件ツイート2を含む表現については公共性及び公益目的が認められ、その前提となる事実について真実であることの証明があり、かつ、意見ないし論評としての域を逸脱したとはいえないことにも照らすと、「クソ野郎」との表現が社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たるとまではいえず、名誉感情侵害にも該当しないとした。
     この点について、例えば、東京地判平成29年1月20日※14は、大学の学生である対象者がストーカー行為をしたのではないかという疑惑があり、大学の専攻長である表現者が調査の一環として対象者の兄を宛先、同僚の教授をCCとして「院生に対するストーカー的行為(このような言葉を使うのをお許し下さい)がエスカレートしています。以前お会いしたときにも院生が警察に訴える可能性についてお話ししたと思いますが、実際にそうなるのではないかと思います。私たち教員側としても新しい対応をとらざるを得ない状況です。できればもう一度お会いして、現在の状況についてご報告し、ご相談したいと思います。」と記載したメールを送付した事案である。このメールによって、対象者の名誉感情が害されたとしても、大学院に所属する学生間の問題を調査、解決するために必要性・相当性を有する行為であって、これを対象者に対する違法な行為であるということはできないとした。このように、正当な行為であるという議論をする先例も存在していた。
     これを、社会通念上許される限度を超える侮辱だが、違法性が阻却されるとするのか、それとも、そもそも名誉毀損に関して抗弁が成立するから社会通念上許される限度を超える侮辱にならないとするのか、という点は更に議論すべきである※15が、控訴審判決が名誉毀損に関して抗弁が成立するから社会通念上許される限度を超える侮辱行為に該当しないとしたことは、名誉毀損不法行為と侮辱不法行為の関係に関して一定の示唆を与えるものといえるだろう。


(掲載日 2024年6月18日)

  • 東京高判令和6年3月13日WestlawJapan文献番号2024WLJPCA03136001
  • 桃尾・松尾・難波法律事務所(https://www.mmn-law.gr.jp/lawyers/600050.html
  • 現在Xであるが、上記のとおり対象者をXというので、それとの対比の意味も含め、あえてツイッターと表示する。
  • 東京地判令和5年7月18日WestlawJapan文献番号2023WLJPCA07186011
  • 東京地判令和元年12月18日WestlawJapan文献番号2019WLJPCA12186001
  • 東京高判令和4年1月25日WestlawJapan文献番号2022WLJPCA01256007
  • 松尾剛行・山田悠一郎著『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務〔第2版〕(勁草法律実務シリーズ)』(勁草書房、2019年)303頁。
  • あえていえば、第一審判決は、公正な論評の法理は、前提事実に真実相当性があれば違法性を阻却するものと理解したのだろうが、控訴審判決はそうではなく、公正な論評の法理も相当性がある場合は故意・過失を否定するものと理解している。
  • 前掲注7・313頁。
  • なお、評価が合理的だからこそ、意見ないし論評の前提としている事実につき、その重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があった、という理屈はなかなか考えつかないと思われる。すなわち、相当性があるかは、あくまでも表現者がどのような資料を参照していたか、例えばYが参照した前件訴訟第一審判決やその報道の内容は何かによって判断されるべきであって、意見・論評が合理的かどうかにより判断されるものではないだろう。
  • 東京地判平成28年6月7日WestlawJapan文献番号2016WLJPCA06078010
  • 東京地判平成29年1月16日WestlawJapan文献番号2017WLJPCA01168014
  • 大阪高判平成30年6月28日WestlawJapan文献番号2018WLJPCA06286003
  • 東京地判平成29年1月20日WestlawJapan文献番号2017WLJPCA01208020
  • 東京地判平成29年1月20日(前掲注14)のいう「これを原告(注:対象者)に対する違法な行為であるということはできない」が違法性阻却をいうのか、それとも違法性がないというのかについては双方の読み方が可能なように思われる。


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