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文献番号 2023WLJCC025
京都女子大学 教授
岡田 愛
Ⅰ はじめに
本件は、大阪の適格消費者団体Xが、大規模テーマパークであるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下「USJ」という。)を運営するY社に対して、①Y社が消費者との間でインターネットを経由してチケットの購入契約を締結する際に適用される利用規約(WEBチケットストア利用規約)中にある、一定の場合を除き購入後のチケットの解除ができない旨の条項(以下「本件条項1」という。)、および、②チケットの転売を禁止する旨の条項(以下「本件条項2」という。)が、消費者契約法(以下「法」という。)10条等に該当すると主張し、法12条3項に基づき、本件各条項を内容とする意思表示の停止等を求めた事案である。
Xは、上記の利用規約によれば、消費者側が何らかの事情により来園できなくなった場合に、チケットの購入契約を解除してチケット代金の払戻しを受けることができず、また、転売をすることもできないことになるため、そのチケット代金をそのまま損害として甘受せざるを得ない点を指摘して条項の有効性を争った。これに対し、大阪地裁は、Xが指摘した消費者側の不利益の存在は認めつつも、Xの主張をすべて退けて各条項を有効と判断した。
確かに、Y社はチケットの高額転売防止の趣旨でこれらの条項を定めており、その目的には相応の理由が認められる。また、入場券に相当するスタジオ・パスについては日付変更を可能とするなど一定の配慮をしている。そうすると、予定変更・体調不良等の消費者側の自己都合により来園できないような場合までY社側が対応する必要性はなく、それらは消費者側が引き受けるべきリスクであるようにも思える。
しかし、Xが主張する通り、消費者が購入したチケットにつき、その解除も転売も認められなければ、指定日に来園できなくなった消費者はチケット代金という投下資本を回収する手段を失うことになる。このように、消費者の解除を制限し転売を認めない2つの条項は、規制目的から考えて消費者の権利を過度に制限する内容であり、法的に問題があると考えられる。
また、Y社が自己の契約相手として想定しているのは老若男女を問わない非常に幅広い層であり、来場者も年間1000万人を超える規模である。そのような規模で、かつ幅広い顧客層をターゲットにしている以上、これら消費者が体調を崩すなど何らかの都合で計画変更を必要とする事態が一定割合発生することはY社も十分予測できるのであって、規模や交渉力に勝る役務提供者側である事業者のY社が、あらかじめ想定しておくべきとも考えられる(たとえば、ホテルの宿泊契約ではキャンセルに関する条項が設けられているのが常態である。)。また、スタジオ・パスと、優先乗車等の特典の付いているユニバーサル・エクスプレス・パス(以下「エクスプレス・パス」という。)は、完全に別商品として販売されており、一定の範囲で前者のチケットの指定日の変更が可能であるからといって、別商品であるエクスプレス・パスの契約と一体としてその合理性を判断することは妥当とはいえない。エクスプレス・パスは、時期や種類によっては1人5万円近くになる高額なものもあり、このようなチケット購入契約において、消費者は一旦購入したらその後は解除して払戻しを受けることも、また適正な価格による転売も禁じられるという内容の規約は、高額転売防止という規制目的から考えて、過度に消費者の権利を制限していると考える。
以下、紙幅の関係上、消費者側の任意解除権を制限している本件条項1の法10条該当性に関する双方の主張と判旨を中心に紹介し、私見を述べる。
【判決要旨】請求棄却
1 本件条項1が法10条前段要件を充足するかについて
大阪地裁は、チケット購入契約の法的性質について、「Y社から提供を受けるサービスの内容等に鑑みると、チケット購入契約は、民法に規定のない無名契約である」としたうえで、「チケット購入契約の内容等に照らすと、チケット購入契約においては、Y社が、当該入場日等に入場等についての対応が可能なチケット数を設定し、当該チケットを顧客に販売して、これに対して顧客が対価として定められた代金を支払うという点においては、売買契約に類似する側面を有するものといえる一方、チケット代金の対価の対象としては、・・・Y社の運営する非日常的な空間として創られたUSJに入場させ、アトラクション等を稼働して利用させるなどするものであることから、多分に役務提供契約としての側面を有するものということができる。」と述べ、その法的性質は、役務提供を中心とする無名契約であると解釈した。
そのうえで、チケット購入契約の任意解除権の有無について、「Y社が提供する役務は、・・・当該顧客のみならず不特定多数の顧客にも同時にY社が予め定めた役務を提供するもので、個々のチケット購入契約の購入者と当該役務の内容との関連性は希薄である上、上記購入者からY社に対する何らかの特定の事実行為の委託等の要素は見出すことができず、このような点に照らすと、チケット購入契約においてY社が一定の役務を提供するという側面があったとしても、この点をもって準委任契約ないしこれに準ずるものと捉えるのは困難である」こと、また、準委任契約ないし委任契約において準委任契約ないし委任契約が当事者間の人的信頼関係が破壊された場合の契約関係維持の困難性を根拠に任意解除権(民法656条、651条1項)が認められると解されるところ、チケット購入契約には、「人的信頼関係に基づく契約関係の締結及びその履行という側面を認めることはできない」ため、準委任契約に基づく任意解除権は認められないと解釈した。また、Xが主張した、一般的な慣習等よりも消費者の権利を制約するという点についても、他のテーマパークと比較してもそのような契約慣行等が存在しているとは認められないとして、法10条前段該当性を否定した。
2 法10条後段該当性について
大阪地裁は、転売目的の購入を防ぐという本件条項1の趣旨および目的は合理性があるとしたうえで、①消費者も正規価格でチケットを入手できるという利益を得ていると評価でき、Y社のみを一方的に利するものではないこと、②現在も転売行為がなされており、本件条項1の必要性があることを指摘しつつ、Xが主張した、解除時期に応じたキャンセル料の取得や高額転売のみの禁止によってもチケット価格の高額化の防止という本件条項1の目的は達成できる旨の主張については、「法1条及び10条等の趣旨目的に照らしてもみても、事業者において、消費者との間で消費者契約を締結するにあたっては、常に、消費者に生じ得る不利益が少ない、より制限的でないその他の手段や方法を講じることが求められているとまで解することはできない」ことに加えて、一定の対策を講じても転売防止は容易ではないことを理由にこれを認めなかった。
なお、エクスプレス・パスやその他チケットについて日付変更をすることができない点について、「これらのチケットの販売数はスタジオ・パスよりも少なく・・・、特にチケットの転売を目的とする者の標的となりやすいと考えられることのほか、日付変更についても、当初予定された入場日以外の日にも当該エクスプレス・パス等の対象となるアトラクションないしイベント等が実施されているのかという問題もあり、日付変更が認められないエクスプレス・パス等について、日付変更が認められないことをもって、不合理な制約であるということはできない。」とし、「チケット価格の高額化を防ぐという本件条項1の趣旨及び目的は合理的なものであり、現時点においてもこれを維持する必要性は否定されないこと、本件条項1により顧客である消費者には本件条項2とも相まって一定の不利益が及ぶものではあるが、同時に顧客に利益となる側面も有するものであること、顧客による誤購入がないよう一定の配慮がされ、本件各条項の内容も複数回にわたって表示されるなど顧客もその内容を十分に認識して契約しているといえること、一部のチケットでは顧客の予定変更等に伴う日程の変更にも応じられていることなど上記で説示した各事情に照らせば、本件条項1は、消費者である本件チケットの購入者と事業者であるY社との間の情報や交渉力等についての一般的な格差を考慮しても、信義則に反する程度に当事者間の衡平を害するものということはできず、したがって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものということはできない。」と述べ、法10条前段、後段、いずれにも該当しないと判示した。
3 本件条項2の法10条該当性について
Xが、本件条項2は、原則自由とされている債権譲渡を制限すると主張したのに対し、大阪地裁は、「チケットの購入者には、手荷物検査、分煙、撮影、危険物等の物品の持込み禁止等のUSJの園内における各種制約等も遵守することが求められ、仮にチケットの転売が許容されたとしても、チケットを譲り受けた者は、チケットの購入者が遵守を求められていたこのような制約等も承継して遵守することが求められると解されるのであり、このような側面をみると、チケットの転売には、債権譲渡に還元できない要素があり、Y社とチケット購入者との間の複合的な権利義務関係としての法的地位の移転を伴うものとして、契約上の地位の移転とみるべきである。」として、チケット転売を契約上の地位の移転と解した。
また、Xが、仮にチケットの転売を契約上の地位の移転と捉えたとしても、当該契約の相手方は誰でも構わない状態債務のようなものであるとして、相手方であるY社の承諾は不要である旨の主張をしていた点についても、「契約上の地位を移転するためにはその契約の相手方の承諾が必要とされているところ(民法539条の2)、本件チケットの転売を自由に認めると、・・・チケット価格が高額化するなどの弊害が生じるおそれがあり、誰がどのような目的で転売をし、転売を受けるのかについてはY社も合理的な利害ないし関心を有しているということができることからすれば、本件チケットの転売である契約上の地位の移転について、上記規定と異なる解釈を採るべき理由はな」いとし、また本件条項1の解釈と同じく、複数回消費者に注意を呼び掛けていること、常により制限的な手段をとることが求められているわけではないこと等を理由に、本件条項2が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものということもできないと述べて、法10条後段にも該当しないとした。
Ⅲ 検討
本件は、チケット購入契約につき、一定の場合を除き解除を認めないとする条項、および転売を禁止する条項が法10条に該当するかを判断した初めての事案である。私見は、判旨と異なり、消費者側の任意解除権を制限する本件条項1は、本件条項2と相まって法10条に該当すると考える。以下、順に法10条該当性を検討する。
1 任意解除権の有無について
大阪地裁は、チケット購入契約は民法上規定のない無名契約としたうえで、個々のチケット購入契約の購入者と当該役務の内容との関連性は希薄であることや人的信頼関係の不存在等を理由に、準委任契約またはそれに準ずるものとすることは困難であるほか、任意解除権を認める基礎となる当事者間の信頼関係もなく、さらに、他の大規模テーマパークにおいてもキャンセルが認められておらず一般的な慣習や沿革を含む一般的な取り扱いもないとして、法10条前段の任意規定としての任意解除権は認められないとした。
この点、チケット購入契約が無名契約であることは妥当であるとして、当該契約には任意解除権が認められないのか。従来、無名契約については、典型契約の中で一番性質の近いものに準じるという解釈がとられてきており、本件チケット購入契約についても、事実行為を委任する準委任契約に基づく任意解除権(民法656条、651条)に基づき、消費者側に任意解除権があるとXは主張した。しかし大阪地裁は、上述の通り、消費者側の任意解除権は認められないとした。
確かに、Y社とパークを訪れる消費者側との間に信頼関係等はなく、委任に準じると考えることは難しい。他方で、2020年債権法改正の議論の際には、典型契約に該当しない役務提供を内容とする無名契約が増加している現状を踏まえて、役務提供契約改正の提案がなされていた。すなわち、役務提供契約のうち、雇用・請負・委任・寄託に該当しない契約の多くが現在準委任として処理されているが、そうすると受任者からの解除を認めることになり適当とはいえないものも含まれること、また、準委任契約に該当するといえない無名契約については適用される任意規定がないため、当事者間の契約解釈に全て委ねられることになるという点が指摘され、改正の議論において、典型契約以外の役務提供に関する一般規定を設けることが提案されていた※2。また、従来受け皿規定として適用してきた準委任契約の任意解除の条文を修正する案も検討されたが、非常に多様な役務提供契約に対応できる規定を設けることは困難であるとして、結果としては一般規定を設けることも、また準委任契約の改正も見送られるに至った。このような経緯を踏まえると、受け皿規定として適用されてきた準委任契約に準じることができない無名契約については、当事者間の契約解釈のみに委ねられてしまうという、改正の際に指摘されていた問題点を意識したうえで、当該契約を解釈する必要があると考えられる。すなわち、本件チケット購入契約を解釈するに際し、チケット購入契約の内容から消費者である役務受領者の任意解除権の有無を判断すべきといえる。
また、準委任契約の任意解除権を根拠とせずに、無名契約の契約内容から任意解除権があるとの解釈を示した最高裁の事案がある。すなわち学納金返還訴訟※3において、最高裁は、在学契約を準委任契約によらない無名契約としたうえで、「当該学生の意思が最大限尊重されるべきであるから、学生は、原則として、いつでも任意に在学契約等を将来に向かって解除することができる」とし、入学予定者側からの一方的な在学契約の解除を認めている。
この学納金返還訴訟の先例を踏まえると、本件チケット購入契約が準委任契約に該当しない無名契約であるとして、消費者側からの任意解除が認められるか否かは、前述の通り契約内容から検討すべきであるといえる。そして、本件チケット購入契約は役務提供を内容としているので、その点に鑑みると、役務受領者側で役務提供が契約後に不要となった場合には、役務受領者は役務提供者に対して一定の賠償をしたうえで契約を解除できると解するのが合理的である。債権法改正の議論の際にも、役務受領者にとってその役務が不要となった後も役務提供者に役務の提供を継続させるのは社会経済的に非効率である旨の指摘がなされており、また、民法上の典型契約はいずれも、役務の受領者側が希望していた役務が不要または受領不可能となり、契約を継続する意味がなくなった際の処理方法について各契約の内容に従い定めている。判旨では、準委任契約に該当しないとして任意解除権を否定したが、上記最高裁で示されている通り、準委任契約に基づかない無名契約でも、役務提供の内容から任意解除は認められると解する。
これを具体的に見ると、本件チケット購入契約は、判旨で述べられている通り、テーマパーク内で提供されるパレードやアトラクションを中心としたさまざまな役務(サービス)の提供を内容とする無名契約である。また、今回問題となっているチケットは日付指定があり、役務の内容上、指定日以外の他の日時への振替えが困難である一方で、予定されていた指定日には当該役務受領者以外にも他に多数の役務受領者が同日に存在し役務提供を受けることが前提となっているという特徴がある。そして、本件チケット購入契約の目的は、パーク内での様々なサービスを受けて楽しむことであり、当該役務受領者にとっては、日付変更ができない以上、指定日に来園できない(しない)ことが明らかになった時点で契約を維持する意味は失われる。他方で、そもそもY社は一部の役務受領者が解除したとしても他の多数のチケット購入者のために役務を提供するのであり、一部の役務受領者による解除に起因し、役務提供の準備が無駄になる等の損害がY社側に具体的に発生する訳ではない。確かに、契約解除による払戻分や払戻しのための運営費が損害として発生すると考えられるが、損害額をどのように解するかは格別※4 、損害分を支払ってもらえば役務提供者側はそれで足りるはずである。更に、前述の通り、不特定多数の消費者を相手方としてチケットを販売する以上、これら消費者のうち一定割合について何らかの都合で計画変更を必要とする事態が発生することはY社にも十分予測可能であり、一部購入者からの解除は、規模や交渉力に勝る役務提供者側の事業者であるY社が予めこれを想定し対応できる事柄である。以上より、消費者である役務提供受領者からの任意解除権は、チケット購入契約の内容から認められると考える。
2 法10条該当性について
上述の通り、チケット購入契約の解釈上、消費者に任意解除権が認められると解した場合、本件条項1はその解除権を制限しているため、法10条に該当するか問題となる。
まず、法10条前段該当性について、「法令中の公の秩序に関しない規定」には、一般的な法理も含まれると解されている※5。本件チケット購入契約は無名契約であり明文規定がないため、その解除権について一般的な法理が認められるかが問題となるが、上述の通り、本件契約の趣旨から、消費者は任意解除権を有すると解する。そして、本来自由に行使できるはずの任意解除権を制限する本件条項1は、任意規定の適用に比して消費者の権利を制限するものといえ、法10条前段に該当すると考える。
次に、法10条後段該当性について、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するといえるか検討する。本件条項1は、本件条項2と相まって、消費者は一旦チケットを購入すると、その後払戻しも転売もできずその分の損害を被ることになる点が問題である。この消費者側の不利益について大阪地裁も認めたものの、購入者による解除および転売を認めると、転売目的で買い占めた者が売れ残ったチケット分を解除し、払戻しを求める事態が予想され、ひいては一般消費者が高額な転売チケットを購入することになるが、これを防ぐという本件条項の目的は合理的であると同時に、消費者は正規の料金でチケットを入手できることになるから、顧客とY社双方が不利益を免れているとして、法10条後段には該当しないと判断した。
この点Xも、本件条項1、2の目的に相応の理由があることは認めており、そこに争いはない。問題は、消費者が一旦チケット購入契約を締結したら、その代金分は一切回収できなくなるという点である。判旨では、非正規の高額な転売チケットを買わずに済むということを理由に、消費者に一方的な不利益があるとはいえないと述べているが、本件条項1により消費者は解除権を行使できなくなること、また本件条項2で転売も禁止しているため、両条項の適用により、消費者は一切回収の手段が奪われてしまうという結果を検討すべきである。確かに、他の類似施設においても任意解除を認めないとする特約があり、これら施設のチケット購入契約において解除権が制限されているのはその通りである。他方で、チケット購入契約はテーマパークに限るものではなく、コンサートや観劇等も該当すると考えた場合、チケットぴあ、ローチケ(ローソンが発券しているチケット)、チケトレ(音楽事業団体)等でチケットのリセールのシステムが構築されており、一定の条件下での転売は認められている。チケット購入契約の多くは解除できない旨の特約が付いている一方、上記のようにリセールシステムが整っており、これら転売可能なチケット購入契約は、解除が制限されたとしても転売することで消費者はチケット代金を回収できる可能性がある。したがって、解除はできないとする条項を定めていたとしても、譲渡を認めている場合は「消費者の利益を一方的に害する」とまではいえないと考えるが、本件チケット購入契約のように、転売も制限する条項とセットになっている本件条項1は、消費者の利益を一方的に害する内容であり、法10条後段該当性が認められると考える。
3 チケット購入者の購入時の認識について
大阪地裁は、顧客の認識等について、「Y社のWEBチケットストアにおいては、トップページから最終的なチケットの購入に至るまでの各画面において、複数回にわたって本件各条項の内容が繰り返し表示されているほか、これらの内容を確認するよう顧客に求めていることが認められ・・・、このような表示、確認の作業を経ることで、顧客においても、本件各条項の内容について十分な認識を持ったうえで、チケット購入契約を締結しているということができ、顧客とY社との間に本件各条項についての理解の差があるとは認められない。」と認定している。
しかし、裁判所も指摘する通り、エクスプレス・パス等の解除不可のチケットは、販売量が少なく、希少性が認められるため、消費者は焦る気持ちもある中での購入になると思われる。消費者としては、チケット購入時は希望するチケットを入手することに意識が集中しており、これらの注意を十分に検討している間に売り切れて購入できなくなる可能性がある以上、将来何らかの事情でUSJに行けなくなる可能性があることはあまり考えずに購入するケースも珍しくないと推察される点に加え、一般の消費者が本件条項1の、一部解除が認められる旨の但書の内容まで含めて正確に理解しているといえるのか疑問である。確かに、本件各条項に関する注意は複数回画面上に表示されるが、本件条項1の但書の具体的説明はなく、消費者からすれば、原則として解除できないという点は認識しつつも、何らかの事情があれば払い戻してもらえるだろうと考える可能性も多分にあると思われ、本件条項2と相まってチケット代金が回収できなくなるリスクを負うということまで認識していると判断することはできないと解する。本件チケットの購入者層の広さおよび購入時の心理的状況を踏まえると、消費者のチケット購入契約の解除権を制限し、転売を禁止することによって購入後の投下資本の回収が認められなくなるという効果が生じる本件各条項について消費者に十分な認識があったとする認定は、Y社の規模と一般消費者との情報・交渉力の格差に鑑みると公平性を欠くといえる。
したがって、本件条項1の解釈について、当事者間で本件各条項について理解の差がないことを前提として、本件チケット購入契約において消費者側に任意解除権はないとする判断には、妥当性がないと考える。
Ⅳ おわりに
本件チケット購入契約は、無名契約であるが、私見は、チケット購入契約の内容から消費者側である役務受領者からの任意解除は認められると考える。よって、それを制限する本件条項1は法10条前段に該当し、また転売を禁止する本件条項2と相まって、チケット購入者である消費者の利益を信義則に反して一方的に害するといえ、法10条後段にも該当すると考える。
大阪地裁は、本件条項1、2が適用されることにより、消費者に一定の不利益が及ぶことを認めつつも、①顧客に利益となる側面も有すること、②本件各条項の内容が複数回表示されるなど顧客もその内容を十分に認識して契約していること、③一部チケットは日程変更が可能であること、を理由に、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとはいえないとした。しかし、①について、正規の料金でチケット購入ができることは当然のあるべき状態なのであり、その状態を維持する役割を負うのは企業側であると考える。正規料金でチケットを購入できる可能性があることを理由に、法10条後段の消費者の利益を一方的に制限しているといえないとする点は疑問である。また②については、上述の通り、非常に幅広い層がチケット購入することや、購入時の状況に鑑みれば、複数回条項を表示していることを理由に、消費者側が条項の内容を但書も含めて十分に理解し購入していると解することはできず、認識があったことを根拠に消費者の任意解除権を制限することは妥当でないと考える。さらに③については、入場券に相当するスタジオ・パスは日付変更可能であるが、別商品であるエクスプレス・パスは日付変更できないことから、別の商品が日付変更可能であることを理由に、エクスプレス・パスの解除不可、転売禁止を認める根拠にはならないと解する。
以上の通り、本件条項1は、本件条項2と相まって適用される限り、法10条に該当し、法12条3項に基づく差止が認められるべきと考える。
(掲載日 2023年12月4日)