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文献番号 2023WLJCC022
青山学院大学 教授※2
弁護士法人 早稲田大学リーガル・クリニック 弁護士※3
浜辺 陽一郎
1 はじめに
今回は、非上場会社の株価算定をめぐる事例を取り上げる。ある株主らが平成28年に譲渡承認請求を行ってから、今回取り上げる最高裁決定までに7年以上もかかった。争点は、譲渡制限株式の売買価格をどう定めるかの1点だが、その審理が長期化したのは、鑑定に時間を要し、その評価をめぐる議論も厳しく対立したからだろう。
この問題に関する議論や研究は極めて活発で、数式等を用いた精緻な議論も盛んだが、決して数字だけの問題ではない。閉鎖的な会社の株主と会社の関係、株主の投下資本の回収は如何に認められるべきか、その企業経営に及ぼす影響、企業会計、剰余金の配当や役員の報酬のあり方等まで関係する極めて奥深い問題である。有力な会社法学者がこの問題を深く探求しているのも、これが会社法の本質的なテーマに関わっているからなのだ。
2 事案の概要
本事例では、2つの会社の株式の売買価格が争われた。
株式会社M組(以下「M組社」という。)は、昭和31年設立で土木工事業等を目的とし、Mハウジング株式会社(以下「MH社」という。)は、昭和57年設立で土木一式工事等を目的とし、いずれも取締役会設置会社で、その株式の譲渡又は取得には取締役会の承認を要する旨の定款の定めがある(以下、この2社を併せて「両社」という。)。
Y1は、M組社の元代表取締役であった亡Dの妻であり、Y2及びY3はY1の長男と二男である(Y1ないしY3を「Yら」という。)。M組社は発行済株式総数5万株(うち自己株式4350株)で、Yらは合計8584株、議決権割合約18.8%の株式(以下「本件株式1」という。)を有し、MH社は発行済株式総数1万5590株で、Y1及びY2(以下「Y1ら」という。)は合計1664株、議決権割合約10.67%の株式(以下「本件株式2」といい、本件株式1と併せて「本件各株式」という。)を有していた。
YらはM組社に対し、また、Y1らはMH社に対し、それぞれ平成28年2月17日、会社法136条、138条に基づき、本件各株式をS社に譲渡することの承認を求め、両社は、それぞれ会社法139条に基づき、その譲渡を承認しない旨の株主総会決議をし、平成28年3月1日、Yらに対し、その旨を通知し、さらに平成28年4月4日、同法141条に基づき、Yら又はY1らを被供託者として供託した上、Yらに対して本件各株式を両社が買い取る旨を通知した。後日、M組社とMH社が、YらとY1らを相手取って、それぞれ同法144条2項に基づく本件各申立てを行った。
第一審(原々審)で、両社(申立人)は、いずれも税理士法人a公認会計士E作成の株式評価報告書に基づき、類似業種比較法2割、時価純資産法2割、DCF法6割として、1株当たり、本件株式1の評価額を3381円(評価基準日は平成28年9月30日)、本件株式2の評価額を2357円(評価基準日は同年6月30日)とする主張をしたが、広島地裁福山支部は、日本公認会計士協会の企業価値評価ガイドライン(2013年)※4(以下「本評価ガイドライン」という。)に依拠したYら(相手方)の主張を容れ、時価純資産法を採用し、1株当たり純資産額から、本件株式1の評価額を1万0678円とし、本件株式2の評価額を5300円と定めるのが相当であると判断した※5。
これに対して、抗告審(原審)で、M組社は、その株式の売買価格を1株当たり1232円、MH社は、その株式の売買価格を1株当たり1429円と変更するように求めたが、原審の鑑定意見は、時価純資産法で、M組社の清算価値総額を8000万円、1株当たりの価値を1754円、またMH社の清算価値総額を2800万円、1株当たりの価値を1814円と評価し、DCF法に基づいて算定される継続価値を上回らない等と指摘し、本評価ガイドラインによっても時価純資産法を適用すべき場合ではないとした。そこで、原審は、DCF法(将来期待されるフリー・キャッシュ・フロー(以下「FCF」という。)を一定の割引率で割り引くことにより株式の現在価値を算定する方法)によって本件各株式の1株当たりの評価額を算定し、本件株式1を7524円、本件株式2を6448円と評価し(以下、この本件各株式の評価額を「本件各評価額」という。)、本件各評価額から非流動性ディスカウントとして30%の減価を行い、本件株式1の売買価格を1株当たり5266円、本件株式2の売買価格を1株当たり4514円と定める変更決定を下した※6。
これに対して、Yら(抗告人ら)が許可抗告をしたのが、今回の事件である。
3 裁判所の判断
最高裁決定(以下「本決定」という。)は、「会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定の手続は、…当該譲渡に代わる投下資本の回収の手段を保障するために設けられたものである。そうすると、…当該譲渡制限株式に市場性がないことを理由に減価を行うことが相当と認められるときは、当該譲渡制限株式が任意に譲渡される場合と同様に、非流動性ディスカウントを行うことができるものと解される。このことは、上記譲渡制限株式の評価方法としてDCF法が用いられたとしても変わるところがない」とした上で、「評価額の算定過程において当該譲渡制限株式に市場性がないことが既に十分に考慮されている場合には、当該評価額から更に非流動性ディスカウントを行うことは、市場性がないことを理由とする二重の減価を行うこととなるから、相当ではない。しかし、前記事実関係によれば、本件各評価額の算定過程においては、相手方らに類似する上場会社の株式に係る数値が用いられる一方で、本件各株式に市場性がないことが考慮されていることはうかがわれない。したがって、DCF法によって算定された本件各評価額から非流動性ディスカウントを行うことができると解するのが相当である」とし、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができるとして、本件抗告を棄却した。
4 若干の検討
(1)株価算定に関する基本的枠組み
市場価格のない株式の評価について、初期の裁判例では、国税庁の「相続税財産評価に関する基本通達」(昭和39年4月25日直資56直審(資)17)が定める評価基準が大きな影響力を持っていた。しかし、この影響力は薄れ、近時は、実質的な株価の算定をめぐって活発な議論がされるようになり、裁判所における非訟事件でも精緻な検討が行われている。とはいえ、その算定方法には様々な手法があり、どのような場合にどの評価手法を用いるかについては裁判所の「合理的な裁量」に委ねられていると解されている※7。裁判上、株式の評価がされる場合には各種のものがあるので、場合ごとに分けて検討する必要がある※8。
本件は、会社法144条2項の「売買価格の決定の申立て」に基づくもので、裁判所がこの決定をするには「譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない」(同条3項)※9。これに対して、定款変更や組織再編等(以下「組織再編等」という。)における株式買取請求のケースでは、反対株主が「公正な価格」で買い取ることを請求することができるので、「公正な価格」とは何かが問題とされる※10。
いずれも譲渡制限株式の評価として本質的には同じであるとする前提の議論もあるようだが、基本的な状況の差異による異なった規律を想定する必要があろう。即ち、同法144条の売買価格は、基本的に少数派側株主と多数派側株主の間における利害調整が求められる局面であるのに対して、組織再編等の場合は、シナジー効果の有無にかかわらず、会社の基礎的な変更に伴って、株式を手放すことを強いられる局面であることによる違いに基づいて、会社法も異なった規律を設けているものと解される※11。
そして、譲渡制限株式の売買価格については、前提としての企業価値そのものの評価の問題と、当該取引における価格をどう定めるべきかという問題に分けられる。前者の問題は、組織再編等の場合と同じ課題として考えてもよいだろうが、「売買価格」に絞って検討するものも見られる。前者の問題では、様々な企業価値の評価方法のうち、どれを用いるべきか、また、その具体的な算定方法をめぐって細かい議論がある。他方、後者の問題は「公正な価格」の問題ではなく、「売買価格」の問題として、当該取引の状況の「一切の事情」を踏まえて、プレミアムをつけたり、ディスカウントしたりすることをすべきか否か、又はできるか否か等が検討される。ただ、前者の問題と後者の問題は無関係ではなく、前者のあり方が後者の問題に影響を及ぼす点にも留意する必要があろう。以上の観点から、前提としての企業価値の評価の問題と、「売買価格」の算定についての問題を分けて検討してみたい。
(2)企業価値ないし株式自体の評価方法
譲渡制限株式の評価については、複数の方法を相当の割合で組み合わせて加重平均する併用方式も目立つが、そうした併用に対しては、信頼に値しない数値を併合したら、信頼できる数値が算出されるわけではないとの批判もある※12。
本件では、地裁も高裁も、譲渡制限株式の評価方法を整理して、株式評価の前提となる事業価値及び非事業資産の価値を含む企業全体の価値を評価するアプローチを検討している。その方法は、①ネットアセットアプローチ(純資産方式。コストアプローチとも呼ばれる)、②インカムアプローチ(DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)、収益還元法、配当還元法等)、③マーケットアプローチ(比準方式)の3つに大別され、いずれの方法にも、長所と短所がある。原々審は、上記②や③の難点を指摘して、採用できないと結論付けた上で、本評価ガイドラインを根拠として、消去法的に時価純資産法を採用した。
しかし、原審は時価純資産法によって全く異なる安価な評価を導いており、その用い方で結論が大きく異なるため、その内容を巡っても激しく争われる。純資産方式の採用に対しては、継続している企業に相応しくなく、事業の実質的清算を意味する純資産方式を主張すること自体が解散価値の分配を求めているに等しいとの指摘もあり※13、純資産方式が用いられる場合は本評価ガイドラインの示す場合に限定される傾向にある。ただ、会社法144条3項が考慮すべき事情として「資産状態」を特に明記していること等からすると、純資産方式も軽視できない面があろう。
裁判例の大まかな傾向は、かつてはマーケットアプローチも比較的用いられていたが、近時はFCF法(著者注・DCF法)を採用する動きが強まっている※14とか、市場価格のない株式の評価方法は、DCF法によることに日米とも概ね収斂してきたと言われ※15、対象株式が少数株式である場合にも、DCF法を基本にすえるべきであるとする見解※16が有力に唱えられている。こうした流れを受けてか、原審は、本評価ガイドラインを検討しながらも、純資産方式を採用する場合には該当しないとして、DCF法を採用して結論を導いた。
ただ、極小規模の会社の当事者に多額の費用負担をさせるわけにはいかないから、結局DCF法は取れない状況であるとの指摘もある※17。DCF法を使用する場合に必要な将来FCFの予測や適切な割引率の決定には困難が伴い、評価の実践には専門的な知見を要し、専門家による鑑定のために高額の費用をかけられない中小規模の会社の株式評価が争われる事例では、DCF法以外の方法を使用することも一概に否定できない※18等と指摘されている。その専門家の鑑定を検証することは容易ではなく、その鑑定費用を誰が負担すべきなのかも問題であり、これを負担する分だけ、いわゆる権利の目減りをもたらす以上、小規模企業の株式の場合は、この手法自体が事実上のディスカウント効果をもたらすものであろう。
企業価値自体を評価する場合、本事案の企業が土木工事に関する事業を行っている事業者であることや、どのような会計が行われていたか、役員報酬や剰余金の配当にいかなる傾向があったのかも考えるべきではなかろうか。1つの方式も、原々審と原審における純資産方式の結果の違いに見られるように、その使い方によって大きな差が出てくることもあり、この評価如何が経営者のインセンティブや企業会計のあり方に影響を及ぼしうることからすると、1つの算定方式に絞るような正解を予め定められないことはやむを得ない面がある。
(3)少数派と多数派の間における売買価格
譲渡制限株式の売買価格の決定に際しては、少数派ディスカウント(マイノリティ・ディスカウント)や、非流動性ディスカウントが議論される。この両者は表裏一体の問題であるとの説明もあり、似ているところもあるが、別々の問題として整理できる。
もっとも、本決定の評釈には、本決定が明確に非流動性ディスカウントという表現を使っているのに、少数派ディスカウントを「広く許容したものと見る余地がある」といったコメントもある※19。ただ、少数派であることを理由に減価するのか、非流動性に着眼して減価するのか、結局は譲渡制限株式の売買価格を減価する点では同じ帰結をもたらすが、その理由付けは異なる点に留意すべきであろう。
少数派ディスカウントとは、支配権に対する影響力が小さい少数派であることを理由とする減価である。一般に、少数派ディスカウントにおける適切な割引率を設定することは難しく※20、その率の公正性に対しては疑念がありうる。また、買手と売手の情報の非対称性がある場合にも、少数派ディスカウントの適用が公正ではない可能性がある等と指摘される。
しかし、本件のように、支配権の移動が伴わない株式取引では、実際には支配力に関する評価が限定される分を反映させるために、その減価が合理的であるとも考えられる。特に買手が会社自身である場合は、買手の支配権強化の程度が弱く、資産流出に伴う将来のリスクや不確実性も考慮する必要がある。市場の実態においては、支配権のない株式は通常、割引価格で取引されることがあるので、その実態を反映させる少数派ディスカウントが行われるのだろう。このため、少数派ディスカウントを含む評価額を用いて差し支えないという見解も有力である※21。
こうした考えに対しては、少数派ディスカウントを認めると「支配株主のインセンティブの歪みが生じるため、認めるべきではない」との見解も有力に主張されている※22。支配株主が多額の役員報酬等を取る一方で、剰余金の配当が抑制される等して、少数株主を退出に追い込むような方策が採られる等のインセンティブが働く懸念があるからである。
しかし、だからといって、少数派ディスカウントを、原則的に否定することを定式化することによって「一切の事情」の考慮を弱めるべきではあるまい。剰余金の配当のあり方は全ての株主に平等に及び、多数派株主だけに有利となるわけではなく、経営者がそのインセンティブの歪みにつけこんで権限の濫用をすることを、原則的な前提と考える必要まであるかは疑問が残る。剰余金の配当や役員報酬が不当である等の事情は、「一切の事情」の要素として考慮できるはずだろう。理論的に少数派ディスカウントを否定するのであれば、コントロールプレミアムも否定すべきはずだが、それがおかしいとすれば、少数派ディスカウントだけを否定することは不均衡ではないかとの疑問もある。
その有力説は、少数派ディスカウントを否定することで、逆に少数株主の買取請求が促される懸念に対して、譲渡制限株式の買手を見つけるのは困難であるし、また仮に多数派が買い取るにしても本来の価格で買い取るだけなので実害はない等と主張する※23。しかし、現実には、塩漬けされかけた譲渡制限株式を現金化するために、高額になりそうな株式の買取りを仲介する業者や団体があり、DCF法が使えるほどの事案であれば、決して買手を見つけるのは困難ではない面もあり、会社に対して様々な揺さぶりをかけながら、会社資産の流出を強いる点で、特に会社が買取人となる場合は、その買取りは事業の一部の実質的清算を意味する面もあるので、単純に本来の価格で取引が行われるだけの問題とは言い切れない。
さらに、その有力説は、少数株主が買取請求をするのは、DCF法による株式評価額と実際の少数株主の取引価格の差が大きい場合であると考えられるという※24が、実際には、そうした場合に限られず、単純に少数株主が資金を必要とする場合に行われるのであって、競業を立ち上げるための事業資金に用いられることさえある。
少数株主が退出を希望し、継続している企業に対して投下資本の回収を行おうとする場合に、他の株主から優先して会社の資産を現金化して受領するインセンティブが不当に働くようでは、特定の株主からの自己株式の取得の場合と同様に、株主平等原則の趣旨にも抵触する疑いがある。その限界の均衡点を見出すことや、当事者の判断がどちらに左右されるかの予測が困難であることからすると、他の株主に先んじて投下資本の回収を求める場合には、一定の少数派ディスカウントを許容するのが合理的であるとも考えられよう。ただ、そのディスカウント率をどうするかは個別に検討を要するだろう。
(4)非流動性ディスカウント
他方、非流動性ディスカウントとは、非上場会社の株式には市場性がないことを理由とする減価であると説明されるが、譲渡制限株式においては、それに加えて、会社の譲渡承認手続きにおける不確実性や手間等が考えられる。流動性・換金性が低いことに伴う割引は、買手を探すためのコストや時間が余計にかかるので、その余計にかかる分を、類似する会社の株価と比較して価格を算出した場合に割引することは合理性がある。
非流動性ディスカウントに対しては、それを認めても支配株主のインセンティブの歪みは生じにくい一方、それを認めないと少数株主のインセンティブの歪みが生じやすいため、認めてよいと主張されている※25。本決定は、概ね、この考え方に沿ったもののように見え、この点は妥当な考え方であると評価できよう。
もっとも、非流動性ディスカウントについては、裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に、当該株式に市場性がないことを理由とする減価を行うことはできないとした道東セイコーフレッシュフーズ事件の最高裁決定(以下「SFF事件決定」という。)※26が有名である。これは、非上場会社で会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ、同法786条2項に基づく申立てに対して、非流動性ディスカウントを否定したものであった※27。しかし、この最高裁決定は、組織再編等の局面で「公正な価格」が争われた事例であって、会社法144条の事案ではない。
SFF事件決定に対しては、その事案にいう収益還元法の割引率には上場会社の投資収益率及びβ値※28が用いられ、流動性の存在を前提とした価格が算定されているから、そこから非流動性を考慮した減価を否定する当該判旨は誤りだとの批判もある※29。また、少数派株主も多数派株主も、共に流動性がないために価値が低い場合に、裁判所が非流動性ディスカウントを否定することは、「少数派株主を不相当に利得させ、その結果、不必要な株式買取請求を助長することになりかねず、この場合にまで非流動性ディスカウントを否定する趣旨であれば適切とは思われない」との批判もあった。ただ、SFF事件決定は、非流動性ディスカウント自体を禁じたのではなく、鑑定人がサイズ効果を考慮したディスカウントをした後に、重ねてそれと実質的に同様の非流動性ディスカウントをすることを禁じたことに留まると理解すべきだ※30という前提に立てば、その最決と本決定は不整合ではないとも説明されている※31。
しかし、SFF事件決定が「吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨」から「退出を選択した株主には企業価値を適切に分配する」観点から非流動性ディスカウントを否定したものであり、会社法144条が想定する投下資本回収の事案とは明らかに事例が異なる。本決定も、SFF事件決定とは「事案を異にし、本件に適切でない」と明確に述べている。
小括に代えて
組織再編等の局面で「公正な価格」を導くには少数派ディスカウントも非流動性ディスカウントも否定されるべき場合※32が多々あるだろうが、譲渡制限株式の売買価格の場合は、そうとはいえない。もっとも、非流動性ディスカウントが30%となるかは検討の余地があり、仮に少数派ディスカウントを併せて行っても、結局のところ、全体として何割のディスカウントを行うかが問題である。
本件で、会社側はできるだけ買取価格を抑えたかったところ、原々審は、会社側が採用を主張していた時価純資産法から最も高い価格を導き、原審はDCF法を採用したが、非流動性ディスカウントを行い、会社の主張と比べると、概ね中間的な金額で結論を出し、それなりに合理的な落とし所に辿り着いたようにも見える。
本来、中小企業でも資本政策を考える余裕があれば、役員・従業員持株会の活用とか、様々な事前の対策ができただろうが、それがなかった場合の株主からの退出要求において何が保護されるべきかを踏まえて、投下資本の回収を認める趣旨に基づく会社法144条2項の「一切の事情」が、非流動性を含む様々な事情を考慮することを求めているのではないだろうか。
(掲載日 2023年10月30日)