第298号 コンビニエンスストア本部によるフランチャイズ契約の解除について、加盟店側の異常な顧客対応やツイッターにおける誹謗中傷行為を理由とするものであり、時短営業を理由とするものではないとして、本部による契約解除を有効と認め、本部側の建物引渡し及び損害賠償請求を認容し、加盟店側の契約上の地位確認請求等を棄却した原判決と当該原判決を維持した控訴審判決
~大阪地裁令和4年6月23日判決令和2年(ワ)第341号建物引渡等請求事件・令和2年(ワ)第1187号契約上の地位確認等請求事件※1、大阪高裁令和5年4月27日令和4年(ネ)第1762号建物引渡・契約上の地位確認等請求控訴事件※2~
文献番号 2023WLJCC020
弁護士法人心斎橋パートナーズ 弁護士
神田 孝
1.事案の概要と争点
- (1) 本事件は東大阪の大手フランチャイズチェーン(セブン-イレブン)の加盟者が再三にわたり記者会見を行うなどして社会的に注目を集めた事件である。
- 原審である大阪地裁では、【1】本件加盟者の顧客対応及びSNSでの本部批判などの店舗運営態度がチェーンイメージを害し本部と本件加盟者間の信頼関係を破壊したとして、本部がフランチャイズ契約を解除し、店舗用建物の明渡及び損害賠償を求めた事件(第1事件)と、【2】当該解除は時短営業を強行したことに対する本部による意趣返しであるとして、本件加盟者が加盟契約上の地位の確認等を求めた事件(第2事件)が係属した※3。
- (2) 本件訴訟では、①本件加盟者による顧客への暴言やSNSでの本部批判がフランチャイズ契約の解除原因となるか、②本部と本件加盟者との間の信頼関係が破壊されたといえるか、③本件加盟者が本部に対して誓約書を差し入れた場合でも改善のための催告に応じなかったといえるか、④本部による契約解除が権利濫用ないし優越的地位の濫用に当たるかが、争点となった。
- 原審は、①②について本部の主張を認め【1】の請求を認容した上で、本件加盟者側の【2】の請求を棄却した。控訴審では、原審での争点に加え、本件加盟者側から不意打ち的認定である等の主張が追加されたが、大阪高裁は本件加盟者側の主張を認めず控訴を棄却した。
- (3) 当時、コンビニ業界では24時間営業が社会問題となっており、本件加盟者も時短営業を実施していたことから、本件加盟者側は本部による契約解除は時短営業をしたことへの報復だと主張した。その後、公正取引委員会は令和元年10月から令和2年6月にかけて大手コンビニエンスストアチェーンの加盟店5万7000店を対象とした大規模実態調査を行って24時間営業の問題点を指摘し、令和3年4月28日の「フランチャイズ‧システムに関する独占禁止法上の考え方」(以下、「フランチャイズ・ガイドライン」という。)※4の改正においては上記調査結果が反映されている。
- こうした時代背景の下で控訴審である大阪高裁判決が出されたことから、本稿で取り上げた次第である。本書では大阪地裁・大阪高裁の争点を概観した上で、フランチャイズ・ガイドラインにおける24時間営業の問題点を述べることとする。
2.加盟者の顧客対応及びSNSにおける言動がフランチャイズ契約の解除原因となるか
- (1) フランチャイズ・ビジネスでは、チェーンとしての統一的イメージを確保することが契約内容とされており(フランチャイズ・ガイドライン1(3)②)、加盟者はチェーンとしての統一的イメージを害しないことが義務付けられる。
- 本事件のFC契約書でも、「一定の仕様による共通した独特の店舗の構造・形状・配色・内外装・デザイン、店内レイアウト、商品陳列、サービスマーク、看板等の外観、商品の鮮度など品質のよさ、品ぞろえ、清潔さ、ユニフォーム、接客方法、便利さなど際だった特色」が当該チェーンのイメージ(セブン-イレブン・イメージ)を構成するとされ、当該イメージが各加盟店の信用を支えていることが明記されていた。また、加盟希望者に対して事前に交付される「フランチャイズ契約の要点と概説」(以下、「要点説明書」※5という。)でもチェーン運営で一番大切なことは「統一性」であると明記され、加盟後に加盟者に交付されるマニュアルやトレーニングテキストにおいても、基本四原則やフレンドリーサービスを徹底することが記載されていた。
- (2) 原審である大阪地裁は、こうしたFC契約書、要点説明書、マニュアル用の記載内容を根拠に、加盟者は本部及びチェーン全体のブランドイメージを保つ責務を負い、フレンドリーサービスを含む基本四原則を徹底することが、本部と加盟者間の信頼を基礎付ける重要な事項であるとした。
- その上で、大阪地裁は、本件加盟者が顧客に対して暴言を吐いたり、顧客等の自動車を傷つけるなどの行為を繰り返したことで、顧客から本部に送られてきた苦情件数が近隣のセブン-イレブン店舗と比較して群を抜いて多かったこと、警察官への通報件数も極端に多かったことなどから、本件加盟者の接客対応は、本部が重視するフレンドリーサービスを逸脱するものであり、本部のブランドイメージを低下させたとして、FC契約が定める解除事由に当たると認定した。
- 過去の裁判例でも、加盟者が顧客から多数の苦情やクーリングオフを受けた事案において、本部による契約解除が認められていることから(東京地判平成21年7月10日WestlawJapan文献番号2009WLJPCA07108003)、大阪地裁の判断は適切といえる。
- (3) さらに、大阪地裁は、本件加盟者がツイッターに投稿した「お粗末な企業のトップ」「セブン本部がとうとう悪の本性を露わにしました」「セブンの腐敗」「腐った上には腐った下しか付かないという事です。セブン本部にも言える事でしょう」「セブン本部と国とはたぶん金の力で繋がっています」「セブンの腐敗、Y政権の腐敗、腐敗した者同士が金の力でつるんで、下の者を痛めつけて自分たちだけが栄華栄耀に耽る」等の表現は正当な論評の域を超えたものであり、本部の社会的信用を低下させるものであるとして、FC契約が定める解除事由に当たるとした。
- 過去の裁判例でも、加盟者が掲示板を設置して本部を批判した行為(名古屋高判平成14年5月23日判タ1121-170、WestlawJapan文献番号2002WLJPCA05230003)、加盟者が他の加盟者を扇動して本部と対立・対抗しようとした行為(大阪地判昭和61年10月8日判タ646-150、WestlawJapan文献番号1986WLJPCA10081002)について、本部による契約解除が認められていることから、大阪地裁の判断は適切といえる。
- (4) フランチャイズ契約のような継続的契約においては、当事者間の信頼関係が破壊されないと解除は認められない(東京地判平成14年10月16日WestlawJapan文献番号2002WLJPCA10160006)。そのため、本件でも当事者間の信頼関係が破壊されるに至っていたかが争点となった。大阪地裁は、本件加盟者が上記非違行為を繰り返していたことや、自己の非違行為の原因を年中無休・24時間営業に責任転嫁するような発言をしていることに照らして、当事者の信頼関係は破壊されたものと評価した。
- こうして、原審である大阪地裁は、本部によるフランチャイズ契約の解除を有効と判断した。控訴審である大阪高裁も原審の判断を正当としている。
- (5) なお、本件加盟者は、本部による契約解除は加盟者による時短営業に対する意趣返しであると反論した。本件加盟者がマスコミに対して24時間営業の問題を大々的に訴えたため、マスコミ各社は、本件を時短営業をした加盟者に対する本部の報復のように取り扱ったが、大阪地裁は、本部が本件加盟者の時短営業を容認する意思を示していたことから、時短営業に対する意趣返しということはできないとした。
- このように、本件加盟者の主張が事実と異なっていたため、24時間営業問題について裁判所が法的判断をすることなく本件加盟者の主張が排斥されたが、次に述べるように24時間営業問題については公正取引委員会が調査を実施し、独占禁止法上の考え方を述べている。
3.24時間営業についての問題意識の推移
- (1) 従来、下級審裁判例では、加盟者は、深夜営業の義務が定められたフランチャイズ契約等を締結したのであるから、深夜営業を行う義務を負うことは明らかであり、24時間営業が実施されないとチェーンイメージが損なわれるとして、本部が加盟者に対して深夜営業を行うことを求めることは、優越的地位の濫用に当たらないとしていた※6。公正取引委員会も、年中無休・24時間営業を行うことに顧客のニーズがある場合もあり、これを条件としてフランチャイズ契約を締結することについては、第三者に対するチェーンの統一したイメージを確保する等の目的で行われており、直ちに独占禁止法上問題となるものではないと解していた。
- しかし、近年、人手不足・人件費の高騰がさらに進んだため、24時間営業が社会問題となった。これを受けて公正取引委員会が令和2年1月に実施した調査では、77.1%のコンビニ加盟者は深夜時間帯が赤字であると答えている(公正取引委員会令和2年9月「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」※7150~179頁)。
- (2) この調査結果を受けて公正取引委員会は、令和3年4月のフランチャイズ・ガイドラインの改正において、年中無休・24時間営業についての独占禁止法上の考え方を示した。
- まず、加盟募集段階の問題として、「加盟者募集に際して、本部が営業時間や臨時休業に関する説明をするに当たり、募集する事業において特定の時間帯の人手不足、人件費高騰等が生じているような場合等その時点で明らかになっている経営に悪影響を与える情報については、加盟希望者に当該情報を提示することが望ましく、例えば、人手不足に関する情報を提示する場合には、類似した環境にある既存店舗における求人状況や加盟者オーナーの勤務状況を示すなど、実態に即した根拠ある事実を示す必要がある。」とし(同2(2)ウ)、本部が、加盟者の募集に当たり、上記に掲げるような重要な事項について、十分な開示を行わず、又は虚偽若しくは誇大な開示を行い、これらにより、実際のフランチャイズ・システムの内容よりも著しく優良又は有利であると誤認させ、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する場合には、不公正な取引方法の一般指定の第8項(ぎまん的顧客誘引)に該当するとした。
- 次に、フランチャイズ契約締結後の本部と加盟者との取引の問題として、「本部が、加盟者に対し、契約期間中であっても両者で合意すれば契約時等に定めた営業時間の短縮が認められるとしているにもかかわらず、24時間営業等が損益の悪化を招いていることを理由として営業時間の短縮を希望する加盟者に対し、正当な理由なく協議を一方的に拒絶し、協議しないまま、従前の営業時間を受け入れさせること。」が優越的地位の濫用に当たる場合があるとした(同3(1))。
- (3) ただ、筆者としては、今回改正されたフランチャイズ・ガイドラインには以下の問題があると考える。
- 公正取引委員会は、「(本部は)人手不足に関する情報を提示する場合には、類似した環境にある既存店舗における求人状況や加盟者オーナーの勤務状況を示すなど、実態に即した根拠ある事実を示す必要がある。」と述べるが、加盟店の求人状況や加盟者オーナーの勤務状況はあくまで加盟者の内部的な情報であるから、このような詳細な情報開示を本部に求めることは無理があると思われる。
- また、公正取引委員会は、「24時間営業等が損益の悪化を招いていることを理由として営業時間の短縮を希望する加盟者に対し、正当な理由なく協議を一方的に拒絶し、協議しないまま、従前の営業時間を受け入れさせることが優越的地位の濫用に当たる」と述べるが、リーマンショックなどにより社会情勢が急激に変化した場合でも契約内容の変更は容易に認められない以上、独占禁止法を根拠に本部側に協議を義務付けることは本部に過度な負担を課すものといわざるを得ない。
- なお、コンビニ本部各社では加盟者による時短営業を許容する方針を取っているが、2022年時点では、大手コンビニ各社で時短営業を採用している店舗数は3~5%にとどまっている(2022年7月16日付日経MJ)。こうした状況に照らせば、24時間営業に関する今回のフランチャイズ・ガイドライン改正は、いささか拙速だったように思える。
4.今後の課題
本件で問題となった「加盟者の接客態度」も「24時間営業」も共にチェーンイメージの統一性に関わるものである。その意味で、フランチャイズ本部としては自社のチェーンイメージについてはFC契約書にできるだけ詳細に記載するととともに、研修やマニュアルにおいてチェーンイメージを維持するための加盟者の業務内容をできるだけ具体的に伝える必要がある。
他方で、急激な変化に直面している日本経済においては、今後、社会情勢の変化にともないチェーンイメージも変化してゆくことを想定し、本部・加盟者双方において柔軟な対応が求められるといえよう。
(掲載日 2023年9月26日)