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文献番号 2023WLJCC012
名古屋市立大学大学院 教授
小林 直三
1.はじめに
本稿は、民法および戸籍法が同性婚を認める規定を設けていないことの違憲性が争われた2023年5月30日の名古屋地裁判決を検討するものである。同性婚に関する憲法訴訟に関しては、すでに札幌地裁判決※2、大阪地裁判決※3、東京地裁判決※4が出されている。また、6月8日には福岡地裁判決も出される予定である。したがって、本稿で扱う名古屋地裁判決は、同性婚に関するこれら5つの憲法訴訟のうちの4番目のものとなる。
札幌地裁判決では違憲判断が示され、大阪地裁判決では合憲判断が示され、東京地裁判決では違憲状態であるとの判断が示されている。このように判断が分かれているなかで、4番目となる名古屋地裁判決でどのような判断が示されるのかが注目されているところであり、その判決要旨を述べ、検討することには、重要な意味があるといえるだろう。
さて、本稿で扱う判決の事案は、以下の通りである。すなわち、同性カップルである原告らが、同性間の婚姻を認めていない民法および戸籍法の規定は憲法24条および14条1項違反であるにもかかわらず、必要な立法措置を講じられていないため婚姻ができない状態にあるとして、国家賠償を求めた事案である。
2.判例要旨
まず、日本国憲法24条1項に関して、「憲法24条の文理や制定過程等によれば、少なくともその制定当時において、同性間に対して民法及び戸籍法等の法律によって具体化された法律婚制度を及ぼすことが、同条1項の趣旨に照らして要請されていたとは解し難」く、「現時点においても、現行の法律婚制度を同性間に対して及ぼすことが、憲法24条1項の趣旨に照らして要請されていると解することは困難であるから、婚姻をするについての自由が同性間に対して及ぶものであるとは認められず、同性間に婚姻を認めていない本件諸規定が、同条項に違反するものとはいえない」とした。そして、「現行の法律婚制度を同性間に対して及ぼすことは、憲法24条1項の趣旨に照らし、禁止されてはいないが、要請されているともいえない」ことを前提に、日本国憲法24条2項は、「同条1項を前提として、法律による婚姻制度の具体化を国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、国会に要請、指針を示す規定と解されるから、同条2項も、現行の法律婚制度を同性間に対して及ぼすことを要請していないと解するのが整合的であり、本件諸規定が同性間に現行の法律婚制度をそのまま適用することを認めていないことは、同項に違反するものでもない」とした。
ただし、「憲法24条2項は、婚姻のほか、『家族』についても、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した立法の制定を要請して」おり、そして、「永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むという重要な人格的利益を実現する上では、両当事者が正当な関係であると公証され、その関係を保護するのにふさわしい効果の付与を受けるための枠組みが与えられる利益が極めて重要な意義を有」し、「両当事者の関係が国の制度により公証され、その関係を保護するのにふさわしい効果の付与を受けるための枠組みが与えられるという利益は、憲法24条2項により尊重されるべき重要な人格的利益である」にもかかわらず、「同性カップルは、制度上、このような重要な人格的利益を享受できていない」とした。そのうえで、「家族の形態として、男女の結合関係を中核とした伝統的な家族観は唯一絶対のものであるというわけではなくなり」、「現行の家族に関する法制度における現行の法律婚制度はそれ単体としては合理性があるように見えたとしても、そこで重視されるべき価値に対する理解の変化に伴い、その享有主体の範囲が狭きに失する疑いが生じてきており、結果として、同性愛者を法律婚制度の利用から排除することで、大きな格差を生じさせていながら、その格差に対して何ら手当てがなされていないことについて合理性が揺らいできているといわざるを得ず、もはや無視できない状況に至っている」とした。
そして、「同性カップルに対し、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組み自体を存在させないようにするということと、存在を認めた上で、様々な立場や他の諸利益と調整するなどしながら、いかなる効果を付与すべきか検討し決定していくということとでは、自ずと立法裁量の広狭に差が生じるものであ」り、「本件諸規定が、異性間に対してのみ現行の法律婚制度を設け、その範囲を限定することで、同性間に対しては、国の制度として公証することもなく、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組み自体を与えない状態としているが、婚姻制度の趣旨に対する国民の意識の変化に伴い、同性カップルが法律婚制度に付与されている重大な人格的利益を享受することから一切排除されていることに疑問が生じており、累計的には膨大な数になる同性カップルが現在に至るまで長期間にわたってこうした重大な人格的利益の享受を妨げられているにもかかわらず、このような全面的に否定する状態を正当化するだけの具体的な反対利益が十分に観念し難いことからすると、同性カップルの関係を保護するのにふさわしい効果としていかなるものを付与するかという点においては・・・・・・国会の裁量に委ねられるべきものとしても、上記の状態を継続し放置することについては、もはや、個人の尊厳の要請に照らして合理性を欠くに至っているものといわざるを得ず、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たる」として、「本件諸規定は、同性カップルに対して、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないという限度で、憲法24条2項に違反する」とした。
さらに、日本国憲法14条1項に関して、「国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという点については・・・・・・本件諸規定が、同性カップルに対して、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないという限度で、このような場合に当たるというべきであるから、その限度で、憲法24条2項に違反すると同時に、憲法14条1項にも違反するものといわざるを得ない」とした。
しかしながら、「本件諸規定の改廃を怠ったことは、国会議員の立法過程における行動が・・・・・・職務上の法的義務に違反したものとはいえず、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない」として、請求を棄却した。
3.検討
上述のように、名古屋地裁判決は、「現行の法律婚制度を同性間に対して及ぼすことは、憲法24条1項の趣旨に照らし、禁止されてはいないが、要請されているともいえない」としつつも、「憲法24条2項は、婚姻のほか、『家族』についても、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した立法の制定を要請して」おり、また、「両当事者の関係が国の制度により公証され、その関係を保護するのにふさわしい効果の付与を受けるための枠組みが与えられるという利益は、憲法24条2項により尊重されるべき重要な人格的利益である」にもかかわらず、「同性カップルは、制度上、このような重要な人格的利益を享受できて」おらず、「同性愛者を法律婚制度の利用から排除することで、大きな格差を生じさせていながら、その格差に対して何ら手当てがなされていないことについて合理性が揺らいできているといわざるを得ず、もはや無視できない状況に至っている」とし、「同性カップルの関係を保護するのにふさわしい効果としていかなるものを付与するかという点においては・・・・・・国会の裁量に委ねられるべきものとしても、上記の状態を継続し放置することについては、もはや、個人の尊厳の要請に照らして合理性を欠くに至っているものといわざるを得ず、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たる」として、「本件諸規定は、同性カップルに対して、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないという限度で、憲法24条2項に違反する」と同時に、憲法14条1項にも違反するとした。
そのことを踏まえて、札幌地裁判決、大阪地裁判決、東京地裁判決と比較し検討してみたい※5。
まず、札幌地裁判決は、婚姻の本質において異性愛者間でも同性愛者でも同様の共同生活が営めることを前提として、異性愛者間でのみ法律婚の制度の利用の機会を提供して同性愛者間ではそれを提供しないことが差別を禁止する憲法14条1項違反であるとした。
それに対して、大阪地裁判決と東京地裁判決は、憲法24条2項が求める個人の尊厳に基づく家族の制度化の点で、同性愛者の家族形成を制限していることを問題としている。
大阪地裁判決と東京地裁判決との違いは、大阪地裁判決が、「個人の尊厳の観点からは同性カップルに対しても公認に係る利益を実現する必要があるといえる」としつつも、「その方法には様々な方法が考えられるのであって、そのうちどのような制度が適切であるかについては・・・・・・民主的過程において決められるべきものである」としたのに対して、東京地裁判決では、現状を違憲状態であると述べたうえで、「そのような法制度を構築する方法については多様なものが想定され、それは立法裁量に委ねられており、必ずしも本件諸規定が定める現行の婚姻制度に同性間の婚姻を含める方法に限られない・・・・・・ことからすれば、同性間の婚姻を認めていない本件諸規定が憲法24条2項に違反すると断ずることはできない」とした点である。
つまり、大阪地裁判決も東京地裁判決も、現状を問題であるとしながらも、その解決を民主的過程に委ねているわけだが、その問題のある現状を「違憲状態」と述べるかどうかに違いがある。その意味では、大阪地裁判決は合憲判決であるといっても、それは政治部門への警鐘の鳴らし方(警鐘の大きさ)の違いに過ぎないと考えられる。
これら大阪地裁判決や東京地裁判決に対して、今回の名古屋地裁判決では、「同性カップルに対し、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組み自体を存在させないようにするということと、存在を認めた上で、様々な立場や他の諸利益と調整するなどしながら、いかなる効果を付与すべきか検討し決定していくということとでは、自ずと立法裁量の広狭に差が生じる」とし、「同性カップルの関係を保護するのにふさわしい効果としていかなるものを付与するかという点においては・・・・・・国会の裁量に委ねられるべきものとしても、上記の状態を継続し放置することについては、もはや、個人の尊厳の要請に照らして合理性を欠くに至っているものといわざるを得ず、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たる」として、「本件諸規定は、同性カップルに対して、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないという限度で、憲法24条2項に違反する」として、違憲であることを明確に示している。
さらに、「本件諸規定が、同性カップルに対して、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないという限度で」、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ない場合に当たるから、「その限度で・・・・・・憲法14条1項にも違反する」としている。つまり、大阪地裁判決と東京地裁判決は、憲法24条1項が同性婚を禁止していないものの要請もしていないことから、同性婚を認めていなくとも憲法14条1項違反にならないとしているのに対して、名古屋地裁判決は、憲法24条1項については同様の解釈を採用しながらも、同性カップルにその関係を公証する何かしらの制度も用意していないことについて憲法24条2項に違反して違憲であるとしたうえで、そうであるならば、そうした制度を用意せずに異性カップルと区別することには合理性がないことから、憲法14条1項にも違反するとしている。
論理的には、東京地裁判決のように、憲法24条2項から違憲状態にあるとしながらも違憲ではないとし、さらに違憲状態であるけれども憲法14条1項に違反しないとするよりは、名古屋地裁判決のように、憲法24条2項に反し違憲であり、したがって、憲法14条1項にも反し違憲であるとする方が明快であるものと考えられる。したがって、名古屋地裁判決は、東京地裁判決を、より洗練し明快にしたものと評価できるものと思われる。
4.おわりに
さて、民法および戸籍法が同性婚を認める規定を設けていないことについて、札幌地裁判決は違憲、東京地裁判決は違憲状態としており、今回の名古屋地裁判決でも違憲判断が示された。さらに大阪地裁判決も現状を問題であるとしているのであって、いずれの判決においても現状の改革を求めている点は、強調されて然るべきである。もちろん、いずれの判決も、直ちに「同性婚」という制度を憲法上要請しているとしているわけではないが、少なくとも、同性カップルを公証あるいは公認する制度が求められているとしている。
これらの司法判断に対応するためには、政治の責任として、根本的には、国の法改正が求められるところであるが、それまでの暫定的措置として、さしあたり、地方公共団体でもパートナーシップ制度の導入を積極的に進めるとともに、ジェンダーに関する教育も、いっそう進めていくべきであると思われる※6。
(掲載日 2023年6月7日)