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文献番号 2022WLJCC010
明治学院大学 教授
西山 由美
1. はじめに
令和3年(2021年)6月の国税庁公表の「令和2年度・査察の概要」※2によれば、令和2年度の消費税事案の告発は18件で、そのうち半分の9件は輸出免税(消費税法―以下「消法」という。―7条1項1号)を利用した不正還付事案であった。
輸出免税を受ける事業者は、売上げに係る消費税については免税となる一方で、その仕入れに係る消費税については税額控除となることから、ゼロ税率課税の恩恵に浴し、経常的に還付金が発生する(消法52条1項)。この還付金は、税率が高くなればなるほど大きくなることから、令和元年の税率10%引上げに伴い、輸出免税に係る還付事件が増加している。
輸出免税となる事業者かどうか、それゆえその課税仕入れについて還付ができるかどうかが疑われるケースにおいて、脱税事件として告発される場合もあれば、類似したビジネスモデルであるのに、重加算税が賦課される場合と加算税のみが課される場合とがあり、とくに重加算税賦課については、その判断基準がいまだ明確にはなっていない。
本件は、そのうちの重加算税賦課事件であり、類似判例との比較を通して、輸出免税に伴う消費税還付の問題を考えていく。
2. 事実の概要と争点
裁判所が認定した事実は、以下のとおりである。
X社(原告)は、衣料品等雑貨の輸出入・販売・輸出入代行業を営んでいる。平成21年にX社は、台湾に所在するA社との間で次のような基本契約を締結した。
① 日本で購入する商品の集荷、輸出梱包、配送業務をX社が行う。
② 輸出書類作成、通関手配をX社が行う。
③ 還付申告はX社が行う。
A社と取引関係のある台湾所在の複数の衣料雑貨小売業者(以下「台湾事業者」という。)は、来日のうえ日本国内の複数事業者(以下「国内事業者」という。)の店舗で衣料品を買い付け、自ら代金支払いをする一方で、領収書の宛名はX社として発行を受けていた。買い付けた商品は、大阪から台湾に空輸するため、大阪の倉庫まで台湾事業者自身が搬入したり、他の搬入業者に搬入させたりしていた。大阪では日本の事業者であるB商会が輸出許可申請を行っていたが、その書類上、輸出者はX社と記載されていた。
台湾事業者は、台湾で配送された商品を確認したうえで、X社宛に発行された領収書をA社に渡し、A社がこれをとりまとめてB商会を経由してX社に郵送された。なお、上記取引が行われていた当時のB商会の代表者は、のちにX社の代表者、またそののち清算人となっている。
X社は、B商会から取得した領収書にもとづいて仕入明細書と総勘定元帳を作成し、そこに計上された仕入税額について還付申告を行った。これにより還付を受けた消費税額の一部は、A社の口座に振り込まれた。
以上の還付申告について、所轄税務署より平成22年と同25年に税務調査が行われ、さらに同29年の税務調査により、X社の還付申告を否認する更正処分と重加算税賦課決定処分が行われた。所轄税務署によって不正還付と認定された金額は、平成24年11月から始まる課税期間から平成28年7月に終わる課税期間の各課税期間合計で約1億680万円(消費税および地方消費税合計)である。X社は、これらの処分を不服として、審査請求を経て本訴を提起した。
本コラムでは複数の争点のうち、①上記国内での買付けについてX社がこれを課税仕入れとして行った事業者といえるか、②重加算税(国税通則法―以下「税通」という。―68条1項)にいう事実の仮装をX社が行ったと認められるか、の2点について検討する。
3. 争点に対する判断―請求棄却
争点①―X社は課税仕入れを行った事業者か
裁判所は、「本件各商品の買付けは、本件各台湾事業者が自らの意思で購入する商品やその数量を決定し、代金も基本的に自己資金で支払っていたものであり・・・X社が本件各商品の買付け自体に関与していたことをうかがわせる事情は認められない。」との結論につき、次のような理由を示した。
「X社とA社との間、及びA社と本件各台湾事業者との間で、それぞれ代金額を本件各国内事業者からの仕入額と同額とする本件各商品の売買契約が成立しているとされ、これらの取引により得られるX社の収入は、専ら本件各課税仕入れに係る消費税等の還付によるものとされている。・・・X社が受け取った消費税等の還付金はその大半がA社を介して本件各台湾事業者に分配されていたものである・・・本件各課税仕入れに係る買付け及びその後の状況、売主である本件各国内事業者の認識、本件各基本契約の内容及び消費税等の還付に関する関係者の認識等に照らせば、本件各商品の買付けは本件各台湾事業者が自ら買主として行ったものであり、X社は、その輸出代行業務や、自らの名義で消費税等の還付のための申告を行うことによる消費税等の還付の手続の代行等の業務を行うにすぎないものであったと認められるから、本件各課税仕入れの主体がX社であったと認めることはできない。」
争点②―重加算税賦課の可否
裁判所は、重加算税の要件である「事実の仮装」を認定したうえで、次のような理由を示した。
「通則法68条1項にいう事実の仮装とは、存在しない課税要件事実が存在するかのように見せかけることをいうものと解されるところ、・・・X社は、本件各課税仕入れの主体ではなく、本件各商品を仕入れたことも輸出により販売したこともないにもかかわらず、本件各台湾事業者をして、本件各国内事業者からX社宛の本件各領収証の発行を受けさせた上、これに基づいて集計した本件月別集計仕入金額を本件元帳の仕入高に計上するとともに、これと同額を本件元帳の輸出売上高に計上したものである・・・このことは、X社が本件各国内事業者から本件各商品を仕入れた事実(消費税法30条1項1号所定の国内において行う課税仕入れに該当する事実)及びX社が本件各商品を輸出により販売した事実(同法7条1項1号所定の本邦からの輸出として行われる資産の譲渡に該当する事実)が存在しないにもかかわらず存在するように見せかけるものであるから、通則法68条1項にいう事実の仮装に当たるというべきである。また、・・・本件各商品を本件各国内事業者から購入した買主がX社ではなく本件各台湾事業者であり、本件各商品の代金を負担していたのもX社ではなく本件各台湾事業者であることを認識していたことは明らかというべきであって、それにもかかわらずX社は、本件各台湾事業者をして本件各国内事業者からX社宛の本件各領収証の発行を受けさせるなどして虚偽の外形を作出していたのであるから、事実の仮装についての故意があったことも優に認められる。」
4. 本判決の検討
4-1 本判決の意義
本判決は、本件と類似したビジネスモデルについて重加算税賦課を認めた東京地裁令和2年1月17日判決(いわゆる「タシン事件」)※3と、基本的に同じ結論と理由付けをとっている。
本件と類似したビジネスモデルないしスキームについては、重加算税が賦課されたもの、加算税のみが賦課されたものに分かれるところ、重加算税賦課の可否を判断する事実認定のポイントに関し、本判決は「タシン事件」を踏襲しているものと評価できる。
以下、輸出免税に伴う消費税還付が脱税事案になったケース、重加算税が課されたケース、加算税のみが課されたケースをみていく。
4-2 脱税事案
輸出に伴う消費税の不正還付で刑事告発されるのは、主として架空輸出や架空仕入れを作出する場合が多い。たとえば平成30年には、車を海外に輸出したように装って約1,200万円の不正な消費税還付を受けた自動車販売会社社長が逮捕され、その後、懲役2年、執行猶予3年、罰金250万円の判決を受けている※4。また令和3年には、課税仕入れを水増し計上して約1億3,900万円の不正な消費税還付を受けた中古自転車輸出販売業者が逮捕されている※5。
脱税(消法64条1項2号違反)、すなわち「偽りその他不正の行為により・・・還付を受けた」と判断されたものには、津地裁令和元年12月23日判決※6がある(以下「津地裁事件」という。)。
「津地裁事件」では、国内で仕入れた中古自動車部品を東南アジア向けに輸出する事業を行っていた会社が、自社による仕入れをやめて輸出代行のみを行うようになった後も、自社が仕入れて輸出を行っているように装い、約1,200万円の不正な消費税還付を受けたものである。津地裁は、同社代表者に対して、懲役2年、執行猶予4年、罰金200万円の判決を言い渡した※7。
4-3 重加算税事案
次に、重加算税が賦課されたもの、すなわち「事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装」したものと判断されたものには、東京地裁令和2年1月17日判決(いわゆる「タシン事件」)がある。この事件のビジネスモデルは、本件と類似している。
台湾の事業者らの日本国内での商品買付けについては、衣料品等輸出業を営む原告会社宛てに領収書が発行されることになっており、これにより原告会社による輸出として仕入税額分の還付手続が行われたが、実際に台湾の事業者と日本国内の事業者との取引を仕切っていたのは台湾所在の会社(本件でのA社に類似した立場)であり、原告会社によって不正還付が行われたとして、重加算税が課されたものである。
この「タシン事件」では、台湾事業者の買い付け先であった国内の事業者は原告会社を単なる輸出・運搬代行業者として認識し、台湾事業者は国内事業者から自己の判断で商品を注文して自己資金で支払いを済ませ、さらに原告会社は、仕入金額に利益分を加算せずにそのままの金額で台湾事業者に販売する体裁となっていた。このような事実認定にもとづき裁判所は、原告会社が課税仕入れを行ったものとは認められず、さらに、本件仕入金額を元帳の仕入高に計上していることは「本邦からの輸出として行われる資産の譲渡等」(消税7条1項1号)が存在しないのに、これを存在するかのような見せかけをした「事実の仮装」にあたるものとして、重加算税賦課処分を適法と判断した。
「タシン事件」判決と本判決は、類似したビジネスモデルに対して類似した事実関係に着目し、原告(納税者)が輸出を行った事業者でなく、それゆえ仕入税額分の還付はできないと判断し、かつ、輸出を行った事業者と見せかけるため帳簿に事実に反する記載をしたことについて、重加算税賦課を認めたものである。
本件では、具体的には次のような認定事実につき、X社には課税仕入れの主体ではなく、それゆえ還付を受けることができないとした。
① X社と台湾事業者間で直接連絡をとることは基本的にない。
② 台湾事業者は来日のうえ、自己の意思で購入商品を決め、自己の資金で支払いを行っていた。それゆえX社は、B商会経由でA社から領収書を受け取るまで、台湾事業者が買い付けた商品の内容や価格を知らなかった。
③ 輸出のための梱包や通関のための手配はA社が行い、通関手続は通関業者に委託するものの、その費用の請求書はX社を経由し、最終的には台湾事業者が負担していた。
④ X社が得た還付金につき、平成21年基本契約ではそのうちの75%、税率が8%となってからはそのうちの80%~90%はA社に支払われていた。
⑤ 台湾事業者の商品買い付け先の国内事業者のX社に対する認識は、商品販売先というより、いわゆる「運び屋さん」であった。
4-4 加算税事案
「タシン事件」や本件とは異なり、類似のビジネスモデルにもかかわらず、加算税賦課のみの課税処分が行われた事件もある。
東京地裁平成31年2月20日判決(以下「平成31年判決」という。)※8のケースは、香港に居住して香港向けの輸出を行っており、かつ、日本国内にも事業所を有していた個人事業者(中華人民共和国国籍、本訴の当初の原告であったが、その後死亡。以下「Q」という。)が、香港等の複数の事業者(以下「香港等事業者」という。)からの委託を受けて、日本国内の複数の事業者から商品を買付けを行った取引について、Qが行った消費税還付の可否が争点となった。この事件では、次のような事実が認定されている。
① 国内事業者に対する注文は、香港等事業者が直接行い、Qの日本国内事業所に送付されたあと、同人の香港事業所を経由して香港事業者に引き渡されている。
② 国内事業者に対する支払いは、Qが支払う場合と香港等事業者が支払う場合があるが、前者の場合、香港事業者に対して手数料の請求をしている。
③ 国内事業者と香港等事業者間には多くの場合取引関係が認められるが、Qと国内事業者との間には契約書が作成されていなかったり、取引には必須の会員登録がなされていなかったりしている。
このような事実を踏まえて、裁判所は次のような判断を示した※9。
「[Qと国内事業者5社の間では]契約書等は作成されておらず、他方において、[国内事業者5社と香港等事業者の間で]基本契約書等により売買基本契約を締結しており・・・また、[国内事業者8社の]サービスを利用してその商品を購入するためには、いずれも会員登録をすることが必要であるが、[Qはその]会員登録をしていない。・・・そうすると、本件各取引においては、Qと本件各国内事業者との間に売買契約があったといえる外形的根拠はない。さらに、本件各取引におけるQの関与の実質をみても、前記認定事実によれば、Qは、発注する商品の内容や数量の決定に関与しておらず、これらを決定しているのは香港等事業者であり、また、代金については、Qがその支払に関与しない場合もある上、関与する場合であっても、本件各国内事業者に商品代金を支払った後、その支払額から消費税等相当額を控除し手数料を加算した金額を香港等事業者に請求するというものであり、商品代金額の決定自体にQの意思が介在するものではなく、その実質は立替払であるといえる。・・・したがって、本件各取引の外形面、実質面のいずれからみても、Qと本件各国内事業者との間に売買契約があったと認めることはできない。」※下線は筆者による。
この「平成31年判決」では、Qが輸出業者とはいえず、それゆえその還付を否認したものの、加算税のみが課されていることについて、重加算税が賦課された本件とはどこに違いがあるのだろうか。
しいて両者の違いを探せば、前者の加算税事件では、Qが一連のスキームの主導者であるといえなくもないこと、各取引の一部に関与していたことが否定できないことであろう。一方、本件では、一連のスキームの主導権はX社ではなくA社にあり、X社は各取引の詳細を一切知らず、商品が台湾事業者に届いたのちに収集されて送付される領収書をベースに帳簿に記帳していたこが認められる。しかしそのような差異で重加算税賦課の可否が決まるのであれば、還付申告を行う事業者を取引の一部に主体的に関与させるような仕組みを誘引することになりかねない。
消費課税が消費に対する課税であるものの、課税手法としては「資産の譲渡等」という取引に対する課税である以上、仕入れ取引においても売上げ取引においても、事業者がその取引全般に対して形式的にも実質的にも主体的に関与していることが必要である。少なくとも、事業者がその取引の内容や価格を承知していない、事業者としてのリスクを負っていない、取引から生じる還付金が主要な利益であるという状況では、当該事業者は消費課税における事業者とはいえない。
4-5 今後の課題
脱税案件は、そもそも売上げや仕入れ自体が架空のものであるという基準で考えることができるが※10、輸出免税に伴う消費税還付の不正利用について、ビジネスモデルとして同じであるにもかかわらず、重加算税となったり加算税だけであったりすることについては、これからもこの種のケースが増えることが予想されることから、判例の蓄積を通して重加算税適用基準の構築が必要であろう。
重加算税の要件である「事実の隠蔽・仮装」は、隠したり装ったりする行為を伴うものであるから、故意を含む概念と考えられる※11。これを基本において、消費税の還付申告について、還付申告の時点で消費税の納税義務者ではない者に対して、重加算税を課することができるかどうかについて大阪高裁平成16年9月29日判決※12は、「申告納税方式の場合、一旦私人が自ら納税義務を負担するとして納税申告をしたならば、実体上の課税要件の充足を必要的な前提条件とすることなく、同申告行為に租税債権関係に関する形成的効力が与えられ、税額の確定された具体的納税義務が成立すると解するべきであるから、納税申告行為が無効ではなく、有効に成立している以上、結果的に実体上の課税要件事実が発生しなかったというだけで、形成された納税義務者としての地位が否定されるものではない」とし、結果的に還付申告を行う立場になかった者についても、その還付申告について重加算税を賦課しうるとした。
国境を越える取引に対する消費課税の問題は、その取引自体が密輸等の違法なものである場合だけでなく、輸出免税に伴う消費税還付という法律で認められている制度の濫用や悪用による課税逃れが今後も増加傾向になるのは必至である。令和5年10月からの適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス保存方式)への移行によって、取引当事者の実在の形式確認は可能になるものの、取引との実質関与の確認はさらに必要である。輸出免税と消費税還付の恩恵を受けるべき事業者は、当該取引全体に主体的に関与している事業者であるべきで、消費課税における「事業者」の意義を明確にする必要がある。私見によれば、消費税還付のみを目的として一部取引に関与する、あるいはまったく関与しない場合には、取引当事者であると仮装したものとして、重加算税賦課の対象としてよいのではないかと考える。
(掲載日 2022年4月22日)