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文献番号 2021WLJCC016
京都女子大学 教授
岡田 愛
Ⅰ はじめに
本件は、適格消費者団体Xが、住宅等の賃借人(以下、「原契約賃借人」という)の賃料等債務について連帯保証することを中核の業務とする、いわゆる家賃保証業者Yに対して、保証契約条項のうち、①支払いを怠った賃料等及び変動費の合計が賃料3カ月以上に達したときに、Yに賃貸借契約(以下、「原契約」という)の無催告解除権を与える旨の条項(13条1項前段)、②Yの無催告解除権の行使について原契約賃借人は異議がないことを確認する旨の条項(13条1項後段)、③Yが原契約賃借人に対する事前通知なしに保証債務を履行できるとする条項(14条1項)、④Yの原契約賃借人に対する事後求償権行使に対して原契約賃借人及びYの原契約賃借人に対する求償債権の連帯保証人が原契約賃貸人に対する抗弁をもってYへの弁済を拒否できないことをあらかじめ承諾する条項(14条4項)、⑤下記一定の要件を満たす場合に、原契約賃借人の明示的な異議がない限り原契約賃借人から賃借物件の明渡しがあったとみなす条項(18条2項2号)について、消費者契約法(以下、「法」という)8条1項3号又は10条に該当するとして、法12条3項に基づき、上記の条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め及び条項の記載された契約書用紙の廃棄等を求めた事案の控訴審である。
原審である大阪地判令和元年6月21日(判タ1475号156頁WestlawJapan文献番号2019WLJPCA06216002※2 )は、上記①~④の条項についてXの請求を棄却したが、⑤の条項については、当該条項は、賃貸借契約が終了しておらず、賃貸人に賃借物件の返還請求権が発生していない状況で、Yらが自力で賃借物件に対する原契約賃借人の占有を排除することになり、自力救済行為であって、法的手続によることのできない必要性緊急性の存するごく例外的な場合を除いて不法行為に該当するなどとして、下記の契約条項18条3項及び19条1項、同2項にも照らし、法8条1項3号に該当すると判示した。
これに対して双方が控訴し、Xは、原審で法8条1項3号に該当するとされた⑤の条項の予備的請求として、i)下記一定の要件を満たす場合に、原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限をYに付与する条項(18条2項2号)、ⅱ)明渡しがあったとみなす場合にYが建物内等に残置する動産類を任意に搬出・保管することに原契約賃借人が異議を述べないとする条項(18条3項)、ⅲ)原契約賃借人が当該搬出の日から1カ月以内に引き取らないものについて、原契約賃借人は当該動産類全部の所有権を放棄し、以後、Yが随意にこれを処分することについて異議を述べないとする条項(19条1項)、ⅳ)その保管料及び搬出・処分に要した費用をYへ支払うとする条項(19条2項)について、Yに対して消費者契約の申込み又は承諾の意思表示をしないことを求めたところ、控訴審は、上記①②③④の条項についてXの請求を認めず、さらにⅰ)~ⅳ)を含む⑤の条項についての請求も、原審と異なり、法8条1項3号にも、また法10条に該当せず有効である旨判示した。
以下、紙幅の関係上、⑤の条項について検討する。
Ⅱ 判断が異なるに至った18条2項2号の解釈について
18条2項2号(上記⑤の条項。以下、「本件条項」という)は、「乙(原契約賃借人)が賃料等の支払を2カ月以上怠り、丁(Y)が合理的手段を尽くしても乙本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない乙の意思が客観的に看取できる事情が存するとき」には、乙が明示的に異議を述べない限り建物の明渡しがあったものとみなすことができると定めている(以下、「本件4要件」という)。
控訴審は、本件4要件のうち最後に、「かつ」として「本件建物を再び占有使用しない乙の意思が客観的に看取できる事情が存するとき」と定めて「原契約賃借人が賃借物件について占有する意思を最終的かつ確定的に放棄した(ことにより賃借物件についての占有権が消滅した)ものと認められるための要件をその充足の有無を容易かつ的確に判断することができるような文言で可能な限り網羅的に規定しようとした」と判示し、理論上は本件4要件を満たしたうえでなお原契約賃借人の賃借物件についての占有権が消滅していない場合も生じうるとしつつも、現実にはそのような場合は考え難いとして、本件条項は占有権が消滅したと認められる場合に、Yに賃借物件の明渡しがあったとみなす権限を付与する趣旨の規定であるとした。また、本件条項が原契約である賃貸借契約の終了が要件となっていない点については、Yにより明渡しがあったとみなされた場合には、その時点で原契約は当然に終了すると解するのが自然かつ合理的としたうえで、原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り、Yに対し、賃借物件の原契約が継続している場合はこれを終了させる権限を付与する趣旨の規定であると解し、また、原契約賃借人の占有権が消滅した後に明渡し及び動産等の搬出・保管を行う権限をYに与えたとしても法10条に反しないとした。
この点原審は、「原契約が原契約賃借人の賃料不払等債務不履行を原因とする解除によって終了したか否か、原契約終了の前提となる解除の意思表示が有効であるか否かにかかわらず、本件契約18条2項2号に定める一定の要件を満たすときは、被告において、原契約賃借人において賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を付与することを約する条項である」として、賃借人の賃貸物件の占有権は消滅していない可能性があることを前提にしつつ、「賃借物件内の動産類の搬出・保管・・・行為は、原契約が終了しておらず、いまだ原契約賃貸人に賃借物件の返還請求権が発生していない状況で、被告等が自力で賃借物件に対する原契約賃借人の占有を排除し、原契約賃貸人にその占有を取得させることに他ならず、自力救済行為であって、本件契約の定めいかんにかかわらず、法的手続によることのできない必要性緊急性の存するごく例外的な場合を除いて、不法行為に該当する」と判示していた。
控訴審と原審との本件条項に対する結論の差異は、占有権が消滅したと解するか否かにより導かれたと考えられる。
Ⅲ いわゆる自力救済条項に関する先例
控訴審は、本件4要件を満たす場合は原契約賃借人の占有権は消滅しているため、Yに賃借物件の明渡しがあったとみなす権限を付与し、動産類の搬出・処分をしても違法とならない旨の見解を示している。
他方でこれまで、いわゆる自力救済条項の定めに従って明渡しを実現した事案として、(1)賃貸借契約終了後、借主が建物内の所有物件を貸主の指定する期限内に搬出しないときは、貸主は、これを搬出保管又は処分の処置をとることができる旨の特約に基づいて、賃貸人が契約解除後に賃借人の意思に反して建物内の動産類を搬出・処分した行為(東京高判平成3年1月29日判時1376号64頁WestlawJapan文献番号1991WLJPCA01290002)、(2)「賃借人が本契約の各条項に違反し賃料を一か月以上滞納したときまたは無断で一か月以上不在のときは、敷金保証金の有無にかかわらず本契約は何らの催告を要せずして解除され、賃借人は即刻室を明渡すものとする。明渡しできないときは室内の遺留品は放棄されたものとし・・・保証人または取引業者立会いのうえ随意遺留品を売却処分のうえ債務に充当しても異議なきこと。」という特約に基づいて、動産類を売却処分した行為(浦和地判平成6年4月22日判タ874号231頁WestlawJapan文献番号1994WLJPCA04220007)、(3)「賃借人が賃借料の支払を七日以上怠ったときは、賃貸人は、直ちに賃貸物件の施錠をすることができる。」旨の特約に基づいて、3度督促したが連絡が取れなかったため、室内に立ち入り鍵を取り換えた行為(札幌地判平成11年12月24日判タ1060号223頁
WestlawJapan文献番号1999WLJPCA12240005)、また、(4)賃料を滞納した場合に、賃貸人は原契約賃借人の承諾を得ずに本件建物内に立ち入り適当な処置をとることができ、賃料を2カ月分以上滞納した場合は直ちに賃貸借契約を解除できるとする旨の特約に基づき、管理会社が賃料を滞納した原契約賃借人の貸室に立ち入った行為(東京地判平成18年5月30日判時1954号80頁WestlawJapan文献番号2006WLJPCA05300007)は、いずれも違法であるとされた。
これらの先例と比較すると、本件条項は明け渡したとみなされる状況を具体的に示しており、本件条項で定めているような状態であれば占有権が消滅したと判断できるようにも考えられる。しかし、そもそも本件4要件を満たした場合に占有権が消滅したとすることが妥当であるか、検討が必要である。
Ⅳ 本件4要件を満たした場合に占有権が消滅したとする解釈の妥当性について
占有権は、民法203条で「占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する」旨定められている。もっとも、占有意思を放棄するだけで占有権が消滅するということは想定できないため、占有意思の解釈をめぐり学説上争いはあるものの、「物を所持するという外部的事実をそのままにして、占有権を消滅させるには、積極的にその意思表示をなすことを要し(一種の公示的作用を果たす)、単に意思不存在では足りない※3」と解されている。この点、控訴審は「積極的に賃借物件を占有する意思を放棄する旨の意思表示をしない限り占有権は失われないものと解される」としつつも、「客観的・外形的な事実から占有の放棄の意思表示を推認することが許容されないと解することはできない」として、本件4要件を満たす場合に占有権は消滅したと判断できる旨判示した。
しかし、居住用の賃借物件及びその中にある動産類については、他の物品と異なり、単に使用していないという外形的事実を根拠に占有権の放棄を判断することについて慎重であるべきと考える。すなわち、家賃等の支払いを怠っている原契約賃借人は積極的に支払わないのではなく、支払いたくても支払うことができない状況である場合がほとんどであり、そのような原契約賃借人は公共料金も滞納し電気・ガス等が止められており(したがって一時的に友人知人を頼るなどして家を空けることが多くなる)、家賃等の督促を避けるために郵便物について確認せず、また賃貸人などからの連絡も無視して連絡を取らないようにするのが通常である。また、原契約賃借人が明示的に異議を唱えた場合は格別である旨定めてはいるものの、債務の取立てを避けるために連絡を取ることすらしない原契約賃借人が、「明示的に」異議を唱える可能性は低く、この例外の意味は実質的にはあまりないと思われる。ゆえに、このような状況を理由に賃借物件の占有権が消滅したとみなして明渡しを認めてしまうと、賃料や公共料金等を支払うことができない状況にまで追い込まれた原契約賃借人の生活の本拠を、法的な手続をとることなく一方的に奪うことにつながりかねないといえる。
これまで、賃貸建物に対する占有権侵害が争われたが違法性がないと判断された事例として、劇場内の売店を度々の督促にも関わらず賃貸借契約も締結せず使用もしないまま2年8カ月近く徒過した場合に「本件場所に対して事実上の支配を及ぼすべき客観的要件を喪失していた」とした事案(最判昭和30年11月18日ジュリ98号63頁WestlawJapn文献番号1955WLJPCA11180002)、賃料滞納後に休業し賃借人の行方が分からなくなったため契約を解除して戸口の鍵を取り換えた行為について、解除後でも任意に明渡しをしない限り本件建物に対する直接占有は依然として賃借人にある旨指摘しつつ、当該事案については解除に至るまでの経緯及び解除後の状況に鑑みて違法性はないとした事案(東京高判昭和51年9月28日判タ346号198頁WestlawJapan文献番号1976WLJPCA09280003)、また、任意で定めた明渡期日に建物の明渡しをせず、賃借人が引取りに応じないため、既に使用をやめていた事務所内部の物品を賃借人に連絡の上搬出し他の場所で保管した措置について、貸室の占有を違法に奪取したとはいえないとした事案(東京地判昭和62年3月13日判時1281号107頁WestlawJapan文献番号1987WLJPCA03131052)がある。これらの事案は、放置の期間が長かったり、賃貸借が終了し使用していない状況であったりしたのに加え、居住のための賃貸建物ではなく店舗や事務所としての建物使用であり、使用状況を的確に判断できる事案であった。これに対し、本件条項は居住用の賃貸借契約に適用される点に注意すべきである。使用されているとはいえないように見える状況があるとはいえ、上述のとおり債務の取立てを避けて生活を続けているような場合も十分に考えられる以上、積極的な放棄の意思表示がないにもかかわらず、生活の拠点である賃貸建物の占有権が消滅したと判断するのにわずか2カ月という期間は極めて短期であり、原契約賃借人の占有権を侵害する恐れがあると考える。確かに、本件条項は上述Ⅲで示したこれまでの自力救済条項と比較すれば詳細であるが、電気・ガス等の利用が停止しているとしても、それが止められているのか自ら一時停止したのか不明なこともあり、またゴミが散乱していたり、逆に物がほとんどなかったりするなど、当該住居を利用しているとは思えないような状態であったとしても、実は夜間に賃借人がこっそり戻ってきていたり、一時的に家を空けていてもいずれは戻る意思があることもある。個々具体的な場面においては、本件4要件の充足の解釈いかんにより、占有権が消滅したとはいえないことも生じうる。
また、控訴審は、占有権を放棄したとみなす際に、前提となっている賃貸借契約も当然に終了するのが自然かつ合理的としている。その理由として、本件4要件を満たすことで原契約賃借人の賃借物件に対する占有権が消滅することを前提に、本件4要件を満たす場合は原契約賃借人が賃借物件の使用を終了する趣旨で占有する意思を放棄したと合理的に解されること、また仮に賃貸借契約が継続すると、原契約賃貸人は貸す義務を、原契約賃借人は債務不履行責任及び賃料債務を負い続けることになり、本件条項の趣旨に反することを挙げる。しかし、この根拠はいずれも原契約賃借人の占有権が消滅している場合に当てはまることであり、前述のとおり本件4要件を満たしたと保証会社が判断したとしても、具体的な場面では占有権が消滅したといえるのか疑問が残る以上、このような解釈についても問題があると考える。控訴審は、本件4要件を満たす場合はYに「原契約が継続している場合にはこれを終了させる権限を付与する趣旨の規定であると解するのが相当」と述べるが、本件条項に本件4要件を満たした際に原契約を解除するとみなす記載はない。このような解釈は原契約賃借人にとって大きな不利益をもたらすものである以上明文で定めるべきであり、また仮に解除の権限がある旨の規定を定めたとしても、一般的な解除規定を適用する場合に比して原契約賃借人の権利を制限し、また原契約賃借人の生活の本拠を法的手続をとらずに一方的に奪うことは信義則に反すると考えられるため、法10条に該当する可能性があると考える。
Ⅴ 違法な運用を招来するおそれと消費者契約法の適用について
控訴審は、Xからの本件条項の恣意的運用の可能性の指摘に対して、その可能性を認めつつも、「消費者契約法の目的及び規律の内容、仕組みに鑑みると、同法は、消費者契約の条項が同法10条により無効とされるか否かを、合理的な解釈により確定される当該条項の客観的規範内容それ自体が同条の要件に該当するか否かによって判断すべきものとしている」と述べたうえで、「当該条項の内容が事業者の誤った運用を招来するおそれがありそれによって消費者が不利益を受けるおそれがあることを理由に当該条項を無効とすることは、同法の予定しないところである」とした。
しかし、控訴審のように解すると、条項の内容が消費者契約法に触れさえしなければ、実際の運用が不適切になされる可能性があったとしても適格消費者団体は差止めを求めることができないことになり妥当ではない。また、原審では、Yに対する原契約の解除権付与条項が法10条後段に該当するかを検討するに際し、Yが国土交通大臣の定めた家賃債務保証業者登録規程に基づく登録をしており、原契約賃借人の権利を侵害する行為を行えばその登録の取消し等の不利益を受けることが想定されるとして、条項の運用面も勘案して法10条の該当性を否定していた。法1条が「消費者の被害の発生又は拡大を防止するため」適格消費者団体が事業者に対し差止請求を認めた目的から考えると、条項の客観的な文言及びその一般的な解釈に限定して法適用を判断する必要性はなく、その条項が適用される具体的な場面における違法な運用の恐れも勘案することが、むしろ法の趣旨にかなうと考える。とりわけ本件条項で想定している具体的場面は、家賃等を滞納していつ契約を解除され追い出されるかもわからないという状況に陥った原契約賃借人に対して保証会社が明渡しを求めるという場合であり、保証会社による恣意的な適用の恐れが高い状況であるといえる。仮に恣意的な運用がなされたとしても、原契約賃借人が法的救済を求めれば、必然的に自身が滞納した家賃等の弁済も問題となるため、事後的に法的救済を求めることは事実上極めて困難であると予想されるだけに、事業者による消費者の権利の侵害を未然に防ぐ必要がある。本件条項は、事後的に法的責任を問われる可能性がほとんどないという実情を分かっている保証会社による、自力救済の禁止に反する明渡しを助長することにつながりかねない。そもそも本件4要件に該当するような場合、原契約賃貸人は法的な手続をとれば賃貸借契約を解除し明渡しを求めることが可能である。それにもかかわらず、本件条項を定めるYや原契約賃貸人の意図は、Xの指摘するとおり、民事訴訟手続や民事執行手続を経ずに明渡債務の履行を得ることにあると考えられ、これを認めることは、契約時の合意を根拠として、一私人が債務名義もなく自身の判断で強制執行をすることを認めるに等しいといえる。
また、控訴審が法の適用を否定した実質的理由として、本件4要件を満たす以上はすでに建物を使用していないという前提に立ち、事業者によって違法な自力救済がなされる危険性を否定できないとしても、「そのことによる不利益の程度は必ずしも大きいとはいえず、限定的なものにとどまる」と解した点があると思われる。しかし、違法に明渡しが実行されてしまった場合に、新しい住所や居所がなく、そのままホームレスとなる可能性もある。実生活において、就職や銀行口座開設、賃貸借契約、運転免許証更新などの場面で居住関係の公証が求められるほか、住民基本台帳7条で定める住民票の記載内容として、①マイナンバー、②選挙人名簿の登録、③国民健康保険、後期高齢者医療、介護保険、及び国民年金の被保険者の資格等があり、住所を失うことは、行政の支援から漏れてしまうだけではなく、自身で生活を維持していくに際して大きな障害となり得る。それだけに、生活の拠点を消滅させる明渡しに際しては、公正な判断に基づく適正な手続の必要性が極めて高いといえる。
もっとも、このように解した結果、賃料等を保証した保証会社に事実上回収見込みのない家賃債務の保証を求めることになり、一定の経済的損失が生じることは避けられない。しかし、保証会社はそのようなリスクを考慮の上で業として賃貸借契約の賃料等の保証をしている「事業者」であり、個人の賃貸人が明渡しを求める事案とは当事者の法的な性質が異なる。保証会社は、明渡しに必要となる手続の時間や費用、またその間の滞納賃料等を予め想定することが可能な「事業者」である以上、家賃等を滞納した原契約賃借人を早期に追い出して損失を避けるのではなく、必要とされるコストを計算したうえで手数料や保証料を定めることでリスクを回避すべきであると考える。
Ⅵ おわりに
本件4要件を満たすような場合は、控訴審が指摘しているように、本来求められている手続により原賃貸借契約を解除し、通常の明渡手続をとることが可能である。それにもかかわらず本件条項を規定する狙いは、上述のとおり建物の明渡し及び中の動産類を速やかに搬出して次の賃借人に貸与できるようにすることにあるといえる。このように、本件条項による明渡しは、本来であれば民事執行手続によるべきものを私人が実施することになり、自力救済行為であって、法的手続によることのできない必要性緊急性の存するごく例外的な場合を除いて不法行為に該当すると考えられる。したがって、原審の判断と同じく、その場合に生じるであろうYの賠償責任をあらかじめ免除することを定める上述ⅰ)~ⅲ)の条項とあわせて考えた場合に、法8条1項3号により無効であると解するべきと考える。
(掲載日 2021年8月6日)