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文献番号 2021WLJCC010
関西大学会計専門職大学院 教授
中村 繁隆
1.はじめに
令和3年3月11日、最高裁は、法人税法施行令(平成26年政令第138号による改正前のもの。以下、施行令という)23条1項3号(現行は4号。以下同じ)が法人税法24条3項の委任の範囲を超えて違法・無効である、と判示した。
従前より、施行令23条1項3号の資本の払戻しに関するプロラタ計算※3において、マイナスの利益積立金額の場合に生じる課税上の結果については、それらを問題視する見解が有力ではあった※4が、立法論としてはともかく、解釈論としては、マイナスの利益積立金額がもたらす課税上の結果を認める他ないであろう、といわれていた※5。
本コラムでは、違法・無効であると判示した最高裁の判断を紹介しつつ、若干の検討を行うものである。
2.事案の概要
内国法人である原告(被控訴人・被上告人。以下、同じ)は、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの連結事業年度(以下、本件連結事業年度という)において、外国子会社から、わが国の会社法上(以下、わが国の会社法を単に会社法という)、資本剰余金及び利益剰余金に相当する各金額を原資とする剰余金の配当を受けた。
原告は、上記の資本剰余金を原資とする配当については、法人税法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。以下では、この法人税法を単に法ということがある)24条1項3号(現行は4号。以下同じ)にいう資本の払戻しの一態様である「剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る)」に当たり、上記の利益剰余金を原資とする配当については、法23条1項1号にいう「剰余金の配当(・・・資本剰余金の額の減少に伴うもの・・・を除く)」(具体的には利益剰余金を原資とする配当)に当たることを前提として、それぞれにこれら各法条を適用した上で、京橋税務署長に対し、本件連結事業年度の法人税の連結確定申告をした(以下、本件申告という)。
なお、法24条1項3号は、配当の額の一定範囲(配当を行った法人の「株式に対応する部分の金額」〔以下、株式対応部分金額という〕を超える部分の金額)についてこれを法23条1項1号に掲げる金額とみなして(この金額は「みなし配当」と称される)益金に算入しないものとしたものであり、同条3項は、その計算方法等の定めを政令に委任し、この委任を受けて、施行令23条1項3号がその計算方法等について定めている。そして、上記みなし配当を除いた金額(株式又は出資に対応する部分の金額)については、法61条の2第1項1号にいう有価証券の譲渡に係る対価の額として認識される(法61条の2第1項)。
京橋税務署長は、平成26年4月28日付けで、上記の各剰余金の配当について、各決議日や効力発生日が同一であることなどを理由として、その全額が法24条1項3号の「資本の払戻し(剰余金の配当〔資本剰余金の額の減少に伴うものに限る〕)」に該当するとして、原告に対し、法人税の更正処分(以下、本件更正処分という)をした。原告は平成26年6月27日、国税不服審判所に本件更正処分についての審査請求をしたが、これを棄却する裁決を受けたため、平成27年8月21日に本件更正処分の取消しを求めて提訴した。第一審※6は原告の請求を認容、控訴審※7も国側の控訴を棄却した。
本事案の争点は、2点である。第一は、資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当(混合配当)が、法24条1項3号にいう「資本の払戻し」に該当するか否かである。第二は、施行令23条1項3号が法24条3項の委任の範囲を超えない適法なものか否かである。
3. 最高裁の判断
まず、最高裁は第一の争点について、「・・・会社法における剰余金の配当をその原資により区分すると、①利益剰余金のみを原資とするもの、②資本剰余金のみを原資とするもの及び③利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とするものという3類型が存在するところ、法人税法24条1項3号は、資本の払戻しについて「剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)・・・」と規定しており、これは、同法23条1項1号の規定する「剰余金の配当(・・・資本剰余金の額の減少に伴うもの・・・を除く。)」と対になったものであるから、このような両規定の文理等に照らせば、同法は、資本剰余金の額が減少する②及び③については24条1項3号の資本の払戻しに該当する旨を、それ以外の①については23条1項1号の剰余金の配当に該当する旨をそれぞれ規定したものと解される。したがって、利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当は、その全体が法人税法24条1項3号に規定する資本の払戻しに該当するものというべきである・・・」と述べた上で、「・・・利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当について、利益剰余金を原資とする部分には法人税法23条1項1号が適用されるとした原審の判断には法人税法の解釈を誤った違法がある」と判示した。
次に、最高裁は第二の争点について、「・・・法人税法24条3項の委任を受けて株式対応部分金額の計算方法について規定する・・・施行令23条1項3号は、会社財産の払戻しについて、資本部分と利益部分の双方から純資産に占めるそれぞれの比率に従って比例的にされたものと捉えて株式対応部分金額を計算しようとするもので・・・この計算方法の枠組みは、前記の同法の趣旨に適合するものであるということができる。しかしながら、簿価純資産価額が直前資本金額より少額である場合に限ってみれば、上記の計算方法では減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出されることとなり、利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当において上記のような直前払戻等対応資本金額等が算出されると、利益剰余金を原資とする部分が資本部分の払戻しとして扱われることとなる。 そうすると、株式対応部分金額の計算方法について定める・・・施行令23条1項3号の規定のうち、資本の払戻しがされた場合の直前払戻等対応資本金額等の計算方法を定める部分は、利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当につき、減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出される結果となる限度において、法人税法の趣旨に適合するものではなく、同法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである・・・」と判示した。
4. 最高裁判決の検討
4.1. 第一の争点に対する判示について
最高裁は、法人税法24条1項3号と同法23条1項1号が対になった規定であること、及び、剰余金の配当が原資の区分では3類型であることを根拠として、混合配当の全額を法人税法24条1項3号の資本の払戻しに該当すると判断し、原審の判断には法人税法の解釈を誤った違法があると判示した。ちなみに、控訴審判決は、「・・・例外として、資本剰余金と利益剰余金の双方を同時に減少して剰余金の配当を行った場合において、いずれの配当が先に行われたとみるかによって課税関係に差異が生ずるものについては、これを「資本の払戻し」と整理し、同配当は同号(法24条1項3号。筆者注)の規律に服すると解するのが相当である」と判示していた。
なお、今回の最高裁の判断は、第一審の判断と同様の結論であるが、混合配当が具体的にどのような状況下で行われれば、「同時」配当としてその全額が法人税法24条1項3号の資本の払戻しに該当するのか言及されていない、との指摘※8がある。
4.2. 第二の争点に対する判示について
第二の争点については、第一審、控訴審の判断が維持された格好である※9。ただ、控訴審判決では、「念のため、仮に、本件配当全体について法24条1項3号が適用されると解した場合には、施行令23条1項3号の適用が法24条3項による委任の範囲を逸脱するものであるかについて検討する」とされている点に留意すべきである。なぜなら、第一の争点に対する控訴審判決からは、第二の争点は生じないからである※10。
なお、原告の本件申告自体も、みなし配当がなく、第二の争点は生じていなかった※11。
5. おわりに
本事件は、第一審から最高裁と同様に、施行令23条1項3号の違法・無効が判示されていたため、予てより関係者の耳目を集めてきていた※12。
本コラムでの検討から、施行令23条1項3号の規定が違法・無効とされた理由は、混合配当の全額を資本の払戻しと判示したことと、払戻法人の利益積立金額がマイナスであったことが組み合わさって、減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出される結果になったためであると考えられる※13。
今回の最高裁の判断を受けて、「政令改正を含めた今後の国側の対応が注目される」との指摘がある※14。従前より問題視されてきたプロラタ計算におけるマイナスの利益積立金額への対応だけでなく、混合配当が「同時」配当と取り扱われる基準の明確化も必要と思われる。
(掲載日 2021年5月17日)