判例コラム

便利なオンライン契約
人気オプションを集めたオンライン・ショップ専用商品満載 ECサイトはこちら

 

第194号 CG描画画像の「児童ポルノ」該当性

~最決令和2年1月27日 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件※1

文献番号 2020WLJCC006
日本大学大学院法務研究科 客員教授
前田 雅英

Ⅰ 判例のポイント

 本件は、1980年代の「少女ヌードモデルの写真集」をCGとして再現・補完して、そのデジタルデータをネット上で販売したとして起訴された事案である。
 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成11年11月1日施行)2条3項は、「この法律において「児童ポルノ」とは、写真、ビデオテープその他の物であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。」として3号で、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したもの」と規定し、7条2項で、電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノなどの製造などを処罰している。
 本件で問題となった画像(電磁的記録)は、性器を露出した少女の裸体写真そのもののようにも見えるが、CGを用いて描画(加工)された画像であり、被告人側は、同法2条3項の「写真」には該当せず、同法2条3項の3号の児童ポルノに該当しないと争った事案である。

Ⅱ 事実の概要

 被告人は、不特定又は多数の者に提供する目的で、平成21年12月13日頃、岐阜市内の被告人方において、衣服を付けない実在する児童の姿態が撮影された画像データを素材とし、画像編集ソフトフォトショップ等を使用して前記児童の姿態を描写した画像データ3点を含む同ファイルを被告人のパーソナルコンピュータの外付けハードディスク内に記憶、蔵置させ、もって衣服の全部を着けない児童の姿態であって性欲を刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造したという公訴事実であった※2
 第1審の東京地判平成28年3月15日(判時2335-105・WestlawJapan文献番号2016WLJPCA03156003)は、CGの画像データに係る記録媒体であっても同法2条3項にいう「児童ポルノ」に当たり得、また、同画像データは同法7条4項後段の「電磁的記録」に当たり得るというべきであるとし、「同法2条3項柱書及び同法7条の「児童の姿態」とは実在の児童の姿態をいい、実在しない児童の姿態は含まないものと解すべきであるが、被写体の全体的な構図、CGの作成経緯や動機、作成方法等を踏まえつつ、特に、被写体の顔立ちや、性器等(性器、肛門又は乳首)、胸部又は臀部といった児童の権利擁護の観点からしても重要な部位において、当該CGに記録された姿態が、一般人からみて、架空の児童の姿態ではなく、実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には、実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき」、処罰の対象となるとし※3、本件画像データもこれに当たるとして、懲役1年及び罰金30万円(執行猶予3年)を言い渡した。
  控訴審の東京高判平成29年1月24日(WestlawJapan文献番号2017WLJPCA01246001)も、CG画像データも児童ポルノに該当し得るとし、児童ポルノ法は、「被写体となった児童の心身に有害な影響を及ぼすだけでなく、このような行為が社会に広がるときには、児童を性欲の対象として捉える風潮を助長することになるとともに、身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長にも重大な影響を与えることから、これらの行為を処罰するというものである。・・・「児童の姿態」とは、架空の児童は含まれず、実在する児童の姿態をいうと解すべきである。その判断については、当該CGに記録された児童の姿態が、一般人からみて、架空の児童の姿態ではなく、実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には、実在の児童とCGで描かれた児童とが同一であると判断できるから、「児童ポルノ」として処罰の対象となる」として、被告人を有罪とした(罰金30万円)※4
  それに対し、被告人側は、過去の写真集を基にしたCGは、児童ポルノに当たらない等と主張して、上告した。

Ⅲ 判旨

 「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの。以下「児童ポルノ法」という。)2条1項は、「児童」とは、18歳に満たない者をいうとしているところ、同条3項にいう「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、同項各号のいずれかに掲げる実在する児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいい、実在しない児童の姿態を描写したものは含まないものと解すべきである。
 原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば、被告人は、昭和57年から同59年にかけて初版本が出版された写真集に掲載された写真3点の画像データ(以下、上記写真3点又はそれらの画像データを「本件各写真」という。)を素材とし、画像編集ソフトを用いて、コンピュータグラフィックスである画像データ3点(以下「本件各CG」という。)を作成した上、不特定又は多数の者に提供する目的で、本件各CGを含むファイルをハードディスクに記憶、蔵置させているところ(以下、被告人の上記行為を「本件行為」という。)、本件各写真は、実在する18歳未満の者が衣服を全く身に着けていない状態で寝転ぶなどしている姿態を撮影したものであり、本件各CGは、本件各写真に表現された児童の姿態を描写したものであったというのである。
 上記事実関係によれば、被告人が本件各CGを含むファイルを記憶、蔵置させたハードディスクが児童ポルノであり、本件行為が児童ポルノ法7条5項の児童ポルノ製造罪に当たるとした第1審判決を是認した原判断は正当である。
 所論は、児童ポルノ法7条5項の児童ポルノ製造罪が成立するためには、児童ポルノの製造時において、当該児童ポルノに描写されている人物が18歳未満の実在の者であることを要する旨をいう。しかしながら、同項の児童ポルノ製造罪が成立するためには、同条4項に掲げる行為の目的で、同法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した物を製造すれば足り、当該物に描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることを要しないというべきである。」(強調部分は筆者による。)

Ⅳ コメント

  •  本件事案については、その第1審の有罪判決について、判例コラム91号(文献番号2016WLJCC029)で既に紹介した。上告審における争点は、「描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることを要するか否か」であり、判例は、「要しない」としたのである。
  •  被告人側は、児童ポルノ法の処罰規定の保護法益が、「純然たる児童の個人的法益」に限定されるとし、同法の「児童の姿態」という文言に、「大人の、児童であった時の姿態」を含むと解釈するのは無理であり、罪刑法定主義に反すると主張した。また、同法7条3項の製造罪は、行為者が児童に当該姿態をとらせて児童ポルノを製造した場合を規定しているから、製造の時点で被写体は18歳未満でなければならず、もし製造の時点で18歳未満であることを要しないと解すると、製造時においては既に実在しない児童を「児童」に含めて保護することになってしまうと主張した。それと関連して、本件の場合、児童ポルノの製造等を禁止する児童ポルノ法が施行された時点で、既にその被写体が児童でなくなっていた以上、そのような者についてまで「児童」に当たるとして、その製造行為等を処罰することは、刑罰規定不遡及の原則に反するとも主張した。
  •  たしかに、本件3画像の素材画像となった写真については、1980年代前半に初版本が出版されたものと認められ、その頃撮影されたものと推認され、本件3画像は、これらを基にCGとして描かれているので、実行行為時には、描写されている人物が未成年者でないことは明らかである。しかし、製造行為時に画像の素材となった者が18歳未満であることを要するか否かは、法の目的及び趣旨に照らして解釈すべき問題である。
  •  児童ポルノ法1条は、「児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする」と規定している。たしかに、児童ポルノ法は、直接的には、児童の権利保護を目的として制定されたものであるが、被写体となった児童の承諾がある場合でも、児童ポルノの製造罪は成立する。法の目的・趣旨が「被害者の個人法益のみを護る犯罪」を超えて、パターナリスティックな視点も含まれていることは否定できない。
  •  そのような観点から見ると、本件控訴審の「同法の児童ポルノに対する規制の在り方に鑑みると、同法が保護法益とする児童の権利は、児童の実在性が認められることを要するという意味で具体性を備えている必要はあるものの、個別の児童の具体的な権利にとどまるものではなく、およそ児童一般の保護という社会的法益と排斥し合うものとは解されない。さらに、同法は、身体的、精神的に未熟で、判断能力が十分に備わっていない児童を性的搾取又は性的虐待から保護するという後見的な見地から、その権利を侵害する行為を規制することを予定しているものであり、児童の権利侵害を防ぐという同法の目的を達成するためには、現に児童の権利を侵害する行為のみならず、児童を性欲の対象としてとらえる社会的風潮が広がるのを防ぐことにより、将来にわたって児童に対する性的搾取ないし性的虐待を防ぐことが要請されるというべきである。この意味において、同法の規制の趣旨及び目的には、社会的法益の保護も含まれるといえるのであって、所論がいうように、純然たる児童の権利保護のみを目的とするものとみるのは相当でないといわざるを得ない」として「同法が一種の社会的法益を保護する側面を有するとみることは、児童に対する性的搾取及び性的虐待を防ぐという、同法の本来の目的※5に沿うもの」いう判示は、説得性の高いものといえよう。
     その製造の時点で被写体等となった者が18歳になった時点で、処罰ができなくなるとするのは、明らかに不当である。どの程度の時間経過があった場合にまで処罰の対象にするかは、法の目的、児童ポルノ処罰への国民の意識を踏まえて実質的に判断されなければならない。
  •  児童ポルノ法施行以前に実在した児童を描いた行為を罰するのは「遡及処罰」ではないかとの弁護側の主張は、説得性を欠く。CGを作成した実行行為時には、児童ポルノ法が施行されており、一般人も、そして被告人も、同法の処罰規定の違法性を十分意識し得る事実を認識していたといえよう。
     罪刑法定主義の観点からは、CGは、対象物をフィルムにそのまま写し取った写真とは本質的に異なり、デジタル技術を用いて「描画」したもので、「絵」であるという主張が重要であった。しかし、本件の第1審以来の議論、その評釈を通じて、CGも本法の規制の対象となり得ることはほぼ確定したといえよう。
     しかし、従来のカメラでも、撮影時の絞り、シャッタースピード、各種フィルター、現像の仕方などで、画像は「創作」されるという面がかなりある。まして、デジタルカメラの時代に入り、その画像を保存する際、そしてそれを記憶媒体に保存する際に、画像をぼかしたり、輪郭を強調したりすることは自由に行い得る。その意味では、CGに類する作業が、一般の写真にも存在し得るのである。
     その意味で、第1審、控訴審が指摘した「一般人であれば、写真に見紛う程に精緻に描かれたもの」は児童ポルノたり得る。「一般人という基準は曖昧で、罪刑法定主義に反する」という主張は、「法解釈が、最終的には一般人(国民)の規範意識に則ったものでなければならない」ということを否定するものなのである。
  •  弁護側は、第1審から一貫して、本件画像には「芸術性」が存在すると主張しているようであるが、刑法175条に比し、児童ポルノの場合に、芸術性によって違法性が阻却される余地は少ない。そして本件画像を見る限り、特段の芸術性を認定することは不可能である。まして、本件で問題となった画像の元となった「写真集」は、過去に立件されたことのあるものであり、本件行為の正当化の余地はないといえよう。


(掲載日 2020年2月14日)

  • 本決定の詳細は、最一小決令和2年1月27日WestlawJapan文献番号2020WLJPCA01279001を参照。
  • 第1審では、aにその販売を委託し、3回にわたり、同サイトを閲覧した不特定の者に対し、前記コンピュータグラフィックス集を販売し、同人らに、インターネットに接続された同人らが使用するパーソナルコンピュータのハードディスク内に前記ファイル中の画像データをダウンロードさせ、もって不特定又は多数の者に児童ポルノを提供したという公訴事実についても、有罪とされた。
  • そして、第1審は、複数の写真を利用して作成した合成写真、コラージュも、「Aという児童の顔にBという児童の裸の身体の写真を合成したものであっても、Bという児童が実在する限り、当該画像は、Bという「実在の」児童の姿態を描写したものであって、「児童ポルノ」に該当する」とした。
  • 第1審の認めた「児童ポルノ提供罪」の事実は認定できないとし、さらに「本件3画像の素材画像となる写真が撮影されたのは、前記のとおり、昭和57年ないし昭和59年頃であり、本件3画像は、その当時児童であった女性の裸体を、その約25年ないし27年後にCGにより児童ポルノとして製造されたものであって、本件各行為による児童の具体的な権利侵害は想定されず、本件は、専ら児童を性欲の対象とする風潮を助長し、将来にわたり児童の性的搾取及び性的虐待につながるという点において、違法と評価されるにとどまることなどを考慮すると、違法性の高い悪質な行為とみることはでき」ないとして罰金30万円を言い渡した。
  • この点に関し控訴審は、法文に依拠した論拠として、平成26年の法改正で新設された、「児童ポルノの所持罪は、児童ポルノの市場が形成され、そこで児童ポルノが流通することを防止するなどの趣旨で設けられたものであるところ、このような規制は、将来にわたる性的搾取及び性的虐待を防止するという目的を達成するものといえるのに対し、児童の権利保護の観点からは、根拠づけることが困難であるというべきである。同条1項の罪は、国内外における法規制の要請の高まりを受けて、本件行為後の平成26年の法改正で新設されたものではあるが、上記改正によって児童ポルノ法の趣旨及び目的が変質したと考えるべきではなく、上記改正以前から、もともとあった同法の趣旨及び目的をより効果的に達成するために設けられたものと解すべきである」と判示している。

» 判例コラムアーカイブ一覧