判例コラム

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第177号 特許法102条2項(侵害者利益の推定)における利益の意義、推定の覆滅と、同条3項(相当実施料額賠償)の相当実施料額の算定について 

~二酸化炭素含有粘性組成物事件知財高裁大合議判決(令和元年6月7日判決言渡)の検討~

文献番号 2019WLJCC022
東京大学大学院法学政治学研究科 教授
田村 善之

1 はじめに

 本コラムが扱うのは、知財高裁大合議部判決令和元年6.7平成30(ネ)10063(WestlawJapan文献番号2019WLJPCA06079001)[二酸化炭素含有粘性組成物]である。判示事項は多岐にわたるが※1、そのうち、本稿では、侵害者利益額を推定する特許法102条2項における推定されるべき利益額の意義とその推定の覆滅過程、そして、相当実施料額賠償を定める同条3項の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額」の算定に関する判示事項を取り上げる。

2 事実

 本件は、名称を「二酸化炭素含有粘性組成物」とする発明※2 に係る2件の特許権を有する原告(被控訴人)が、被告(控訴人)らが製造、販売する炭酸パック化粧料(「被告各製品」)は上記各特許権に係る発明(「本件各発明」)の技術的範囲に属し、それらの製造、販売が上記各特許権の直接侵害行為に該当するなどと主張して、損害賠償等を求めたという事件である※3
 原判決(大阪地判平成30.6.28平成27(ワ)4292(WestlawJapan文献番号2018WLJPCA06289005)[二酸化炭素含有粘性組成物])は、侵害を肯定し、損害額に関しては、特許法102条2項の推定を認め(他方、推定の(一部)覆滅は認めず)、また同条3項の賠償額を算定し、そのうえで、被告毎にいずれか高い金額のほうの賠償額を認容した。被告らが控訴。

3 判旨

 1) 特許法102条2項について
 ① 特許法102条2項の趣旨
 「特許法102条2項は、「特許権者…が故意又は過失により自己の特許権…を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者…が受けた損害の額と推定する。」と規定する。特許法102条2項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。」
 「そして、特許法102条2項の上記趣旨からすると、同項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額とは、原則として、侵害者が得た利益全額であると解するのが相当であって、このような利益全額について同項による推定が及ぶと解すべきである。もっとも、上記規定は推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で上記推定は覆滅されるものということができる。」
 ② 侵害行為により侵害者が受けた利益の意義について
 「特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は、侵害者の侵害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。」
 ③ 控除すべき経費について
 「前記のとおり、控除すべき経費は、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったものをいい、例えば、侵害品についての原材料費、仕入費用、運送費等がこれに当たる。これに対し、例えば、管理部門の人件費や交通・通信費等は、通常、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費には当たらない。」
 具体的な当てはめについては、裁判所は「原材料費、仕入費用及び運送費等控除すべき経費」として当事者間に争いがない費用と、被告製品の防腐、防カビ試験に関する費用、被告製品についてのプロモーション代の控除は認めたものの、その他の人件費や宣伝広告費等については被告製品に係るものであるのか不明であることなどを理由に、被告製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費とは認めず、その控除を否定した。
 ④ 推定覆滅事由について
 「特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1項ただし書の事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば、〔1〕特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性)、〔2〕市場における競合品の存在、〔3〕侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、〔4〕侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について、特許法102条1項ただし書の事情と同様、同条2項についても、これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができるものと解される。また、特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても、推定覆滅の事情として考慮することができるが、特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当である。」
 具体的な当てはめについては、裁判所は、控訴人が主張した推定覆滅事由を、悉く退けている。その主立ったものを紹介すると、以下のようになる。
 第一に、炭酸ガスを利用したパック化粧料全てが競合品であることを前提に、他の炭酸パック化粧料の存在が推定覆滅事由となる旨の主張に対しては、「そもそも、競合品といえるためには、市場において侵害品と競合関係に立つ製品であることを要するものと解される」との一般論を説いたうえで、化粧料における剤型は、簡便さ、扱いやすさのみならず、手間をかけることにより得られる満足感等にも影響するものであり、各消費者の必要や好みに応じて選択されるものであるから、剤型を捨象して広く炭酸ガスを利用したパック化粧料全てをもって競合品であると解するのは相当ではない旨を説き、これを退けた。控訴人が競合品であると主張する製品の販売時期や市場占有率等が不明であることも指摘されている。
 第二に、被告各製品が利便性に優れているとか、被告各製品の販売は控訴人らの企画力・営業努力によって成し遂げられたものである旨の主張に対しては、「事業者は、製品の製造、販売に当たり、製品の利便性について工夫し、営業努力を行うのが通常であるから、通常の範囲の工夫や営業努力をしたとしても、推定覆滅事由に当たるとはいえない」との一般論を説いたうえで、控訴人らが通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力をしたとは認められないとして、これを退けた。
 第三に、被告各製品は原告製品に比べて顕著に優れた効能を有する旨の主張に対しては、「侵害品が特許権者の製品に比べて優れた効能を有するとしても、そのことから直ちに推定の覆滅が認められるのではなく、当該優れた効能が侵害者の売上げに貢献しているといった事情がなければならないというべきである」との一般論を説いたうえで、被告各製品が原告製品に比して顕著に優れた効能を有し、それが売上げに貢献しているといった事情は認めるには足りないとして、これを退けた。
 第四に、被告各製品が控訴人の一人が有する特許発明の実施品であり、これらの特許発明の寄与を考慮して損害賠償額が減額されるべきである旨の主張に対しては、「侵害品が他の特許発明の実施品であるとしても、そのことから直ちに推定の覆滅が認められるのではなく、他の特許発明を実施したことが侵害品の売上げに貢献しているといった事情がなければならないというべきである」との一般論を説いたうえで、そもそも被告各製品が他の特許発明の実施品であると認めることができないとして、これを退けた。なお、被告各製品の中には、上記特許権の存在や、特許取得済みであることを外装箱に表示したり、宣伝広告に表示したりしているものがあったが、「特許発明の実施の事実が認められない場合に、その特許に関する表示のみをもって推定覆滅事由として考慮することは相当でない」とも判示している。

 2) 特許法102条3項(実施に対し受けるべき金銭の額の賠償)について
 ① 特許法102条3項の趣旨
 「特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。」
 「特許法102条3項は、「特許権者…は、故意又は過失により自己の特許権…を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定する。そうすると、同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。」
 ② その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額について
 「特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」については、平成10年法律第51号による改正前は「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められていたところ、「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして、同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。
 特許発明の実施許諾契約においては、技術的範囲への属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で、被許諾者が最低保証額を支払い、当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し、技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には、侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして、上記のような特許法改正の経緯に照らせば、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
 したがって、実施に対し受けるべき料率は、〔1〕当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、〔2〕当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、〔3〕当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、〔4〕特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきである。」
 具体的な当てはめについては、以下のように論じて、実施に対し受けるべき料率は10%であると帰結した。
 「〔1〕本件訴訟において本件各特許の実際の実施許諾契約の実施料率は現れていないところ、本件各特許の技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率が、国内企業のアンケート結果では5.3%で、司法決定では6.1%であること※4 及び被控訴人の保有する同じ分野の特許の特許権侵害に関する解決金を売上高の10%とした事例があること※5 、〔2〕本件発明1-1及び本件発明2-1は相応の重要性を有し、代替技術があるものではないこと、〔3〕本件発明1-1及び本件発明2-1の実施は被告各製品の売上げ及び利益に貢献するものといえること、〔4〕被控訴人と控訴人らは競業関係にあることなど、本件訴訟に現れた事情を考慮すると、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率は10%を下らないものと認めるのが相当である。なお、本件特許権1及び本件特許権2の内容に照らし、一方のみの場合と双方を合わせた場合でその料率は異ならないものと解すべきである。」

 3) 特許法102条2項と同条3項の損害額の関係
 原告(被控訴人)は、特許法102条2項に基づいて算定する損害額と、同条3項に基づいて算定する損害額を選択的に主張していた。裁判所は、各被告について2項による損害額と3項による損害額のいずれか高い方の額を損害額と認めた。

 4) 結論
 以上のようにして算定された金額に、その1割の金額が弁護士費用として加算された金額が賠償額であるとされ、結論として、損害賠償請求に関しては、これと同額を認めていた原判決が維持され、控訴が棄却された。

4 評釈

 1) はじめに
 特許法102条について判示した知財高裁の大合議判決としては、本判決に先立って、知財高大判平成25.2.1判時2179号36頁(WestlawJapan文献番号2013WLJPCA02019001)[ごみ貯蔵機器] があるが、同判決は、侵害者利益による推定を定める特許法102条2項の推定に関して、「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められる」とは説いたものの、その推定の覆滅については「特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は、推定された損害額を覆滅する事情として考慮されるとする」と説くのみで、それ以上に覆滅の過程を解明することを控えていた。
 これに対し、本判決は、まず、特許法102条2項の利益の意義、控除すべき費用、推定の覆滅について一般論を説くとともに、具体的な当てはめを行っている点に特徴がある。また、前掲知財高判[ごみ貯蔵機器]では扱われなかった特許法102条3項の賠償額の算定についても一般論の展開と具体的な算定をなしている点も重要である。

 2) 侵害者利益の推定(特許法102条2項)について
 ① 「侵害行為による利益」の意義
 特許法102条2項は、特許権侵害者が「侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額」を権利者の損害額と推定すると定めており、権利者が同項の推定を受けるためには、文言上、侵害者の「侵害行為による利益の額」を主張、立証することにより同項の推定を受ける額としているように読めるが、その意義については、見解が分かれていた。
 当初、有力に主張されたのは、ここにいう「侵害行為による」利益の意味を、事実的因果関係の問題ととらえ、侵害者がかりに侵害行為に及ばなかったと仮定した場合にありうべかりし財産状態と比較して、侵害行為に及んだことに現実に到達した財産状態の差額であるという見解であった※7
 しかし、この見解を字義どおりに受け取ると、特許権者は、侵害者の現実の利益額ばかりでなく、侵害がなかったとした場合の仮定的な利益の額までをも立証しない限り、同項の推定規定の恩恵を享受しえないことになる。特許法102条2項の推定規定は、権利者が侵害行為により受けた自己の逸失利益(=現実の権利者の財産状態と、侵害がなかったと仮定した場合にありうべかりし権利者の財産状態との差額)を証明することが困難であるために、その救済規定として設けられたのだというのが通説的な理解であるが、そうだとすれば、同項は自己の仮定的な財産状態を証明することすら権利者にとって困難であると判断していることになるから、その同項自身が返す刀でその適用にあたって相手方である侵害者の仮定的な財産状態の立証を要求するはずがない※8
 特許法102条2項をしてこのような自己矛盾に陥ることがないようにするためには、侵害行為による利益は、単純に、特許発明の実施行為により得られた現実の利益、つまり、それが特許製品の製造であるならば製造から得られた利益、販売であるならば販売により得られた利益のことを指し、そこから侵害がなかったとした場合の仮定的な利益を控除するには及ばないと解すべきである※9
 この点に関して、本判決は、以下のように判示している。

 「特許法102条2項の上記趣旨からすると、同項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額とは、原則として、侵害者が得た利益全額であると解するのが相当であって、このような利益全額について同項による推定が及ぶと解すべきである。」

 本件は、「侵害行為による」利益の意味が争点となった事件ではなく、仮定的な財産状態との比較が求められたわけでもなく、そのためか本判決はこうした説示をなした理由を詳しく語らない。しかし、それにも関わらず、「特許法102条2項の・・・趣旨」からすると、2項の額は「侵害者が得た利益全額である」という言葉の選択に、一部に存在した自己撞着的な解釈をとらないことを大合議として明らかにしておきたいという意図を看取することができよう※10
 ところで、「侵害行為による利益」が論点として顕在化するのは、特許発明の実施部分が、侵害者が製造販売している製品の全体にわたるのではなく、その一部を占めるに過ぎない場合である。
 このような事案で、一部の学説や裁判例は「寄与率」(「寄与度」とも)なる概念を導入し、「侵害行為による利益」とは、侵害が寄与している利益のことを指しており、ゆえに、特許発明の実施部分が侵害製品の売上げに貢献している割合=寄与率を特許権者が主張、立証する必要があるという解釈論を採用していた。しかし、特許発明の実施部分がどの程度、侵害製品の売上げに貢献しているのか、ということを算定するということは、侵害製品から(他の代替部品に取り替えるなどして)特許発明の実施部分を取り除いたと仮定した場合にどの程度の売上げが見込まれ、それが特許発明を侵害したことによりどの程度、売上げが増したのか(あるいは変わらなかったか、はたまた減少したのか)ということを見極めるということにほかならない。ゆえに、先ほど述べたとおり、2項を自己撞着的な解釈から救うためには、そのような「寄与率」なるものの証明責任を権利者が負担すると解することは許されず、ただ特許発明を部分的に実施しているに過ぎないという事情は、それがゆえにそのような侵害部分がなくとも一定の利益が得られたであろうという事情として、推定覆滅事由として顧慮されるに止まると解すべきである 。こうした趣旨を踏まえてのうえであれば、「(非)寄与率」なる概念を持ち込んで推定の覆滅過程を可視化することは可能ではあろう※12,13
 さて、本判決は、事案の解決とは無関係であったにも関わらず、一般論として、次のように説く。

 「特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても、推定覆滅の事情として考慮することができるが、特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当である。」

 ここでは、部分実施の問題は推定の覆滅事由として扱うべきことが明言されている。「寄与率」なる概念に言及しなかったことを含めて、穏当な判断を示したものということができる。
 ② 「利益」の意義
 特許法102条2項にいう利益の意義については、かつては、抽象論として多くの判決が「純利益」という用語を用いており、売上利益から販売費や一般管理費その他の費用を控除した額を「純利益」というと明示する判決が多勢を占めていた(大阪高判昭和57.9.16無体集14巻3号571頁(WestlawJapan文献番号1982WLJPCA09160006)[鋸用背金]等)※14 。しかし、一般管理費等にまで立ち入って相手方である侵害者の費用項目を逐一証明することは極めて困難であろう。2項が、損害額の立証緩和規定であることに異論はないところ、その2項の適用を受けるために、このような立証の難関を設けてしまうのでは、同項の趣旨に反する。そこで、従来から、裁判例では、少数ながら、権利者は「粗利益」を主張、立証すれば侵害者利益額の推定を受けることができ、そこから「純利益」に近づけるための費用の控除をなす責任は侵害者にあるとするものもあった(商標法38条に関し、大阪地判昭和60.6.28無体集17巻2号311頁(WestlawJapan文献番号1985WLJPCA06280006)[エチケットブラシ])。いわゆる「粗利益」説である※15
 とはいうものの、従来の「純利益」説も「粗利益」説も、ともに、純利益額が明らかになった場合には、それが推定額となるということを前提とする点で疑問がある。権利者が新たに労働力ないしは設備投資を必要としないかぎりは、たとえば製品毎の「粗利益」額が逸失利益額になることも十分ありうるからである※16 。それにも関わらず、一般管理費等、権利者が費やす必要のない費用を侵害者が要したということを理由にその控除を認めてしまうと、推定額が実損額から乖離してしまう。
 したがって、特許法102条2項が権利者の立証責任を緩和する規定であるところ、一般管理費用等の控除項目は権利者にとっては証明困難であり、侵害者の方が証明しやすいことを考えれば、同項の「利益」は、権利者が最大限逸失する可能性のある「粗利益」であり、その主張、立証があれば権利者は2項の推定を受けうると解すべきであろう。そのうえで、侵害者は自己の一般管理費用等を立証するだけでは推定額からの控除を受けえないと取り扱うべきであろう(その意味で従来の「粗利益」説にも問題がある)※17
 裁判例でも、著作権法114条の侵害者利益額の推定規定に関し、控除しうる費用に関して筆者のいわゆる「(権利者側の)限界利益」説に与することを明言するとともに、具体的な算定においても、販売価格から費用を控除するに当たり、間接部門の労働者の人件費や、直接製造に関わる技術者が侵害製品の開発や製造上の慣熟に要した時間に費やされた人件費等を省く判決が現れた(東京地判平成7.10.30判時1560号24頁(WestlawJapan文献番号1995WLJPCA10300007)[システムサイエンス])。以降、しばらくの間、この考え方を採用する判決※18 が裁判例の主流を占める時代が続いた※19
 この「(権利者側の)限界利益」説の下では、侵害者の費用の控除を認めるか否かということは、それが権利者にとって追加的に必要な費用であったどうかという判断にかかることになる。侵害者の利益額を算定するために、侵害者の費用の額を控除するのであるが、しかし、その費用の額を控除するか否かということについては権利者側の事情を見るという、鵺的な判断を要求するのである。これは、もともと、侵害者利益の推定規定が、侵害者の利益をもって権利者の逸失利益を推定するという鵺的な構造をもっていることをそのまま推定額の解釈に反映させたからにほかならないが、それにしても不自然な作業を強いることに違いは無い※20 (同説は、その責任はそのような推定を認めた立法にあると開き直るわけではあるが)。
 そのようななか、裁判例では、同じ「限界利益」説でも、侵害行為によって侵害者が追加的に必要とした費用のみを控除するという、「侵害者側の限界利益説」とでもいうべき裁判例も存在していた(「限界利益」という言葉こそ用いていないが、静岡地判平成6.3.25判例工業所有権法〔2期版〕2623の47頁(WestlawJapan文献番号1994WLJPCA03256001)[1α-ヒドロキシビタミンD])。この「侵害者側の限界利益説」は、権利者にとって追加的に不要な費用であっても、侵害者にとって必要であれば控除を認めることになる説である点が、「権利者側の限界利益説」とは異なる。とくに、1998年改正で逸失利益を推定する特許法102条1項が新設され、侵害者の費用構造とは無関係に自己の費用構造にしたがって逸失利益の賠償を享受したい者は、特許法102条2項ではなく1項を利用すればよい状況になってからは、こちらの「(侵害者側の)限界利益説」が裁判例の趨勢を占め、近時は全く例外をみなくなった(東京地判平成12.4.27判例工業所有権法〔2期版〕5477の85頁(WestlawJapan文献番号2000WLJPCA04279005)[冠婚葬祭用木製看板]等)※21
 この点に関し、本判決は、以下のように説いている。

 「特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は、侵害者の侵害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。」

 「侵害者側の限界利益」説をとること、そして、その証明責任に関しても、筆者のような粗利益説には立たないことを明言したのである。具体的な控除の可否に関しても、「侵害者側の限界利益」説を採用した場合には、論理的にそうなるだろうという認定を行っている。
 「侵害者側の限界利益」説は、権利者の逸失利益とは金額が乖離する可能性があり、特許法102条2項を逸失利益を推定する規定であると捉える通説的な見方に与する限りは、正当化することが困難である。しかし、前述したように、1998年改正後は、逸失利益額の証明が困難であることの救済は新設された特許法102条1項に任せ、2項に関しては、侵害の抑止のために侵害者の利益を掃き出す制度(制裁を根拠とする準事務管理に近い)に純化させる考え方が現れても不思議はない。そのような発想の下では、2項においては、権利者の逸失利益とは無関係に、侵害者がどのような利益を取得しているのかということに着目した取扱いがなされることになる※22 。本判決が与する「侵害者側の限界利益」説も、特許法102条2項が権利者の逸失利益を志向する規定ではなく、利得吐き出しを狙う制度であると理解すれば、その正当化が容易となろう※23
 ③ 推定の覆滅
 かつての裁判実務においては、権利者が実施してさえいれば、侵害者利益の推定が覆されることは滅多になかった。特許の実施部分が侵害製品の一部に過ぎない場合や、権利者が複数存在する場合などの若干の例外(この場合には前述したように寄与率で処理されていた)を除けば、特許権等の侵害においては、いったん推定されれば、その完全な覆滅はもとより、一部が覆滅され賠償額が減額されることすら殆どなかった。よくその趨勢を体現する判決として、たとえば、一方で因果関係を問題にして売上げ減退による逸失利益額の請求を否定しつつ、他方で侵害者の利益額の請求を推定規定によって全利益額に関して賠償を認容した判決がある(大阪地判昭和62.8.26判例工業所有権法2585の899の63頁(WestlawJapan文献番号1987WLJPCA08266003)[モルタル注入器]など)※24
 もともと、特許法102条2項に対しては、特許発明による利益は実施者や実施の仕方によって大幅に異なるものなのだから、経験則の問題として、侵害者の利益額をもって権利者の逸失利益としての損害額と推定することには無理がある※25 。このように規定の合理性が見えないということは、逆にいったん推定してしまうと、どのように推定を覆していくのか、推定の覆滅過程を規律する合理的指針を欠くということをも意味している。従前、推定の覆滅がほとんどなされなかったことには、そのような事情が与るところが大きかったのでなかろうか。
 しかし、そのような状況に変化をもたらす動因となったのが、1998年特許法改正である。同改正により、侵害者利益の推定規定のお隣に逸失利益の推定を定める特許法102条1項が新設され、その但書で推定の一部覆滅が明文化された。その直後、裁判例では、実用新案権者以外にも実施品を製造販売する通常実施権者がいたことを斟酌して、3分の1の限度で推定の覆滅を認めた判決が現れ(東京地判平成11.7.16判時1698号132頁(WestlawJapan文献番号1999WLJPCA07160005)[悪路脱出具])、以降、推定の一部覆滅を認める判決が散見するようになった※26 。たしかに、同じ事情がかたや特許法102条1項では減額を導き、2項では導かないというのはいかにも均衡を失する。そこで半ばバランスの観点から、特許法102条1項但書において推定の覆滅を導くに至る事情がある場合には、それとの平仄を合わせるために、特許法102条2項においても推定の覆滅が認められると考えられはじめたのではないかと推察される※27
 もっとも、前掲知財高判[ゴミ貯蔵機器]は、価格差、侵害製品に付着する独自のブランドの力、侵害者の非侵害品や他者の競合品の存在などの事情があるなどの推定覆滅事由が主張されていた事件であったのだが、推定の覆滅について一般論を展開することなく、いまだ推定の覆滅をもたらすものとは認められないと帰結していた。意見が分かれうるところ、あえて、大合議という形で時期尚早的に決着をつけるのではなく※28、問題を今後の裁判例の展開に先送りしたということであったのかもしれない※29
 そのようななかで、本判決は、以下のように説いて、特許法102条2項についても、同条1項但書と同様の推定の覆滅過程を辿るべきことを明言するに至った。

 「特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1項ただし書の事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば、〔1〕特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性)、〔2〕市場における競合品の存在、〔3〕侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、〔4〕侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について、特許法102条1項ただし書の事情と同様、同条2項についても、これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができるものと解される。」

 特許法102条2項が権利者の逸失利益を推定する規定であると理解する限りにおいて穏当な取扱いといえる※30
 具体的な当てはめに関しても、単純に同種の商品が市場に存在するというだけで(一部)覆滅を導くのではなく、需要者にとって侵害品と代替可能性がある製品が市場に存在するといえる場合に限って覆滅を認めようとしていることも正当である。一般的に同種の製品と括れる場合であっても、需要者にとって実施品と代替可能性のない製品は、侵害がなかったとしても需要者にとって購入されることはないと推察しうるからである※31
 また、「事業者は、製品の製造、販売に当たり、製品の利便性について工夫し、営業努力を行うのが通常であるから、通常の範囲の工夫や営業努力をしたとしても、推定覆滅事由に当たるとはいえない」との説示は、一般的な傾向として、その程度の営業努力は皆がなしていることであるから、それが侵害品の需要者にとっての購買動機となっていることはあまりなく、ゆえに侵害がなかったとしてもそのような努力があるがゆえに侵害者の製品がなお購入されるとは認めにくい、という証拠の問題として論じている(ゆえに例外がありうる)と理解しうる限りにおいて誤りであるとはいいがたい。

 3) 相当実施料賠償(特許法102条3項)について
 通説的な理解に従えば、特許権者が侵害製品と代替する製品を製造販売していない場合など、特許権者が「侵害の行為がなければ販売することができた物」(特許法102条1項本文)を販売していなかったとき、あるいは、「侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情」(前掲知財高判[ごみ貯蔵機器]、本判決)が存在しない場合には、特許法102条1項の逸失利益の推定も、同条2項の侵害者利益の推定も認められることはない。いきおい、そのような場合であっても賠償をとることができると理解されている特許法102条3項に期待がかかることになる。しかし、「ライセンス料相当額」といわれることが多い3項の算定において、実際のライセンス契約において支払わなければならないライセンス料額と同等の金額が算定されるとすると、訴訟提起されない可能性などを勘案すると、侵害したほうが得となってしまいかねない。
 解決の鍵は、一般のライセンス契約における実施料額の算定と、侵害訴訟における特許法102条3項の賠償額の算定の性質の差異を踏まえるところにある※32
 ライセンス契約における実施料額は、いわば事前的に見て相当な実施料額といってよい。それは、和解契約的な性質を有するものなどの例外はあるが、通例は、将来行われる実施行為に対して約定する。そこでは、対象となる実施行為による利益が確定しておらず、また、特許がじつは無効であったり、ライセンス対象製品がそもそも特許発明の技術的範囲に属しておらず実施許諾を得る必要がなかったりする可能性があるにも関わらず、ライセンスを支払うというリスクを負う。もちろん、中には、そのような無効となったり非侵害となったりする可能性が何らかの事情により極めて小さいとか、少なくとも当事者は全く意識していないなどという例もあるだろう。しかし、ライセンス契約の実施料に関する業界の相場のように、多数の契約例を取り扱う場合には、大数の法則で、必然的にこうした無効や非侵害のリスクを勘案してライセンス料が割り引かれている例が一定割合で混入しているはずである。
 これに対して、侵害訴訟における特許法102条3項の実施に対し受けるべき金銭の額は、事後的に見て相当な実施料額といってよい。そこでは、過去に既に行われている実施行為(=侵害行為)に対して遡及的にその対価を算定する作業が行われる。通例のライセンス契約の場面と異なり、侵害であること、無効の抗弁が提出されなかったか、あるいは成り立たないことが確定した実施行為に対してその対価が算定されることになる。この場合、たとえばその種のリスクを勘案した割引きの影響を受けているライセンス契約における実施料の業界相場をそのまま用いてしまうと、必要がないリスクの分が参入されてしまい、その分、対価額が過少となってしまう。したがって、特許法102条3項の金額を算定する場面で業界の相場に依拠する場合には、こうしたリスクで割り引かれている分を逆に割増し(=侵害プレミアム)を与える必要がある※33
 また、ライセンス契約の場面では、将来、実施行為からどのような利益が得られるか不確定で予測が困難であることに加えて、営業秘密であることも少なくない利益率を相手方に開示したくないという意識が働いて、売上げに対して一定の料率をかける算定方式が採択されることが多い。そして、大量にライセンス契約をなしている企業にとっては、業界の相場に依拠しておけば、個別的に損得はあっても、これまた大数の法則で、大過ないライセンス料を収受することもできる。
 他方で、侵害訴訟の場面ではすでに実施行為(=侵害行為)は終了しており、そこから得られた利益の額も判明していることが少なくない。くわえて、侵害者の営業秘密に配慮する必要性は薄く、また、侵害訴訟に至る事件は、一般のルーティン・ワーク的に処理しうる事例とは区別された特異性を有していることが少なくないから(だからこそ訴訟に至るのである)、業界の相場による平準化に馴染まないところがある。そうだとすると、侵害訴訟において、事後的に見て相当な実施料額を算定する際には、侵害者の利益額など、当該事件に特有の事情にむしろ目を向けるべきである。
 1998年改正では、筆者のこうした提言を受けいれ、契約ベースでの一般のライセンス料の算定に過度に依存することなく、被侵害特許における特殊生を考慮した算定がなされるよう、従前の「実施に対し通常受けるべき金銭の額」なる文言から「通常」を削除するという改正がなされている※34
 裁判例でも、改正の直後から、その趣旨に鑑み侵害訴訟の場面における実施料の算定手法と、ライセンス契約における実施料算定手法との相違点を踏まえて、問題となった具体の発明の技術的、経済的価値を斟酌したうえで、高率の実施料率の賠償を認める判決が現れていた(東京地判平成12.7.18判例工業所有権法〔2期版〕2199頁(WestlawJapan文献番号2000WLJPCA07189001)[ヒンジ]、大阪地判平成14.10.29平成11(ワ)12586等(WestlawJapan文献番号2002WLJPCA10290019)[筋組織状こんにゃくの製造方法Ⅱ])※35
 本判決も、こうした経緯を踏まえて、以下のように説き、事後的に見て相当な実施料額という発想を採用することを明言した。具体的な当てはめとしても、業界の相場として5.3%という数字が出ていたところ、原告が有する別特許の侵害に関する解決金などを参酌しつつ、売上高の10%をもって3項の実施料率としており、侵害プレミアムを具現している。もとより至当である。

 「特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」については、平成10年法律第51号による改正前は「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められていたところ、「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして、同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。
 特許発明の実施許諾契約においては、技術的範囲への属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で、被許諾者が最低保証額を支払い、当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し、技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には、侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして、上記のような特許法改正の経緯に照らせば、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
 したがって、実施に対し受けるべき料率は、〔1〕当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、〔2〕当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、〔3〕当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、〔4〕特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきである。」

 ちなみに、本判決に先立つ5月17日に公布された2019年改正特許法は、従前の特許法102条3項の文言を一新する特許法102条4項を設け、以下のように、侵害プレミアムが認められるべきことを明文化している。

 「特許権者又は専用実施権者が、自己の特許権又は専用実施権に係る特許発明の実施の対価について、当該特許権又は専用実施権の侵害があつたことを前提として当該特許権又は専用実施権を侵害した者との間で合意をするとしたならば、当該特許権者又は専用実施権者が得ることとなるその対価を考慮することができる。」

 4) 侵害者利益の推定と相当実施料額賠償の関係
 特許法102条2項の推定が(一部)覆滅した場合に、その覆滅部分について3項の相当実施料賠償を算定しうるのかという論点があり、学説、裁判例が分かれている※36 。2019年改正では、やはり議論があった特許法102条1項に関し※37、一部推定の覆滅後も4項(旧3項)の実施料賠償がありうる旨を明定するにいたったが※38 、そもそも推定の覆滅が条文上規定されていなかった2項に関しては、裁判例に委ねる趣旨で何も規定を置いていない。
 本判決がかりに2項の推定の一部でも覆滅を認めていたとしたならば、この論点に立ち入る必要性が生じたのであるが、既述のように、本件では推定の覆滅が認められなかったため、裁判所は2項と3項のいずれか高いほうの金額を認めるに止まっている。もっとも、2項の推定額の算定を終えたあとで、なお3項の賠償がそれを上回る場合に3項の賠償を認めたということは、2項の推定額が3項の賠償額を拘束しないという立場が示されたと理解できる※39 。そうだとすれば、論理的には2項の推定が一部覆滅した場合であっても、覆滅部分について3項の賠償を認めないことには平仄が合わないように思われるのだが、いかがなものだろうか。


(掲載日 2019年8月9日)

  • この他、発明未完成が無効理由となりうることを確認している点(最判昭和44.1.28民集23巻1号54頁(WestlawJapan文献番号1969WLJPCA01280009)[エネルギー発生装置]を引用)、被告から主張されている作用効果不奏功の抗弁を取り上げ、事実認定の問題として、被告各製品は本件各発明の作用効果を奏するとして、これを退けている点、サポート要件について従来から大合議判決(知財高大判平成17.11.11判時1911号48頁(WestlawJapan文献番号2005WLJPCA11110002)[偏光フィルムの製造法](パラメータ特許事件)、知財高大判平成30.4.13判タ1460号125頁(WestlawJapan文献番号2018WLJPCA04139001)[ピリミジン誘導体])が用いていた説示を踏襲するとともに、実施可能要件についても大合議として一般的な基準を説いた点なども注目に値する。
  • 原判決の認定に従い、本件各発明の技術的意義を俯瞰すると、概要、以下のとおりとなる。
     本件各発明は、「部分肥満改善用化粧料、或いは水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキット」または「医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキット」の構成に関するものである。従来から、二酸化炭素には血行促進等の作用があることが知られ、二酸化炭素を皮膚に作用させるパック剤や化粧料等が発明されていたが、本件発明は、単に二酸化炭素を利用するというものではなく、あらかじめ含水粘性組成物を調製しておき、その組成物中に気泡状の二酸化炭素を含有・保持させ、これを皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用し、二酸化炭素を皮下組織等に供給させる点に特徴がある。もっとも、公知技術としては、本件各発明と同様に、炭酸塩と酸を反応させて発生した二酸化炭素を粘性の組成物中に気泡として含ませて保持するパック化粧料も存在したが、当該公知技術は、使用時に増粘剤が水と混合される(用時調製)ことから、増粘剤が水に溶けて粘性を生じるまでに時間を要し、その間に炭酸塩と酸が反応して発生した二酸化炭素が空気中に拡散されるのに対し、本件各発明では、増粘剤があらかじめ水に溶かされており(事前調製)、粘性組成物中で炭酸塩と酸が反応して二酸化炭素が発生することから、発生した二酸化炭素が空気中に拡散されることがなく、それだけ多くの二酸化炭素を組成物中に保持し、持続的に皮下組織等に供給させることができる点に特徴を有する。
  • この他、一部の被告に対しては間接侵害が主張されており、直接侵害ともども、原判決、控訴審判決によって侵害が肯定されているが、本稿が扱う論点の判示内容に直接影響しないので、以下では取り上げない。また、当初、原告は差止めや廃棄請求もなしており、損害賠償請求ともども原判決によって認容されていたが、控訴審で取り下げられている。
  • 『知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~』(2010年・帝国データバンク)に、国内企業のロイヤルティ料率に関するアンケート結果として、産業分野を化学とする特許のロイヤルティ率は5.3%、また、平成16年から平成20年までの産業分野を化学とする特許の司法決定によるロイヤルティ料率は、平均値6.1%(最大値20%、最小値0.3%)(件数5件)と記載されていることを指す。
  • 原告(被控訴人)が有する別件特許権(「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物」(特許第5164438号))に基づいて製品の販売等の中止を求めた相手方との間で、製品の売上高の10%に相当する解決金の支払を受けることを内容とする訴訟外の和解をし、その解決金の支払を受けた例が2件あったことを指す。
  • 参照、田村善之[判批]知財管理63巻7号1107~1123頁(2013年)。
  • 特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説』(第20版・2017年・発明協会)327頁、織田季明=石川義雄『増訂新特許法詳解』(1972年・日本発明新聞社)368頁。
  • 田村善之『知的財産権と損害賠償』(新版・2003年・弘文堂)242頁[初出:同「特許権侵害に対する損害賠償(4・完)」法学協会雑誌108巻10号1607~1608頁(1991年)]。
  • 田村/前掲注8・243頁[初出:同/前掲注8・1608頁]。より先駆的には、設楽隆一「損害(2)-侵害行為により受けた利益-」牧野利秋編『工業所有権訴訟法』(裁判実務大系9・1985年・青林書院)337頁。
  • とりわけ、本判決は、本文で以下に紹介するように、実施部分が侵害製品の一部に止まる場合の処理に関して、傍論ながら、当該実施部分から得られる利益を推定額とするのではなく、侵害製品全体の製造販売から得られる利益全額を推定額としたうえで、あとは推定の(一部)覆滅の問題として扱っている。そこでは、本判決が、「侵害行為による利益」の推定を受けるために侵害がなかったとした場合の財産状態との比較を要求しているわけではないことが明らかである。
  • 田村/前掲注8・244頁[初出:同/前掲注8・1610頁]。
  • 正確な叙述として、宮脇正晴「米国法における特許権侵害に基づく損害賠償」日本工業所有権法学会年報41号108頁(2018年)。
  • ただし、「寄与率」なる概念が、とりわけ特許法102条1項の場面で混乱を生じていたことに鑑みれば、少なくとも特許法102条1項の場面では、もはや「寄与率」なる文言は用いない方が賢明であるように思われる。裁判例の紹介とともに、参照、田村善之「特許権侵害に対する損害賠償額の算定-裁判例の動向と理論的な分析-」パテント67巻1号140~143頁(2014年)。学説を含めて論じるものとして、金子敏哉「日本法における特許権侵害に基づく損害賠償―モデル化による寄与率等へのアプローチ―」日本工業所有権法学会年報41号80~83頁(2018年)。裁判例、学説につき、飯田圭/中山信弘=小泉直樹編『新・注解特許法[中巻]』(第2版・2017年・青林書院)1939~1945頁、飯田圭[判批]小泉直樹=田村善之編『特許判例百選』(2019年・有斐閣)82~83頁。
  • 裁判例につき、参照、田村/前掲注8・235~236頁。
  • 学説では、畑郁夫[判批]『判例特許侵害法』(馬瀬文夫古稀・1983年・発明協会)745~747頁。
  • 卑近な例でいえば、小売店で販売予定の商品が壊された場合、賠償額は販売価格(e.g. 1000円×100個=10万円)となるのであって、そこから既に投入済みの仕入費用、人件費、店舗費用(e.g.9万円)が控除されることはない。売上げからこれらの費用を回収して利益(e.g. 10万円-9万円=1万円)を上げようとしていたのに、売上額からこれらの費用を控除した額を賠償額(e.g. 10万円-9万円=1万円)としてしまうと、権利者は結局、費用が二重にカウントされた分、侵害がなければ得られたであろう利益を得ることができなくなる(e.g.設例では、本来、10万円の賠償を受け、それによって予定通りの利益1万円を取得すべきところ、控除を認めると1万円しか賠償されないので、結局、8万円の赤字となる)。特許権侵害においてもこの理に変わるところはない(材料費や仕入費が節約できる場合がある等、投入済みの費用に差異が生じるに止まる)。
      したがって、売上高から、原材料費ないし仕入費等、侵害行為により投下する必要がなくなった費用は控除しなければならないが、設備費、人件費他の一般管理費等のうち既に投入済みの経費を控除する必要はない。賠償額から投入済みの費用が控除されてしまうと、損害の賠償に不足が生じるからである。侵害がなければ増大すると想定される売上げを達成するためには、本来、設備を増強したり、新たな労働力を投入したりする必要があったところ、侵害行為があったためにそれが節約されているという場合に限り、想定される売上額から設備費や人件費が控除されるに過ぎない。
      以上の理を正確に把握したうえで、このようにして逸失利益として賠償されるべき利益のことを、「限界利益」と命名した先駆的な論文として、古城春実「特許・実用新案侵害訴訟における損害賠償の算定(2)」発明86巻2号45頁(1989年)。
  • 田村/前掲注8・235~240頁[初出:同/前掲注8・1600~1606頁]。
  • もっとも、これらの裁判例は、最終的に控除すべき費用について権利者が必要とする費用であったことを要求する点では、筆者が提唱した「(権利者側の)限界利益」説を採用しているといえるが、証明責任の所在については、権利者が利益額(つまりは(非)控除額)について証明責任を負担すると解している。この点は、筆者が粗利益までは特許権者に証明責任があるとしても、それ以降の費用の控除は侵害者に課すとしていたこと(その点では、筆者の見解は、前掲大阪地判[エチケットブラシ]と同旨である)と異なる。
  • 裁判例につき、参照、田村善之/増井和夫=田村善之『特許判例ガイド』(第4版・2012年・有斐閣)372頁、裁判例、学説につき、飯田/前掲注13注解特許法1939~1945頁。
  • 参照、高松宏之「損害(2)-特許法102条2項・3項」牧野利秋=飯村敏明編『知的財産関係訴訟法』(追補版・2004年・青林書院)314~315頁。
  • 裁判例につき、参照、田村善之/増井=田村・前掲注19・373~374頁。1998年改正の直後から、裁判例がそのように変化するであろうことを予言していたものとして、田村/前掲注8・323頁[初出:同「損害賠償に関する特許法等の改正について」知財管理49巻3号338頁(1999年)]。
  • 特許庁の起草作業過程では、民法学の権威であり工業所有権制度改正調査審議会一般部会委員でもあった我妻栄の損害論が参酌されている(田村/前掲注8・57頁)。この我妻説は、特許権なるものが一般に権利者の下において利得を生ずるものである以上、権利者自身がはたしてそれだけの利得を上げ得たかということを検討することなく、侵害者が得た利得を権利者の損害とするのが妥当である、とするものであった。ただし侵害者が特殊な才能や機会に恵まれて、一般に合理的と予期される以上の利得を獲得したとすれば、その返還は認めないというものであった(我妻栄『事務管理・不当利得・不法行為』(1937年・日本評論社)22・45頁)。起草当時、特許庁の事務官として起草作業に従事した織田季明は、後年、この我妻説をそのまま特許法102条1項(当時)の解釈論に当てている(織田=石川・前掲注7・368~369頁)。これらの見解では、推定の覆滅が、権利者の逸失利益との比較で推定を覆滅していくという作業ではなく、むしろ、あくまでも侵害者の利益を睨んだまま、侵害による利益を侵害者と権利者に適切に配分していく作業として捉えられている節が伺われ、興味深い。この起草経過からは、特許法102条を(一定の条件の下での)「利得吐き出し型損害賠償」として機能させる契機があることが伺われるからである(参照、窪田充見「不法行為と制裁」『民法学の課題と展開』(石田喜久夫古希・2000年・成文堂)687頁、「利得吐き出し型損害賠償」という命名とともに、潮見佳男「特許権侵害による損害賠償請求と民法」大渕哲也他編『特許訴訟 上巻』(専門訴訟講座・2012年・民事法研究会)348~353頁)。
     ちなみに、第一に、損害の発生と損害の推定を分け、特許法102条2項は後者のみを推定しており、前者は推定しない(ゆえに、特許権者に逸失利益がない場合には推定を認めない)とする通説に対しては、損害の発生と損害の額を明確に区分することは理論的に困難であること、第二に、権利者がかりに実施していなかったり競合品を製造販売していなかったりしたとしても、特許法102条3項の賠償は請求しうるはずであり、事後的に相当な実施料額賠償を認めたと解される3項の賠償額の算定に当たっては実施による利益であるところの侵害者利益をベースに権利者に対して相当額の利益の配分を認めるという手法がありうることを理由として、筆者は特許法102条2項は同条3項の損害額をも推定する規定であると理解すべきであり、権利者が競合品を製造販売していなかったとしても、侵害による利益額に対して1項の推定が適用され、そこから賠償額を控除していく責任は侵害者に課せられる、と考えている(田村・前掲注8・15~16・220~221・230~231頁)。この見解は、2項や3項が前提とする損害概念を、逸失利益ではなく、侵害行為により奪われた特許権者の市場を利用する機会の喪失という規範的損害概念と解しつつ、利得吐き出し機能、より正確には、利益の(一部)配分機能をもたせようとするものである。筆者の見解は未だ少数説に止まっているが、その損害概念について一部に支持する動きがあり(後述)、特許法102条2項の適用要件に関して賛意を表明するものもある(飯田秀郷「訴訟における主張・立証」久保利英明=北尾哲郎『知財訴訟』(専門訴訟大系2・2010年・青林書院)231~233頁)。この損害概念を元に、特許法102条2項に利得吐き出し機能を明示的に見出す見解(高林龍「特許法102条2項の再定義」『はばたき-21世紀の知的財産法』(中山信弘古稀・2015年・弘文堂)474頁)も提唱されている(横山久芳「特許権侵害による損害賠償請求と特許法(特許法102条各項)」大渕哲也他編『特許訴訟 上巻』(専門訴訟講座・2012年・民事法研究会)384~386頁の評価も参照)。さらに、筆者の見解にも着目しながら、そして1998年改正後の特許法102条1項と2項の役割分担という意識を持ちながら、特許法102条2項をして、侵害利得の返還請求権をベースにしつつ、故意または過失という不法行為的な要件を加重することで証明責任の展開を図った規定と位置付ける構想を論じるものとして、長野史寛「知的財産権侵害における不当利得返還論求―侵害利得と不法行為が交錯する一場面―」法学論叢180巻5=6号652~662・682~684・686~687頁(2017年)がある。
     なお、筆者が1998年改正前に特許法102条1項がない状態で、現在の同条2項(当時は1項)と3項(当時は2項)の損害概念として提唱した「市場機会の喪失」あるいはそれと類似する規範的損害概念が支持される場合、一般的には、1998年改正特許法102条1項を含めた損害概念として理解されることが多い(鎌田薫「特許権侵害と損害賠償」CIPICジャーナル79号16頁(1998年)、茶園成樹「特許権侵害による損害賠償」ジュリ1162号52~53頁(1999年)、高林/前掲474頁、鈴木將文「特許権侵害に基づく損害賠償-総論」日本工業所有権法学会年報41号54・65頁(2018年)、起草過程を踏まえたうえで、差額説を前提とした逸失利益という事実の推定規定ではなく、規範的損害を前提とする規定として捉えるべきである旨を説くものに、森田宏樹「損害論からみた特許権侵害に基づく損害賠償」パテント70巻14号(別冊18号)48~53頁(2017年)。沖野眞已「損害賠償額の算定――特許権侵害の場合」法学教室219号62頁(1998年)も参照)。もっとも、それらの学説は(筆者とは異なり)損害概念のレベルと、具体の損害の算定のレベルを切り離すから(参照、鈴木/前掲65頁)、市場機会の喪失という損害概念の採用がただちに具体の損害額の算定を規定するということにはならないのだが(森田/前掲53~57頁)、なかには、それを特許法102条1項による損害額の具体の算定過程に反映させて、一般の逸失利益とは異なる形で運用しようとする見解が提唱されることもある(三村量一「損害(1)」牧野利秋=飯村敏明編『知的財産関係訴訟法』(新裁判実務大系4・2001年・青林書院)294頁)。しかし、筆者は、特許法102条1項は逸失利益という損害を推定する規定であり(田村・前掲注8・334~336頁)、特許法102条2項や3項とは峻別されるべきであると考えている(潮海久雄「特許権侵害に基づく損害賠償」日本工業所有権法学会年報41号132~133・141・149~153頁(2018年)(同/駒田泰土=潮海久雄=山根崇国『知的財産法Ⅰ 特許法』(2014年・有斐閣)203頁も参照)の考察が示唆的である)。
     ところで、特許法102条1項と2項(3項)の役割分担ということに関連して(ちなみに、最終的な方向性は筆者とは異なり、利得吐き出しは認めないものの、鈴木/前掲53~56・60~62・64頁の分析は特許法102条各項の役割分担を議論する際に示唆的である)、特許法102条2項に一定の利得吐き出しの機能を期待する見解の下でも、権利者側の逸失利益の事情をどの程度混入すべきかという点については議論がある(各説の対立状況については、金子敏哉「日本法における特許権侵害に基づく損害賠償―モデル化による寄与率等へのアプローチ―」日本工業所有権法学会年報41号84~85頁(2018年)も参照)。1998年特許法102条1項による逸失利益の推定規程の導入以降は、権利者の損害の塡補機能は特許法102条1項に委ね、特許法102条2項(と3項)は侵害者の利得吐き出の機能に純化するほうが、同条各項の役割分担としては適切な解釈論を導くように思われる(田村善之/飯田圭等「損害賠償論―更なる研究―」パテント70巻14号(別冊18号)130~131頁(2017年)。その意味で、1998年改正後は筆者は見解を修正するだろうとの長野/前掲655~657・660頁の示唆を受けいれる。
  • もっとも、それならば、特許法102条2項に関する他の論点においても、侵害者の利得吐き出しという趣旨に沿った扱いをなさないことには、法解釈のインテグリティを保てない(参照、ロナルド・ドゥウォーキン(小林公訳)『法の帝国』(1995年・未来社) 353~363頁(integrity に「純一性」という訳語を当てる)、内田貴「探訪『法の帝国』(1)」法学協会雑誌105巻3号244~245頁(1988年)、田村善之「知的財産法学の課題―旅の途中―」知的財産法政策学研究51号36~38頁(2018年))。たとえば、前掲知財高判[ごみ貯蔵機器]は、特許法102条2項の推定が認められるためには、「侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合」が必要であるという解釈をなしており、その説示は本判決によっても踏襲されている。このような解釈は、2項をして権利者の逸失利益を推定する解釈であると理解すれば導出可能な見解である反面、侵害者の利得吐き出しの規定であると理解する場合にはおよそ採用が困難である。本判決は、推定の要件と推定額のところで異なる発想を2項に当てはめていることになる。
  • 裁判例につき、参照、田村/増井=田村・前掲注19・376~377頁。
  • 中山信弘『特許法』(第3版・2016年・弘文堂)390頁。
  • 裁判例につき、参照、田村/増井=田村・前掲注19・377頁、裁判例、学説につき、飯田/前掲注13注解特許法1973~1977頁。
  • 参照、田村/前掲注6・1115頁。
  • 時期尚早的な大合議の判断がもたらす弊害について、田村善之「知財高裁大合議の運用と最高裁との関係に関する制度論的考察-漸進的な試行錯誤を可能とする規範定立のあり方-」法曹時報69巻5号1258・1268頁(2017年)。事案類型論を絡めた多角的な考察として、中山一郎「知的財産高等裁判所の大合議制度の評価と課題」知的財産法政策学研究52号11~30頁(2019年)。
  • 参照、田村/前掲注6・1119~1120頁。
  • 他方、前述したように、特許法102条2項の合理性を侵害者の利得の吐き出しに求める場合には、〔3〕侵害者の営業努力、〔4〕侵害品の性能は、返還額を減じる事情として顧慮して良いといえよう。これらに起因する利益は、侵害がなくとも侵害者が獲得しえた利益と認められる可能性があり、かりにそうだとすれば、侵害がなかった場合に比べて侵害者を利することないようにという利得吐き出しの趣旨は及ばないからである。しかし、他方で、利得吐き出しの発想の下では〔1〕特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること、〔2〕市場における競合品の存在などの事情が存在しても、侵害者が侵害により利益を得ていることに変わりはなく、ゆえに(一部)覆滅は認めるべきではないということになろう。
  • もっとも、細かなことをいえば、判旨は「侵害品」との代替可能性について言及しているが、特許法102条2項が権利者の逸失利益を推定する規定であるという立場を堅持する限り、最終的に問題とすべきは、特許権者が製造販売している代替品(=まさにそれがあるために本判決の立場の下でも2項の推定が認められた製品)との競合可能性を吟味する必要がある。とはいえ、本件のように特許権者の製品と侵害品とが市場で強く競合しているという事案において、いずれの品を基準として代替可能性を論じても答は同じになるので、言葉尻を捉えて論難する必要はない。
  • 以下につき、詳細は、田村/前掲注8・219~223頁[初出:同/前掲注8・1578~1584頁]を参照。筆者がこのような見解を想起するきっかけは、独占的実施許諾契約があると評価された事案で、「客観的に正当な額の実施料」を支払う趣旨の黙示的な合意があるとみて、その金額を算定するに際し、特許発明が比較的幅の狭い権利であり、他の発明の出現に伴ってある程度競業者の出現が予測されると述べて、20%の減額を行った東京地判昭和37.5.7下民集13巻5号972頁(WestlawJapan文献番号1962WLJPCA05070003)[鉄筋コンクリート構築物の構築法]に接したことにある。この判決は、まさに契約上の実施料を算定しようとしているのであるから、そのような将来に対するリスクを勘案することが許されるが、事後的に振り返る侵害訴訟における実施料賠償では過去の利益額などが確定しているのだから、そのようなリスクによる減額をなすことはおかしいであろうと考えた次第である。
  • したがって、この事後的に見て相当な実施料額という発想に基づく割増しは、少なくとも理屈のうえでは、制裁的要素をもっていない。むしろ、業界の相場に混入している無効となったり非侵害となる可能性のある実施料例は比較の対象として不適切なので、その影響を可能なかぎり除去するために行われる作業なのである。
  • 特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室「知的財産権侵害に対する民事上の救済及び刑事罰の見直し」知財研フォーラム34号13頁(1998年)、入野泰一「特許法等の一部を改正する法律」ジュリ1140号72~73頁(1998年)。
  • 裁判例につき、参照、田村/増井=田村・前掲注19・381~389頁、裁判例、学説につき、飯田/前掲注13注解特許法2034~2037頁。
  • 田村/前掲注12・139~140頁(2014年)。筆者と結論を同じくする、潮海/前掲注22・138~141頁の考察が示唆的である。裁判例、学説につき、飯田/前掲注13注解特許法1982~1983頁。
  • 田村善之「逸失利益の推定覆滅後の相当実施料額賠償の可否」知的財産法政策学研究31号1~11頁(2010年)、飯田/前掲注13注解特許法1880~1887頁。
  • 解釈の仕方につき、金子敏哉[判批]小泉直樹=田村善之編『特許判例百選』(2019年・有斐閣)87頁。
  • 裁判例、学説につき、飯田/前掲注13注解特許法2059~2061頁。

(掲載日 2019年8月9日)

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