第173号 養子縁組をした受刑者に対して信書の発受を禁止した決定は、違法であるか
~「親族」から除外するために養子縁組の成立を無効とする新たな手法の採用の可否(東京高判平成31年4月10日)~
文献番号 2019WLJCC018
おおとり総合法律事務所 弁護士
矢澤 昇治
東京高判平31年4月10日(東京高裁平29(行コ)246号信書発受禁止処分取消等請求控訴事件)※1、第一審東京地判平27年7月11日(東京地裁平27(行ウ)735号信書発受禁止処分取消等請求事件)※2
参照条文:民法802条、憲法21条及び32条、国際人権(自由権)規約14条1項、19条2項等の国際準則、刑事収容法45条及び128条、被収容者の外部交通に関する訓令の運用について(依命通達)[平成19年矯成第3350号矯正局長依命通達]
第1 事案の概要
1 事案の要旨
- 控訴人X1(原告X1)が、刑務所に収容されていた当時、同控訴人と養子縁組をしていた亡D(以下、「D」という。)に対して信書を発信しようとしたところ、刑務所長は、この信書の発信を禁止する決定をした。これに対して、控訴人X1並びにDの父母である控訴人X3及び控訴人X4が、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律は受刑者とその親族との信書の発受は禁止することができないと規定しており、Dは控訴人X1の親族に当たるから、刑務所長の上記信書の発信を禁止する決定は違法であり、控訴人X1及びDがこれによって精神的損害を被ったとして、国家賠償法1条1項に基づき、控訴人X1が、慰謝料100万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、控訴人らが、Dを相続したことによるDの慰謝料各33万3333円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めたものである。
- 原審は、控訴人X1の訴えのうち、同控訴人がDの訴訟手続を承継したことに基づく33万3333円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分を却下し、控訴人X1のその余の請求並びに控訴人X3及び控訴人X4の請求をいずれも棄却する判決(以下、「原判決」という。)をし、控訴人らは、これを不服として控訴したものである。
2 判決主文
- 1 原判決を取り消す。
- 2 被控訴人は、控訴人X1に対し、4万円及びこれに対する平成27年6月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を、控訴人X3及び控訴人X4に対し、それぞれ1万円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 3 控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
- 4 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを30分し、その1を被控訴人の、その余を控訴人らの負担とする。
3 関連法文
- (1)憲法21条
- ① 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
- ② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを保障する。
- (2) 国際人権(自由権)規約19条2項
- 2 すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。
- (3) 民法802条
縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
- 一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組みをする意思がないとき。
- 二 当事者が縁組の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百九十九条において準用する第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、縁組は、そのためにその効力を妨げられない。
- (4) 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(刑事収容法)等の定め
- ア 刑事収容法45条
刑事施設の長は、前条第1号又は第2号に掲げる物品が次の各号のいずれかに該当するときは、被収容者に対し、その物品について、親族(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)その他相当と認める者への交付その他相当の処分を求めるものとする。
- イ 刑事収容法128条(信書の発受の禁止)(旧95条)
刑事施設の長は、犯罪性のある者その他受刑者が信書を発受することにより、刑事施設の規律及び秩序を害し、又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者(受刑者の親族を除く。)については、受刑者がその者との間で信書を発受することを禁止することができる。ただし、婚姻関係の調整、訴訟の遂行、事業の維持その他の受刑者の身分上、法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理のため信書を発受する場合は、この限りでない。
- ウ 被収容者の外部交通に関する訓令の運用について(依命通達)[平成19年矯成第3350号矯正局長依命通達](以下、「本件依命通達」という。)
27 外部交通の確保が目的であると認められる養子縁組への対応について
- (1) 法[刑事収容法]は、人道上の観点から、親族については外部交通を許すことが適当であるとして、その権利を保障しているところ、当該養子縁組が民法第802条第1号の規定により無効を主張できる場合はもとより、無効とは認定できないまでも、専ら外部交通を得る目的などのためにされたものであり、養親子としての情を深めたりするという目的意識はなく、あるいは極めて希薄である場合など、法令における外部交通に関する各種規制を潜脱するためと認められる場合は、当該養子縁組による親族関係は、刑事収容法における親族との外部交通に係る規定を適用する基礎を欠くものであり、当該外部交通を認めない運用もあり得ること。特に、暴力団関係受刑者の場合、安易に外部交通を認めないよう留意すること。
- (2) 養子縁組が外部交通の確保を目的としたものであるか否かの判断に当たっては、在社会時における交流の状況、養子縁組に至る経緯、被収容者の外部交通の内容、被収容者及び相手方の養子縁組及び離縁の回数等を十分に調査の上、記録を残すことが相当であること。
4 前提事実
- (1) 信書発信禁止決定の経緯
原告X1及びDは、平成27年5月8日、養子縁組(以下、「本件養子縁組」という。)をした。原告X1は、平成27年6月9日、刑務所長に対し、D宛ての郵便書簡1通(以下、「本件信書」という。)の発信を申し出たが、刑務所長は、同月15日、刑事収容法128条に基づき、本件信書の発信を禁止する旨の決定(以下、「本件決定」という。)をし、同月18日、原告X1にその旨告知した。原告X1は、平成27年6月18日付けで、本件決定の取消しを求める審査の申請をしたが、東京矯正管区長は、同年8月12日、原告X1の申請を棄却する旨の裁決をした。原告X1は、平成27年8月15日付けで、上記の裁決について不服があるとして再審査の申請をしたが、法務大臣は、同年11月9日、原告X1の申請を却下する旨の裁決をした。
- (2) 本件訴訟の経緯
原告X1及びDは、平成27年12月24日、原告X1において本件決定の取消しを求め、原告X1及びDにおいて国家賠償を求める本件訴えを提起した。Dは、平成28年12月22日に死亡した。原告らは、平成29年3月1日、当裁判所に対し、原告X1が本件決定の取消しを求める訴えを取り下げるとともに、原告らがDを相続したとして(なお、Dに配偶者及び子はいない。)、Dの慰謝料を3分の1ずつ請求する旨記載した「訴え取下げ及び請求の趣旨変更申立書」を提出した。
第2 争点と当事者の主張
- (1) 控訴人X1の訴えの適法性
控訴人らの主張:本件養子縁組は、真摯な縁組の意思に基づくもので有効であり、控訴人X1は、Dの相続人としてその訴訟手続を承継した。
被控訴人の主張:本件養子縁組は、縁組の実体的意思を欠いて無効であるから、控訴人X1は、Dの養親ではなく相続人に該当しない。控訴人X1の訴えのうち、Dの訴訟手続を承継したことに基づく部分は、当事者適格を欠き、不適法である。
- (2) 刑務所長の本件決定の違法性の有無
控訴人らの主張:
- ア 民法802条は、縁組の無効を定めるが、被控訴人が、控訴人X1及びDの養子縁組が無効であると主張するならば、養子縁組無効確認の判決を得る必要がある。
養子縁組が民法上無効とならない場合でも、専ら外部交通を得る目的で、養親子としての情を深めたりする目的意識が極めて希薄な場合も信書の発受を禁止してよいというのは、刑事収容法128条に規定されておらず、このような判断の余地を認める本件依命通達は、法の委任の範囲を超える違法な通達である。
- イ 控訴人X1及びDは、本件改善指導を共に受講する受講生として出会い、同指導では「嘘をつかない」、「本音で話す」という指導の下、受講生の性的傾向の話もされ、両者は、お互いに同性に対しても性的好意を持つことを知り、惹かれ合うようになった。そして、両者は、グラウンドや体育館の運動の時間などに手を握り合ったり、抱き合ったりして、恋人としての関係を深めたものである。両者は、このように同性愛関係にあるが、現在の日本の法律においては未だ同性婚が認められていないため、家族になるためには養子縁組しかないと考えて、真実、養子縁組をする意思に基づいて本件養子縁組を行った。同性愛関係にある者が、養子縁組の形で親族関係を取り結ぶことは、日本社会の中で広く認められてきた慣行であり、本件養子縁組の有効性は、疑問の余地なく認められる。
- 被控訴人の主張:
- ア 養子縁組の無効は当然無効であり、養子縁組無効の訴えは確認訴訟と解されているから、養子縁組の無効の主張は訴えという形をとらなくても可能であるし、民事裁判における前提問題として主張することに何ら問題はない。
- イ 刑事収容法128条は、受刑者が親族等との外部交通を行うことを権利として保障する一方、外部交通により、好ましくない社会関係が維持され、改善更生の妨げになるような場合には、かかる外部交通の遮断を認めるものであり、当該養子縁組が、民法上は無効とならないまでも、専ら外部交通を得る目的等、法令における外部交通に関する各種規制を潜脱するためにされたものと認められる場合には、もはや当該受刑者に対して外部交通を認める必要はなく、むしろ当該外部交通を禁止して受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰を図るべきであるから、本件依命通達は、同条の上記趣旨に合致するものであり、適法である。
- ウ たとえ本件依命通達が違法とされる余地があったとしても、下級行政機関は、国の通知・通達等の定めに従って事務処理をすることが要求されているのであるから、その定めが法律の解釈を明らかに誤っているなど特段の事情がない限り、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったということはできない。本件では、本件依命通達が刑事収容法128条の解釈を明らかに誤っているとの事情は存在せず、同通達に従ってされた本件決定に違法はない。
- エ 養子縁組の実体的意思とは、真に養親子関係の設定を欲する効果意思、習俗的標準に照らして親子として認められるような関係を創設しようとする意思であり、婚姻をする意思とは異なるものであり、同性間における婚姻が許容されていないからといって、真実は婚姻をする意思の下に行った養子縁組が当然に有効となるものではない。本件では、控訴人X1及びDが同性愛関係にあり、真実は婚姻する目的で本件養子縁組を行ったとは認められない。
- オ 控訴人X1は、Dと真の親子関係の設定を欲する効果意思がないにもかかわらず、刑務所収容中における外部交通を確保する目的で本件養子縁組を行ったものであり、本件養子縁組は民法上無効であり、また無効とまではいえないとしても、法令における外部交通に関する各種規制を潜脱し、専ら外部交通を得る目的のためにされたものであり、控訴人X1には、Dと養親子としての情を深めるという目的意識がないか、極めて希薄であるから、いずれにしてもDは刑事収容法128条本文括弧書きの「親族」に該当しない。
- (3) 刑務所長の故意又は過失の有無
控訴人等の主張:
刑務所長が、本件養子縁組をもっぱら信書発受の禁止を潜脱する目的で行ったと認定したことには、合理性も相当性もあるとはいえず、同控訴人がDと同性愛関係があることを刑務所に申告していなかったとしても、それによって上記認定に合理性や相当性が認められることになるとはいえない。そうすると、刑務所長は、本件養子縁組がされているのに、上記の合理性も相当性もあるとはいえない認定を行ったものであり、その職務上の注意義務を十分尽くしたとはいえない。
被控訴人の主張:
刑務所長が、控訴人X1とDとの本件養子縁組が縁組意思を欠くものと信じたこと、又は、もっぱら刑事収容法による信書の発受の禁止を潜脱する目的で行われ、信書の発信を禁止することができると信じたことにつき、注意義務違反はない。
- (4) 損害の有無及びその額
控訴人らの主張:
- ア 本件決定は、Dの心の支えであった控訴人X1との交流を奪い、頼れる者のいない社会に出て大きな不安を抱えていたDの唯一の希望を奪うものであった。これにより、Dは、心のよりどころをなくし、自暴自棄になって器物損壊罪で逮捕・勾留され、拘置所で死亡したのである。本件決定によりDが受けた精神的苦痛は甚大であり、これを慰謝する額は100万円を下らない。
- イ 本件決定は、控訴人X1とDの心の交流を遮断することによって、親族である両者が支え合うという法で保障された権利を侵害し、Dを自暴自棄にさせて逮捕される事態に追い込み、拘禁中のDの死亡という最悪の結果を招来したものであって、控訴人X1が一生をかけて守り、支えていこうと誓っていたDを奪い、耐え難い苦痛を与えたものであり、控訴人X1が受けた精神的苦痛を慰謝する額は100万円を下らない。
被控訴人の主張:
争う。
第3 裁判所の判決要旨
1 東京地裁の判決
- (1) 原告X1の訴えの適法性
- ア 当事者間に真に養親子関係の設定を欲する効果意思を有しない場合には、当該養子縁組は無効である(民法802条1号)。そして、養子縁組無効の訴えの性質が確認の訴えと解されることからすれば、養子縁組の無効は、家事事件手続法277条の合意に相当する審判や養子縁組無効の訴えによらずに、民事訴訟の前提問題として主張、判断することができるものと解される。
- イ 原告X1は、同じ刑務所で受刑中であったCが出所後の身寄りがないと話した程度の関係にすぎなかったにもかかわらず、養子縁組を持ちかけたことがあることをも勘案すると、原告X1及びDの間の本件養子縁組は、真に養親子関係の設定を欲する効果意思がないのに、専ら刑務所収容中の外部交通を確保する目的でされたものと認めるのが相当というべきである。したがって、本件養子縁組は無効であるというべきである。
- ウ 本件養子縁組は無効であり、原告X1は、Dの訴訟手続を承継しないから、原告X1の訴えのうち、Dの訴訟手続を承継したことに基づく部分(33万3333円及びこれに対する遅延損害金の支払請求)は、当事者適格を欠き、不適法である。
- (2) 本件決定の違法性の有無
- ア 両者とも男児に対する性犯罪を繰り返す犯罪傾向があり、その再犯のおそれも否定できない。両者が信書の発受をした場合、互いの性癖や犯罪傾向を話し合うなどして改善更生の観点から好ましくない社会関係を形成するおそれがあるというべきである。以上のとおり、Dは、刑事収容法128条本文の「犯罪性のある者」に当たる。
- イ 本件養子縁組は無効であり、Dは、刑事収容法128条本文括弧書きの「親族」に当たらない。刑事収容法128条に基づき、D宛ての本件信書の発信を禁止した本件決定は適法であり、国家賠償法上の違法はない。
- (3) 結論
- したがって、原告X1の訴えのうち、Dの訴訟手続を承継したことに基づく部分(33万3333円及びこれに対する遅延損害金の支払請求)は不適法であるから、これを却下し、原告X1のその余の請求並びに原告X3及び原告X4の請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
2 東京高裁の判決
- (1) 養子縁組の有効性
養子縁組の実質的要件として、当事者間に縁組意思の合致があることが求められ、この縁組意思は、社会通念上親子と認められる関係を形成しようとする意思と解されるが、実親子関係にあっても、特に子が成年に達した後の親子関係の態様には様々なものがあり、必ずしも一様ではないし、適格要件において、養子が成年であっても、養子と養親との間に年齢差がなくてもよいとされていることをも踏まえれば、成年同士の養子縁組の場合にあっては、養子縁組に求められる縁組意思における社会通念上親子と認められる関係というのは、一義的には決められず、相当程度幅の広いものというべきである。そうすると、縁組意思があるかどうかは、様々な動機や目的のものがあり得る中で、上記の養子縁組の扶養や相続等に係る法的効果や、同居して生活するとか、精神的に支え合うとか、他方の特定の施設入所や治療実施に当たっての承諾をするとかなどといった社会的な効果のうち、中核的な部分を享受しようとしているときには、これを認めるべきと考える。
成年である養親と養子が、同性愛関係を継続したいという動機・目的を持ちつつ、養子縁組の扶養や相続等に係る法的効果や、同居して生活するとか、精神的に支え合うとかなどといった社会的な効果の中核的な部分を享受しようとして養子縁組をする場合については、取りも直さず、養子縁組の法的効果や社会的な効果を享受しようとしているといえるのであるから、前記のとおり、縁組意思が認められるといえる。年齢差のない成年同士の養子縁組にあっては、典型的な親子関係から想定されるものとは異なる様々な動機や目的も想定され得るものであり、その中で、同性愛関係を継続したいという動機・目的が併存しているからといって、縁組意思を否定するのは相当ではないと考える。
控訴人X1とDとの本件養子縁組は有効であるから、同控訴人は、Dの相続人であり、同人の訴訟手続を承継したということができる。同控訴人の訴えのうち、Dの訴訟手続を承継したことに基づく部分は適法である。
- (2)本件決定の違法性の有無
- ア Dが刑事収容法上の親族に該当するかについて
被控訴人は、控訴人X1とDとの本件養子縁組は無効であるから、Dは、同控訴人の刑事収容法128条に定める親族には該当しない旨主張するが、上記説示のとおり、本件養子縁組は有効であるから、Dは同控訴人の親族に該当するものであり、この点の被控訴人の主張は採用し得ない。
- イ 本件養子縁組がもっぱら信書発受の禁止を潜脱するためにされたかについて
控訴人X1とDとは、同性愛関係にあり、互いに助け合って共に生活しようという意思を持って養子縁組を行ったものであって、養子縁組をすることにより受刑者同士であっても信書発受が自由になることを意識はしていたとしても、もっぱら信書発受の禁止を潜脱する目的で養子縁組を行ったとは認められない。
そうすると、刑務所長は、本件養子縁組がされているのに、上記の合理性も相当性もあるとはいえない認定を行ったものであり、その職務上の注意義務を十分尽くしたとはいえない。
- (3) 故意又は過失の有無
刑務所長が、そのような事実関係から、本件養子縁組をもっぱら信書発受の禁止を潜脱する目的で行ったと認定したことには、合理性も相当性もあるとはいえず、同控訴人がDと同性愛関係があることを刑務所に申告していなかったとしても、それによって上記認定に合理性や相当性が認められることになるとはいえない。そうすると、刑務所長は、本件養子縁組がされているのに、上記の合理性も相当性もあるとはいえない認定を行ったものであり、その職務上の注意義務を十分尽くしたとはいえない。
- (4) 損害の有無及びその額
- ア 本件決定により本件信書の発信がされなかったことと、Dの拘置所での死亡との間に、相当因果関係を認めるに足りる基礎となる事実は認められない。
- イ 本件決定によって、控訴人X1は、本件信書の発信を制限されたこと自体により精神的苦痛を被り、Dは、本件信書を受信できなかったこと自体により精神的苦痛を被ったものといえるから、同控訴人及びDが被った精神的苦痛に対する慰謝料は、本件信書の内容その他の諸般の事情を考慮すると、各3万円とするのが相当である。
- (5) 結論
控訴人らの請求は、主文掲記の範囲で理由があるからその限度においてこれを認容し、その余は棄却すべきであるところ、これと結論を異にする原判決は失当であるからこれを取り消し、主文のとおり判決する。
第4 本件判決を理解するための前提
1 本件判決で注目すべきこと:信書発受の禁止を実現するために「親族」という身分関係の成立を争う方法が違法であること
- (1) 本件は、既存の裁判例には包摂できない、特に留意しなければならない注目すべき判決である。
刑事収容法128条によれば、刑事施設の規律及び秩序を害し、又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者については、受刑者がその者との間で信書を発受することを禁止することができるとされるが、受刑者とそれらの親族間の信書の授受は、その対象から除外された。
では、刑事収容法の下では、未決拘禁者としての地位を有するものを除く受刑者の親族には、信書の自由な発受が保障され得るのであるか。同法128条はそれを明文で肯定する。しかるに、本件では、刑事施設の長が信書の自由な発受を保障される「親族」という身分関係の形成を無効化し、この「親族」というセーフガードを否定することにより、「刑事施設の規律及び秩序を害し、又は受刑者の矯正処遇の適正な実施に支障を生ずるおそれがある者」に該当するとして、同法127条の「信書の検査」に加えて、信書の発受の禁止を実現しようとすることが違法であるかが問題となる※3。矯正機関が従来から採用してきた手法が裁判の場で争われた最初の事案である。
- (2) 基本的人権たる表現の自由としての信書発受の自由
本件の評釈をする前提として、わが国における外部交通の手段としての信書発受をめぐる法状況を確認することにする。わが国の拘置所、刑務所における被拘禁者や受刑者による信書の発信と受信は、それらの者が外部と交通をなし、発信者と受信者間の意思疎通を実現するための必要不可欠の手段であり、かくして信書発受の自由は、新聞紙図書などの閲読の自由とともに憲法21条1項により基本的人権たる表現の自由として保障されている。また、憲法21条は、2項1文において「検閲」を禁止し、2文において通信の秘密を保障する。この通信の秘密の中には信書の秘密が含まれる。しかし、「監獄法」や「刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律」は、表現の自由を侵奪してきた。
2 監獄法における親族の信書の発受
- (1)事実誤認に関する審査と著反正義
(1) 明治41年3月28日に「監獄法」が公布された。同法は、昭和22年5月3日の日本国憲法制定を経て、平成18年の一部改正法により、「刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律」と改題された。その後、この法律は、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律(平成18年6月8日法律第58号)附則1条及び14条により、平成19年6月1日から廃止された。
監獄法を改題した「刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律」の第九章の「接見及ヒ信書」では、
「第46条 被収容者ニハ信書ヲ発シ又ハ之ヲ受クルコトヲ許ス
2 監置ニ処セラレタル者ニハ其親族ニ非サル者ト信書ノ発受ヲ為サシムルコトヲ得ス但特ニ必要アリト認ムル場合ハ此限ニ在ラス
第47条 監置ニ処セラレタル者ニ係ル信書ニシテ不適当ト認ムルモノハ其発受ヲ許サス
2 前項ニ依リ発受ヲ許ササル信書ハ二年ヲ経過シタル後之ヲ廃棄スルコトヲ得」と規定された。
これらの法文を読むに、同法は、検閲の禁止を明記する憲法21条2項の規定にもかかわらず、監獄法下と同様に「信書ヲ発シ又ハ之ヲ受ケルコトヲ許ス」とする。この表現からも、信書の発受が権利ではなくて御上からの恩恵として位置づけられていたことを知り得る。そして、46条2項の規定では、在監者の親族には一見信書の発受が許容されているかのような規定ぶりであるが、2項但書により、他の受刑者と同様大幅に制限されたのである※4。「刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律」は「監獄法」と同様に、受刑者の信書の発受に関して、相手方等の対象者の範囲と内容に対して制限することを可能としていたのである。
- (2) 信書に不適切な内容等があれば、信書の発受が不許可となること
親族であっても、「特ニ必要アリト認ムル場合」には、信書の発受は禁止されることは、46条2項但書から自明であるが、「特ニ必要アリト認ムル場合」とはどのような場合であるかは判然としていない。また、47条1項は、受刑者に対して行う信書の検査と同様に、親族との間における信書についても検査を行い、内容等が不適切であれば、信書の発受を不許可としたのである。
親族の信書の発受に関連して、検閲についても一言する。監獄法50条は、「信書ニ関スル制限ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」とし、検閲その他接見及び信書に関する制限は命令をもって定めるとした。そして、受刑者が刑務所当局を被告や相手方として訴訟を提起している場合には、弁護士との間で発受される信書もその対象とされる。受刑者による弁護士宛信書の一部抹消処分は、現在では裁量的範囲を逸脱しており違法であるとされている。しかし、裁判例としては、弁護人を依頼する発信の類もきびしく制限されている。札幌地判平4年2月10日(保安情報68号58頁)では、原告は、共犯者の弁護人に対し、無罪を訴える内容の電信を発信しようとしたが、これを不許可としたことが違法でないと判示された※5。監獄法の下では、受刑者には弁護人を依頼する権利が公然と否定されていた事態に他ならない※6。
3 自由権規約の採択後にも存続した監獄法
- (1) わが国の監獄法は、旧態然としており、わが国の政府は、国際人権法に抵触する法状況の改善に遅々としていること
1945年に、国際連合は国連憲章を採択したが、その文言は具体性を欠いていたので、人権規定の具体化作業に着手するために1946年に国連人権委員会が設立された。人権委員会は、1948年に、世界人権宣言を採択することとし、その直後から条約の起草作業を始め、1954年に起草作業を終えた。その後、国連総会(第3委員会)での逐条審議が行われ、1966年12月16日(国連第21回総会)において、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)が採択され、1977年に発効した。わが国も1978年5月30日に署名し、1979年6月6日に国会で承認された。同年6月21日には、批准書が寄託され、8月4日に「条約7号」として公布され、わが国でも、1979年9月21日に発効した。
- (2) 国際人権条約では、信書の発受の自由が権利性をもって肯定され得ること
欧州人権条約と米州人権条約では、人権委員会と人権裁判所が設置されている。かくして、人権委員会による調停が成立しないときには、裁判所が拘束力ある判決を下すことができ、裁判所による有権的な解釈を行うことにより条約の実効性を確保するのである。条約締約国は、判決に従う義務がある。これに対して、自由権規約には司法的な解決手続がないので、法的拘束力のある判決を下す術がないのである。
では、自由権規約は、わが国において自力執行性(self-executing)を有しているのであるか。北村泰三氏の紹介するところによれば、わが国は、規約人権委員会という国際的場面と国内的な場面では、自由権規約の自力執行性についての主張と態度が異なることが問題であるとする。すなわち、「「日本では条約は通常の国内法に変形されるのではない。しかし、実務において、条約はずっと以前から、日本の法制の一部を構成すると解されてきており、それに相応する効力を与えられてきた。換言すると、行政と司法当局は、条約の規定を遵守し、その遵守を保障してきたのである。条約は、国内法より高い地位を占めると解されている。このことは、裁判所により条約に合致しないと判断された国内法は、無効とされるか改正されなければならないことを意味する」。また、具体的に規約上の権利が侵害された場合において、「裁判所が、その救済について中心的な役割を果たすべき機関として位置づけられている。裁判所は、司法権の行使として、法律、規則または処分が憲法またはB規約に反するかどうかを判断する」とも述べている」※7。
そして、北村氏は、「自由権規約17条1項は、「何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。」とあり、さらに2項は、「すべての者は、1の干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。」と規定する。本条は、規約10条と合わせて解釈した場合に、受刑者の外部交通の一環としての信書の自由を保障するものとして理解されている。その他の人権条約も同様に信書の自由を保護している」と結論する※8。
国際人権法の立場からは、信書の発受の自由は権利性をもって保護されているといえよう。しかし、わが国においては、自由権規約が遵守されてこなかったのである※9。被拘禁者や受刑者の外部交通の一手段である信書を発受することが矯正機関の恣意的な裁量にゆだねられており、絶望的な人権蹂躙が繰り返されたことは、名古屋刑務所による数次の受刑者の死亡により、また、数多の裁判例でも確認することができた※10 。分けても、最高裁が矯正機関による信書の発受をはじめとする外部交通について表現の自由を侵害する違法・違憲とすることが稀有であった※11。本コラムの末尾に添付した資料としての裁判例と弁護士会による勧告書と要望書はそれらの一端を示す証左である。
4 刑事収容法95条及び128条(信書の発受の禁止)(旧95条)
- (1) 平成17年に「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」(法律第50号)(以下、「平成17年法」という。)が制定され、「信書の発受の禁止」は、95条に置かれた。そして、平成18年法律第58号(平成19年6月1日施行)により、法文名が現行の「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」(以下、「刑事収容法」という。)と改称された※12。
平成17年法によれば、126条以下で信書発受について規定し、126条では明示的な禁止該当の場合を除き、原則として、親族のみならず、それを含む「他の者」との信書発受の自由を認めるとする。ただし、127条で規律・秩序の維持、受刑者の矯正処遇の適切な実施のために、例外的に、信書の検査を行い、受刑者の通信の秘密及びプライバシーを制約することを認めている。さらに、128条で、犯罪性のある者その他受刑者が信書を発受することにより、刑事施設の規律及び秩序を害し、又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者(受刑者の親族を除く。)については、受刑者がその者との間で信書を発受することを禁止することができる。
また、同法128条及び129条は、信書発受を禁止する場合及び差し止める場合について、限定的に明示または列記をし、この法律によって定められた特定の場合にしか、禁止及び差止め処分を行うことができないとすることで、通信の自由を少なくとも法律上は、「監獄法」の下においてと比較すると、相当広範囲に容認するようになったといえよう※13。
- (2) 刑事収容法は、被拘束者と受刑者の「信書の発受の禁止」に関して、例えば、以下のように規定された。
(信書の発受の禁止)
- 第128条 刑事施設の長は、犯罪性のある者その他受刑者が信書を発受することにより、刑事施設の規律及び秩序を害し、又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者(受刑者の親族を除く。)については、受刑者がその者との間で信書を発受することを禁止することができる。ただし、婚姻関係の調整、訴訟の遂行、事業の維持その他の受刑者の身分上、法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理のため信書を発受する場合は、この限りでない。
- 刑事収容法223条は、以下のとおり定める。
(信書の発受の禁止)
- 第223条 留置業務管理者は、犯罪性のある者その他被留置受刑者が信書を発受することにより、留置施設の規律及び秩序を害し、又は被留置受刑者の改善更生に支障を生ずるおそれがある者(被留置受刑者の親族を除く。)については、被留置受刑者がその者との間で信書を発受することを禁止することができる。ただし、婚姻関係の調整、訴訟の遂行、事業の維持その他の被留置受刑者の身分上、法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理のため信書を発受する場合は、この限りでない。
しかし、被拘禁者と受刑者による外部交通の一例として、それらの者から弁護士への信書の直接の授受は拒否されており、現在でも、相変わらず郵便の方法が認められているにとどまる。この事項では、改善がなされたとはいえない。
5 刑事収容法128条の規定の「親族」の前提となる同法45条の親族
- (1) 本件の評釈をする前提として、刑事収容法128条の規定の「親族」の範疇は、同法45条の「親族」により定義される。同法45条によれば、親族は、括弧書きで、(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)と記載される。
日本民法の定めに拠れば、日本の民法上の親族の具体的範囲は、①6親等内の血族、たとえば、父母、子祖父母、孫、兄弟姉妹、曽祖父母、曽孫、伯叔父母、甥姪なお多岐に及ぶ、②配偶者、③3親等内の姻族、これらが「親族」に該当するのであるが、刑事収容法の「親族」の範囲は、民法の「親族」のそれとは同一であるのか。後述するように、実務でも裁判例でもそのように判断される痕跡は、皆無である。
- (2) そして、刑事収容法上の「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」も果たして「親族」として処遇されてきたのであろうか。この処遇の実態を解明することが、本件判決の争点を理解する核心となる。「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」とは、どのような基準で判断されるのであるか。行政矯正局が、いかなる権限を得て、「信書の発受の禁止処分」にあたり、そのような身分関係の形成や、事実上の婚姻関係などを判断するための事実調査と認定ができるというのであるか。この疑問は、本件において、刑務所長が、身分形成され戸籍にも登載された養子縁組の法的効果を否定することの可否と同質の問題である。
本件における被控訴人の主張に理由がないことの核心はここにあるのであるが、その論点について言及する前提として、監獄法また平成17年法の下での「親族」に係る信書の発受禁止の裁判例について言及し、その後で、養子縁組が無効であるとして、信書発受の禁止を正当化しようとする被控訴人の主張の思惑を検討する。
6 親族間での信書発受禁止の裁判例
現行法上、受刑者とその親族の間での信書の発受が原則的に許容されるとしても、発受が禁止され得る場合とはどのようであるかを過去の裁判例から見ることにする。本件判決が「親族」という身分関係の無効・不存在を主張したのとは異なり、過去における裁判例では、行刑当局は、親族関係の存在を前提に信書の発受禁止処分をしてきた。
- ⅰ 大阪地判昭43年9月16日※14
受刑者の妻宛ての信書の発信を同女が面会に来た際に受領する意向を表明したときに許可する方針のもとに留保したことが、解除条件付不許可処分であり違法な処分であったとされた。しかし、「発信を不適当とする、と誤って判断したこと、つまり裁量権の限界を超脱したことをもって、裁量権の限界を超脱してはならないとする注意義務を、怠った過失があるものということはできない」とし職務上の注意義務を懈怠したとは判断しなかった。この判決には、菊田幸一氏により「管理者の優越性の異常性が露呈されている」との批判がある※15。
- ⅱ 東京地判昭55年3月13日※16
原告が家族に宛てた信書のなかに第三者への年賀状の文言を具体的に指示して発信を依頼した信書について、拘置所長が枚数超過などを理由に不適当な箇所の書き直し、抹消などを指導し、超過部分の発信不許可処分をしたことが違法ではないとした。
- ⅲ 昭和57年代の妻あて信書が不許可とされた事例。
菊田幸一氏により紹介された妻あての信書が不許可とされた《事例》である。
「甲刑務所の事例であるが、担当職員から暴行を受け、脅迫されたり、自殺を強要され、また身体が悪いのに3ケ月あまり医者の診断がない。妻あてにこの実情を訴えて、「自分の力ではどうにもならないので、法務大臣と親しいB議員に頼むのが一番早道だから、議員の息子に当たる弁護士のC先生に至急面会にくるように連絡して欲しい」という内容の手紙を書いた。
これに対し、刑務所では、そのような違法な事実はないこと、このような事実に反する信書の発信を許すとその内容がマスコミ等に不当に扱われ社会や家族に無用の不安を与えること、さらに本人の矯正のため問題である、との理由から不許可にした。
しかし、不服申立ては本人の主観的な判断によるものであり、施設側がそのような事実がないとして、信書を不許可にする理由は成り立たない。法務省矯正局は、さすがに、「施設の内容を記載した信書の発信を不許可にしたこと自体が、かえって世人に誤解をまねく、これを許可したうえで、事実無根であることを併せ受信人に通知する取り扱いを相当とする」(法務省矯正局保安課『保安情報総覧』147頁)としている。
ところで、本事例は、1982(昭和57)年代のものであり、こんにち、このような扱いがなされているかどうかは確認できていない。おそらく不許可の公算が強い。なお、刑事施設法案(98条)においても、受刑者の発受するすべての信書の内容を検閲することになっている。これは、自由人権規約17条1項に違反している」※17。
- ⅳ 東京地判平元年5月31日※18
死刑確定者が未決勾留中に婚姻した妻との面会・文通等の禁止に対し、①日弁連の人権擁護委員会に救済を求める発信をしようとし、②行政訴訟提起の前提として法律扶助協会に法律扶助を求める発信をしようとし、③原告の未決勾留中に図書の一部の抹消処分を受けたことに対する東京簡裁への民事調停手続の追行のための代理人の許可申請書を発信しようとして、いずれも拘置所長から不許可とされたことによる精神的損害に対する国家賠償を求めたものである。判決では、①については、一部を容認し、②については違法性がないとし、③については損害がなかったとして棄却した。
- ⅴ 鳥取地判平6年1月25日(鳥取地裁平元(ワ)186号)※19
弁護士宛信書及び親族宛信書一部の不許可処分について、違法であるとされた事例。(判タ847号139頁の要旨より引用、傍線は筆者)
- ⅵ 熊本地判平8年1月26日※20
刑務所で服役中の者が母親及び次男に宛てた信書の書直しを指導することにより、その発信を阻止した刑務所の刑務所長職員の行為が裁量権の逸脱にあたり違法とされ、国に対する慰謝料請求が認められた事例。
- ⅶ 最判平10年4月24日※21
在監者と兄との間での信書の発受に対する制約(一部抹消)が合憲であるとされた事例。
- ⅷ 東京地判平20年4月18日※22
原告が父に対して発信した信書の要旨を記載した「書信表」の検査内容情報が開示されることが、憲法13条に反し違法であるとはいえないとした事例。
- ⅸ 熊本地判平23年3月15日※23
①Xが弁護士宛に発信しようとした文書を制限した刑務所長の措置は違法であるとして、三万円の慰謝料を認め、②Xが父母宛に信書を発信するためにした「願せん」の交付要求を拒絶し、処遇首席及び医務課長宛の処遇改善等のため同人らとの面談を求めるXの各「願せん」を破棄した等の担当刑務官の行為は、合理的な根拠を欠き、妥当とはいえない違法なものであるとして、五万円の慰謝料を認容した事例。
- 受刑者と親族間、受刑者の親族と弁護士間の信書の発受に関する裁判例は、以上のようである。
第5 本件の評釈
1 本件の争点
本件の争点は、(1)控訴人X1の訴えの適法性であり、控訴人X1の訴えのうち、同控訴人がDの訴訟手続を承継したことに基づく部分(33万3333円及びこれに対する遅延損害金の支払請求)が適法か否か、(2)本件決定の違法性の有無であり、刑務所長が本件決定をしたことについて、国家賠償法1条1項にいう違法があるか否か、(3)故意又は過失の有無であり、刑務所長が本件決定をしたことについて、故意又は過失があるか否か、(4) 損害の有無及びその額であり、控訴人X1及びDの損害の有無及びその額である。
2 本コラムでは、争点(1)と(2)を取り上げるにとどめる。
(1) 争点(1)の本件訴えの適法性の有無について
- ア 原審は、控訴人X1とDとが平成27年5月8日になされたとする養子縁組を無効であるとし、本件訴えの適法性を否定したので、控訴人X1とDは、養子縁組が有効に成立したので、同控訴人がDの相続人であるから、同人の訴訟手続を承継したと主張した。
この主張に対して、被控訴人は本件養子縁組を無効であると主張するが、その理由を適示するに、控訴人X1とDとは、同性愛関係にはなかったのであり、縁組意思(養子縁組を行うのに必要な効果意思)を持ち合うほどに親密ではなかったから、同控訴人もDも、控訴人らの主張するような「両名が助け合って共に生活しようという意思」を持ってはいなかった。両名は、刑事収容法による信書発受の禁止を潜脱する目的で養子縁組を行ったものである。したがって、本件養子縁組は無効であるという。
さらに、仮に、控訴人X1とDとが、同性愛関係にあり、両名が助け合って共に生活しようという意思を持っており、そのような意思の下に本件養子縁組が行われていたとしても、そもそも、縁組意思は習俗的な標準に照らして親子と認められるような関係を創設しようとする意思でなくてはならず、同性愛関係にある者同士が助け合って共に生活しようという意思は、実質的には同性間の婚姻をするという意思ともいうべきであり、縁組意思とはいえないから、このような意思の下に行われた本件養子縁組は無効である、というのである。
- イ 被控訴人は、同性愛関係にある者同士が助け合って共に生活しようという意思は、実質的には同性間の婚姻をするという意思ともいうべきであり、習俗的な標準に照らして縁組意思とはいえない旨主張したのに対して、控訴審は、このような場合に縁組意思があると判断した。至当な判断であると評価する。既述したように、「養子縁組の実質的要件として、当事者間に縁組意思の合致があることが求められ、この縁組意思は、社会通念上親子と認められる関係を形成しようとする意思と解されるが、実親子関係にあっても、特に子が成年に達した後の親子関係の態様には様々なものがあり、必ずしも一様ではないし、…適格要件において、養子が成年であっても、養子と養親との間に年齢差がなくてもよいとされていることをも踏まえれば、成年同士の養子縁組の場合にあっては、養子縁組に求められる縁組意思における社会通念上親子と認められる関係というのは、一義的には決められず相当程度幅の広いものというべきである。そうすると、縁組意思があるかどうかは、様々な動機や目的のものがあり得る中で、上記の養子縁組の扶養や相続等に係る法的効果や、同居して生活するとか、精神的に支え合うとか、他方の特定の施設入所や治療実施に当たっての承諾をするとかなどといった社会的な効果のうち、中核的な部分を享受しようとしているときには、これを認めるべきと考える。」
「成年である養親と養子が、同性愛関係を継続したいという動機・目的を持ちつつ、養子縁組の扶養や相続等に係る法的効果や、同居して生活するとか、精神的に支え合うとかなどといった社会的な効果の中核的な部分を享受しようとして養子縁組をする場合については、取りも直さず、養子縁組の法的効果や社会的な効果を享受しようとしているといえるのであるから、前記…のとおり、縁組意思が認められるといえる。年齢差のない成年同士の養子縁組にあっては、典型的な親子関係から想定されるものとは異なる様々な動機や目的も想定され得るものであり、その中で、同性愛関係を継続したいという動機・目的が併存しているからといって、縁組意思を否定するのは相当ではないと考える」。
- ウ 被控訴人の主張の背景には、刑事収容法によれば、「親族」には信書発受が禁止されていないので、刑務所長が信書発受を禁止した処分を適法あらしめるための法律構成が必要であった。そこで構築された手法が、控訴人X1とDの両名には縁組意思が存在せず、養子縁組が成立せず無効であるとし、本件養子縁組が刑事収容法の趣旨を潜脱する目的でなされたという立論である。同性愛関係にはなかったのであり、縁組意思(養子縁組を行うのに必要な効果意思)を持ち合うほどに親密ではなかったから、同控訴人もDも、控訴人らの主張するような「両名が助け合って共に生活しようという意思」を持ってはいなかった、というものである。
- (2) 争点(1)について、本件養子縁組が成立し、有効であれば、争点(2)についての結論は自明であり、Dは、刑事収容法128条の「親族」に該当し、たとえ、同条にいう犯罪性のある者等に該当するとしても、信書発受を禁止することはできないこととなり、それにもかかわらず、控訴人X1からDに対する本件信書の発信を禁止した本件処分は違法ということになる、との結論となる。
3 本件判決の位置づけ
- (1)刑事収容法128条により、たとえ犯罪性のある者等に該当するとしても、信書の発受を禁止することはできないこととなった。しかし、明治41年の「監獄法」以来の旧習を遵守するわが国の矯正機関は、名古屋刑務所リンチ殺人事件の発生についてその反省も皆無であり、また、わが国政府も人権規約を遵守することもままならなかった。平成18年に、平成17年法を改正した刑事収容法により矯正機関・施設による被拘禁者、受刑者ならびに死刑確定者の基本的人権の擁護が図られてきたとは到底思われない。例えば、刑事収容法128条本文中の「(受刑者の親族を除く)」の文言により、たとえ「犯罪性のあるものその他受刑者が信書を発信することにより、刑事施設の規律及び秩序を害し、又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者」であれ、信書の発受を禁止することができなくなった。しかるに、横浜弁護士会平成28年(2016年)1月14日「(横浜刑務所長宛)勧告書」でも知り得るように、被収容者の養親との間の外部交通について、たとえその養親が「受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者」である場合であっても、その外部交通を認めるのが法の趣旨であるにもかかわらず、横浜刑務所長は、申立人と申立人の養親との外部交通を全面的に禁止した。
- (2) では、たとえ「親族」との間であれ信書の発受を禁止するための術策とはどのようであるか。
これが本件でも用いられたそもそも「親族」関係の成立を否定するという手法である。刑事収容法の「親族」のカテゴリーとして、血族、配偶者ならびに姻族が列挙されており、または、内縁関係にある者もその対象とされるが、矯正機関の恣意または裁量により、場合によれば、親子関係、婚姻関係さらには内縁関係の成立の有無について、関係する者のプライバシーや人格権の侵害などに気に掛けずに、それらの者の身分関係の不成立を主張し立証する作業がなされるということに他ならない。
幸い、本件では、同性愛関係にある控訴人X1とDが縁組意思を有しており、養子縁組の成立に配慮した弁護士の介在により※24、本件訴訟により矯正機関による縁組関係の不成立による「親族」の否定に導く手法があからさまとなり、本件控訴審の聡明な判決に至った。しかし、矯正機関がサポートのない受刑者や被拘束者に対していかなる言動を採ってきたかは、闇の中に他ならない。
4 性的少数者の人権について
- (1) 本件養子縁組の当事者は、同性愛関係にある者で助け合って共に生活しようという意思を持った者と認定されたので、わが国における性的少数者の人権問題について言及する。
日弁連による「人権のための2019(案)」によれば、国際的な動向として、国連人権理事会は、2011年6月、性的指向と性同一性に関する決議※25を、わが国を含む23力国の賛成により採択し、個人の性的指向や性同一性を理由とする暴力や差別に対する重大な懸念を表明し、優先的課題として取り組むことを決定した。また、諸外国においては、ヨーロッパ、北米及び中南米諸国を中心に、この数年の間で同性婚を認める国が増加している 。国連の各機関(国際人権(自由権)規約委員会、国際人権(社会権)規約委員会、国連人権理事会、国連人権高等弁務官)からは、わが国に対し、性的少数者に対する差別があることについて、繰り返し勧告が出され、懸念が表明されてきた。
しかるに、わが国には性的指向と性自認に基づく差別や排除を禁止する法律はなく、同性愛者(ゲイ・レズビアン)・両性愛(バイセクシュアル)及び性同一性障がい者等の性的少数者に対する性的指向と性自認に基づく差別が放置されている。自殺総合対策大綱、祉会的包摂事業、男女共同参画基本計画等には、性的少数者への言及はあるものの、その内容は具体的な義務ではなく配慮に留まる。学校現場では性的少数者である児童・生徒の多くがいじめの対象となっており、雇用の場でも当事者が適応できず退職や解雇に追い込まれる例が多くある。また、同性愛等の当事者は、祉会保障や交際相手による暴力からの保護等の制度の利用から排除されているのである。
- (2) 受刑者がこのような性的少数者であるような場合も生じ得るので、暴力や差別に対しても配慮することが必要となる。本件の控訴審判決では、同性婚が認められていないわが国の法状況を考慮したうえで、共に生活するための法的身分として養子縁組関係を構築することも認められるとしたが、普通養子縁組制度を採用しているわが国では養子縁組の法的・社会的な効果の中核的な部分を享受しようとしている以上縁組意思が肯定することができるとした。わが国が置かれた人権状況を配慮した聡明な判断であると解する。
【エピローグ】
このコラムを執筆する過程で、裁判例⑮でも取り上げた平7(行ツ)66号発信不許可処分取消等請求事件につき、本件訴訟代理人である海渡雄一氏が死刑確定者Sに対して拘置所長がした新聞に対する投稿の自由が制限されたという信書不許可処分の違法を説く上告理由に接した。その冒頭では、「本件は死刑確定者の刑事施設内における法的な地位とその外部交通権についてのリーディングケースである。本件の真の争点は、上告人が主張するように、死刑確定者が人間として人権の主体として認められるのか、あるいは、被上告人が主張するように、生きながらにして屍としてその生命に対する権利、内心の自由という根源的な人権を否定された存在なのかというところにある。」と記載されている。筆者は、第二東京弁護士会人権擁護委員会に設置された死刑制度廃止検討委員会の部長を勤めてきたが、この間1947年に福岡市で発生した殺人事件で主犯とされたNの死刑判決に疑念を生じ、教誨師であった古川泰龍氏の著書を再現する作業もした(『真相究明書 ― 九千万人のなかの孤独』(花伝社、1991年))。現在のわが国においては、未だ死刑制度が存置され、拘置所には、生きる屍として人権を享受できない死刑確定者がいる。また、再審請求をなしえず処刑された菊池事件のFや飯塚事件のKもいる。これらの確定死刑囚に対する人権蹂躙と同質の処遇が、現在でも、刑務所などの収容施設においても公然となされている事を確認することができよう。被拘禁者、受刑者には、外部交通の方法、わけても信書の発受が極めて限定されているのだ。そして、再審の道は閉ざされ、十全たる防御権が確保されない事態にある。本件は、刑務所長が養子縁組の成立を否定する挙に出て、「親族」に保障される信書の発受を実現不能にしようとする愚行である。
当職の事務所の玄関には、Nの画いた観音像に古川泰龍氏が「君看双眼色、不語似無憂」の書を添えた絵がある。この絵を見るたびに、無実の罪で死刑台に吊るされたNを思い偲び、また、収容施設にいる被拘禁者、受刑者らに対する処遇の酷さ、そして、それらの者から我々弁護士への信書も直接の発受すら拒否されている法状況を鑑みるに、国際人権諸条約が定める人権擁護の事態を確保すべく歩みたいと考える次第である。
【資料1:裁判例】
ここでは、外部交通の一手段たる信書の発受禁止処分を中心に表現の自由に係る裁判例を紹介する。ただし、網羅的でないことを了解いただきたい。
- ① 大阪地三判昭33年8月20日(一部認容)(大阪地裁昭29(行)79号文書画図閲読等禁止処分に対する不服事件)判時159号6頁、WestlawJapan文献番号1958WLJPCA08200003
:拘禁中のS死刑囚の基本的人権たる新聞等閲覧の自由を侵害する監獄法令を違憲とした事例
- ② 最判昭45年9月16日(棄却)(最高裁昭40(オ)1425号国家損害賠償請求事件)民集24巻10号1410頁、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53962)、判時605号55頁、WestlawJapan文献番号1970WLJPCA09160001(控訴審高松高二判昭40年9月25日(高松高裁昭40(ネ)131号)WestlawJapan文献番号1965WLJPCA09256001、第一審高知地判昭40年3月31日(高知地裁昭38(ワ)197号)WestlawJapan文献番号1965WLJPCA03310001)
:監獄法施行規則96条中の未決勾留により拘禁された者に対し喫煙を禁止する規定は、憲法13条に違反しない。(裁判所HPの要旨より引用)
- ③ 神戸地判昭54年3月14日(請求棄却)(神戸地裁昭53(行ウ)43号発信禁止処分取消請求事件)裁判所HP(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=17589)、WestlawJapan文献番号1979WLJPCA03140004
:受刑者からの新聞社への特別発信願を不許可にした刑務所長の処分が、監獄法46条2項但書の場合に当たらないとして適法とされた事例(裁判所HPの要旨より引用)
- ④ 最大判昭58年6月22日(上告棄却)(最高裁昭52(オ)927号損害賠償請求事件)民集37巻5号793頁、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52137)、判時1082号3頁、判タ500号89頁、WestlawJapan文献番号1983WLJPCA06220002(第一審東京地判昭50年11月21日(東京地裁昭45(ワ)3319号)WestlawJapan文献番号1975WLJPCA11210003、控訴審東京高判昭52年5月30日(東京高裁昭50(ネ)2782号)WestlawJapan文献番号1977WLJPCA05300003)
:「よど号ハイジャック記事抹消事件」、未決拘禁者の新聞、図書等の閲読の自由を監内の規律及び秩序維持のために制限する場合における監獄法等の規定と憲法21条等について合憲限定判断を示した事例
- 1.監獄法31条2項、監獄法施行規則86条1項の各規定は、未決勾留により拘禁されている者の新聞紙、図書等の閲読の自由を監獄内の規律及び秩序維持のため制限する場合においては、具体的事情のもとにおいて当該閲読を許すことにより右の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められるときに限り、右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲においてのみ閲読の自由の制限を許す旨を定めたものとして、憲法13条、19条、21条に違反しない。
- 2.いわゆる公安事件関係の被拘禁者らによる拘置所内の規律及び秩序に対するかなり激しい侵害行為が当時相当頻繁に行われていたなど原判示の事情のもとにおいては、公安事件関係の被告人として未決勾留により拘禁されている者の購読する新聞紙の記事中いわゆる赤軍派学生によって行われた航空機乗取り事件に関する部分について、拘置所長が原判示の期間その全部を抹消する措置をとつたことに違法があるとはいえない(以上、判タ500号89頁の要旨より引用。傍線は筆者)。
- ⑤ 大阪地判昭58年11月10日(大阪地裁昭58(行ウ)32号信書の発信制限取消等請求事件)行例集34巻11号1895頁、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=16922)、判タ534号177頁、WestlawJapan文献番号1983WLJPCA11100006
- 1.拘置所長が、被収容者の信書の発信につき、原則として1日2通以内とし、特に必要があるときは度数外発信を許す旨の達示を定めたことが、拘置所に現在及び将来収容される不特定多数の被収容者を対象とする一般処分であるとして、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとされた事例
- 2.被収容者の信書の発信につき、原則として1日2通以内とし、特に必要があるときは度数外発信を許す旨の拘置所長の定めた達示による制限の撤廃等を求める右被収容者の要求に対し、右拘置所長のした要求に応じない旨の回答が、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとされた事例
- 3.勾留中の刑事被告人をも対象とする被収容者の信書の発信につき、原則として1日2通以内とし、特に必要があるときは度数外発信を許す旨の拘置所長の定めた達示による制限が、憲法13条、21条、監獄法46条、刑事訴訟法1条に違反するものではなく、拘置所長の裁量権の濫用によるものでもないとされた事例(以上、裁判所HPの要旨より引用)
- ⑥ 東京地民一八判平3年3月25日(一部認容、一部棄却・控訴)(東京地裁平元(ワ)6567号損害賠償請求事件)判時1397号48頁、判タ769号126頁、WestlawJapan文献番号1991WLJPCA03250006(控訴審東京高判平3(ネ)1330、1402、1802号損害賠償請求控訴事件)
:控訴審において強盗殺人罪等により死刑判決を受けた被告人が新聞等に掲載するため発送を申し出た創作原稿の一部につき、拘置所職員のした抹消の指示が違法であるとして国の責任が認められた事例(判時1397号48頁の要旨より引用)
- ⑦ 東京地民三七判平3年3月29日(一部認容・控訴)(東京地裁昭61(ワ)6833号損害賠償請求事件)判タ772号113頁、訟月37巻11号2050頁、WestlawJapan文献番号1991WLJPCA03290023
- 1.拘置所長がした未決勾留中の拘禁者らに対する新聞切抜きつづりの差入れ不許可処分について、右差入れを許可すると拘置所の管理運営に多大な支障が生じる相当のがい然性があり、拘置所長の判断には合理性が認められるとして、違法性がないとされた事例
- 2.拘置所長がした未決勾留中の拘禁者らに対する差入れ図書の閲読不許可処分及び差入れ図書の一部抹消処分について、右各図書の閲読を許可すると、勾留目的が阻害されあるいは監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生じる相当のがい然性があり、刑事被告人の防御権の重要性を考慮にいれてもなお、やむを得ない措置であったとして、拘置所長の裁量権の範囲を逸脱した違法がないとされた事例
- 3.拘置所長がした未決勾留中の拘禁者に対する刑事弁護人あて信書の一部削除処分及び同弁護人との接見の際に右削除部分を明記した一覧表を携行することの不許可処分について、右信書が発信され、あるいは右一覧表が接見の場に持ち込まれたとしても、拘置所の管理運営に支障を及ぼす相当のがい然性があるとは認められず、また、右各処分は刑事被告人としての防御権を侵害するとして、拘置所長の裁量権の範囲を逸脱した違法があるとされた事例(以上、訟月37巻11号2050頁の要旨より引用)
- 4.未決拘禁者が刑事弁護人と接見する際に信書等を携行することを不許可とした処分が違法とされた事例(判タ772号113頁の要旨より引用)
- ⑧ 東京地民二判平4年3月16日(一部却下、一部棄却・控訴・上告)(東京地裁昭62(行ウ)95号・同(ワ)13428号閲読不許可処分取消等請求、損害賠償請求事件)判時1420号62頁、判タ784号197頁、WestlawJapan文献番号1992WLJPCA03160001(控訴審東京高判平5年7月29日(東京高裁平4(行コ)36号)WestlawJapan文献番号1993WLJPCA07290001、上告審最一小判平6年10月27日(最高裁平5(行ツ)178号)WestlawJapan文献番号1994WLJPCA10270003)
- 1.在監者に対する図書閲読不許可処分の取消しを求める訴えが、在監者が他に移監されたことによって訴えの利益を欠くに至ったとして、却下された事例
- 2.未決拘禁者に差し入れられた単行本「ニーチェ」について、その中のドイツ語で記載された文章を写した写真の箇所の翻訳を自費で行うか又はその抹消に応じなければその閲読を許可しないものとした拘置所長の措置が、違法なものとまではいえないとされた事例
- 3.未決拘禁者に差し入れられたパンフレットにあったいわゆる対監獄闘争に関する記事を抹消した拘置所長の措置が、違法なものとまではいえないとされた事例(以上、判タ784号197頁の要旨より引用)
- ⑨ 東京高民二判平5年7月29日(一部変更、一部確定・一部上告)(東京高裁平4(行コ)36号、閲覧不許可処分取消等、損害賠償請求控訴事件)判時1472号61頁、WestlawJapan文献番号1993WLJPCA07290001(第一審東京地判平4年3月16日(東京地裁昭62(行ウ)95号)WestlawJapan文献番号1992WLJPCA03160001、上告審最一小判平6年10月27日(最高裁平5(行ツ)178号)WestlawJapan文献番号1994WLJPCA10270003)
:未決拘禁者に差し入れられた書籍「ニーチェ」について、その中のドイツ語で記載された文章の写真の箇所の翻訳を自費で行うか又はその抹消に応じなければその閲読を許可しないとした拘置所長の措置が違法であるとされた事例(判時1472号61頁の要旨より引用)
- ⑩ 最二小判平5年9月10日(最高裁平3(オ)804号損害賠償請求事件)裁判集民169号721頁、判時1472号69頁、判タ828号130頁、WestlawJapan文献番号1993WLJPCA09100005(控訴審福岡高判平2年12月20日(福岡高裁昭60(ネ)330号ほか)訟月37巻7号1137頁、WestlawJapan文献番号1990WLJPCA12200015、第一審長崎地判昭60年5月22日(長崎地裁昭59(行ウ)2号ほか)訟月37巻7号1163頁、WestlawJapan文献番号1985WLJPCA05220001)
:在監者の処遇と表現の自由に関する判例として、監獄内の規律及び秩序維持に障害が生ずること並びに受刑者の改善、更生という目的を阻害することを理由として、受刑者の図書の閲読を不許可とする処分をしても、監獄内の規律及び秩序の維持上放置できない程度の障害が生ずる「相当の蓋然性」があり、憲法13条、19条、21条に反するものではなく、また、国家賠償責任は成立しないことを判示した事例
- ⑪ 【第1事件】鳥取地判平6月1日25日(一部認容、一部却下・控訴)(鳥取地裁昭62(行ウ)6号誤認不当懲罰処分取消請求、損害賠償請求事件、同7号訴権侵害行政処分取消請求等請求、損害賠償請求事件、同8号弁護士宛書信郵送不許可処分取消等請求、損害賠償請求事件)判タ847号139頁、WestlawJapan文献番号1994WLJPCA01250006【第2事件】鳥取地判平6年1月25日(一部認容、一部却下・確定)(鳥取地裁平元(ワ)186号)判タ847号139頁、WestlawJapan文献番号1994WLJPCA01250007
- 1.受刑者が在監中に受けた刑務所長の処分については、その刑の執行を終えた後は、その取消しを求める訴えの利益がないとされた事例(第1事件)
- 2.刑務所長が受刑者に対してした弁護士宛信書の一部抹消処分及び図書閲読不許可処分について、裁量権の範囲を逸脱した違法があるとされた事例(第1事件)
- 3.弁護士宛信書及び親族宛信書一部の不許可処分について、違法であるとされた事例(第2事件)(以上、判タ847号139頁の要旨より引用)
- ⑫ 最一小判平6年10月27日(上告棄却)(最高裁平5(行ツ)178号閲読不許可処分取消等・損害賠償請求事件)裁判集民173号263頁、判時1513号91頁、判タ865号127頁、WestlawJapan文献番号1994WLJPCA10270003(控訴審東京高判平5年7月29日(東京高裁平4(行コ)36号)判時1472号61頁、判タ848号144頁、WestlawJapan文献番号1993WLJPCA07290001、第一審東京地判平4年3月16日(東京地裁昭62(行ウ)95号ほか)判時1420号62頁、判タ784号197頁、WestlawJapan文献番号1992WLJPCA03160001)
:在監者の信書の発受に関する制限を定めた監獄法50条、監獄法施行規則130条の規定が憲法21条に違反せず、また、信書の一時留め置きは同条2項前段にいう検閲にあたらず合憲とされた事例
- ⑬ 熊本地民三判平8年1月26日(一部認容・控訴)(熊本地裁平3(ワ)1337号損害賠償請求事件)判タ910号96頁、WestlawJapan文献番号1996WLJPCA01260009、判例解説水谷規男(www.jca.apc.org/cpr/nl11/mizutani.html)
:刑務所で服役中の者が母親及び次男に宛てた信書の書直しを指導することにより、その発信を阻止した刑務所の刑務所長職員の行為が裁量権の逸脱にあたり違法とされ、国に対する慰謝料請求が認められた事例
- ⑭ 最二小判平10年4月24日(上告棄却)(最高裁平5(オ)2005号損害賠償請求事件)裁判集民188号141頁、判時1640号123頁、WestlawJapan文献番号1998WLJPCA04240001(第一審東京地判平3年8月30日(東京地裁昭61(ワ)5239号)判時1403号51頁、WestlawJapan文献番号1991WLJPCA08300001、控訴審東京高判平5年7月21日(東京高裁平3(ネ)3158号)判時1470号71頁、WestlawJapan文献番号1993WLJPCA07210001)
:在監者が兄から受信した信書の発受に対する制約及び発信した信書、新聞ならびに機関誌の一部抹消、弁護士との接見拒否を合憲とした事例
- ⑮ 最二小判平11年2月26日(上告棄却)(最高裁平7(行ツ)66号発信不許可処分取消等請求事件)裁判集民191号469頁、判時1682号12頁、判タ1006号125頁、WestlawJapan文献番号1999WLJPCA02260003、(控訴審東京高判平6年12月21日(東京高裁平5(行コ)145号)、第一審東京地判平5年7月30日(東京地裁平4(行ウ)156号)判タ841号121頁、WestlawJapan文献番号1993WLJPCA07300005)
:死刑確定者の処遇に関して判断を示した最初の最高裁判決
:東京拘置所に収容されている死刑確定者が新聞社にあてて投稿文を発送することの許可を求めたのに対し、東京拘置所長が、死刑確定者の心情の安定にも十分配慮して、死刑の執行に至るまでの間、社会から厳重に隔離してその身柄を確保するとともに、拘置所内の規律及び秩序が放置することができない程度に害されることがないようにするために、これを制限することが必要かつ合理的であるか否かを判断して不許可とした処分には、原判示の事実関係の下においては、裁量の範囲を逸脱した違法があるとはいえず、右処分は適法である。(〔裁判官河合伸一の〕反対意見がある。)(判タ1006号125頁の要旨より引用。〔〕内は筆者。)
また、本裁判集には、上告代理人海渡雄一と川村理の上告理由がある。
【参照】日弁連警告・要望1994年3月28日死刑確定者の国連人権委員会への発信不許可人権救済申立事件
- ⑯ 最二小判平15年9月5日(棄却)(最高裁平10(オ)642号損害賠償請求事件)裁判集民210号413頁、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62401)、判時1850号61頁、判タ1146号218頁、WestlawJapan文献番号2003WLJPCA09050001(第一審浦和地判平8年3月22日(一部認容)(浦和地裁平3(ワ)1160号)判時1616号111頁、WestlawJapan文献番号1996WLJPCA03220016、控訴審東京高判平9年11月27日(東京高裁平8(ネ)1780号、2158号)
:在監者の信書の発受に関する制限を定めた監獄法50条、監獄法施行規則130条の規定は、憲法21条、34条、37条3項に違反しない。(裁判所HPの要旨より引用)
- ⑰ 最一小判平18年3月23日(一部破棄自判、一部上告棄却)(最高裁平15(オ)422号損害賠償請求事件)裁判集民219号947頁、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=32855)、判時1929号37頁、判タ1208号72頁、WestlawJapan文献番号2006WLJPCA03230001(判批:榎木透・判例セレクト2006(憲法8)、井上禎男・法セミ619号115頁(最新判例演習室)、正木祐史・同書618号119頁(最新判例演習室)(控訴審福岡高判平14年10月31日(福岡高裁平14(ネ)613号)、第一審熊本地判平14年5月31日(熊本地裁平12(ワ)1018号):監獄法47条2項の憲法適合性に関する初めての最高裁判決
- 1.監獄法46条2項は、具体的事情の下で、受刑者のその親族でない者との間の信書の発受を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持、受刑者の身柄の確保、受刑者の改善、更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性があると認められるときに限り、この障害の発生防止のために必要かつ合理的な範囲においてのみ上記信書の発受の制限が許されることを定めたものとして、憲法21条、14条1項に違反しない。
- 2.刑務所長が受刑者の新聞社あての信書の発信を不許可としたことは、刑務所長が、具体的事情の下で、上記信書の発信を許すことにより刑務所内の規律及び秩序の維持、受刑者の身柄の確保、受刑者の改善、更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性があるかどうかについて考慮していないこと、上記信書が、国会議員に対して送付済みの請願書等の取材等を求める旨の内容を記載したものであり、その発信を許すことによって刑務所内に上記の障害が生ずる相当のがい然性があるということができないことなど判示の事情の下においては、裁量権の範囲を逸脱し、又は裁量権を濫用したものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法となる。(以上、裁判所HPの要旨より引用)
- ⑱ 名古屋地判平19年7月13日(一部認容、一部棄却)(名古屋地裁平18(ワ)4113号損害賠償請求事件)『速報判例解説[2]刑事訴訟法No.11[法セミ増刊]』245頁
:刑務所からの信書発信の制限が監獄法及び国家賠償法上違法と判断された事例
- ⑲ 東京地判平20年4月18日(東京地裁平19(ワ)22822号損害賠償請求事件)澤登文治『受刑者の人権と人間の尊厳』(日本評論社、2019)46頁
:原告が父に対して発信した信書の要旨を記載した「書信表」の検査内容情報が開示されることが、憲法13条に反し違法であるとは言えないとした事例
- ⑳ 東京高判平20年11月27日(棄却)澤登文治『受刑者の人権と人間の尊厳』(日本評論社、2019)105頁
:東京地判平20年4月18日(上記⑲)の控訴審であり、被控訴人が行った訴訟救助の疎明のために「意見書」を提出したりするなどの目的は正当であるとした事例
- ㉑ 東京地判平21年4月20日(棄却・確定)(東京地裁平20(ワ)3089号損害賠償請求事件)澤登文治『受刑者の人権と人間の尊厳』(日本評論社、2019年)57頁
:東京地判平20年4月18日(上記⑲)と同一の受刑者により提起された訴訟。結論は、逆に、刑務所がした裁判所への「書信表」の提出につき違法性を認定した事例
- ㉒ 熊本地民三判平23年3月15日(一部認容、一部棄却・控訴)(熊本地裁平20(ワ)1583号慰謝料請求事件)判時2138号90頁、WestlawJapan文献番号2011WLJPCA03156002
:受刑者の弁護士宛の発信を制限した刑務所長等の措置が違法であるとして、国家賠償請求が認容された事例(判時2138号90頁の要旨より引用)
- ㉓ 名古屋高判平24年8月31日(名古屋高裁平23(行コ)53号)
【参照】 岐阜地判平24年1月25日(判例集未掲載、なお、判時2283号35頁囲み記事において、受刑者の信書の発受禁止についての処分の取消し等を認めた裁判例として指摘されている。)
- ㉔ 千葉地民三判平27年4月21日(認容・確定)(千葉地裁平26(行ウ)8号行政処分取消請求事件)判時2283号34頁、WestlawJapan文献番号2015WLJPCA04219003、(判批:白取祐司判例評論699号29頁)
:刑務所長が、服役中の受刑者と被収容者支援団体関係者との信書の発受を禁止する処分をしたことから、受刑者が原告となって、同処分は違法であるとしてその取消しを求めた事案について、刑務所長に裁量権があることを考慮しても、法の要件を充たすとした刑務所長の判断に合理的根拠や合理性があるものとはいえず違法であるとして、処分が取り消された事例(判時2283号34頁の要旨より引用)
- ㉕ 千葉地民三判平27年9月8日(認容・確定)(千葉地裁平26(行ウ)15号信書発信禁止処分取消等請求事件)裁判所HP(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85354)、WestlawJapan文献番号2015WLJPCA04219002
:千葉刑務所に収容中の受刑者である原告が、特定非営利活動法人に対する平成25年11月21日付けでなした信書の発信を処分行政庁である千葉刑務所長が禁止したことは違法であるとして、本件処分の取消しを認めるとともに、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料の支払を認めた事例
- ㉖ 千葉地民三判平29年9月8日(一部認容)(平27(行ウ)29号行政処分取消等請求事件(第1事件)(千葉地裁平28(ワ)140号国家賠償請求事件(第2事件))裁判所HP(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=87213)、WestlawJapan文献番号2017WLJPCA09086001
:千葉刑務所長が原告Aに対し平成27年4月8日付けでなした原告Bへの信書の発信を禁止する処分の取り消しを認容し、被告は、原告Aに対し5000円(第1事件)、原告Bに対して3万5000円(第2事件)の金員の支払を命じた事例
- 1.刑務所長が、刑務所収容中の受刑者に対し、同受刑者が有罪判決となった刑事事件について取材していたルポライターが刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律128条所定の「受刑者が信書を発受することにより」「受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者」に当たるとしてした信書発信禁止処分について、同ルポライターが同受刑者と共犯者間の情報を伝達、仲介していたと判断したことに合理的根拠があったとはいい難いこと、当該信書の内容が同受刑者の矯正処遇上の支障になり得るとしても同法129条に基づく発受の差止め等で対応することが可能であると考えられることなどから、裁量権の逸脱又は濫用の違法があるとされた事例
- 2.刑務所長が、刑務所収容中の受刑者に対し、ルポライターが刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律128条所定の「受刑者が信書を発受することにより」「受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者」に当たるとしてした信書発受禁止処分に裁量権の逸脱又は濫用の違法がある場合に、同処分が、同ルポライターとの関係において、合理的な理由なく信書の発受を妨げられないという法的利益を侵害し、同ルポライターに対して負う職務上の法的義務に違反するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例(以上、裁判所HPの要旨より引用)
- ㉗ 【本評釈対象判例】東京高判平31年4月10日(東京高裁平29(行コ)246号)WestlawJapan文献番号2019WLJPCA04106001
【資料2 弁護士会による勧告と要望】
ここでは、ネット等で筆者が把握できたわが国の単位弁護士会から出された刑務所長や拘置所長宛の勧告書と意見書を参考までに取り上げた。調査を重ねるならば、これらの勧告書や意見書が氷山の一角であると推測できる。直近から時系列的に遡る形で掲載した。日弁連『人権侵犯申立事件 警告・勧告要望例集 第4巻』から、2つの侵害を取り上げた。
- ① 福島県弁護士会 平成29年(2017年)6月22日「(福島刑務所長宛)勧告書」(福島県弁護士会平成26年(人権)第14号の2)
:第三者に対する伝言文が記載されている場合に、通数制限を理由として当該発信に対して差止め処分を行い、発信を事実上断念させるような指導・助言等をしてはならない旨を勧告したこと。
http://www.f-bengoshikai.com/wp-content/uploads/2017/08/6af26f352211b2b42e2fd638edb48679-2.pdf
- ② 東京弁護士会 平成28年(2016年)9月23日(東弁28人第251号)
:申立人が未決拘禁者として在監していた相手方に発信申請を行った信書について、相手方が信書の一部文言を抹消した上で発信した行為は、申立人の信書発信の自由を侵害したものであると認定し、相手方に勧告をした事例。
:本件信書で相手方が削除した文言は、一般的な民事事件において相手方に対し債務の履行を促す際に使用する文言の範囲内であり、当該文言を「威迫にわたる記述又は明らかな虚偽の記述があるため、受信者を著しく不安にさせ、又は受信者に損害を被らせるおそれがある」と評価することはできないし、刑事収容施設における管理運営に支障をきたすものではないと認定した事例。
https://www.toben.or.jp/message/jinken/
- ③ 日本弁護士連合会 平成28年(2016年)4月26日「(千葉刑務所長宛)勧告書」(日弁連総第2号)
:受刑者の投稿等を目的とする信書の発信については、当該信書の発信を許すことにより、刑務所内の規律及び秩序の維持、受刑者の身柄の確保、受刑者の改善及び更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められる場合を除き、当該発信に対して差止め等の処分を行い、発信を事実上断念させるような指導・助言等をしてはならない旨勧告する。
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/hr_case/data/2016/complaint_160426.pdf
- ④ 横浜弁護士会 平成28年(2016年)1月14日「(横浜刑務所長宛)勧告書」
:勧告の趣旨
被収容者の養親との間の外部交通について、たとえその養親が「受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者」である場合であっても、その外部交通を認めるのが法の趣旨であり、申立人に対する事情聴取等、申立人と養親との関係についての十分な調査も経ずに、申立人と申立人の養親との外部交通を全面的に禁止し、禁止とした具体的理由も説明しない貴所の措置は申立人の権利を侵害したものである。今後は、申立人と養親との外部交通を安易に一律禁止するのではなく、その養親子関係を十分に調査し、可能な限り外部交通を許可するよう勧告する。
https://www.kanaben.or.jp/profile/gaiyou/torikumi/jinken/kankoku/
- ⑤ 横浜弁護士会 平成28年(2016年)1月14日「横浜刑務所 外部交通不許可について勧告」
:被収容者の養親との間の外部交通について、たとえその養親が「受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者」である場合であっても、その外部交通を認めるのが法の趣旨であり、申立人に対する事情聴取等、申立人と養親との関係についての十分な調査も経ずに、申立人と申立人の養親との外部交通を全面的に禁止し、禁止とした具体的理由も説明しない貴所の措置は申立人の権利を侵害したものである。今後は、申立人と養親との外部交通を安易に一律禁止するのではなく、その養親子関係を十分に調査し、可能な限り外部交通を許可するよう勧告する。
https://www.kanaben.or.jp/profile/gaiyou/torikumi/jinken/kankoku/pdf/20160122_jinken_kankoku.pdf
- ⑥ 京都弁護士会 平成27年(2015年)8月19日「(京都刑務所長宛)勧告書」
:京都刑務所が、受刑者を含め、受刑者の発信する全ての信書(審査の申請等を除く)を開封したまま職員に提出させていることは、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第127条第1項、第2項の趣旨に反し、受刑者の通信の秘密を侵害するおそれがある。
よって、貴刑務所に対して警告したこと。
- ⑦ 横浜弁護士会 平成25年(2013年)12月11日「(横浜刑務所長宛)勧告書」
:複数の申立人から、特定の者との外部交通が、具体的理由を示されることなく、一律に禁止されたという申立がなされた。これについて、現刑事収容施法制定の経緯を深く認識し、信書の中に仮に不適切な記載等があっても、当該部分の抹消等、他のより制限的でない手段を採用するなど、受刑者の外部交通を広く認める措置をとるよう、また、受刑者の外部交通を禁止する措置をした場合は、抽象的な文言ではなく、その具体的理由を受刑者に説明するよう勧告したこと。
https://www.kanaben.or.jp/profile/gaiyou/torikumi/jinken/kankoku/
- ⑧ 秋田弁護士会 平成25年(2013年)8月8日「(秋田刑務所長宛)勧告書」
:申立人とB氏またはC氏との信書の発受を禁止する措置を執ったことは、いずれも人権侵害に該当するので、上記各措置を直ちに解除するよう勧告したこと。
http://akiben.jp/statement/data/20130808akitakeimusyokankokusyo.pdf
- ⑨ 日本弁護士連合会 平成25年(2013年)1月22日「(栃木刑務所長宛)勧告書」(日弁連総第145号)
:勧告の趣旨
貴刑務所は、申立人が、2009年7月8日、刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇について、その調査を行う国又は地方公共団体の機関並びに弁護士、弁護士会及び当連合会(以下「弁護士等」という。)に対して、未開封かつ不検閲での信書を発信する方法を教示願いにて尋ねたところ、「不許」との回答をなし、申立人は、当該信書の内容を貴刑務所に知られることをおそれた結果、その信書の発信を断念せざるを得なかった。
貴刑務所が上記のような信書について、例外を認めることなく一律に検査を行い、申立人に対して不許と告知されたことは、憲法13条、21条及び32条並びに国際人権(自由権)規約19条2項、14条1項等の国際準則、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律127条により保障された、受刑者が法的な問題について専門家ないし専門機関である弁護士等と自由かつ秘密に通信する権利、ひいてはその裁判を受ける権利を侵害するものである。
よって、当連合会は、貴刑務所に対し、受刑者が刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇についてその調査を行う国又は地方公共団体の機関及び弁護士等宛ての信書の発信を求めた場合、原則として検査の必要がないものとして取り扱い、その内容が自己の受けた処遇に関するものであることについては、口頭で確認するにとどめ、信書の宛先については、封筒に書かれた宛先等の外形から判断することとし、信書外の事情から刑事施設の規律及び秩序を害する高度の現実的具体的危険性が存在するなどの特別の事情がない限り、内容の検査をすることなく信書を発信させるよう勧告する。
- ⑩ 横浜弁護士会 平成23年(2011年)12月15日「(横浜刑務所長宛)要望書」
:受刑者が、裁判遂行のために裁判所等の官公署宛てに発しようとする信書や、訴訟を委任している弁護士宛てに発しようとする信書及び弁護士会宛てに発しようとする信書については、月単位で定められる発信申請通数を越える場合にも、発信申請を許可する運用とするよう要望。
https://www.kanaben.or.jp/profile/gaiyou/torikumi/jinken/kankoku/
- ⑪ 福岡弁護士会 平成23年(2011年)2月24日「(福岡拘置所長宛)勧告及び要望書」
:申立人に接見禁止処分が付けられていないにもかかわらず申立人から弁護士○○○○宛の発信に報道2社宛の告発表を同封することの不許可処分が、刑訴法80条に反して違法であるとして信書の発信を妨害しないようにと勧告したこと。
https://www.fben.jp/jinkenkyusai/data/20110224.pdf
- ⑫ 東京弁護士会 平成22年(2010年)9月30日(東弁22人第196号)
:未決拘禁者に対し、房内における洗濯を禁じ、物品の所持を制限し、また、発信可能信書の通数を原則として1日1通としていることが被収容者の人権を侵害するとして、拘置所に対して勧告を発するとともに、調髪の機会につき、従前の運用に戻して20日に1回程度とするよう要望した事例。
https://www.toben.or.jp/message/jinken/
- ⑬ 東京弁護士会 平成22年(2010年)9月30日「法務局矯正局長宛人権侵害救済申立事件について(要望)」(東弁22人第197号)
: 東弁22人第196号の実現に速やかな対応を求め要望書。
https://www.toben.or.jp/message/file/relief/20100930.pdf
- ⑭ 日弁連 平成7年(1995年)3月23日(前橋刑務所所長宛・甲府刑務所所長宛・長野刑務所所長宛・新潟刑務所所長宛・神戸刑務所所長宛・広島刑務所所長宛・鳥取刑務所所長宛・松江刑務所所長宛・福岡刑務所所長宛・長崎警告刑務所所長宛・鹿児島刑務所所長宛・小倉刑務所所長宛・宮崎刑務所所長宛・福島刑務所所長宛・秋田刑務所所長宛・青森刑務所所長宛・札幌刑務所所長宛・網走刑務所所長宛・帯広刑務所所長宛・高松刑務所所長宛)「警告」
:全国の刑務所において、既決囚とその養親・配偶者との間の外部交通について具体的事情を勘案せずに統一的・画一的に制限し、受刑中一切の外部交通を認めなかったことにつき、各刑務所に対して今後同様の処分をすることのないよう警告し、法務省に対して各刑務所を監督指導するよう要望した事例。
- ⑮ 日弁連 昭和63年(1988年)5月16日(法務大臣・法務省矯正局長・東京拘置所所長宛)「勧告」
:拘置所が、死刑確定後、死刑確定者とその親族との間の接見及び信書の発受を制限していることにつき、拘置所及び法務省に対して、刑事被告人である場合と同等にその回数については制限しない取り扱いをするよう勧告した事例。
(掲載日 2019年7月17日)