判例コラム

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第160号 競業避止義務を負う元加盟店に対してフランチャイズ本部が第三者を通じて競業取引を依頼して実行させたとしても元加盟店の競業避止義務違反が成立するとした裁判例 

~東京地裁平成30年6月21日判決・平成29年(ワ)第26875号※1

文献番号 2019WLJCC005
弁護士法人心斎橋パートナーズ 弁護士
神田 孝

1.事案の概要と争点

 本件は、車輌内装のリペア等に関するフランチャイズチェーンを展開する原告(本部)が、被告(元加盟店)に対し、競業避止義務違反を理由として、競業行為の差止めと約定違約金等の支払を求めた事案である。
 被告は本フランチャイズ契約を自ら中途解約した後も、自社のホームページで車輌内装リペア業務の宣伝をしていたため、原告は、被告が実際に競業行為をしているか否かを確認すべく、探偵業者を通じて被告に対して車輌内装のリペアを依頼した。被告が探偵業者の依頼に応じてリペア業務を行ったことから、本部が被告に対して競業行為の差止めと違約金等の支払を求めて訴訟を提起した。これに対して、被告は、①被告が競業行為を行ったのは、原告の依頼した探偵業者からの発注によるものであるから、第三者をして被告に競業行為をさせた原告が競業避止義務違反行為を主張することは民法130条の類推適用により許されないと主張するとともに、②単にホームページでリペア業務の宣伝を行っていても現実に競業行為をしない限り競業避止義務違反があったとはいえないと主張した。
 ①については最高裁平成6年5月31日第三小法廷判決・民集48巻4号1029頁・WestlawJapan文献番号1994WLJPCA05310001の具体的な当てはめが問題となるところ、本件東京地裁は探偵業者と元加盟店とのやり取りを詳細に分析して認定しているため、本稿ではその点について解説する。なお、本裁判では争われなかったが、本件判決主文では、特に地域を限定することなく契約終了後9年近い長期間の競業行為を禁止する旨が定められているため、本稿ではその点についても検討する。

2.条件の成就によって利益を得る当事者が故意に条件を成就させたときの民法130条の類推適用

  1. (1)  被告は、原告が調査を依頼した探偵業者に依頼されてリペア業務をした。そこで被告は、最判平成6年5月31日を引用し、本件は条件成就により利益を受ける者(原告)が故意に条件成就行為(競業行為)をさせた場面に該当するから、民法130条の類推適用により、被告は原告に対し、信義則上条件が成就していない(=競業避止義務違反は存在しない)とみなすことができると主張した。
  2. (2)  まず、被告が引用する最判平成6年5月31日の概要について説明する。
     かつらメーカーYとXとの間でXの特許権侵害(かつらを固定するためのクリップの構造)の有無が争いになり、XがYの特許権を侵害した場合にはXはYに対して違約金を支払う旨の訴訟上の和解が成立した。その後、Yは第三者Aを通じてXにかつらを注文し、かつらの製作作業がかなり進んだ段階で、特許権侵害となるクリップを使わないとA・Y間のかつら製作依頼契約を解除すると言ってXにせまり、特許権侵害となる部品をかつらに接着させた。こうしてYはXに対して和解条項違反を理由に違約金を請求した。
     最高裁は、Xが特許権侵害商品を販売した行為が和解条項に反することは否定できないが、Yは、単に和解違反の有無を調査・確認する範囲を超えて、違反行為をするように積極的にXを誘引したものであって、これは、条件の成就によって利益を受けるYが故意に条件を成就させたといえるとして、民法130条を類推適用し、条件が成就していない(=違反商品を売っていない)と判示した。
     民法130条は、「条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。」と定めるが、この規定と逆の「条件の成就によって利益を受ける当事者が故意に条件を成就させた場合」については規定がない。そのため、そのような場合に民法130条を類推適用して、相手方に「条件が成就しなかったものとみなすことができる」権利を認めることができるか否かが問題となっていた。学説では、不正な手段を用いて自己の利益をはかろうとする者は法の保護に値せず、条件成就の効果を取得させることは信義則に反する等の理由で民法130条を類推適用する説が多数を占めていたが、最高裁も民法130条類推説をとることを明らかにしたものである。
  3. (3)  このように民法130条類推適用説は信義則に基礎を置くところ、本件東京地裁も「同条の本来の適用要件と同様に、類推適用の場面においても、条件成就行為が信義則に反することも要件になると解するのが相当である。」と述べている。
     その上で、本件東京地裁は、探偵業者が執拗に競業行為の受注を働きかけた形跡はないこと、むしろ被告の方が当初から補修作業の受注に向けた積極的な姿勢を示していることを指摘し、原告が探偵業者を通じてした競業行為の発注行動は、殊更に被告に対し同義務違反行為をするよう誘引したものとは評価できないとした。その結果、原告側がした条件成就行為が信義則に反するものであったとは認められず、民法130条の類推適用の要件を欠くと認定した。本件東京地裁の認定は相当といえる。
  4. (4)  競業避止義務違反の問題にかかわらず、契約当事者間では相手方に対して一定の行為を禁じ、それに反した場合に違約金等の支払を命じる定めを置くことがある。そのため、契約の相手方がその条項に反している疑いがある場合に、他方の当事者が相手方の違反行為を確認するために「おとり」を用いることは少なくない。そうした場面でも、本件と同様に民法130条の類推適用の可否が問題となる。その意味で本件は民法130条の類推適用の是非を判断するプロセスの先例として参考になる。

3.契約終了後長期間拘束される競業避止義務の効力

  1. (1)  本件判決主文では、特に地域を限定することなく契約終了後9年近い長期間の競業行為を禁止する旨が定められている。加盟店側は特に争っていないが、過去の裁判例では契約終了後5年間の競業避止義務を認めたものが最長であり(大阪地判平成22年5月27日判時2088号103頁・WestlawJapan文献番号2010WLJPCA05276003)、9年近い競業禁止期間は異例である。
     公正取引委員会も「特定地域で成立している本部の商権の維持、本部が加盟者に対して供与したノウハウの保護等に必要な範囲を超えるような地域、期間又は内容の競業禁止義務を課すこと」は優越的地位の濫用に当たると指摘していることから(「フランチャイズ契約に関する独占禁止法上の考え方について」3(1)ア)、本件のように地域を限定することなく契約終了後9年間存続する競業避止義務を課すことの有効性について、念のため検討する。
  2. (2)  契約終了後の競業避止義務については、①禁止される業務の範囲、②禁止される場所、③禁止される期間の3点において限定されることが必要と言われている。
     しかし、実際には上記①~③すべてが限定された競業避止義務条項はめずらしく、①から③のいずれか1個ないし2個は明確に制限されていないのが実情である。
     この点、契約終了後の競業禁止特約に時間的制限が付されていなかった事案で、裁判所は、「競業禁止特約はその制限の程度いかんによっては営業の自由を不当に制限するものとして公序良俗に反して無効になる場合があることは否定できないが、一定の営業につき、期間も区域も限定することなく無条件に競業を禁止するような場合は格別、本件のように、競業を禁止する場所を一か所(本件加盟契約における営業場所)に限定し、かつ、競業を禁止する営業の種類も契約存続中と同一業種による同一事業と限定しているような場合で、しかも、本件加盟契約が持ち帰り弁当等飲食物の加工販売の営業を目的とする店舗を被告会社が開設するに際してのいわゆるチェーン店契約であることに鑑みると、右競業禁止特約をすることにつき十分な合理性が認められるとともに、右制限の程度に照らすと、右競業禁止特約によって直ちに被告会社の営業の自由が不当に制限されると解するのは相当でなく、従って、同特約が公序良俗に反するとはいえないものというべきである。」(神戸地判平成4年7月20日判タ805号124頁・WestlawJapan文献番号1992WLJPCA07200005、大阪高判平成6年2月4日WestlawJapan文献番号1994WLJPCA02046002:本家かまどや事件)と述べている。
     さらに、契約終了後の時間的制限や場所的制限のない場合でも、「フランチャイズ契約における競業避止義務規定全部を過度の規制であり公序良俗に反するものとして無効と解する必要はなく、適用する場面において、それが過度の制限に当たらないかを判断すれば足りるものというべきである。」と述べる裁判例(東京地判平成14年8月30日WestlawJapan文献番号2002WLJPCA08300019)や、契約終了後2年間という時間的制限はあるものの場所的制限の定めのない場合に、本部が元加盟店の住所地を中心に半径5kmの範囲内に限って営業停止を求めていることに照らして、契約終了後の競業避止義務も有効であるとした裁判例(東京地判平成22年2月25日WestlawJapan文献番号2010WLJPCA02258008)がある。また、契約終了後の競業避止義務の定めがなかった事案でも、当初の契約期間(5年)の競業避止義務の存続を認めるとともにその間のロイヤルティ相当額の損害賠償義務を認めた裁判例もある(高知地判昭和60年11月21日判タ603号65頁・WestlawJapan文献番号1985WLJPCA11211008)。
     こうした裁判例に照らせば、時間的制限や場所的制限のない場合でも、直ちに競業避止義務の効力が否定されるのではなく、実際の適用場面が過度の制限に当たらないならば、競業避止義務規定を有効と解するのが裁判実務だといえる。
  3. (3)  本件のフランチャイズ契約では「乙(=加盟店、筆者注)は、本契約終了後5年間または本契約満了までのいずれか長い期間、日本全国において、その名義・態様の如何を問わず、直接または間接的に、本事業及び本事業と類似する事業を行ってはならず、第三者に行わせてもならない。」と定められていた。そのため、契約締結から1年後に中途解約を希望した被告(元加盟店)は原告(本部)に対して契約終了後9年間の競業避止義務を遵守する旨の念書を差し入れていた。労働契約上の競業避止義務においても「競業避止義務が定められた退職時誓約書を差し入れるということは、従業員側としても、当該誓約書において制限される具体的な競業避止義務を十分に認識していると思われる以上、退職時の方がかかる合意が有効になりやすいのではないか」と考えられているが(高谷知佐子・上村哲史「秘密保持・競業避止・引抜きの法律相談」201頁)、給与生活者である労働者であっても、契約終了時(退職時)に改めて競業避止義務を確認したならば、それが有効とされていることに鑑みれば、独立した事業者であるフランチャイズ加盟店ではなおさらといえる。その意味で、本件東京地裁が、契約終了後9年近い長期間の競業行為を禁止する旨を主文で明記したことは先例としての意義が高い。


(掲載日 2019年3月11日)

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