判例コラム

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第114号 タックス・ヘイブン対策税制における株式保有業の意義 

~第二デンソー事件(名古屋地裁平成29年1月26日判決)※1

文献番号 2017WLJCC022
関西大学会計専門職大学院
教授 中村 繁隆

1.はじめに

 本コラムで取り上げる第二デンソー事件は、同旨の処分である第一デンソー事件※2が最高裁で争われているという関係もあり、注目を集めている※3。そこで、本コラムでは、第二デンソー事件の概要を紹介した後、第一デンソー事件と対比しながら検討を行う。

2. 事実の概要と主たる争点

 本件は、内国法人である株式会社デンソー(以下、原告)が、平成22年3月期及び平成23年3月期の法人税の確定申告をしたところ、処分行政庁(以下、被告)から、租税特別措置法66条の6第1項(平成22年3月期においては平成21年法律第13号による改正前のもの、平成23年3月期においては平成22年法律第6号による改正前のもの。以下、措置法)により、シンガポール共和国において設立された原告の子会社であるA社の課税対象留保金額に相当する金額が原告の本件各事業年度の所得金額の計算上益金の額に算入されるなどして、法人税の更正処分等を受けたため、これらの処分の取消しを求める事案である。
 本件の主たる争点は、措置法66条の6第1項の適用の有無であり、A社の主たる事業(措置法66条の6第3項括弧書き)が「株式の保有」事業(以下、株式保有業)であるか否かである。
 まず、株式保有業の意義について、原告は「単に株式を保有しているのみならず、株式を保有することによって何らかの経済活動を自己完結的に行っていることを意味していると解するのが、文理解釈上、最も自然である」と主張する。一方、被告は「タックスヘイブン対策税制において想定されていた株式保有業という業態は、独占禁止法上の持株会社のように、株式の保有及び子会社に対する積極的な関与等を通じて配当等による収益稼得を目的とした事業と評価できるから、子会社から配当を得るに当たり、その配当を増加させるために行われた活動もまた、その事業の一内容に含まれるということができる」と主張する。対比的に言えば、原告はA社が行う地域統括事業が株式保有業とは異なる別の事業であると主張するのに対し、被告は当該地域統括事業が株式保有業の一部にすぎないと主張している。
 次に、主たる事業の判定について、原告は「当該特定外国子会社等の事業活動の実態に即して、事業相互の関係性や事業の目的等といった事情を含めた種々の要素を総合的に勘案して判定すべきであって、子会社に対する支援活動を行う特定外国子会社等においては、収入金額や所得金額という金額的な規模を示す判断要素を重視して判定すべきものではない」と主張する。一方、被告は「事業基準において、特定外国子会社等の主たる事業が株式の保有であるか否かを判断する場合には、その所在地国における株式保有に係る事業活動に要する使用人の数や固定施設等の状況という事業実体に係る人的・物的な規模を示す判断要素よりも、株式保有に係る事業活動の結果得られた収入金額や所得金額という金額的な規模を示す判断要素を重視して、総合的に勘案すべきである」と主張する。つまり、被告は原告と異なり、収入金額など金額的な規模を示す判断要素を重視して、主たる事業を判定すべきであると主張する。

3. 争点に対する判断

 まず、主たる事業の判定について、「特定外国子会社等の当該事業年度における事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定するほかないのであって、特定外国子会社等が複数の事業を営んでいるときは、そのいずれが主たる事業であるかに関しては、当該外国子会社等におけるそれぞれの事業活動によって得られた収入金額又は所得金額、それぞれの事業活動に要する使用人の数、事務所、店舗、工場その他の固定施設の状況等の具体的かつ客観的な事業活動の内容を総合的に勘案して判定するのが相当である」と述べた上で、A社の主たる事業が株式保有業であるかについて、A社の従業員の勤務状況や固定施設の使用状況等、8つの事業活動の内容を列挙し、「これら諸点に照らすと、A社各事業年度において、A社の主たる事業は、株式保有業ではなく、地域統括事業(地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム、物流改善等に係る地域統括業務を行うこと)であったことは明らかというべきである」と判示した。
 そして、「A社各事業年度において、A社の主たる事業は、地域統括事業であったというべきであり、A社が株式の保有を主たる事業としていたということはできないから、事業基準を満たすことになる」と述べ、さらに「A社は、適用除外要件である事業基準、所在地国基準、実体基準及び管理支配基準をいずれも満たすから、原告には、本件各事業年度において、措置法66条の6第1項の適用が除外される」と判示した。

4. 本判決の検討

4.1.株式保有業の意義について
 株式保有業の意義は、判決文に「株式を保有又は運用することにより利益配当又はキャピタルゲインを得るといった株式の保有に係る事業」とあることから、株式の保有又は運用の事業と解することができる。なお、株式の保有又は運用それ自体が事業に当たることは、これまでの判例において繰り返し判示されてきている※4

4.2.主たる事業の判定方法について
 事業基準(非特定事業基準、非持株会社基準等ともいう。以下、同じ)に関する代表的な先例として、ヤオハン・ファイナンス事件※5がある。同事件では、特定外国子会社等の主たる事業が株式保有業とされ、「…特定外国子会社等が複数の事業を営む場合、そのいずれの事業が主たる事業であるかの判定は、その事業年度における具体的・客観的な事業活動の内容から判定するほかはないのであるから、その事業活動の客観的結果として得る収入金額又は所得金額の状況、使用人の数、固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するべきであり、(措置法通達66の6-8参照)…」と判示されている※6。本件は、この主たる事業の判定方法を用いて結論を導いていることから、本件も先例に沿って判断されているといえる※7

4.3.第一デンソー事件との対比による検討
 第一デンソー事件と第二デンソー事件は、前者が平成20年3月期及び平成21年3月期の事業年度を対象とし、後者が平成22年3月期及び平成23年3月期の事業年度を対象としている点は異なる。しかし、いずれも措置法66条の6第1項の適用対象となる特定外国子会社等がA社であって、その状況に大きな相違がなく、また、いずれの事件も平成22年改正措置法の適用前の事案であり、さらに、後者の判決内容は前者の第一審判決とほぼ同じである。
 しかし、第一デンソー事件の控訴審は、「事業としての「株式の保有」とは、単に株式を保有し続けることのみならず、当該株式発行会社を支配しかつ管理するための業務もまた、その事業の一部をなすというべきであり、本件で問題となっている一定地域内にある被支配会社を統括するための諸業務もまた、株式保有業の一部をなし措置法66条の6第3項括弧書きの「事業」に該当することは明らかである」と判示した。その結果、控訴審は、A社が事業基準を充足できないため、措置法66条の6第1項が適用されると判示した。
 控訴審は、本解釈が「その後の法改正によっても裏付けられる」と述べている。誤解を恐れず簡潔にいってしまえば、平成22年改正措置法66条の6第3項は、被統括会社に対する統括業務に対して新たな立法政策を採用したものと捉えることによって、上記統括業務は同改正前の措置法では株式保有業のための業務として含まれる、と考えているようである※8
 控訴審の本解釈については、措置法66条の6第3項にいう株式保有業の意義及び株式保有業とデンソーの行っていたような地域統括業務との関係を一般論として明らかにした、と評価する意見がある※9。しかし、本解釈に対する反対意見もある※10
 私見は、本解釈に対して反対の立場である。その理由としては、脚注10に挙げた藤曲武美税理士と佐藤修二弁護士の意見にも存するが、西中間浩弁護士が第一デンソー事件の第一審の評釈で指摘している点※11にも着目している。その評釈を参考に本件を検討すると、平成22年改正措置法の考え方は、限定された統括会社の統括業務を株式保有業から除外しているだけであるから、地域統括業務は措置法66条の6第3項にいう株式保有業との関係において、その一部を構成していない場合も存することになる。すると、これは、上述した控訴審の「その後の法改正によっても裏付けられる」という部分と齟齬をきたすことになろう。上記を含め、私見としては、本解釈に問題があると考える。
 最後に、第一デンソー事件については、最高裁第3小法廷(山崎敏充裁判長)が7月25日、上告審弁論の期日を9月26日に指定した※12。第二デンソー事件においても、第一デンソー事件の上告審の判断が待たれるところである。

(掲載日 2017年8月28日)

  • ウエストロー・ジャパン文献番号2017WLJPCA01266005
  • 第一審(名古屋地裁平成26年9月4日判決)は、税務訴訟資料 264順号12524、訟務月報62巻11号1968頁、ウエストロー・ジャパン文献番号2014WLJPCA09046005。控訴審(名古屋高裁平成28年2月10日判決)は、訟務月報62巻11号1943頁、ウエストロー・ジャパン文献番号2016WLJPCA02106001
  • 藤原眞由美「判決インフォメーション」税理60巻8号100頁(2017)、草間典子「デンソー事件について」東京税理士界VolumeNo.725(2017年6月1日付)8頁参照。
  • 大西篤史「法人税更正処分取消等請求控訴事件」訟務月報62巻11号1949頁参照。
  • 第一審(静岡地裁平成7年11月9日判決)は、訟務月報42巻12号3042頁、ウエストロー・ジャパン文献番号1995WLJPCA11090009。控訴審(東京高裁平成8年6月19日判決)は、税務訴訟資料216号619頁、ウエストロー・ジャパン文献番号1996WLJPCA06196005。上告審(最高裁平成9年9月12日判決)は、税務訴訟資料228号565頁、ウエストロー・ジャパン文献番号1997WLJPCA09126002
  • ヤオハン・ファイナンス事件を参考に主たる事業の判定に関し、所得基準説と実物生産要素基準説の考え方を論じるものとして、浅妻章如「タックス・ヘイブン対策税制(CFC税制)-租税条約との関係及び適用除外要件について-」租税研究706号146頁~147頁(2008)、同「CFC税制(タックス・ヘイヴン対策税制)の適用除外要件についての一考察」税務弘報Vol.56 No.2 127頁~128頁(2008)参照。
  • この先例に沿った他の裁判例として、例えば、東京地判平成20年8月28日判例時報2023号13頁・ウエストロー・ジャパン文献番号2008WLJPCA08288021、東京高判平成21年2月26日税務訴訟資料259順号11149・ウエストロー・ジャパン文献番号2009WLJPCA02269024がある。
  • 株式保有業の意義に関する先行研究として、占部裕典『租税法における文理解釈と限界』慈学社出版300頁(2013)では、事業基準について「純粋持株会社のように、株式保有といった事業目的を有している場合、すなわち、「株式の保有」それ自体が事業として認められることが不可欠である」と述べられている。これを控訴審の本解釈に当てはめると、控訴審はA社が純粋持株会社に該当すると考えていることになろう。
  • 大西・前掲注4・1950頁、1952頁~1953頁参照。
  • 例えば、藤曲武美「タックスヘイブン対策税制の適用除外が争われた事例(デンソー事件)」税務弘報Vol.64 No.7 157頁(2016)では、「地域統括会社の統括業務のようなものを改正前条文における株式保有事業に含めて解釈することは、いわば後付けのようなもので改正前の条文の解釈としては合理的な解釈とはいえない」と述べる。また、佐藤修二「ヤフー事件・IBM事件の終結を迎えて」NBL1071号72頁(2016)では、「高裁判決の根拠は、法理論としては、地域統括会社をタックスヘイブン対策税制の適用除外とする法改正は平成22年度税制改正によってなされているところ、今回の課税処分は、当該改正が適用される前の事業年度に関するものであり、改正法の遡及適用は許されない、という点にあるように読めるが、シンガポール法人の存在自体を節税目的であると見たこともまた、実質的には結論に影響していると見るのは、穿ち過ぎであろうか」と述べている。
  • 西中間浩「税務実務への影響をいち早くチェックする!最新判例・係争中事例の要点解説(第55回)タックスヘイブン対策税制において“株式の保有を主たる事業とする特定外国子会社等”に該当するかの判定において、株式保有により得られた金額の大きさよりも、株式保有以外の実体的な事業活動の有無と、当該事業活動に対する経営資源の投入の程度を重視した事例[名古屋地裁平成26.9.4]」税経通信995号217頁(2015)では、「租税特別措置法施行令39条の17第4項にまで目を向ければ、事業持株会社は「統括会社」の中でも株式保有業を主たる事業としているものが対象となっており、株式保有業を主たる事業としない「統括会社」が存在することが前提とされている。つまり、事業持株会社は「統括会社」の中でも株式保有業を主たる事業とするもので、さらに被統括会社株式の保有率が50%超のものを指しており、限定された「統括会社」を指していることがわかる。そうすると、改正後の条文においても「統括会社」が全て株式保有業を主たる事業としていると認識しているとまではいえないことは明白である。実際、同施行令同条第10項(現行法では第12項-中村注)では卸売業を主たる事業とする「統括会社」の存在も前提とした記載がみられる」。
  • 日本経済新聞 電子版(2017年7月25日)http://www.nikkei.com/article/DGXLZO19256110V20C17A7CR8000/
    (2017年8月14日訪問)参照。

(掲載日 2017年8月28日)

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