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文献番号 2016WLJCC029
日本大学大学院法務研究科
教授 前田 雅英
Ⅰ 判例のポイント
本件は、1980年代の「少女ヌードモデルの写真集」をCGとして再現・補完して、そのデジタルデータをネット上で販売した事案である。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成11年11月1日施行)の2条3項は、「この法律において『児童ポルノ』とは、写真、ビデオテープその他の物であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。」として3号で、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したもの」と規定し、7条2項で、電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノなどの製造などを処罰している。
本件で問題となった画像(電磁的記録)は、性器を露出した少女の裸体写真そのもののようにも見えるが、CGを用いて描画(加工)された画像であり、被告人側は、同法2条3項の「写真」には該当せず、同法2条3項の3号の児童ポルノに該当しないと争った事案である。
Ⅱ 事実の概要
(1)被告人は、不特定又は多数の者に提供する目的で、平成21年12月13日頃、岐阜市〈以下省略〉被告人方において、衣服を付けない実在する児童の姿態が撮影された画像データを素材とし、画像編集ソフトフォトショップ等を使用して前記児童の姿態を描写した画像データ3点を含む同ファイルを被告人のパーソナルコンピュータの外付けハードディスク内に記憶、蔵置させ、もって衣服の全部を着けない児童の姿態であって性欲を刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し
(2)インターネットに接続された被告人のパーソナルコンピュータから、株式会社aのデータ保管先であるb株式会社が管理するサーバコンピュータに前記画像データと同一のファイルを送信して記憶、蔵置させるとともに、前記株式会社aにその販売を委託し、3回にわたり、同サイトを閲覧した不特定の者であるA1ほかに対し、前記コンピュータグラフィックス集を販売し、同人らに、インターネットに接続された同人らが使用するパーソナルコンピュータのハードディスク内に前記ファイル中の画像データをダウンロードさせ、もって不特定又は多数の者に児童ポルノを提供したという公訴事実であった。
Ⅲ 判旨
児童ポルノ法の目的や趣旨に照らせば、「同法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したと認められる物については、CGの画像データに係る記録媒体であっても同法2条3項にいう『児童ポルノ』に当たり得、また、同画像データは同法7条4項後段の『電磁的記録』に当たり得るというべきである(なお、実在の児童を描写した絵であっても、同法2条3項柱書の『その他の物』として児童ポルノに当たり得るというべきである。)。」とし、「同法2条3項柱書及び同法7条の『児童の姿態』とは実在の児童の姿態をいい、実在しない児童の姿態は含まないものと解すべきであるが、被写体の全体的な構図、CGの作成経緯や動機、作成方法等を踏まえつつ、特に、被写体の顔立ちや、性器等(性器、肛門又は乳首)、胸部又は臀部といった児童の権利擁護の観点からしても重要な部位において、当該CGに記録された姿態が、一般人からみて、架空の児童の姿態ではなく、実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には、実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき、そのような意味で同一と判断できるCGの画像データに係る記録媒体については、同法2条3項にいう『児童ポルノ』あるいは同法7条4項後段の『電磁的記録』として処罰の対象となると解すべきである。」とした。
そして、東京地裁は、複数の写真を利用して作成した合成写真、疑似ポルノあるいはコラージュも、「Aという児童の顔にBという児童の裸の身体の写真を合成したものであっても、Bという児童が実在する限り、当該画像は、Bという『実在の』児童の姿態を描写したものであって、『児童ポルノ』に該当すると解すべきである」とした。
さらに東京地裁は、①写真の被写体がその当時実在する人物であったこと、②CG女性と被写体との同一性が認められること、③被写体が製造時18歳未満であることなどを慎重に認定した上で、16点の画像データは同法2条3項の「児童ポルノ」に当たり、本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電磁的記録」に当たるとした。
そして、児童ポルノといえるだけの「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当し、かつ被告人において、児童ポルノ等に該当することについての故意が認められることも明らかであると判示した。
Ⅳ コメント
本判決は、実在する児童の裸を撮影した写真を素材として作成したCGの画像データを蔵置した記録媒体を「児童ポルノ」と認定し、児童ポルノ製造罪及び児童ポルノ提供罪の成立を認めたもので、写真でなくても、本法の規制の対象となることを明らかにしたものとして、重要な意義を有する。
写真とは、一般には、カメラ等の器具を用いて、対象物の画像をフィルムにそのまま写し取ったものと考えられている。その意味で、CGを用いてでも「描画」したという場合には、写真とは当罰性の異なる「絵」であるという主張がなされてきた。
しかし、従来のカメラでも、撮影時の絞り、シャッタースピードなどで、画像は「創作」されるという面がかなりあり、さらに各種フィルターを装着して撮影すればより大きな変形を加え得る。さらに、現像の仕方では、印画紙にプリントされる写真には、かなりの差が生じ得るのである。
まして、デジタルカメラの時代に入り、その画像を保存する際、そしてそれを記憶媒体に保存する際に、画像をぼかしたり、輪郭を強調したりすることは自由に行い得る。その意味では、CGに類する作業が、一般の写真にも存在し得るのである。少なくとも、本件で児童ポルノと認定された画像は、その域を出ていないものと思われる。
そして、本件判示にあるように、「一般人であれば、写真に見紛う程に精緻に描かれたもの」は児童ポルノたり得るといえよう。被害者の同一性が認められれば、本法の保護しようとする「被害児童の法益侵害性」において、写真そのものである場合と異ならない。このような精密に写真に似せた画像を処罰の対象とすることは、罪刑法定主義に反しないことは明らかである。「絵」一般を本条の客体に含ましめるべきかについては立法論に委ねられるが、本件のような「完全な写真と本人識別性に差異の無いもの」までが含まれないという解釈は、不合理なものである。
本件においては、被害者が実在する児童であることは間違いないが、そもそも、本件のような精巧な画像であれば、被害者が実在しない場合にも処罰すべきであると解し得る(島戸純「『児童買春、児童ポルノに係る行為等の処刑及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律』について」(警察学論集第57巻第8号、2004年)112~113頁)。その意味でも、本件児童ポルノ画像の法益侵害性が高いことは明らかである。
弁護側は、本件画像について、「芸術性」の存在を主張しているようであるが、刑法175条に比し、児童ポルノの場合に、芸術性によって違法性が阻却される余地は少ない。まして、本件で問題となった画像の元となった「写真集」は、過去に立件されたことのあるものであり、本件行為の正当化の余地はないといえよう。