判例コラム

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第32号 詐害防止参加における請求の定立の必要性 

~最決平成26年7月10日※1を機縁として~

文献番号 2014WLJCC014
西村あさひ法律事務所
弁護士 細野敦

既に最高裁※2は、新株発行の無効の訴えに係る請求を認容する確定判決の効力を受ける第三者は、当該確定判決に係る訴訟について独立当事者参加の申出をすることによって、当該確定判決に対する再審の訴えの原告適格を有するとの判断を示していた※3。しかし、本件決定は、同様の状況にある株式会社の解散の訴えの場面につき、単に当事者の一方の請求に対して訴え却下又は請求棄却の判決を求めるのみの参加の申出は許されない※4との独立当事者参加の理論により、原告適格を否定した。

本件判決により判例として確定したとはいえ、山浦判事の反対意見と金築判事の意見があるとおり、その説示は、今後の独立当事者参加、特に詐害防止参加の要件の解釈に多分に含みを残す内容となっており、今後の裁判例・学説によるさらなる理論的深化も予想される。詳細な検討は別途行うこととし、とりあえず、今回は、多数意見と少数意見を分けた分水嶺を概観しておこう。

適法に独立当事者参加の申出を行うために、自らの請求を定立しなければならないかどうかという点については、多数意見に賛成する金築判事も、「請求を定立しない独立当事者参加を許容することによって、何らかの具体的な弊害が生ずることが一般的に予想されるのかどうか、明らかではないように思われる」などとして、「詐害防止参加に関する限り、常に請求の定立が必要であるとまで解しなければならないか、若干の疑問を持つ」とする。そして、「独立当事者参加について、判例上いわゆる三面訴訟説が採られていた時代には、請求の定立を不要とすることは理論上難しかったかもしれないが、現行民訴法が当事者の一方だけを相手方とする独立当事者参加も許容している現在、この点を柔軟に考える余地が生じているのではあるまいか」※5と踏み込んだ解釈を示している。しかし、このように詐害防止参加における請求の定立に関し否定的な見解を示す金築判事でさえも、本件株式会社解散の訴えに係る認容確定判決に関しては、最終的に、会社法834条20号が、株式会社の解散の訴えの被告適格を「当該株式会社」と法定しており、株主は訴えの被告適格を有しないから、株主が、単に訴えの却下又は請求棄却を求めて、被告の立場で解散訴訟に独立当事者参加の申出をする余地がないという「立法政策の結果」から、申立人の原告適格を否定する結論はやむを得ないとする。

そうすると、詐害防止参加において請求の定立を要しないとして、反対意見の立場をとる山浦判事は、金築判事の指摘する「立法政策の結果」をどのように理論的に克服しているのであろうか。山浦判事は、株式会社解散の訴えの被告適格に関してよりきめ細かく立法趣旨に分け入り、その実質に鋭く切り込む。すなわち、会社法834条20号が、株式会社に被告適格を与えているのは、訴訟の結果に最も密接な利害関係を有する当該株式会社が最も充実した訴訟活動をすることが期待できる上、当該株式会社の解散に反対する多数派株主が、当該株式会社の意思決定に関与するなどして、実質的に当該訴訟に関与し、株主に対する手続保障も確保されている、と見るのである。しかし、株式会社の解散に賛成する株主が多数を占める状態で、株式会社の解散の訴えが提起され、当該株式会社の解散に反対する少数派株主に当該訴え提起の事実さえ知らされないまま馴れ合いで当該訴訟が追行され、少数派株主に対する実質的な手続保障に欠けるという本件のような事態が生じることは会社法の予定しないこと、と考えるのである。

要は、多数意見と反対意見の分かれ目は、会社法834条20号の被告適格がどこまでの事態を想定して立法されたか、ということに尽き、多数意見の金築判事が「立法政策の結果」と述べていることからすると、多数意見は、立法者意思か文理を重視したものと推測されるが※6、いずれにせよ、立法者の意思が明らかでなければ、文理解釈、論理解釈、目的論的解釈など法解釈論に係るあらゆる解釈方法を総合考慮することになり、その結果が、多数意見であり、会社法834条20号につき山浦判事のような解釈をすることを否定した、ということになるのであろう※7
そもそも独立当事者参加における参加人による請求の定立に関しては、少なくとも当事者の一方に対する請求の定立が必要との通説※8と、一方当事者との関係でも参加人が請求を定立する必要がなく、原告の被告に対する訴えの却下や請求の棄却を求めれば足りるとする有力説※9が、鋭く対立しており※10、本件決定による今後のさらなる裁判例・学説の深化・発展が期待されるところである。

  • 金商1448号10頁。
    本件決定の詳細は、Westlaw Japan 最決平成26年7月10日文献番号2014WLJPCA07109001を参照。
  • 最決平成25年11月21日民集67巻8号1686頁。判例評釈として、伊藤眞「会社の訴訟追行と信義誠実の原則:新株発行無効判決の対世効と第三者による再審の訴え」金商1434号1頁、加波眞一「詐害判決であることを再審事由とする第三者再審の可否」臨時増刊ジュリスト平成25年度重要判例解説1466号136頁など参照。
    本件決定の詳細は、Westlaw Japan 最決平成25年11月21日文献番号2013WLJPCA11219002を参照。
  • 補助参加の申立てと共に当該訴訟についての再審の訴えを提起すれば足りるように一見思われるが、その場合に主張し得る再審事由は、被参加人当事者に係る再審事由であり、第三者に対する手続保障の欠けつなど当該第三者に係る事由が共同訴訟的補助参加人として提起した再審の訴えにおける適法な再審事由に当たると解することは困難、との考え方がその背後にある(判タ1400号111頁)。
  • 最判昭和45年1月22日民集24巻1号1頁。
    本件判決の詳細は、Westlaw Japan 最判昭和45年1月22日文献番号1970WLJPCA01220001を参照。
  • 山浦判事は、相手方会社が解散していないことを前提に特定の取締役の地位存在の確認の訴えを提起したり、相手方会社の解散を命ずる判決の確定を前提としてされた清算人の選任手続の無効を主張して清算人の地位不存在確認の訴えを提起したりすることが技巧的であるとする。
  • 相澤哲編『一問一答 新・会社法』〔改訂版〕239頁は、「被告の選定は訴えの提起に当たり必要不可欠なものであるところ、被告となるべき者の選定に関して解釈の争いが生じ、本案とは無関係の事項で訴訟が遅延することは、訴訟経済上も妥当ではないので、会社法では、旧商法上の解釈を明示的に規定することとしたものである」とする。
  • 題材として採り上げる訴訟類型は異なるが、同様の問題意識を論じたものとして、松原弘信「会社の組織に関する訴えの被告適格―手続法からの分析」(特集 会社事件手続法の展望)法律時報84巻4号18頁。
  • 伊藤眞『民事訴訟法』〔第4版補訂版〕658頁。
  • 井上治典『多数当事者訴訟の法理』298頁、高橋宏志『重点講義民事訴訟法(下)』〔第2版〕514頁、新堂幸司=鈴木正裕=竹下守夫編『注釈民事訴訟法(2)』205頁〔河野正憲〕。
  • 山浦判事の反対意見中でも引用されているが、詐害防止参加の沿革から、通説の見直しの検討もあり得るとする見解につき、徳田和幸「独立当事者参加における請求の定立について-詐害防止参加の沿革を中心として-」新堂幸司先生古稀祝賀民事訴訟法理論の新たな構築上巻705頁。

(掲載日 2014年9月16日)

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