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文献番号 2013WLJCC011
法律事務所アルシエン※2
弁護士 木村俊将
1.はじめに
近年、不動産オーナーや管理会社等から賃料滞納についての相談を受けることが増えている。賃借人による賃料滞納に苦慮し、よく「貸室の鍵を交換してもよいか」「賃借人が長期不在なので立ち入って動産類を処分してもよいか」という相談を受ける。
気持ちは解るが「よい」とは回答できない。言うまでもなく自力救済を行なうことは違法行為となるからだ。今回は賃料保証会社による賃借人の追い出し行為について、不法行為責任及びその代表者の個人責任が認められた事案を紹介する。
2.事案の概要
平成21年7月7日、A(賃貸人)と原告(賃借人)との間で、マンションの一室について、月額賃料7万9000円、契約期間3年の条件で賃貸借契約が締結された。当該賃貸借契約に関して、原告と被告(賃料保証会社)との間で、保証委託契約が締結された。
当該保証委託契約書には「被告会社及び連帯保証人は原告の安否及び本物件の利用状況を確認するために緊急と認められる場合、本物件の合鍵を賃貸人から借り受けて賃貸人及びその代理人とともに本物件に立ち入ることができる。」という条項があった。
原告は賃貸借契約締結直後から賃料の支払いを怠り、被告はAに対して代位弁済を続けた。被告が原告に対して再三求償金の支払いを求めた結果、一部の支払いはあった。しかし、平成22年1月20日以降は原告による支払いは一切なくなった。
被告は、貸室へ7回訪問し、原告の携帯電話へ65回架電し、原告への郵便による催告を2回行う等、再三催告を行なったが、貸室への訪問時はいずれも不在であり、電話連絡に対しては、コールがあっても電話に出ず、原告から折り返しの電話がされることもなかった。
対応に苦慮した被告は、賃貸管理会社と協議の上、原告を追い出す方針を決めた。平成22年7月11日、被告は賃貸管理会社とともに貸室に立ち入り、物品処分についての警告書面をドアの内側に貼った。そして、同月19日、被告はリサイクル業者に依頼して貸室内の動産類を搬出、処分し、鍵の付け替えを行なった。
その結果、原告は貸室内に入ることができず、平成22年12月に新居が見つかるまで、サウナの仮眠室や自家用車の中で過ごすことになった。
そこで、原告は、被告及びその代表者に対して、407万円の損害賠償(処分された動産の財産的損害、精神的損害、弁護士費用)を求めて提訴した。
3.判決の要旨
裁判所は、以下のように判示して、原告の請求を一部認容した。
(1)被告は、保証会社にすぎないのであって、原告に対し、代位弁済に係る求償権を行使することはできても、本件居室からの退去、明渡しを求めることができる立場にあるわけではない。実力をもって原告の占有を排除する行為は、そもそも、被告会社の権利を実現するものではなく、この点で、およそ「自力救済」といえるものですらない。被告による本件居室への立入り、本件物品の搬出及び処分について不法行為に基づく損害賠償責任を免れない。
(2)平成21年2月16日付の国土交通省住宅局住宅総合整備課長による通知や、財団法人日本賃貸住宅管理協会による自主ルールの策定等、平成20年頃から業界を挙げて、いわゆる追出し行為等の違法行為が行われないようにする対策の強化に乗り出していたことが認められる。
家賃等債務の保証を業として行う被告会社においては、実力をもって賃借人の占有排除を行うような業務執行については、特に慎重な法令遵守が求められていたというべきであり、被告会社の代表取締役においては、この点について違法な業務執行が行われないよう会社内の業務執行態勢を整備すべき職務上の義務を負っていた。
そのような態勢が整備されていなかったことにつき、代表取締役としての任務懈怠があり、かつ、この任務懈怠については、故意又は重大な過失がある。
4.本判決の意義、関連する裁判例
管理会社や賃料保証会社による追い出し行為について不法行為責任を認めた裁判例は少なくないが、会社の代表者についての個人責任をも認めたものは珍しい。このことは賃料保証会社のみならず、賃貸人が法人の場合や、管理会社にも該当しうることから注意が必要である。
関連する裁判例として、管理会社が賃貸借契約書における「一定期間、賃料滞納があった場合には鍵を交換できる。」という旨の特約に基づいて貸室の鍵を交換した事案で、当該特約は公序良俗に反して無効であり、鍵の交換は不法行為に該当するとして、賃借人からの損害賠償請求が認容されたものがある(札幌地方裁判所平成11年12月24日付判決)※3。
賃貸人が、賃貸借契約書における「賃借人が長期不在の場合には動産類を処分できる。」という旨の特約に基づいて賃借人の動産類を処分した事案で、当該行為は不法行為に該当するとして、賃借人からの損害賠償請求が認容された裁判例もある(浦和地方裁判所平成6年4月22日付判決)※4。この事案では、動産の処分について適法である、と助言をした弁護士も損害賠償請求の被告となった。
その他、早朝や夜間における賃料督促行為、大音量による賃料督促行為、貸室の出入口周辺に大量の紙を貼る行為も自力救済として違法となると考えられている。自力救済を容認する助言を行なった弁護士が、所属する弁護士会から懲戒処分を受けた事例もある(「自由と正義」55巻1号100頁)。
5.最後に
いわゆる追い出し行為は上記のような民事上の責任追及(損害賠償請求)のリスクのみならず、住居侵入罪や器物損壊罪の構成要件に該当しうることから、刑事上の責任追及のリスクもある。また、宅地建物取引業者が関与すれば行政処分の対象にもなりうる。悪質な賃借人に対する措置として、実力行使をしたくなる気持ちは痛いほど解るが、重大なリスクがある以上、言うまでもなく司法手続に則り対処すべきである。
(掲載日 2013年8月26日)