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文献番号 2024WLJCC028
東洋大学 教授
丸山 愛博
Ⅰ はじめに
親がベッドガードを必要だと思うのは、子供が寝返りができるようになる生後6か月から1歳過ぎであるが、ベッドガードの使用対象年齢は1歳半以上であり、実際のニーズとギャップがある※2。このような製品についての指示・警告のあり方が問われたのが本件である。本件事故の1か月後にも生後6か月の乳幼児が窒息死する類似の事故が起こっており、平成29年以降、本件も含めて少なくとも4名の0歳児が類似の事故で亡くなっている※3。かかる状況の中、本判決は、ベッドガードで窒息死に至ることはないとの使用者一般の認識を重く見て、使用対象年齢未満の乳幼児に使用した場合の危険性につき具体的に表示することを求めたものであり、注目に値するものである。
Ⅱ 事案の概要
原告らは、平成29年7月末頃、インターネットオークションを利用して転落防止用のベッドガード(以下「本件ベッドガード」という。)を購入した。本件ベッドガードは、台湾のメーカーが平成24年9月5日に製造・出荷し、被告が輸入して、平成25年7月頃までに小売店舗等に販売したものであった。原告らは、平成29年8月2日に本件ベッドガードをベッドに設置して使用していたところ、同年8月8日に原告らの子B(生後9か月)が、就寝中に本件ベッドガードとベッドマットとの間に挟まって死亡する本件事故が発生した。
なお、本件ベッドガードの使用対象年齢(生後18か月未満の乳幼児には適さない旨)は、取扱説明書及びカートンボックス(ベッドガードが収納されていた外箱)に表示されており、本件ベッドガードの使用に伴う危険性は、取扱説明書に添付された警告文書において「マットレスとのすき間で思わぬ事故が発生するおそれがあります」と表示されていたが、本件ベッドガード本体には警告表示や注意書きは一切なかった。
原告らが、本件ベッドガードに設計上及び指示・警告上の欠陥があり、これによって本件事故が発生したとして、被告に対し、製造物責任法3条※4に基づく損害賠償請求として約9345万円の支払等を求めた事案である。
Ⅲ 判旨
一部認容
1.設計上の欠陥の有無について
「本件ベッドガードはBS規格の隙間に関する基準及びSG基準の安全性品質(ベッドへの取付け性)に係る基準に適合するもので、かつ、原告らの使用方法に問題があったことにも鑑みると、直ちに、本件ベッドガードに設計上の欠陥があったということはでき」ない。
2.指示・警告上の欠陥の有無について
「設計上の観点から当該製造物が通常有すべき安全性を欠いているとは直ちにいえないとしても、当該製造物の使用方法によっては、当該製造物に内在する危険が現実化することがあることから、製造業者としては、そのような危険の現実化を防止すべく十分な指示・警告をして情報を提供すべきであり、そのような指示・警告が全く行われていないか、又は適切さを欠いている場合には、指示・警告上の観点から、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていると解するのが相当である(指示・警告上の欠陥)」。
「これをベッドガードについてみれば、使用対象年齢未満の乳幼児に使用した場合、乳幼児が隙間に挟まって窒息死する危険性がある・・・・・・。BS規格において、遅くとも平成21年時点において、ベッドガードは18か月未満の幼児には適さないとされ、その具体的な危険性として子供の窒息死の危険について明示している」こと等から「本件事故当時、少なくともベッドガードの製造業者らにおいては、既に、ベッドガードの使用による乳幼児の窒息死の危険を、具体的に想起し得る状態にあったものと認められる」。
「他方で、ベッドガードを使用する者(以下「使用者」という。)の立場からすれば、ベッドガードは、本来、子供がベッドから転落するのを防止し、子供の安全を確保するための製品であると一般的に認識されているもので・・・・・・、ベッドガードの使用により乳幼児が窒息死に至るというのは通常予測し難い事態と思われるし、使用対象年齢の制限があることを認識しないままベッドガードを購入した使用者が、購入後にそのことを認識した場合であっても、その危険性の内容について具体的に認識、把握できないまま、その危険性の程度を軽視して使用を継続してしまうことも十分に考えられる。また、本件ベッドガードはセーフティベルト及びその先端に備え付けられたプレートを用いて固定する仕組みを採っているものの・・・・・・、基本的に使用者の手作業による組み立てによるものであって、その設置の仕方に一定程度の巧拙や個人差が生じ得ることは否めず、その意味において、上記の危険性を完全に排除できるものではない」。
「このような本件ベッドガードの危険性の内容、性質や、使用者側の一般的な本件ベッドガードに対する認識に鑑みれば、本件ベッドガードの製造業者である被告においては、ベッドガードが使用対象年齢未満の乳幼児に使用されることのないよう、使用者が容易に認識することができるような場所に、使用対象年齢を表示するとともに、使用者が通常の注意を払えば視認できるような方法で使用対象年齢未満の乳幼児に使用した場合の危険性につき、購入後にその危険性を認識した場合であってもその使用の中止に踏み切れる程度に、可能な限り具体的に表示して警告を行うべきであって、そのような警告を欠いた製品については、指示・警告上の欠陥があると認めるのが相当である」。
以上を前提として、「本件ベッドガードの指示・警告について具体的に検討するに」、「まず、本件ベッドガードの使用対象年齢は、本件ベッドガード本体には表示されておらず・・・・・・、取扱説明書とカートンボックスに表示されていたのみである・・・・・・。しかるところ、本件ベッドガードの形状や構造からすると、使用に先立ち取扱説明書を不可避的に読まなければならないわけではなく、使用者が取扱説明書の表示を必ず認識するとはいえない。また、本件ベッドガードは、子供用製品という性質上、同一の使用者が使用できる期間は限られており、転々流通することも当然に想定される製品であることからすると、流通の過程でカートンボックスが処分されて、本件ベッドガードを購入した使用者の下に届かない可能性もあり、取扱説明書と同様、使用者がカートンボックスの表示を必ず認識するとはいえない。そうすると、本件ベッドガードの使用対象年齢は、使用者が容易に認識することができるような場所に表示されていたとは認められない」。
「また、本件ベッドガードの使用に伴う危険性は、取扱説明書に添付された警告文書において、ベッドマットとの隙間で思わぬ事故が発生するおそれがあり、取扱説明書の使用上の注意に従って使用すべき旨の表示があるのみであって・・・・・・、発生するおそれのある事故の具体的な内容が指摘されていないことに加え、警告文書自体には使用対象年齢が記載されておらず、警告文書の記載のみでは使用対象年齢未満の乳幼児に使用した場合を想定した内容となっていないことからすれば、使用者が使用対象年齢未満の乳幼児に使用した場合の危険性を具体的に認識できるような方法で表示されていたとは認められない」。
「以上によれば、本件ベッドガードは、使用対象年齢未満の乳幼児に使用されることがないように十分な指示・警告がなされていたとはいえず、指示・警告上の観点から、通常有すべき安全性を欠いており、製造物責任法上の『欠陥』があったと認められる」。
3.本件ベッドガードの欠陥とBの死亡との間の因果関係
「本件ベッドガードには、・・・・・・指示・警告上の欠陥があり、これらの表示が適切になされていれば、原告らが使用対象年齢未満の乳児であるBに本件ベッドガードを使用することもなかったというべきであるから、本件ベッドガードの指示・警告上の欠陥により、本件事故が発生し、Bが死亡したと認められる」。
4.過失相殺と結論
本判決は、取扱説明書を見ることなく行った原告らのベッドガードの設置方法は、「適切とはいえないものであり、・・・・・・本件事故の一因となっていることは明らかであって、原告らの落ち度というべきである」とし、また、「原告らは、本件ベッドガードを設置した後、取扱説明書を発見したものの、改めてそれを閲読することをしなかった」ことは、取扱説明書の警告が内容面で不十分であったとしても、「原告らの落ち度といわざるを得ない」とした。そして、本判決は、原告らのこれらの落ち度を総合的に評価すると、約4654万円の損害額については、「3割の過失相殺をするのが相当である」として、約3578万円の限度で請求を認容した。
Ⅳ 解説
1.設計上の欠陥について
欠陥は、①設計上の欠陥、②製造上の欠陥、③指示・警告上の欠陥に分類されて議論されることが多い。しかし、製造物責任法は、いずれの類型に当てはまるのかが不明確な場合もあること等から、欠陥を「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」(同法2条2項※5)と統一的に定義している。もっとも、この定義は、上記3類型を解釈上すべて含むものとされている※6。
本判決は、当事者の主張に従って欠陥に関する上記類型を採用する。その上で、まず、設計上の欠陥について、本判決は、ベッドガードに関する公的な製品安全基準が日本では定められていないことから、ベッドガードに関するイギリスの公的な製品安全基準であるBS規格や日本国内の民間の商品安全基準であるSG基準に適合しているか否かを問題とし、これらの基準に適合していることを主たる理由に、設計上の欠陥を否定した。民間規制や国内強制力のない外国法規制(以下「民間規制等」という。)については、行政法上の安全規制と同様に、それらへの適合・不適合は欠陥の考慮要素の1つに過ぎないとされており※7、実際に、JIS規格は鉱工業用品等の品質を標準化することを目的とするから同規格に合致しなかったとしても欠陥とはならないとした事例※8やEU規格を満たしていなくとも欠陥とはならないとした事例※9がある。他方で、民間規制等への適合が欠陥を否定する強い効力を持つことは希であるとされているものの、チャイルドシートに関して「欠陥のない製品と推測される」とした事例※10があり、事案によっては、民間規制等への適合が強い効力を生じ得る可能性が指摘されていた※11。本判決は、民間規制等への適合に強い効力を認めたようでもある。しかし、そのように見えるのは、当事者がBS規格への適合の有無を主として争っていたためであろう。実際、本判決は、後述するように、本件ベッドガードの引渡時のSG基準よりも具体的に警告することを求めており、民間規制等への適合をもって欠陥なしとはしていない。なお、本判決が、使用者の手作業によるから、ベッドガードの「設置の仕方に一定程度の巧拙や個人差が生じ得ることは否め」ないとしていることに照らせば、比較的安価で確実に設置できる代替設計の存在を主張できれば、設計上の欠陥が認められる余地はあるようにも思われる※12。
2.指示・警告上の欠陥について
次に、指示・警告上の欠陥について、まず、本判決は、BS規格には子供が窒息死するおそれがあることが明記されていたことから、ベッドガードの製造業者等は、本件事故時には窒息死の危険性を予見することができたとする。その上で、本判決は、乳幼児が窒息死するとの「危険の内容」、使用者が手作業によって設置することから完全には危険性を排除できないとの危険の「性質」及びベッドガードの使用により乳幼児が窒息死に至ることはないとの「使用者側の一般的な本件ベッドガードに対する認識」に照らして、使用対象年齢の表示は「使用者が容易に認識することができるような場所」に、使用対象年齢未満の乳幼児に使用した場合の危険性は、「使用者が通常の注意を払えば視認できるような方法」で警告を行うべきとした。さらに、本判決は、後者については、「購入後にその危険性を認識した場合であってもその使用の中止に踏み切れる程度に、可能な限り具体的に表示」することを求めた。
そして本件における表示について、取扱説明書及びカートンボックスには使用対象年齢が表示されていたが、本件ベッドガードの形状等から使用に先立ち必ず取扱説明書を読まなければならないわけではないこと、使用期間が限られる子供用製品は転々流通することも当然に想定されて流通の過程でカートンボックスが処分される可能性もあることから、いずれにおける表示も使用者が必ず認識するとはいえず、使用対象年齢が使用者に容易に認識できるような場所に表示されていたとは認められないとした。また、取扱説明書に添付された警告文書には「ベッドマットとの隙間で思わぬ事故が発生するおそれ」があるとあったが、「発生するおそれのある事故の具体的な内容が指摘されていないことに加え」、使用対象年齢が記載されていないから、「使用者が使用対象年齢未満の乳幼児に使用した場合の危険性を具体的に認識できるような方法で表示されていたとは認められない」として、本件ベッドガードの指示・警告上の欠陥を認めた。
裁判所は、製造業者等が製造物の安全性やメリットを強調する表示をした場合には、一般的な内容の警告では不十分であるとする傾向にあるが※13、本件事案では、本件ベッドガードの安全性を強調する表示は行われていない。もっとも、「痩身器具や美容器具の場合、使用者が長時間かつ負荷を大きくして使用すればその分効果があると誤解して、長時間かつ負荷を大きくして使用を継続することが容易に予見できる」として、当該製造物に対する使用者の一般的な認識を理由に具体的な内容の警告を求めた事例※14が既に存在し、本判決も使用者の一般的な認識を理由とする点において軌を一にする。このように、本判決は、使用者側の本件ベッドガードに対する一般的な認識を重く見ており、「Ⅰ はじめに」で述べたように、使用対象年齢と実際のニーズとの間にギャップがあることを考慮すれば、適切な判断であったといえよう。
もっとも、本判決が、どこにどのような警告表示を求めているかは判然としない。まず、使用対象年齢については、本件ベッドガードが引き渡された時点でのBS規格及びSG基準もベッドガード本体に使用対象年齢を表示することを求めていたことから、本判決の「使用者が容易に認識することができるような場所」とは、ベッドガード本体を指すと読むのが素直であろう。難しいのは、使用対象年齢未満の乳幼児に使用した場合の危険性である。この危険性につき、本判決は「使用者が通常の注意を払えば視認できるような方法」で表示すべきとして、使用対象年齢については「場所」としていたところ、あえて「視認できるような方法」としている。「視認」に着目するならば、取扱説明書に添付された警告文書を指すようでもある。確かに、本判決が可能な限り具体的に危険性を表示することを求めていることから、ベッドガード本体には表示するスペースが足りないことも考えられる。しかし、本判決は、同時に、危険性に関する表示は「購入後にその危険性を認識した場合であってもその使用の中止に踏み切れる程度」であることを求めており、仮に、使用対象年齢未満の乳幼児に使用した場合には窒息死の危険性があることを示す程度でよいとするならば、ベッドガード本体に具体的に危険性を表示することは十分に可能である。実際、本件ベッドガードの引渡時のSG基準は、「生後18か月未満の乳幼児には適さない旨」を表示することを求めるに過ぎなかったが、平成29年に改訂された同基準は、ベッドガード本体及び取扱説明書に「小さな乳児の場合、隙間に挟まると自力では脱出できず窒息するおそれがあるため、生後18か月未満の乳幼児には適さない旨」を表示することを求めている。加えて、本判決が指摘するように、子供用製品は転々流通することも多いことから、その流通の過程において警告文書を紛失する可能性も少なくない。そうすると、本件ベッドガードの引渡時はともかく、SG基準が改訂された現在では、使用対象年齢とともに、ベッドガード本体に窒息死の危険性があることを表示することを本判決は求めていると理解すべきことになろう。
3.過失相殺について
本判決は、取扱説明書の表示は使用対象年齢が記載されているのみで警告内容としては不十分であるものの、それを読んでいれば本件ベッドガードの使用を回避した可能性があるとして、原告らが取扱説明書を読まなかったことを過失相殺の対象とする。しかし、この点には疑問がある。確かに、一般に取扱説明書は指示・警告において重要な役割を果たしており、使用者としてはそれを読むべきである。しかし、本件事案においては、カートンボックスに表示されていた使用対象年齢を原告らが目にしていた可能性があり、取扱説明書を読んだとしても本件ベッドガードの使用を回避した可能性はなかったのではないか。安全であると思い込んでいる使用者に対して、使用を回避させるために効果的なのは、使用対象年齢の表示ではなく、危険性の具体的な表示であることはまさに本判決の指摘するところである※15。そうだとすると、取扱説明書の警告内容の不十分さは「原告らの落ち度の程度を評価する上で、斟酌」すべきとしつつ、原告らが取扱説明書を読まなかったことを過失相殺の対象とするよりは、むしろ過失相殺の対象とはしないとの判断もあり得たのではなかろうか。
Ⅴ おわりに
本判決は、使用対象年齢未満の乳幼児に使用した場合の危険性につき、どこにどのような表示を求めたのかが不明確であり、過失相殺の対象についても疑問が残るものの、使用者側の本件ベッドガードに対する一般的な認識を重く見て概ね適切な判断をしたものと評価できる。
なお、報道によれば、控訴審も、賠償額を2666万円に減額したものの、本判決と同様に、指示・警告上の欠陥を認めたとのことである※16。
(掲載日 2024年12月10日)