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文献番号 2025WLJCC002
大阪経済大学 教授
小林 直三
1.はじめに
本稿は、同性婚を認めていない民法および戸籍法の諸規定を憲法13条※2違反等とした福岡高裁判決を紹介し考察するものである。本件は、同性の者との婚姻届を受理されなかった控訴人らが、同性婚を認めていない民法および戸籍法の諸規定が憲法13条、14条※3、24条※4に違反することが明白であるにもかかわらず長期に渡って改廃等をしなかった立法不作為のために精神的苦痛を被ったとして、国家賠償を求めた事案である。なお、原審である福岡地裁判決は、同性婚を認めていない民法および戸籍法の諸規定を憲法24条2項に違反する状態であるとしつつも、国家賠償は認めず請求を棄却している※5。同様の訴訟の高裁判決は、すでに札幌高裁判決※6、東京高裁判決※7が出されており、いずれも国家賠償そのものは認めていないものの、同性婚を認めない現行法を憲法違反としている。
そして、本稿で考察する福岡高裁判決は、3つ目の高裁判決であり、前述の2つの高裁判決に続いて違憲判断を示したことに加えて、地裁判決も含めてこれまでの判決では示されなかった憲法13条違反を認めたことで注目されるものである。
2.判例要旨
①憲法13条との関係について
まず、「婚姻については、憲法13条及び14条1項の趣旨が妥当し、これを前提に憲法24条1項は『婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。』と具体的に定めているものと解され」、「両当事者は、他の者から一切干渉を受けることなく、婚姻することができるということであり、このような意味での婚姻の自由は、憲法24条1項だけでなく、憲法13条によっても保障されている」とした。そして、「婚姻の成立及び維持のためには・・・・・・婚姻が社会から法的な地位を認められ、婚姻に対し法的な保護が与えられることが不可欠である」ことから、「婚姻について、法制度を設け保護を与えることも憲法13条の要請するところと解され、その趣旨をより詳細に示すのが憲法24条2項である」とし、「憲法13条は、婚姻をするかどうかについての個人の自由を保障するだけにとどまらず、婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利をも認めていると解するべきであり、このような権利は同条が定める幸福追求権の内実の一つである」とした。そして、「幸福追求権としての婚姻について法的な保護を受ける権利は、個人の人格的な生存に欠かすことのできない権利であり、裁判上の救済を受けることができる具体的な権利である」とした。
そのうえで、「性的指向は、出生前又は人生の初期に決定されるものであって、個々人が選択できるものではなく・・・・・・互いに相手を伴侶とし、対等な立場で終生的に共同生活をするために結合し、新たな家族を創設したいという幸福追求の願望は、両当事者が男女である場合と同性である場合とで何ら変わりがないから、幸福追求権としての婚姻の成立及び維持について法的な保護を受ける権利は、男女のカップル、同性のカップルのいずれも等しく有しているものと解される」が、それ「にもかかわらず、両当事者が同性である場合の婚姻について法制度を設けず、法的な保護を与えないことは、異性を婚姻の対象と認識せず、同性の者を伴侶として選択する者が幸福を追求する途を閉ざしてしまうことにほかならず、配偶者の相続権(民法890条)などの重要な法律上の効果も与えられないのであって、その制約の程度は重大である」一方で、そうした制約の「必要性や合理性は見出し難い」ことから、民法および戸籍法の「諸規定のうち、異性婚のみを婚姻制度の対象とし、同性のカップルを婚姻制度の対象外としている部分は、異性を婚姻の対象とすることができず、同性の者を伴侶として選択する者の幸福追求権、すなわち婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利に対する侵害であり、憲法13条に違反する」とした。
②憲法14条1項との関係について
さらに、民法および戸籍法の「諸規定のうち、同性のカップルを婚姻制度の対象外とする部分は、合理的な根拠なく、同性のカップルを差別的に取扱うものであって、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反する」とし、「同性のカップルについて法的な婚姻制度の利用を認めないことによる不平等は、パートナーシップ制度の拡充又はヨーロッパ諸国にみられる登録パートナーシップ制度の導入によって解消されるものではなく・・・・・・同性のカップルに対し、端的に、異性婚と同じ法的な婚姻制度の利用を認めるのでなければ、憲法14条1項違反の状態は解消されるものではない」とした。
③憲法24条との関係について
次に、憲法24条「は、『両性』、『夫婦』の文言を使用して」いるが、「同条の主眼は、旧法下において、家制度の下、戸主が家族の婚姻に対する同意権を始めとする戸主権を有していたことや、妻の地位が夫に劣後するものとされていたことを一掃することにあり、制定の経緯からみて、同条が殊更に同性婚を禁止する趣旨で『両性』、『夫婦』の文言を採用したものであったとは認められない」ことから、「同条は、同性婚を禁止するものではない」としながらも、「同性婚を認めないことが直ちに同条1項に違反するとまでは解し難い」とした。
ただし、「同性のカップルを婚姻制度の対象外とする部分は、個人の尊重を定めた憲法13条に違反するものであるから、婚姻に関する法律は個人の尊厳に立脚して制定されるべき旨を定める憲法24条2項に違反することは明らかである」とした。
④国家賠償請求について
そして、「同性のカップルについて婚姻を認めていない本件諸規定は、同権利を侵害し、憲法13条、14条1項及び24条2項に違反するものであるから、本件立法不作為すなわち本件諸規定を改廃等しないことは、国家賠償法上の責任を生じさせ得るものである」としつつも、「本件諸規定を巡る下級審裁判所の判決をみると・・・・・・その判断内容は区々であり、最高裁判所による統一的判断は未だ示されていない。この事情を踏まえると、本件立法不作為につき、国会議員に故意又は過失があると認めるのは困難である」ことから、「本件立法不作為が国家賠償法1条1項の各要件を充足するとはいえない」として、国家賠償請求は認めず、本件控訴における請求を棄却とした。
3.検討
前述のように、本判決の特徴の1つは、これまでの判決では示されなかった憲法13条違反を認めたことにある。ただし、通説的な理解では、憲法13条は包括的人権規定として補充的機能を果たすものであり、その意味では、純粋な法的構成からすれば、憲法14条1項や憲法24条2項違反とする以上、憲法13条違反に言及する必要はなかったのかもしれない。もちろん、憲法13条違反に言及することで、憲法24条1項にも違反するとするのであれば法的構成として意味のあるところであるが、しかし、本判決では、憲法24条について、「同性婚を認めないことが直ちに同条1項に違反するとまでは解し難い」とし、憲法24条1項違反への言及を避けている。その意味で本判決の憲法13条への言及は、純粋な法的構成としては、蛇足的なものと評価されるかもしれない※8。
それにもかかわらず、本判決が憲法13条に言及し、「幸福追求権としての婚姻について法的な保護を受ける権利は、個人の人格的な生存に欠かすことができない権利であり、裁判上の救済を受けることができる具体的な権利である」とし、「互いに相手を伴侶とし、対等な立場で終生的に共同生活をするために結合し、新たな家族を創設したいという幸福追求の願望は、両当事者が男女である場合と同性である場合とで何ら変わりがないから、幸福追求権としての婚姻の成立及び維持について法的な保護を受ける権利は、男女のカップル、同性のカップルのいずれも等しく有している」とし、「両当事者が同性である場合の婚姻について法制度を設けず、法的保護を与えないことは、異性を婚姻の対象と認識せず、同性の者を伴侶として選択する者が幸福を追求する途を閉ざしてしまうことにほかなら」ないとしたことは、婚姻の自由の重要性とそれを制限されている同性カップルの人権侵害の重大性を強調するとともに、当事者の思いに応えたものとして、高く評価できるものと思われる。その意味で本判決の憲法13条への言及は、非常に高い社会的な意味があるものと考えられる。
なお、本判決は、「同性のカップルについて婚姻を認めていない本件諸規定は、同権利を侵害し、憲法13条、14条1項及び24条2項に違反するものであるから、本件立法不作為・・・・・・は、国家賠償法上の責任を生じさせ得るものである」としながらも、最終的には、「本件諸規定を巡る下級審裁判所の判決をみると・・・・・・その判断内容は区々であり、最高裁判所による統一的判断は未だ示されていない」ことから、「本件立法不作為につき、国会議員に故意又は過失があると認めるのは困難である」として、国家賠償請求を否定している。
しかし、合憲判決であった大阪地裁判決※9も含めて、これまでの一連のいずれの判決も同性婚を認めていない現行法を問題視している。また、2023年10月25日の最高裁大法廷決定※10は、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号※11(生殖がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること)を違憲としており、したがって、最高裁大法廷は、同性間で子が生まれる可能性を容認していることになる。そうであるならば、子の福祉の観点から同性間での婚姻を認めざるを得ないはずである(さらに、2024年3月26日の最高裁第三小法廷判決※12では、同性パートナーに関する犯罪被害者遺族給付金不支給裁定の取消請求を認めている)。
このように2023年10月25日の最高裁大法廷決定を軸としてSOGIに係る近時の判決を理解すれば、同性婚に関する最高裁の判断を待つまでもなく、最高裁も含めた司法判断は、すでに同性婚を認めていない民法および戸籍法を憲法上の大きな問題として理解しているというべきであろう。
したがって、遅くとも2023年10月25日の最高裁大法廷決定の段階で、国会(議員)は同性婚を認めていない現行法の問題を認識できているはずであり、そこから1年以上も改正に向けた十分な議論が行われていない以上、国家賠償請求を認める可能性もあったのではないだろうか。このように考えるならば、本判決が、「本件諸規定を巡る下級審裁判所の判決をみると・・・・・・その判断内容は区々であり、最高裁判所による統一的判断は未だ示されていない」ことから、「本件立法不作為につき、国会議員に故意又は過失があると認めるのは困難である」としたことは、適切な判断とはいえなかったのではないだろうか。
4.おわりに
すでに述べたように、本判決は、同性婚に関する3つ目の高裁判決であり、本判決も含めて、いずれの高裁判決も同性婚を認めていない民法および戸籍法の諸規定に関して違憲判断を示している。それにもかかわらず、実際の法改正は遅々として進んでいないように思われる。こうした状況を踏まえるなら、本判決は、憲法13条違反とするだけでなく、やはり国家賠償請求まで認めるべきであったのではないだろうか。すなわち、そうすることでこそ、本判決を社会的意味に留めることなく、速やかな法改正へと動かす政治的意味にまで高めるためことができたのではないだろうか。
今後の名古屋高裁判決、大阪高裁判決に期待したい※13。
(掲載日 2025年1月21日)